IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

47 / 110
 久々に書くものだから何もかも忘れてました。







四十六話 格差と特訓

 放課後、アリーナの選手待機室に集合した学園の代表候補生達。

 そこに箒と結の姿がない事にそこはかとなく寂しさを感じながら、一夏は集まってもらった皆と上級生の数が聞いていたより少ない事が気になった。

 

「なんか、足りなくないか?」

「いないのは更識姉妹だ。姉は生徒会、妹はデータ収集で放送室にいる」

 

 遅れて現れたのは今回の集まりを決めた本人である織斑先生だった。

 いつもの黒いスーツを着込み片手にクリップボードを持ってそう言いながら、二、三年生の紹介に移る。

 

「二年生はイギリス代表候補生サラ・ウェルキン、ギリシャ代表候補生フォルテ・サファイア。そして三年生はアメリカ代表候補生ダリル・ケイシーだ」

 

 セシリアに似て慎ましい佇まいの少女と、眠そうな半目の少女、そして機嫌の悪そうな眼差しで一夏を睨むホーステールの少女。

 

「サラ・ウェルキンです。専用機こそありませんが負ける気はしませんよ?」

 

「フォルテっす。よろしく」

 

「ダリル・ケイシー。なんでオレがこんなことを……」

 

 三者三様の態度を見せる彼女達だが、誰も一筋縄では太刀打ちできないと思わせる程の威圧感を肌で感じた一夏は姿勢をただし、勢いよく直角の礼をする。

 

「この度は自分の頼みを聞いてくださりありがとうございます!」

「いーいー、堅っ苦しいのは嫌いなんだ。それに……」

 

 ダリルは一夏の顎を掴んで無理やり顔を上げさせ、戸惑っている彼の双眸の奥を冷たい眼差しで見詰める。

 

「お前は人を殺せるほどの力を手にして何をする?」

 

 その質問にどこまでの意味が含まれているのか定かではない。

 先日のラウラとの件も然り、無人機が強襲してきた時や、結が暴走した時、必ず誰かを恐ろしい目に遇わせてしまっていた。

 

 昔、非力だった自分が謎の集団に誘拐されたとき、ただ怯えているだけだったのが嫌で強くなろうとした。

 

 だと言うのに、あの時のような事を繰り返している。

 誰かを助けたいと思っていても実力が着いてこない現実にたたらを踏んでばかりだった。

 

「家族やみんなを……結を、守りたい。いや、守るんです」

 

 見下してくるダリルを見上げ、一夏は答える。

 

「誰かを犠牲にしてもか?」

「誰も死なせない」

 

 若く、青い。

 そんなことできるはずがない。

 

 どれだけ否定しようとも成し得ることなぞ出来やしない。そんな分かりきったことをわざわざ指摘するまでもなく、しかしそれでもダリルとの視線を逸らすことなく言い切る一夏にダリルは不適に笑って掴んでいた手を離す。

 

「ま、知ったこっちゃねぇがな」

 

 吐き捨ててダリルはその場で服を脱ぎ、ISスーツだけになる。

 勘違いした鈴に平手を喰らった一夏は早くもダウンし、同じく勘違いしたフォルテが慌ててダリルの身体を隠そうと脱ぎ捨てられた制服を掴み、低い身長で飛び跳ねながら服を持ち上げている。

 

「何してんだ?」

「それはこっちのセリフっす!」

 

 成り行きはともかく、一年生強化訓練が始まった。

 

 

 ◆

 

 

 一夏や鈴等の近接格闘型のISはフォルテ、ダリルが主な相手となり、セシリアやシャルロットのような遠、中距離射撃型の機体はサラが指導と模擬戦を担う形になった。

 

「そんなもんか一年生ッ!?」

「ぐッ……まだまだ!」

 

「オルコット、射撃だけに集中しない! デュノアはもっと攻める!」

「「はい!」」

 

 代表候補生とはいいつつもその実力は国家代表に匹敵するものであり、圧倒的な実力差に振り回されている一夏達。

 

 サラに関しては量産機であるにも関わらず、いつかの山田先生のように専用機持ち二人を相手に飄々と空を駆けていた。

 

「攻撃が当たんない!」

「見え見えなんだよチャイニーズ!」

 

 得意の龍砲を連射するものの、ダリルの駆る『ヘル・ハウンドver2.5』は龍砲の射線を予測し、隙間を縫うように避けて甲龍に肉薄して地面へ叩きつける。

 

「ハァッ!」

「うちを忘れてもらったら困るっす」

 

 飛ばされたリンと入れ替わるように飛び込む一夏の前に紺色のIS『コールド・ブラッド』が立ち塞がり、氷の壁を生成して白式の斬撃を阻む。

 

 小柄で最小限の防御だったが、雪片弐型の一撃は簡単に止められてしまう。

 

 姿形は違うけど、結と戦ってるみたいだ……。

 

「私も忘れてもらっては困るな!」

「ちゃんと遊んでやるよゲルマン軍人!」

 

 紫電のような軌道を描いて突撃するラウラのワイヤーブレードを飛び越えるように躱したダリルの後ろに待ち構えていたフォルテが入れ替わるように迎え撃つ。

 

「数だけじゃ勝てないっすよ」

「チィッ……!」

 

 幼い体つきに似つかわしくない鎧に包まれ、身の丈以上の大盾を振り回す少年の影を重ねながら、一夏達はいくら斬っても手応えの感じない氷の壁に距離を置く。

 

「鈴、ラウラ、まだいけるか?」

「一発でもぶん殴る!」

「黙らせてやる……!」

「落ち着いていけよ」

 

 犬歯を向いて躱される怒りを露にするかつての幼馴染みとぶつかり合った軍人を横目に雪片弐型を構え直す。

 

「フォルテ、あれやるぞ」

「大丈夫すかね?」

 

 対してダリルとフォルテの二人は汗一つかかずに隣り合い、ダリルの合図で動き出した。

 

「何かくる!」

「一発で眠らせてやるぜ、一年生!」

 

 ダリルの『ヘル・ハウンドver2.5』が操る炎とフォルテが駆る『コールド・ブラッド』が放つ冷気が混ざり、一拍置いて巨大化。同時に腕を振り抜いた二人の合体技が一夏と鈴を呑み込み爆発した。

 

「『凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)』痺れたろ? 一年生」

「つ、つよ……」

「まだ、まけてな、い……」

 

 地面に伏したと思えばパタリと気を失う二人を眺めながら、ダリルは遠い眼差しで不敵に笑った。

 

「まだ、いける……!」

「しつこい男は嫌われるぜ?」

 

 震えながら立ち上がった一夏は倒れそうなほど低い姿勢のまま片側の背部スラスターにエネルギーを溜め、ダリル目掛けて瞬時加速を発動する。

 

「無鉄砲なのはよくないなァッ!」

「くッ……!」

 

 カウンターを狙って拳を振るったダリルだったが、一夏はダリルの拳に触れることなく彼女の頭上を通り越し、彼方後方へ飛んでいってしまった。

 

「もうお疲れか……うぉっ!?」

 

 振り向いたダリルの眼前に『零落白夜』を発動した一夏がもう片方のスラスターで瞬時加速を行い接近していた。

 だが光の剣が触れるより前に氷の壁がダリルの目前で展開され、一夏の渾身の一撃は阻止されてしまった。

 

「なんだよフォルテ、邪魔しやがって」

「好きな人に怪我してほしくないだけっす」

「そういうとこだよな」

 

 敢えなく勝てないまま終わった一日。

 

 まだまだ先が長そうだと思う一夏だった。




 簪ちゃん出てないけど許して……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。