IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 滅多に書かない戦闘描写に四苦八苦しつつ、楽しんでる作者です。





三十八話 少年と決意

 泥人形が日本代表だったころの、『暮桜』を纏った織斑 千冬の姿を真似てアリーナの中央に佇む。

 

「織斑先生、あれは……」

「VTシステム、まさかあれが実装されていたとは……」

 

 独り言のようにぶつぶつと呟く千冬は険しい面持ちのままインカムマイクを手にして電源を入れ、教職員に指示を飛ばす。

 

「非常事態だ。トーナメントは中断、各国のお偉いさんには悪いが退避してもらい、その後生徒達も避難。それとアリーナの隔壁を降ろせ」

『了解!』

 

 次に一夏達のオープンチャットに繋ぎ、現状の報告と指示を飛ばす。

 

「聞こえるかデュノア」

『織斑先生!』

 

 通話に応じたデュノアは何がなんだかわからないという様子だったが、こちらの声を聞いて一先ずの冷静さを取り戻したようだ。

 

「しばらく足止めを頼む、来賓の方々とガキ共を避難させた後に教員で対処する。それまで持ちこたえてくれ」

『わかりました!』

「それと」

 

 一拍置いて言われた一言に、シャルロットは改めて気を引き締める。

 

「殺す気でいけ、さもなくば死ぬぞ」

 

 そういって千冬は通話を切り、疼く身体を抑えて画面を見据える。

 

「ちょっと、織斑先生!」

「わかっている。しかし廉価物とはいえあれを甘くみるな」

 

 画面中央に映る自分の影に、様々な感情を抱く。

 

 

「あれは、過去の私の模造品だ」

 

 

 ◆

 

 

 拳を握り締めて震えていた一夏は歯を食い縛り、見開いた目で泥人形を見据えて全力で飛翔する。

 

「こんのぉおおおお!!!」

「一夏ッ!」

 

 シャルロットの制止に聞く耳を持たずがむしゃらに飛びかかった一夏だったが、泥人形は当時の千冬の動きを嫌なほど忠実に再現して一夏の攻撃を捌き、避け、無駄の無い一撃を喰らわせて剣を構える。

 

 なす術なく一方的にやられた一夏だが、負けじと再び起き上がって立ち向かおうとするが先の戦闘でエネルギーを使い果たしてISが強制的に待機状態まで戻ってしまった。

 

 こんな時に……!

 

 それでも進む足を止めない一夏。

 

「やめてよ……」

「ぐえっ!?」

 

 生身であるにも関わらず、目の前に佇むどす黒いISに飛びかかろうとする一夏を捕まえ、後方に投げ飛ばした結はガーディアンの巨腕で上から一夏を潰してしまうほど強く取り押さえる。

 

「何をしてるのさ結ッ!」

「う、ぐ……離せ、結……俺は、俺は……!」

 

 尚も暴れる一夏だが、結は更に抑える力を強めるので、一夏はまたあの時のように結が暴走したのかと危惧したが、そうではないようだ。

 

「一夏お兄ちゃん。お兄ちゃんはあの人が憎い?」

「それは……」

 

 結の質問に一夏は熱が抜け、頭に上っていた血がゆっくり流れていくのを感じた。

 

 

 憎いか、確かに憎い。

 

 出会い頭に打たれた事はまだ理解した。

 あの時自分に力がなく、なんの抵抗も出来ないまま助けを求める事しかできなかったのが悔しかった。

 

 奴が千冬姉を崇拝していたからこそ、その弟が不出来だといって叱喝するのなら甘んじて受け入れよう。

 

 だが、崇め讃える自分が崇拝の対象に成り代わる事はあってはならない。

 人間とはその人一人だけであり、他の誰にもなることはない。

 

 その行為は自殺と同義であり、同時に讃えるその人物すら殺す行為にも繋がってしまう。

 

 

 だから許せない。

 千冬を尊敬しているからこそ、今目の前にいる偽物になったラウラが許せなかった。

 

「『恨みは続く。誰かが喧嘩してるなら間に入ってやれば、解決する』て、先生が言ってた」

「……」

 

 こんな子供になんて事を押し付けているのだろう。

 大人になりきれない自分達が勝手に喧嘩して、そのしりぬぐいを子供にやらせていることに嫌気がさす。

 

「だから、あれはぼくが倒す。二人に仲直りしてほしいから」

「でも、結……」

 

 結の言葉に迷いはなく、寂しそうな物言いに反してどこか揺るがない決意が窺える。

 

「お兄ちゃんは強くなってる。あのお姉ちゃんにもそれを知って欲しい。お兄ちゃんにも、あのお姉ちゃんが千冬先生を尊敬してることを知って欲しいんだ」

 

 わがままを言うように、頑として譲らない姿勢に一夏は根負けし、頭を振って肩の力を抜く。

 

「あぁ……わかった」

 

 結はきっと命を賭してでもラウラを止めようとするだろう。

 それだけはさせてはならない。そこに自分もいなければ、何も解決しない。

 

「けどな、俺もいく。俺ももっと強くなりたいんだ。千冬姉に認めてもらえるくらい、みんなを守れるくらいに」

「……ふふ、いいよ」

 

 

「それはいいけど、一夏のISはもう動けないんだろう?」

「う、それは……」

「一夏、白式のガントレットを出して」

「こうか?」

 

 

 やれやれと呆れながらシャルロットは背部からエネルギー供給用のケーブルを引っ張り出し、待機形態のガントレットに差し込む。

 

 シャルロットの『ラファール・リヴァイブC(カスタム)II』に残っていたシールドエネルギーを全て『白式』に投じ、シャルロットのISは待機形態まで戻り、『白式』は右腕と武器の『雪片弐式』だけが展開される。

 

「展開出来たのは片腕と武器だけ、厳しいね……」

「残量も少ない。出来てせいぜい一撃が限界だ」

 

 先の戦闘では殆ど動かなかった結が唯一戦える人員だが、如何せん決定打に欠ける。

 シャルロットの作戦は結が前に出て足どめ、隙を作り、あの泥人形が怯んだところを一夏が突撃し、『零落白夜』で止めを刺す。

 

 成功率など低くて当然。

 失敗すれば良くて重傷、最悪死ぬ。

 

 目の前に鎮座する死地を前に、一夏は一筋の冷や汗を垂らして雪片を握り直す。

 

「いくぜ、結」

「うん、一夏お兄ちゃん」

 

 

 

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