タッグ申請期間が終了し、エントリーリストが張り出され、出場者は我先にリストを見に行って集っていた。
上へ下へ結が逃げ、誰も捕まえられなかった末、結局ランダム決定で選出された結果に見たもの全員どよどよと騒いでいる。
「上代君のパートナーは、ボーデヴィッヒさんか……」
「専用機持ちのタッグとか卑怯すぎませんかね」
「てか真面目に手強くない?」
「どうして私じゃないのよォオオオ~~~~~ッ!!」
専用機を持たない者たちから既に何名か諦めた人間が現れ、煩悩に溺れていたものは自分がタッグでは無かったことに落胆し、先を見据える者は何とかして倒せないかと早速対策を一考していた。
廊下から喜怒哀楽の喧騒が聞こえてくる教室で、異様な雰囲気を纏っている箒が窓の外を眺めながら僻むように黄昏ていた。
「お前はいいよなぁ、みんなの人気者で……」
「ほ、箒お姉ちゃん?」
その瞳はもしかすれば地獄でも覗いているような、どす黒い渦を巻いていたが、ため息と一緒に億劫な感情を吐き出した箒は気を持ち直して結に目を向ける。
「今誰かに地獄へ誘われる声を聞いた」
「何を言ってるの」
意味を持っているのか怪しい言葉を吐く箒は何かよくわからないものを妬んでいるような気がしたが、それが何かはいまいちわからなかった。
「それより上代。タッグトーナメントは本当にあいつと出るのか?」
「うん」
懸念する箒にしれっと答え、両手を掲げて箒に抱っこを求め、彼女の膝の上で自分も窓の外を眺める。
「あの人は、多分寂しい人なんだと思う」
「寂しい?」
嫌悪感ではなく同情のような哀れみを想う結に意外だと思いつつ、箒は昔の自分をラウラに重ねて共感した。
「力に溺れて誰かを傷つける、か……耳が痛いな」
実の姉がこの世にISを生み出した時から、箒は家族と離ればなれになり日本中を転々として過ごしてきた。
想い人との約束も果たせず、連絡すら許されない不自由な生活の中で僻みや嫌みたらしい羨む目線に晒されて、いつしか心は荒みきっていた。
幼少から続けていた剣道は、この頃には既にストレスの捌け口と化し、結果として中学の全国大会で優勝したものの気分は晴れないままだった。
「孤独は人を駄目な方向に進ませる、のだと思う。だからこそ誰か一人でも支えてくれる人間が必要なんだ」
幼馴染みであり初恋の相手である一夏を思い浮かべ、頬を朱く染めながら箒はそういう。
「だが想っているだけで何も出来ないのなら、私はやはり力が欲しい」
箒の表情は陰り、結は後ろめたい感情を垣間見た。
篠ノ之 束の妹と囃し立てられて、その実持っているものは剣道の腕のみ。勝手に期待されては此方の気も知らないで落胆し、何処かへ行ってしまうのが箒にとっての他人だった。
「以前はあれほど嫌っていたISが、今では喉から手が出るほど欲しいと思っているのが悔しいがな」
「箒お姉ちゃん?」
一夏との特訓から、先日の襲撃事件のときも、箒に出来ることは少なくいつも遠くから祈るだけ。一夏の周囲に人が増える度に自分が一夏から離れてしまっている気がしてならなかった。
どうして私はあそこにいない。
何故私には力がない。
ISさえあれば……。
「ISさえあれば、一夏の隣に立てるのに……」
「……」
膝の上に座る結を抱き締めながら、箒は俯いて黙りこむ。
浅はかで卑しい自分が情けなく、嫌いになりそうだった。結局天災の妹などと言われながら、私はただの人間だった。
卑しい感情の渦に呑まれてしまう。
欲望と嫌悪感の狭間でどうにかなりそうだ。
「箒お姉ちゃん、一夏お兄ちゃんのこと好きなの?」
「ほぁっ!?」
突然結の呟いた質問に度肝を抜かれてあたふたする箒。
「いや、ちが、そういう意味ではなくてな!? いや確かに慕ってはいるが今のは恋愛感情云々ではなくて……だから違うのだっ!!」
「どっちなの」
否定しきれず好きという言葉をずっと口の中で遊ばせてしまい、余計に恥ずかしくなった。
膝の上の結を抱えたままショートしてしまった箒はばつが悪そうに唇を尖らせ言葉になっていない言い訳のようなものをだらだらと垂れ流していた。
「……力なんて無くてもいいよ」
「上代……?」
力を渡され、それを使ってきたからこそ結は知っている。
ISと共に生きてきた結にとって、ISとは文字通り身体の一部であり、失ってはならない存在。
だがそれは多くの犠牲の元に成り立っていた。
沢山の同胞の命を奪い、贄に捧げたこの身体で何一つ守れた事は無く、いつだって傷つけ、失ってばかりだった。
「ISだけが全部じゃない。他にも強くなる方法はあるよ」
「確かにそうだが……」
それでも食い下がる箒は言い返す為の言葉が浮かばず息が詰まる。
これ以上一夏一人に背負わせるわけにはいかないんだ、私はあいつの手助けをしてやりたい。
だから、力が要るのだ……!
「あ、ここに居たのか箒」
会話の途切れた二人の空間に割って入ってきたのは当の一夏だった。
此方の気も知らずにずかずかと教室に入ってきた一夏は珍しい組み合わせだなと思いながらちょっといいかと訪ねてきた。
「いやさ、剣道の練習をしばらくやってなかったからまた箒に指南してもらいたくてさ。悪いけど頼めないか?」
「お前という奴は……わかった、武道場に行くぞ」
「ありがとう箒!」
早速準備をするため走り去っていく一夏の後ろ姿を見送った箒は、一先ずは今の気持ちに蓋をして一夏を追い掛けることにした。
「という事だ結。私はアイツをしごいてくるのでな、今日はお別れだ」
「ほどほどにね、バイバイ箒お姉ちゃん」
「あぁ、また明日」
◆
その日の晩、一通の着信がある人物の携帯電話に届いた。
「おや、おやおや。箒ちゃん」
着信音から誰かを察知したその人物とは、現在世界各国から指名手配を受けているIS開発の第一人者であり、ISの産みの親である篠ノ之 束その人だった。
束はすぐに通話を開き、受話器を耳に当てけらけらと楽しそうに電話に出る。
「やぁやぁ箒ちゃんどうしたんだい?」
『姉さん、実は頼みたいことがあって電話した』
「あぁ、わかってるよ。君だけの専用機だろう?」
神妙な声音の箒にお構い無く、束は久方ぶりに聞く実の妹の声に興奮を隠しきれない。
「なんてったって箒ちゃんからのお願い事なんだ、束さんがちゃんと叶えてあげよう!」
『ありがとう、姉さん』
世間話などをする仲でもないので、用件を伝えれば箒は簡潔に話を括って電話を切ってしまった。
束は携帯電話を再度操作して、今度は別の相手に此方から一本入れた。
しばしの掛け合わせの時間を要して電話に出たのは、箒よりも幼い声の相手だった。
『篠ノ之 束ぇ! 今更わらわに何のようじゃ!!』
「やぁーあお姫様、元気にしてた?」
『うるさい! もう貴様らに我が国の財産はくれてやらんと言ったであろうに!』
随分お怒りな声の主は束の声を聞くなり物凄い剣幕で怒鳴り倒していたが、当の束は気にする素振りも見せずむしろ相手の逆鱗を逆撫でするようにけらけらと笑うだけだった。
「あと一個、あと一個だけ作ったらもうしないから」
『その一個がどれだけ貴重か貴様わかっておるのか!』
「わかってるよぉ。だってこれは」
「ファントムを倒す要なんだから」
束のその言葉に先程まで血気盛んに騒いでいた声の主はピタリと静かになり、一拍置いて深いため息を吐いた。
『今回だけじゃ。これ以上はもう関わりとうない』
「ありがと~じゃあまたね!」
何か言いたげだった相手にお小言を言われる前に、束は通話を切り、ハンガーにかかっている未完成のIS振り返る。
「ごめんね箒ちゃん。君の純情、少しだけ利用させてね」
開発途中のその機体は、血塗れたような紅に染まっていた。
なんかすごく話が前後しましたが、新キャラ()を出すにはこのぐらいの猶予があったほうが良いかも知れなかった。
あと原作通りなら電話した時点で完成してたので、ある意味時間軸はずれていないはず。