IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 さらっと流します


一夏の特訓編
四十一話 少年と周囲


 VTシステムによるトラブル騒ぎで結局タッグトーナメントは中断になり、学園内で密かに噂されていた『優勝者は男子生徒とお付き合い出来る』という話も無効になった。

 

 加えてシャルロットが自分の性を明かし、実は女だったことを告白したことによって女子生徒たちのハートに更なるダメージを増した。

 

 

 お陰で脳内お花乙女畑状態だった女子生徒の大半は現実を受け止めきれず、中には体調不良を起こすものまででた始末。

 

 片腕を吊り松葉杖をつきながらも復帰したばかりの結に飛び付く輩もいたが時を同じくして教室に戻ったラウラによって軒並み迎撃されていた。

 

 

 

 ことの発端である箒はというと、事件の当時何も出来なかった悔しさと、トーナメント中断によって一夏との約束が白紙になったことのもどかしさで一人不貞腐れていた。

 

  結局、あの時私は何も出来ず、アリーナにいた三人が何もかも片付けてしまった。

 いくら言い訳を重ねたところで自分があの場所にいなかった事自体が悔しい。

 

 運も、実力も、何もかも足りない……。

 

 

 剣道場を借り、道着に袖を通して黙想に耽る。

 いくら気を律しようとしても邪念が横槍を入れてきて集中が続かない。

 

 がむしゃらに素振りをしようと晴れないこの気持ちをどうすることも出来ず、落ち着かせようとしても年頃のじゃじゃ馬は言うことを聞いてくれない。

 

 仕方無く部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、偶然にも告白宣言をした相手に遭遇してしまった。

 

「お、箒」

「一夏!?」

 

 戻り際に出くわした想い人を前にして生娘のように取り乱す箒は思わず逃げ出したくなる気持ちをぐっと堪え、世間話と洒落込もうと口を開くも言葉が続かない。

 

「そういや、この前の約束なんだけどよ」

「!」

 

 今回のタッグトーナメントで優勝したら付き合ってもらう。

 確かにそう言った。

 だが問うの大会は中断され、彼等との実力差をありありと見せ付けられ、正直いって箒のメンタルは崩れ去っていた。

 

 いまここで一夏に「やっぱりあの話無しで」なんて言われようものならこいつを殺して私も死んでやる。

 等と物騒なことを考えていると、告げられた言葉は予想外に甘いものだった。

 

「あの話なんだけどよ、俺はいいぞ」

「ほ、本当か!」

「幼馴染みの頼みだしな、断れないさ」

「それは良かった……」

 

 遂に相思相愛で結ばれる時がきたか……。

 想いが通じて来るべくして結ばれた、などと甘い妄想に耽っていれば、現実を叩きつけられ非情な目を見るのが落ち。

 

「いくらでも付き合ってやるよ、買い物くらい」

「この……馬鹿者が!」

 

 容赦ないブローが一夏のがら空きの胴体に突き刺さり、一撃K.Oを決めた箒はそのまま一夏の屍を踏み越えてさっさと自室に戻って行った。

 

 

 結とラウラが復帰して数日。

 全治数ヶ月はかかりそうだった怪我は見る影もなく治っており、今は片腕を吊っているだけに収まっている。

 

 だが他が完全に治っているわけではないようで、時折足を庇うような歩き方をするので見ている側としては肝が冷えて落ち着かない。

 

 誰か援助するべきか、と回りが見合わせてたじろぐ最中、一人だけ気の迷いを見せず結の腕を持つものが一人。

 

「結、あまり無理はするな。まだ骨がくっついていないのだろう」

「ラウラお姉ちゃん」

 

 流れる動作で結の手を取り倒れないよう肩を優しく掴んで支える。

 

 

 転校当初は近寄り難い気を纏って周囲を寄せ付けなかったラウラ。

 

 タッグトーナメント前にはセシリアと鈴を戦闘不能になるまで叩きのめし、更に回りとの関係に溝を作っていたが、VTシステム事件後に復帰してきた頃には丸くなっており、今のように手厚く結のフォローに徹していた。

 

 

 シャルロットが性を明かし、ついでに男子生徒の大浴場の利用が解禁された時期を鑑みてあらぬ妄想に行き着いた者共と、二組の鈴が一夏にありったけの殺意をぶつけようとしたところ、結と共に鎮圧していた。

 

 これまでの非礼を詫び、鈴にも謝罪をしていた。ラウラに以前のような棘はなかった。

 

 

 どこまで行く、食堂まで。そんな短い会話を済ませてゆっくり、ゆっくりと短い歩幅で二人は歩いていった。

 

 

 ◇

 

 

「ほら、口を開けろ」

「あー」

 

 ラウラは真耶が持たせた弁当の中身をフォークですくい、開けさせた結の口に入れる。

 

 同じ作業を繰り返すだけだが、回りは羨む目線を二人に送って指を咥えている。ラウラは若干の気恥ずかしさを感じながらも、これはただの手助けだと自分に言い聞かせて黙々と食べさせる。

 

 だが一人占めと言うのも面白くなかったようで、見かねた鈴が結とラウラのいるテーブルに勇み足で近づく。

 

「ちょっと、くっつきすぎじゃないかしら? 甘やかすだけじゃダメなのよ」

「弱い犬ほどよく吠えるとは言ったものだ、羨ましいのか?」

 

 ついに噛みついた鈴の逆鱗を撫でるラウラ。

 平たい間に挟まれて結が居心地悪そうに揉みくちゃにされているが、怪我で上手く動けずされるままに文字通り板挟みになっていた。

 

 なによ?

 やるか?

 

 どんどん喧嘩腰になっていく二人を止める手立ても気持ちも起きず、されとて結をそのままにしておくわけにもいかずどうしようかとたたらを踏む周り。

 

「喧嘩しちゃ、だめー……!」

 

 動かせる片腕と肩で無理やり二人を押しのける結に言われて二人は一旦離れるものの、しゃがんで結に詰め寄る。

 

「そうは言うが自分のこともままならないようなお前は見ていて危なっかしい、手助けは必要だろう?」

「だからってアンタだけでしゃばってんじゃないわよ! アタシがやる。いいわよね、結?」

 

 目が据わった二人に言い寄られて若干涙目になる少年。

 

「結、おいでー」

「うぅー」

 

 崖の谷間から這い出た結は片足でてんてんと走り、呼んだシャルロットのもとに半ば倒れるようにして飛び込み、彼女の懐に収まり優しく抱擁される。

 

「やはり大きいほうがいいのか!」

「アタシじゃあ物足りないってわけ!?」

「怪我人だよ二人とも!」

 

 無い物ねだりをする二人をかわいそうな目で見ながら、結は逃げるようにシャルロットの懐に顔を埋めて視線を逸らす。

 

 なんとも愛らしいが、今は悪手過ぎる。

 だらしない顔になるシャルロットに対して修羅もかくやと言うほどの怒気を孕む二人。

 

「難儀な奴だ」

 

 他人事のように茶を啜る箒。

 

「結はモテるな、ははは……」

 

 男として羨みつつ、同情も一入に乾いた笑みを送る一夏。

 

「お二人とも落ち着いてくださいまし」

 

 大人げない二人をどう嗜めるべきかとため息をつくセシリア。

 

 三者三様の対応を見せながら、人数の増えた面子に回りは微笑ましいものを感じていた。

 

 

 結局、間をとって二人に挟まれて昼食を取ることになった結は少しだけ居心地が悪そうにしていたとか。

 

「なんか増えてる……」

 

 小さな焦燥感に駆られる簪が隅から見守っていた。

 




 みんな保護者目線。

 次回、結くんのカラダをまさぐろう!
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