明けましておめでとうございます。
年末の仕事納めと大掃除、家のいざこざと脱力感に追われて筆を執る機会が減ってました。
ではどうぞ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
涙声で連ねる謝罪の言葉はもはや誰にたいしての言葉かも忘れ、ただその行為を繰り返すだけの少年はその場にうずくまり、すがりつく思いで誰かに謝っていた。
見えない誰か。
否、そこには青年だったり少女だったり、十代前半から二十代後半ぐらいの様々な男女が何人、何十人、もしかすれば百も千も越える人数が並んでいるのかもしれない。
亡霊のような青い顔で、無機質に動く口元は少年へ向けた罵詈雑言が乗せられていた。
何故まだ生きている。
早く死ねばいいのに。
お前だけ生きているなんて。
許さない。
許さない。
許さない。
許さない。
静かにせめたてる彼らは少年を見下したまま、拒絶の言葉を連ねるのみだった。
お前だけが幸せになれるなんて、あり得ない。
そう言うと彼らは少年の前に道を作り、そのさきにあるものを見せる。
そこには無惨に散らばった人肉の塊。人だったものたち。そして見慣れた制服。
一夏達だ。
大切な人が消える苦しみを。
俺たちから奪ってきたお前に。
与えてやろう。
震える手足で逃げ出そうとする結を彼らは取り押さえ、頭を掴んでまじまじと見せつける。
死を。
何者にも変えられない誰かの死を。
焼き付けろ。
その目に、脳裏に、記憶に。
忘れはしない。
忘れさせない。
全てお前のせいだ。
あ、あぁ……。
「~~~~~~~~~~~ッッ!!!!」
ベッドから飛び起きた結は全身から吹き出す脂汗も気にせずに寝床から這い出て、夢の中で掴まれていた箇所を撫でる。
全身を虫が這うような不快感が支配し、夢の中で掴まれていた箇所を見てもなんの痣も無かったが、確かに握られたような感触がざわざわと肌を粟立たせ、腹のなかの蟠りを追い出そうと消化器官は逆流して喉を焼く。
「あぁぁぁあぁあぁぁ………………!!!」
まだ瞼の裏に鮮明に写っている彼等の憎悪に当てられて、気が狂う結は震える腕で体を抱き、床に額を擦り付けながら嗚咽を漏らす。
◆
一時限目の時間になったというのに、結の姿が見えないことに真耶は少しばかり焦っていた。
欠席の連絡は入っておらず、目の前に一席しかない空席に誰もいない事に多少なり不安感を覚えていた。
ゆ、結ちゃんが無断欠席をするなんてそんな、織斑先生の方にも連絡は無いみたいですし、何かあったんでしょうか……。
疑問は一先ず置いておき、真耶は結が居るであろう地下室に向かった。そこには嗚咽を漏らしてうずくまる、見るに耐えない姿の結がいた。
「結ちゃんっ!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい⋯⋯⋯」
部屋の中央で横たわる少年の顔は蒼白で涙と汗、吐瀉物に濡れて悲惨な事になっていた。
朦朧とした瞳で虚空を眺めている結を抱き起すと結は真耶にしがみつき、とめどなく涙を流してしきりに謝罪の言葉を延々と呟き始めた。
「ぼくのせいで、みんなが⋯⋯ぼくが生きてるせいで、死んじゃう⋯⋯死んじゃった⋯⋯!」
「結、ちゃん⋯⋯」
真耶は震える少年の手を掴み、自分の頬にあてがい力強く結を抱き締めた。
結の震えはふと収まり、それまで連ねていた謝罪は息が切れたように止まって荒い呼吸だけを繰り返している。どっと脱力した結が後頭部から倒れそうになったので咄嗟に結を抱えなおした真耶は涙目でこちらを見上げる少年に優しく微笑んだ。
「大丈夫ですよ、結ちゃん。私も、皆さんも、ちゃんと生きてます。ほら」
「⋯⋯⋯⋯真耶先生、生きて、る」
彼女のぬくもりに気が付いた結はようやく我に返り、とめどなく涙を流しながらおいおいと泣き出した。
⋯⋯⋯
⋯⋯
⋯
「お兄ちゃんっ」
「うぉっ。どうした、結?」
会合と同時に一夏の胸に飛び込んだ結は、一夏の制服にしがみついて顔を押し付ける。
いつもと全然違う少年の行動に困惑しながらも、弟のように思っている少年に甘えられていることがなんとなく嬉しい一夏は、結を抱えて頭を撫でてやる。
「怖い夢、見たの」
「なんだよそれ」
笑って誤魔化しながら一夏はしがみついてくる少年を膝の上に乗せて優しく頭を撫でる。涙目の結は息をしゃくらせながらも一夏の体温と匂いに安堵し、強張る体を落ち着かせる。
「一夏、上代はどうかしたのか」
「あぁおはよう箒。なんか怖い夢みたらしくてさ」
その程度で泣き出すとは、と箒は悪態でも着こうかとしたが、いつもより小さく感じる結の背中をみて口を紡ぎ、仕方ないとため息を着いて結の背中を撫でる。
「どんな夢をみたのだ?」
「みんながね、居なくなる夢」
親とはぐれた幼子のように泣きじゃくりながら答える結は酷く困惑した様子で箒の問い掛けに答える。
それを聞いた箒と一夏は互いの顔を見合せ、少しだけ微笑んで結に向き合う。
「俺たちは何処にも行かないぞ、なぁ箒?」
「無論だ。お前だけを置き去りにするなどあるものか」
あまりに珍しく弱々しい結の姿に、教室中だけでなく廊下の外まで話が広がって小さな人だかりができるが、お構い無しに結は一夏の膝に乗っていた。
注目を浴びればその目線は感染するもので、セシリアや教室の前を通りがかった鈴までやってくる。
「どうかなさいましたか?」
「なにやってんのよ結?」
「二人とも」
人目につくところで誰かの膝の上にいる結が物珍しく、訊ねてくる二人に一夏が端的に説明してやると、二人は小さく吹き出した。
「なによそれ、アタシならここにちゃーんといるわよっ!」
「勿論私もお側に居ますわ」
その言い回しだとあらぬ誤解を生みそうだが、野暮なことに突っ込むような雰囲気手もないので誰も口を挟んだりはしない。
結はそれでも二人を見上げ、納得のいかないような、寂しい顔をして俯くものだから鈴は頭をかき、一夏から結を引き寄せ抱き締める。
「あーもう、泣かないの。ちゃんとここにいるんだから、安心しなさいよまったく!」
「うん……」
ほんのり頬を染めながらも結をあやす鈴は面倒見のいいお姉さんをしていた。
丁度教室に戻ってきたシャルロットとラウラにその現場をしっかりと見られ、あらぬ誤解をしてしまったラウラは鈴に飛び付くがシャルロットに抑えられ、未だ涙ぐんでいる結に変わって一夏が事情を説明するとようやくラウラも落ち着きを持って結に接する。
「ならば私の胸を貸そう。なに、遠慮するな」
そう言いながら自慢気に胸を張るラウラだが、寂しい平原のそこに如何にして安心感を求めようか。
だが結は躊躇う様子もなく、吸い付くようにラウラの背中に手を回し、か弱い力加減で銀髪の少女に抱き着く。
「んう……」
「ふぉっ」
あまりに躊躇しないので思わず変な声をあげてしまったラウラだが、奇声による羞恥心より想い人からの抱擁からくる高揚に惑わされ、たちまち動けなくなった。
「おおおお結が、結が私の胸のなかに、みじゅから……!」
「ん、ラウラお姉ちゃん……」
イカガワシイ気がしなくもないが、本人とも気を悪くしてはいなさそうなので良しとしておこう。
「ラウラ~僕にも抱かせてよ~」
後ろで焦らされていたシャルロットがついに我慢ならずせがむように割ってはいる。
言い回しになんとも言えない危なさを感じるのも彼女の性なのだろう。
だらしない放心状態で動かないラウラの腕の中から結を抜き取ったシャルロットはそのまま腹の下に結をくぐらせ、背中に手を回して抱き締める。
「えへ、僕は結のこと離さないよ」
「うん……」
歯の浮くような台詞でさえさらりと言ってしまうシャルロットだが、そんなことに気を止める余裕もないのか結はシャルロットの腕を掴んで離れない。
「……」
普段ほとんど感情をみせない結がここまで動揺し、取り乱すなんてことはない。
それほどまでに結がみた夢というのは恐ろしく、少年の心の内にファントムのような巨大な影が潜んでいるのだとしたら、それらをどうにかする術が無い自分が何とも歯痒かった。
◇
「ダメだ」
「そこを何とか……!」
職員室で、一夏は織斑先生の机の横で両手を合わせ、深々と頭を下げていた。
対して千冬は一夏に一瞥もくれずに事務作業に没頭している。
「上代の外出許可など出せるわけないだろう」
「何とかなりませんか!」
学園島が広いとはいえずっと学園内に居たのでは代わり映えしない日常に退屈してしまうのではと考えた一夏は結の外出許可を認めてもらうべくこうして担任のところまで赴いて懇願しているのだが、返ってくる返答は無理の一点張りだった。
「もしも出先で上代が暴れだしたらどう責任を取るつもりだ」
「その時俺が!」
「自分の専用機も乗りこなせていないじゃじゃ馬がか?」
手厳しいが正しい千冬の言葉に一夏は返す言葉も見つからなかったが、それでも彼は食い下がる。
「だったら、今よりもっと強くなればいいんだろ?」
「……ほう?」
挑発的な視線を一夏を向けたところ、彼は静かに闘志を燃やしてまっすぐな瞳で此方を見つめてきた。
その瞳の奥に若いながら静かに燃える闘志を魅せられ、千冬ははしたないと思いつつも不適に口角をつり上げる。
「ならば手始めに上級生の代表候補生と手合わせしてこい。話は此方が着けてきてやる」
そう言い千冬は一夏に生徒プロフィールの資料束を無造作に渡す。
「言っておくが、一筋縄で勝てる相手だと思うなよ?」
「望むところだ」
千冬の挑発に応えるように、一夏は笑ってみせた。
◆
原作の記憶が曖昧なので上級生と軽く戦ってから林間合宿に行かせます。