初日から簡単に潰された一夏と鈴、ラウラの三人だが、一夏の二段加速に上級生達は驚いていた。
「まさか二段加速を一年の、しかもISに乗ってまだ三ヶ月も経ってないような初心者が使えるなんてな」
「織斑君は鍛えればもっと強くなれますよ」
「は、はぁ」
通常、瞬時加速とは二回分のエネルギーを消費して加速する方法なのだが、これを操縦者の体感的な操作で行わなければならず、しかも失敗すれば飛行ユニットが爆発しかねない行為。
一夏は瞬時加速を既に会得していたが、複数ある飛行ユニットを別々に操作し瞬時加速を段階的に行ったのはこの戦闘が初めてだった。
結果として二段加速には成功したものの虚を突いただけに終わり攻撃を当てるには至らなかった。
「けど今のうちからそこまで出来るなら張り合いがある、一撃でも当てられたらお前の勝ちだ」
「頑張ります……」
くたくたになりながら上級生の激励に答える一夏。
一方放送室ではわなわなと震える簪の姿があった。
「もっと! あれを! 使いなさいよ! 織斑一夏ぁ!」
荷電粒子砲製作のため白式の『零落白夜』のデータが欲しかった簪だが、エネルギー残量を気にするが故単一仕様を出し渋った結果、ほとんど収穫が無かった。
織斑先生経由で白式の観察及びデータ収集の許可は織斑一夏本人から下りているものの、肝心の観察対象が欲しているデータを寄越さないのであれば話は別だ。
「ISが完成したら絶対に倒す……!」
もはや対抗心も執着心も関係なく、個人的な恨みでしか見ていなかった。
「簪ちゃん……」
扉をほんの少し開き、中を覗く影が一人。
天才で変態の駄姉こと更識 楯無。
どうにか妹の力になりつつ悪化しかしていない関係の再建を考えてはいるものの、何も行動に移せていない有り様だった。
◇
「織斑君よく食べるね~、何人前あるのそれ?」
「これで四人前は食ったな」
食卓に重ねられた四人分のプレートと食器。
丁度器が空になり、積まれた器の上にまた一枚重なる。
近頃の上級生との特訓で使った二段加速然り、いつもの力と数で圧倒されるクラスメイト達との練習に比べ、技術や積み重ねてきたIS乗りとしての腕で押されいつも以上に疲弊していた。
「昨日特訓で張り切りすぎて、試験勉強も重なって食欲が増してさ」
「ふーん、専用機持ちも大変なんだなあ~」
席を立ちまた食券を買いに行った一夏を遠くの席から眺めていた簪は、ふといつかの記憶を思い出した。
「……あの時の結みたい」
結と初めて会話した時、少年は病床に居たというのに体に見合わないような大量の食事を目の前に平然と全て平らげており、明らかに重体だった怪我が数日のうちに完治していた。
真っ直ぐ飛ぶだけでもシールドエネルギー越しとはいえ相当なGが掛かっているのに、それを織斑一夏は昨日の三年生との模擬戦で二段加速を行い、一度目と二度目で進行方向が真逆になって相当な負荷が身体にかかっていたはず。
いくら学生時代に鍛えていたとは言っても戦闘機のパイロットでもない人間がそんな負荷を身体にかけられたら数日は全身が痛んで動けなくなるもの。よくて存命悪くて内臓破裂ぐらい。
なのに彼は当たり前に立ち、歩いて昼食を食べている。
「……データが採れるならなんでもいいか」
未だに一夏に対しては薄情だった。
◆
今日もダリル、フォルテの二人を相手に奮闘する一夏達。
今回は双刃剣を握り締めるダリルは愉快にアリーナの空を駆け、双肩にある猟犬の頭から炎を吹きながら牽制し、双刃剣でラウラを攻め立てる。
「まだまだァ!」
「これしき!」
一夏と鈴を相手取りながら氷壁や氷柱を生み出して二人の攻撃を阻むフォルテ。
二人の攻撃を先読みしながら氷柱を生成して進路や攻撃を阻み、一切の隙も与えず氷漬けにしてしまう。
「鈴、あの時のやつもう一回やるぞ!」
「はぁ!? あんた正気!?」
「いいから撃て!」
言われて鈴は龍砲の照準を一夏の背に合わせ、一瞬の躊躇を挟んで吹っ切れたと同時に全力で放つ。
「仲間撃ちて、焦りすぎじゃあ……ほう」
一夏は龍砲が放った衝撃をそのまま背部スラスターに取り込み、無理矢理推進材として活用して爆発的な勢いでフォルテに突進する。
すぐに氷壁を数枚一夏の進路上に生成したフォルテだが、一夏は氷の壁をものともしない勢いでフォルテ目掛けて飛び込み、雪片弐型ですべての氷壁を粉砕。
「ゼェァァァ──────────ッッッ!!!」
振り絞った雪片弐型から『零落白夜』を発動しながら振り下ろし、新たに阻害物を出される前に止めを刺しに行った。
「しまっ……!」
絶対防御を貫通しシールドエネルギーを根刮ぎ削られた『コールド・ブラッド』は戦闘不能となり、強制的に待機形態まで戻ってしまい、空中に生身で放り出された。
「まずっ……」
「フォルテ!」
気づいたダリルが瞬時加速で急降下し、落下寸前のところでフォルテを掴んで抱き抱える。
精密な飛行操作で落ちた彼女には一切の衝撃がいかないように減速の加減をしたダリルだが、反動として内臓の圧迫感に嘔吐感を覚えつつ、それを飲み下して平静を装っている。
「ありがと、す」
「いいよ。にしても『零落白夜』か、話には聞いていたがやっぱりトンでもないな」
フォルテを地上に降ろしたダリルの下に遅れてやって来た一夏は大変なことをしたと焦って頭を下げるが、二人とも気にしないと手を振って軽く許した。
「油断した私が悪いんだし、気にしなくていいすよ」
「気に障るが試合は試合だ」
それよりも、と続けてダリルは申し訳なさそうに眉を八の字に垂らす一夏の頭を乱雑にかきながら下がっていた頭を持ち上げる。
「気にするなつってんだろ。お前がしようとしてる事をお前自身が否定するな」
「それは……ッ」
言われたくなかった真実を言われて一夏は黙るしかなかった。
結が外に出るために強くなろうとしているが、その実手に入れようとしている力は結を殺すためのものだ。少年が他人を見境なく襲うような事が起きる前に、事前に彼を無力化するための力であり彼を殺すための力だ。
どれだけ目を背けようとしても必ずちらつく誰かの死のイメージに震え上がり、足がすくみ、腹の奥から冷や汗が滲み出て足がすくむ。
「俺は、間違ったことをしてるんでしょうか……」
後ろめたい感情を節々から溢れさせ、黒いものに憑かれる一夏をダリルは溜め息を吐いたあと額を叩いて気を引く。
「『一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ』殺した数が人を神聖なものにする。お前はあのガキを英雄にしたいのか?」
「そんなこと、させません……ッ!」
ダリルの言葉を思わず否定する一夏は最悪の事態を想像して冷え上がる。
「お前が人殺しになれば、あいつが英雄になることはない」
「…………」
排他的だが、現実的な考え方に賛同したくもないはずなのに理解出来てしまう事が嫌だった。
いくら守りたいと息巻いても自分一人が出来ることなぞたかが知れていて、夢も希望も持ち出せない事柄に何も言い出せなかった。
「しっかり悩め。だが時間は待ってくれないぞ、織斑 一夏」
「……はい」
もう一度一夏の頭をかいてダリルはフォルテを連れアリーナを去った。
「英雄……」
◇
放送室に表示された画面をかじりつくように見ている簪がひきつったような笑い声を上げていた。
「ふ、ふふ……データ、録れた……」
予想以上の出力数値を出し、録れたデータをみて思わずにやける簪。
「これで、織斑 一夏から結を守れる……」
歪な道を真っ直ぐに進む簪はデータメモリを握って早々に放送室を出ていった。
「結は私が守るんだ」
原作にはない(作者の記憶の限り)上級生との特訓回。
蛇足的ですが許してください。