IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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四十四話 無機物の囁き

「なんでトーナメント中止なのよぉぉおおお!!!!」

「やればいいじゃん! 続けたらよかったじゃん!!」

「あァァァんまりだァァアァ!!!!」

 

 

 彼女達は絶望のどん底に叩き落とされたいた。

 

 理由は一つ。

 

 タッグトーナメントが中止になったから。

 

 それだけなら残念で済むものが大半だった。

 殆どの生徒は専用機など持たず、スポンサーや国への売り込みやPRが目的だった人間はごく僅かだ。

 

 それらもVTシステムの無断使用に注目されて二の次三の次でほぼ影響が少なかった。

 

 では何故彼女たちが地獄の底に落とされたように咽び泣いているのか。

 

 

 実は生徒達の間で密かに噂されていた、()()()()が関与していた。

 

 今回のタッグトーナメントで誰が優勝するかを予想し、それにベットを賭けて当たれば総取り、外れれば賭けたものを失うという、黒一色のアブナイお遊びの景品である。

 

 

 

 それはある日の黛 薫子が一年一組のクラス代表決定戦の打ち上げ時にちゃっかり録音しておいた上代 結の声が録られたボイスレコーダーの複製品。

 

 内容は一部編集され、結の幼い声で『お姉ちゃん大好き』の台詞が録られているものだが、実はこれは少数だが新聞部から限定的に取引されている。

 学生の身分ではなかなか手のでない値段になっており、流通数も少なく需要に対して供給が絶望的に少ない状況だった。

 

 では今回の賭け事でそれが配られるのかと言えばそうではなく、なんとその上をいく上位互換が勝ったものに配られる予定だったのだ。

 

 

 

 内容はなんと結の声を更にいじり、個人の名前を呼ぶように編集されたプレミアム仕様となっていた。

 

 一口数千円からと値段も然ることながらまさかの内容に競争率もはね上がり、よくも悪くもタッグトーナメントの士気は上がり皆ギラギラした闘志を燃やしていた。

 

 大体は専用機持ちに賭けられ、また自信と野心に満ちた輩は自分達に賭け、しかし欲望に染まったタッグトーナメントは全て水に流された。

 

 実に不純である。

 

 返金などなく掛け金は全て新聞部に流され、恨みを買った新聞部も流石に申し訳ないと思ったのか期間限定で一般仕様のレコーダーを三割引で売るようになった。

 

 

 

 それがいけなかったのか、ついに足がついてしまった。

 

「薫子ちゃ~ん、これ何かしら~?」

「それは、その、あのです、ね」

 

 生徒会室のど真ん中で正座する首謀者の黛 薫子と、目の前でふてぶてしく椅子に腰掛ける現生徒会長の更識 楯無。

 楯無の手には新聞部が製作し、販売していた結の声が録音されたボイスレコーダーが握られており、隣の机には薫子のカメラとレコーダーが置かれていた。

 

「VTシステムに関して学園内を探ってたら、まさかこんなものが作られていたなんてね」

「悪いことじゃないと思うの、ね?」

 

 実際問題結は一年一組の所属であり、同学年の一年生達は日に数回見掛ける機会はあるが、他の学年となれば少年との接点が少なく、しかも三年生においては今年が終われば各国代表より貴重な男性操縦者を拝む機会が無くなるのである。

 

 事実ボイスレコーダーの売れ行きは二年、三年生を中心に売れており、果ては賄賂を渡す輩まで出ている。

 

「上代君との関わりがないからってパパラッチ紛いな事をするのは良くないし、今回に関してはもうアウトよ」

「返す言葉も御座いません……」

 

 生徒による物品の製作ならまだ許された。

 しかしそれを販売し、利益を得てしまうとなればもう手がつけられない。

 インフレとはそうやって始まり、偏りが生まれると争いの種になりかねない。

 

「なのでこのボイスレコーダーは没収。後日新聞部も生徒会が捜査に入ります」

「そんなぁ、横暴だぁ! うわぁぁぁん!!」

 

 十代後半とは思えないような駄々を捏ねる薫子を一蹴しても良かったが、楯無はそうせず彼女の肩を掴んで耳元で囁く。

 

「そこで相談なのだけど、今回の売り上げを没収しない代わりにボイスレコーダーの元データを全て頂けないかしら?」

「はぇ?」

 

 楯無の要求とは録られた結の声が全て録音されている。元データの提示。

 販売するための媒体を抜かれるので新聞部としては収入が減ってしまう申し出だが、売上額は毎年の部費に比べれば雲泥の差であり、向こう数年の予算は出来上がっているので決して悪い話ではなかった。

 

 これで売り上げも徴収されてしまうと本当になにも残らない。

 薫子はすぐに首を縦に振り、楯無の話を飲んだ。

 

「交渉成立て事で良いわね」

「ありがとうたっちゃん!」

 

 女の友情は固い握手で証明された。

 

 

「それで、譲り受けた品で遊ぶ気分はどうですか会長」

「なかなか良いわよ」

 

 スピーカーに耳を押し当ててくねくねと気持ち悪く悶える生徒会長を冷たい眼差しで眺める幼馴染みであり生徒会の副会長を務める布仏(のほとけ) (うつほ)は、目の前の残念美人にどうやって仕事をさせようか頭を痛める。

 

「確かにこれが欲しかったのだけど、目的は違うわよ」

「なら今すぐその電源を落としてください」

 

 真面目な声音で言うが身体は蕩けきっている。

 如何せん説得力に欠けるそれに虚はため息を漏らす。

 

「そんなことをしているから妹さんに嫌われるのですよ」

「言わないで虚ちゃん! これでも気にしてるのよ!」

「なら止めてください」

 

 未だ妹に嫌われた傷が癒えない楯無は竹馬の友に傷口を抉られやいのやいのと騒いでいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 新聞部が生徒会に摘発されたという噂は生徒の間で瞬く間に広まり、同時に二度と結のお姉ちゃんボイスが録られた声が聞けなくなるとなり市場は地獄の需要過多に陥り、高額な転売で身を棒に振る生徒まで出た始末。

 

「何見てるんだ?」

「ミイラになったミイラ取りっす」

 

 屋上から校舎裏等で必死の懇願やらがめつい取引を素知らぬ顔で眺める少女、フォルテ・サファイアは鉄柵に上体をかけて隣に並ぶ学園の三年生であり恋仲でもあるダリル・ケイシーに答える。

 

 大きなバストを揺らし、金髪のホーステールを靡かせる彼女は自分よりも不毛なゴシップに注目しているフォルテに少しばかり妬いていた。

 

「どいつもこいつも、そんなにあんな小便臭いガキがいいのか?」

「本気の人なんていない。遊び半分なんスよ、みんな」

 

 フォルテにならって躍起になっている生徒を見下ろすダリルは浅ましいものを見るように目を細める。

 

「上代、ねぇ……なんの代わりだか」

 

 腫れ物を見るような目をするダリルはやるせない声で意味があるのかないのかわからない事を呟く。

 

 接点など何もないような彼女でも女子生徒に追い掛け回される少年に何か思うことがあるのだろうか。フォルテは下からダリルの横顔を覗いてみるが何もわからなかった。

 

「どうかしたんスか?」

「なんでもねぇよ」

 

 一言吐き捨ててダリルは屋上を後にした。

 

「ちょっかいでもかけにいくかな」

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 とっぷりと日の暮れた晩、アリーナのグラウンドに一人の影が月夜に照らされて歩く。 

 

 

 行先はアリーナのIS格納庫。

 鉄扉を軋ませて開くと、中にはよく整理されながら半ばすし詰め状態の第二世代型ISである【打鉄】と【ラファール・リヴァイブ】が並んでいた。

 

「こんばんは、みんな」

 

 言葉を返すものなど一人もいない。

 それどころかそこに居る人間は結一人だけであり、他はISのみであるはずだが結は開口一番に挨拶をし、格納庫の中央に腰を降ろしてぐるりと辺りを見回す。

 

「今日はどんなことがあったの?」

 

 世間話でもするように気さくな物言いでISたちに語りかける結は決して頭がおかしくなった訳ではない。

 

 VT事件でのファントムとの深い共鳴で自身とISの境界線が一層縮まり、五感機能の一部回復と、ISとの共鳴を感じ取れるようになった。

 

 奇しくも聴力の回復と伴って現れた新たな能力に一度は驚いたが、常日頃聞こえるファントムの声に慣れていたので他のISの声が聞こえたことに対しては大して特別な感情は無く、むしろどこか安心感があった。

 

「そうなんだ、直してもらった方がいいのかな」

 

 暗い格納庫には結の声しか響いていない。

 しかし彼には賑やかなIS達の愚痴や日報等が絶えること無く騒がしさと姦しさを持って耳に届いていた。

 

 人とISの談笑は静かに、しかし賑やかに華を咲かせていた。

 

 

  




 原作の内容を忘れたのでちょっと読み返してきます。
 
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