IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 大変長らく御待たせ致しました。
 リアルが理不尽なほど忙しかったです。
 


三十五話 感情と理性

 週明けの学園内は姦しく賑わっていた。

 学年別トーナメントのパートナー申請開始日と言うことで学園内の女子、特に一年生は同学年に三人いるようで、男子のなかで誰と組むか、と言う話題で持ち切りだった。

 

「王道にして最強の織斑君でしょ!」

「貴公子なデュノア君だって負けてないわ!」

「YESショタNOタッチ」

 

 混沌とした内容には誰一人として突っ込みを入れる者はおらず、ブレーキの効かない暴走列車は無遠慮に突き進んでいた。否、もはやブレーキなど存在しなかった。

 

「皆さんは誰と組むかもう決めましたの?」

「いや、私はまだだ」

「アタシも」

 

 呆れたように姦しい団体を眺めていたセシリアと鈴は、いざ自分が誰と組もうかとなったとき、誰にするか悩んでしまう。

 

 

 ここは同級生でクラス代表になっていただいた一夏さんに……いいえ、それではあまり面白みに欠けますわね。

 

 一夏を誘おうにもこの前の勝負が流れてなんか引っ掛かるし、結は、なんだかなぁ……。

 

 

 理由はあれ夢の男子生徒と組むことに幾分抵抗感のあった二人は、ふとお互いの顔を見合わせて似通った何かを感じ取った。

 

「鈴さん、もしよろしければわたくしと組んではいただけませんこと?」

「奇遇ね、アタシも同じこと考えてた」

 

 先日山田先生に呆気なく倒された仲で、更に二人とも男性操縦者にそこそこ縁のある者同士、通じあった結果奇妙なコンビが結成された。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「かんちゃ~ん、残念なお知らせがあります」

「……聞きたくない」

「一つだけだから~」

 

 四組近くの廊下で隣り合わせで壁に寄り添う簪と本音がこそこそと話していた。

 

 本音はいつもの調子で話してこそいるものの、やはりどこか残念そうで、躊躇い勝ちに呟く。

 

「かんちゃんの専用機、トーナメントまでに完成出来ません」

「……」

 

 以前から開発を進めていた簪の専用機。

 ロシア代表の姉に対抗して自分も一人で作ってみせようとがむしゃらに奮闘したものの、やはりと言うべきか。

 資材も資料も足りないまま着手した専用機は未だ完成の目処は立たず、全体の三割だって出来ているか怪しい程だった。

 

「ねぇかんちゃん」

「なに、本音」

 

 劣等感や無力感に埋もれて自分がどんな顔をしているのか分からなくなった。

 なんと言って隣に立つ幼馴染みに顔向けすればいいのか分からない。

 

 でも呼ばれたのだから、そっちを見てみると、簪は突然首に回された腕に引き寄せられ、彼女に無理やり抱擁される。

 

「本音、何を……?」

「私、頼りないかな?」

 

 脈絡のない質問に虚を突かれて言葉に詰まった。

 いつも何でもないように笑って、場を和ませていた彼女は、いつも張り積めた重い空気を纏う大好きな幼馴染みを想い、自分には何が出来るだろうと悩んでいた。

 

「辛いなら頼っていいんだよ、利用してくれたって全然構わない。大切な幼馴染みなんだもん。だからね、かんちゃん」

 

 本音の声は次第に濡れて、簪を抱く腕にぎゅう、と力がこもる。

 

「そんな顔、しないでよ」

 

 言われて簪はようやく自分がどれだけ酷い有り様になったいるのか気がついた。

 

 徹夜続きで身も心も消耗し、姉や織斑一夏へ向けた不毛な対抗心だけを糧にここまできたのに何も成し得ることなく、徒労に終わった。

 

 お姉ちゃんが羨ましかった。

 何でもこなせて世渡り上手で、まだ学生の身でありながら国家代表に選ばれ、家の跡継ぎになった。

 

 織斑一夏が恨めしかった。

 私のIS開発に横槍を入れられて私のISは開発中止を余儀なくされ、手元に残ったのは書きかけの設計図だけだった。

 

 もう諦めてしまったほうが楽だろう。

 しかし今捨てたら、何が残るのだろうか。

 

「本音。私、くやしいよ……」

「うん、うん」

 

 気が付けばなみなみに溜まっていた涙が止めどなく溢れて本音の服を濡らす。

 本音は何も言わず、自分の腕のなかで泣き崩れる簪を優しく抱き締める。

 自分も泣いてるのに気にも留めず。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 放課後のアリーナはいつも以上に活気に溢れていた。

 言わずもがなタッグトーナメントが差し迫り、優勝を目指してそれぞれ訓練やパートナーとの練習に励んでいる。

 

 優勝すれば男子生徒との交際が出来るなどという噂が何処からか広まり、あわよくばなんて妄想を信じて真剣に取り組む様子は残念な情熱に燃えていた。

 

 そんな狂信者と化した有象無象に紛れてセシリアと鈴の姿が伺えた。

 

「だから! 貴女はいつも前に出過ぎなんです!」

「アンタがちんたらしてるからでしょ!」

 

 やはりというべきか、先日の戦闘でもそうだったように互いの動きに合わせようとは出来ず、二人ともやりたいようにやっては衝突し、いがみ合っていた。

 

 そこへ黒い影が降り立つ。

 

「イギリスのブルー・ティアーズ、中国の甲龍か。ふん、データで見たときのほうがまだ強そうではあったな」

 

 不敵な笑みを浮かべて二人の前に現れたラウラは、機体情報の記されたホログラムウィンドウを閉じて二人を見据える。

 

「なに、喧嘩売ってんの?」

「随分自信がおありなようで?」

 

 ラウラの言いぐさに聞き捨てならないと臨戦態勢に入る二人だが、対してラウラは構えることすらせず、更に挑発を重ねる。

 

「今貴様ら二人を相手取ったとしても、負けることはない」

「言ったわね!」

「後悔なさらないように!」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「一夏、結。アリーナ行こう!」

「おう」

「うん」

 

 タッグトーナメントまでもう日も少ない。

 今日も三人は修練に臨むべくアリーナへ向かう。

 

 シャルロットに手招きされ席を立つ一夏と結はそのままシャルの後ろに着いていく。

 

 ある程度進んで人気が少なくなったところで、一夏はシャルロットに小声で話しかける。

 

「まだ男装は続けるんだな」

「うん、結から貰ったデータの交渉が終わるまではこの格好のままかな」

 

 二日前に結から機体情報の入ったデータを貰ったシャルロットはすぐにデュノア社に掛け合い、半ば脅迫気味な交渉を持ち掛けた。

 

『シャルロットか。調査は順調か』

『良い情報と悪い情報があります』

 

 従わなければデータは消す。そうでなくても会社を傾けるだけの材料は揃っている。等と脅し文句を連ねれば簡単に社長は首を縦に振り、シャルロットは一時の自由と今後の身の保証を手に入れた。

 

「シャルろ……ル、おね、お兄ちゃん」

「あはは、言いづらそうだね結」

 

 四苦八苦しながら言いかけては口を塞ぎ、気にして呼び方を無理やり変える結に苦笑刷るシャルロットは何か良い案は無いものかと顎に手を添えて考える。

 

「それじゃあ……シャルって呼んで?」

「うん、シャル、お兄ちゃん」

「なぁに、結?」

 

 しゃがんで結の目線に合わせたシャルロットは、おずおずと略した名前で呼んでくれた結に返事をする。

 

「仲良くなったよな、二人とも」

「そうかな? えへへ」

 

 後ろで様子を見ていた一夏が微笑ましそうに眺めていた事に恥ずかしさを覚えるシャルロットだが、ようやく結と打ち解けた事実に喜ぶ。

 

「これはシャルル×結の誕生か?」

「ほう、NTRですか」

「それ以上はいけない」

 

 仲睦まじく手を取り合って歩く姿は親子か兄弟のようで、見た人間はもれなく微笑み和やかな雰囲気が立ち込めていた。

 

 

 しかしそれも一瞬で凍てつく。

 

 アリーナに着いた三人は、周囲の生徒たちが不穏な顔で中に進んでいくのに顔をしかめる。

 

「なんか喧嘩やってるみたいよ」

「しかも二対一なんだって」

「専用機持ちって聞いたよ」

 

 専用機持ち、そんな人間は学園内でも数えるほどしかいない。しかも嬉々として戦闘に挑む者となれば、更に限られてくる。 

 

 三人は不安に駆られて歩く足を早め、駆け足でアリーナに、グラウンドに飛びだした。

 

 

 

 ワイヤーのしなる音。

 金属に巻き付き、キンと甲高い音を立ててセシリアと鈴の機体をつるし上げ、嬲り殺しにしている。

 絶対防御は発動しないギリギリの物理攻撃は二人の装甲を砕き、深刻なまでのダメージを追わしていた。

 

『オ? ハハ』

 

 その光景が目に映ったと同時に、結はアリーナの出入口からISを展開しながら走って一瞬先に展開した足で床が砕けんばかりに踏ん張り、パッケージ内から引き摺り出した大盾を上空に向けて投擲した。

 

「やぁぁああッッ!!!」

 

 そして片手を床に這わせ、全身に設置されたスラスターの中の後方に向いたもの全てを最大出力で噴かし、ブーストをかけた初速で弾ける勢いを付け、目標であるラウラに目掛けて一直線に飛来する。

 

「む」

 

 ハイパーセンサーでガーディアンを感知したラウラは二人をブレードワイヤーに絡めたまま一瞬で到達した結をAICによる空間停止で眼前に停止させ、自分を打つはずだった拳を見て嘲笑する。

 

「直線的な攻撃、稚拙な証拠だな」

「こっちじゃない」

「何を……ハッ!?」

 

 結を止めた瞬間、自分の真上に落下してきた物体に気を取られ、回避と同時に結にかけていたAICを解いてしまう。

 すかさず動けるようになった結は丁度落ちてきた盾を掴み、大降りな横薙ぎを肩と脛のスラスターで勢いを増した一撃にしてラウラへ見舞った。

 

「ぐゥッ!」

 

 こいつ、武器を投擲しておいて自らを囮に……!

 

 圧倒的なリーチの長さと瞬発力に避けきれないラウラは食い縛って盾の横一文字を受け、強く弾かれる。

 

 二撃目を視野に入れていたのか、器用な奴だ。

 

 縛っていた二人を渋々解放し、しかしただ離すのではなく結へ目掛けて同時に投げる。

 

 拘束の解かれた二人は力無く宙を舞い、諸手を慌てて広げた結に確と受け止められる。

 

「結、無事か!」

「これお願い」

「うぉっと!?」

 

 遅れてやって来た一夏に二人を投げ渡し、結はまたスラスターを爆発させる勢いで飛び上がる。

 

 吹き飛ばされたラウラは空中でバク転して慣性を殺しながら停止し、顔をあげた瞬間既に目の前にいた結に驚く。

 

「ッ!?」

「ガァァアアッ!!」

 

 ブレードワイヤーでは間に合わない、瞬時に前で組んだ腕で防ぐが、速度の載った重撃は簡単にラウラの腕を押し混み、彼女ごと弾き飛ばしてしまう。

 

 

 あのでかい盾を振るだけでも相当取り回しに苦労するはずだ。直ぐに追撃なぞ……。

 

 

 視界が開けた瞬間に見えたのは盾の側面。

 飛来する盾をなんとか拳で跳ね返した途端にラウラは上から背中を叩く衝撃に打たれ、地に落ちた。

 

「あの戦い方、まさか⋯⋯」

 

 結は制御スラスターで振り切った盾を回転しながら再度ラウラへ投擲し、その後ろに隠れて自分も空を駆け上がっていた。

 ラウラが盾をかち上げた時には既にラウラの頭上に到着しており、前転しながらの踵落としを繰り出していた。

 

「おのれぇぇ!!」

 

 地面から這い上がったラウラはせめて一発でも返してやらねばと結を探すが、自分が落ちたところから張り詰める土煙に遮られ、ハイパーセンサーで見つけた時には結はもう背後に迫っていた。

 

「いい気になるなよ貴様ァ!」

「あ⋯⋯?」

 

 振りかざされていた盾をがむしゃらに弾き、一緒に発射しておいたブレードワイヤーで反撃と拘束を試みる。

 攻撃を阻まれ隙が生じてしまった結はラウラのブレードワイヤーに腕を弾かれ、もう片方の腕にワイヤーを絡められて宙吊りにされる。

 

「フフ、捕まえたぞ⋯⋯!」

 

 捕まった、邪魔くさい。

 ああもう、()()()()

 

 結は吊るされた自らの腕に目掛けて躊躇いなく拳を振るうと、殴られたガーディアンの腕部は意図も簡単に砕け、中から細身の人骨のようなフレームが露出した。

 

『ソウダヨナ、邪魔ダヨナ。要ラネェヨナ、コンナ鎧ハヨォ……』

 

 装甲が砕けたことによって結はラウラの拘束から解放され、空を蹴る勢いでラウラに突進する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「血迷ったか!」

「ダメだ結、止まってくれ!」

 

 見たことのある光景に一夏は肌が粟立ち、雪片弐式を握り直して瞬時加速で結を止めんと飛び上がる。

 プラズマ手刀を展開したラウラと剥き出しの腕を向ける結。

 

 割って入るには遠すぎる。

 一夏は『零落白夜』を一瞬限界まで引き出し、伸ばしたエネルギーの切先を結の首目掛けて振るった。 

 

 もしも結がまたクラス対抗戦の時の様な状態に陥っているのであれば、自分はまた結に剣を向け、結を止めなくてはならない。たとえ殺してしまったとしても、今の自分には、そうすることしか手段がない。

 

 二人の攻撃が交差する直前、二人の腕を誰かが近接ブレードで叩き落とした。

 それに気を盗られて全員動きが止まり、横やりを入れた人物に視線が集まる。

 

「やれやれ、子どもの相手は疲れるな」

 

 そこには涼しげな表情で感嘆のため息を吐きながら、生身でIS用の近接ブレードを振るう織斑先生の姿があった。

 生身でありながらIS用のブレードで燕返しを繰り出せる人物など、そうはいないだろう。

 

「千冬姉!」

「教官!」

 

 織斑先生はブレードを鞘に納め、その場にいた三人に武器を納める様に言う。

 

「模擬戦をやるのは構わんが、アリーナを破壊するような行為は教師として黙認しかねる。それと上代」

「はい」

 

 織斑先生は結に向き直り、上着のポケットから一つのグリップタイプのスイッチを見せる。

 

「あまり山田先生を心配させる事はするな」

「……はい」

 

 少しだけトーンの落ちた声でそう言った織斑先生はそれでいいと頷き、スイッチをしまって面倒くさそうにひらひらと手を振る。

 

「トーナメントまで一切の私闘は禁止する。双方それでいいな?」

「はい、教官」

「わかりました」

 

 去っていく織斑先生を見送った後、何か言いたげに此方を睨んでいたラウラはすぐに視線を逸らし、ISを待機形態に戻して自分もその場を後にした。

 

 俯いたまま動かない結に声かけしようか迷っていた一夏だったが、何か言うより早く結はISを解除して地に足を着けていた。

 

「後でね」

「お、おう」

 

 パーカーを羽織ってすたすた歩いていく少年を追いかけることも出来ず、しかし動けないままのセシリアと鈴を放ったらかしにするわけにもいかず、一夏はシャルロットと一緒に二人を保健室に運んだ。

 

『チッ、シラケルゼ……』

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「もうちょっとやってりゃ勝てたのよ!」

「助太刀など不要でしたわ!」

「お前らな……」

「あはは……」

 

 ついさっきまで弱々しく気を失っていた二人は、元気そうに愚痴を吐きながらシャルロットから受け取った紅茶と烏龍茶をちびちび飲んでいた。

 

「……えい」

「いたたたたたたっ!?」

「あだだだだだだっ!?」

 

 不意に現れた結が二人の身体に巻かれていた包帯をつまんでみると、虚勢を張っていた二人はなんとも簡単に悲鳴を上げてのたうち回っている。

 

「何をしますの!?」

「痛いじゃないのよ!」

 

 二人が言い寄るのと同時に、結は頭を深く下げて濡れた声で謝った。

 

「ごめんなさい」

 

 頭を下げたまま、結はしゃくる涙声で更に続ける。

 

「もっと早く、二人を助けられてたら、よかったのに……セシリアお姉ちゃんも鈴お姉ちゃんも、怪我させちゃった……」

 

 止められなかった。しかも頭に血が上り、ファントムの力を欲していた。

 それが何より恐ろしく、あの時織斑先生が止めてくれていなければ自分でもどうなっていたか予想できない。

 

「謝らないでくださいまし、結さん」

「そうよ、もとはと言えばアタシたちが悪いんだし……」

 

 セシリアは結を手招きし、おずおずと近付いてきた少年を抱き寄せて涙を拭ってやる。

 

「今回は無様な姿を見せてしまいましたが、トーナメントでは……」

 

「お二人のトーナメント出場は許可出来ません!」

「山田先生!?」

 

 保健室の扉を開いてバタバタと入ってきた山田先生は、リベンジに燃える二人に水を差す。

 

「どうしてですか!」

「お二人のISがダメージレベルCを越えたためです。これ以上の使用はISへ悪影響を与えるため教師として見過ごせません!」

 

 聞き慣れない単語に首を首をかしげる一夏に、シャルロットや山田先生が丹念に教える。

 

「ISには自己修復機能が備えられてるのは知ってるよね?」

「あぁ」

 

 未だ知識の粋を出ないが、今回目の前で起こった惨劇に不本意ながら理解をする一夏。

 

「その蓄積ダメージ量によって自己修復も限界値があるんだけど、それを越えたら変な直り方をするから無理に起動するのは憚られるんだ」

「なるほど」

「へぇ」

 

 骨折や捻挫をした時、適切な治療やリハビリを行わなければその後の生活に悪い癖が付くものかと自分なりに噛み砕いてみる。

 

 そして他人事のように頷いている結に、事情を知る者全員が複雑な眼差しを向けていた。

 

「ともかく、機体が完全に直るまで二人ともISを使ってはいけませんよ、いいですね!」

「「はい……」」

 

 珍しく強気な真耶に食い下がることも出来ず、苦い顔をしながらも二人は頷いた。

 

 ともかく二人の安否確認が取れて一安心した矢先、何処から聞き付けたのか女子生徒の大群が保健室に雪崩のように押し掛けてきた。

 

「織斑君私と組もう!」

「デュノア君、私と一緒に戦って!」

「結たん結婚してぇ!!」

 

 入ってきた生徒は次から次へと男子生徒の三人へと詰め寄り、我先にパートナー申請に名乗り挙げる。

 

 だが一夏は咄嗟にシャルロットの肩を掴み寄せ、皆の誘いを断った。

 

「お、俺はシャルルと組むんだ。悪いな」

「そ、そうなんだよ、あはは」

 

 一夏の苦し紛れの言い訳に皆は一瞬硬直したものの、それも良いかと頷いて納得した。

 

「それなら、まぁ」

「男同士も絵になるし……」

「上代君、私と組もう!」

「あっ、抜け駆けするな!」

 

 しかし既に結の姿はそこにはなく、どうやって抜け出したのか保健室の扉から脱兎のごとく逃げ出す少年のフードがチラリと見えた。

 

「いたぞ、いたぞぉぉぉぉぉ!!!!」

「皆のもの、追えぇぇい!!!」

 

 人混みは結を追い掛けて流れ出て行き、保健室には静寂が訪れた。

 

「すまん、結……」

「まぁ、あの子なら大丈夫だよ……」

 

 相も変わらず跳び跳ねて逃げる少年を捕まえられた者は誰一人としていなかったという。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「織斑先生、この組み合わせは……」

「仕方ないさ」

 

 職員室で真耶は目の前にあるタッグトーナメントのエントリーリストを見て困惑していた。

 

 ランダムに組まれたタッグの一つに、職員全員は閉口してその氏名を睨んでいた。

 

「ボーデヴィッヒと上代、か」

 

 片や一年最強の矛と、最強の盾。

 さて、お前ならどうする?

 

 一夏よ。

 

 

 




 結たんと結婚するのは誰か!
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