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四十九話 少年とおでかけ
必要な寄り道を経て、やっとの事結の外出許可が降りるようになった。
一夏及びその他の代表候補生以上の実力を持った生徒、教員もしくはその両方の同伴が条件とは言え、学園島の外へ少年を連れ出せる機会が生まれた事が一夏にとって嬉しいことだった。
「結! 今度一緒に出掛けようぜ!」
結の部屋に駆け込んで息を切らしながら事の旨を伝えると、結は呆然としていたがやがて目に光を取り戻して口許に手を当てながら一考。一夏と目を合わせて答えた。
「やだ」
一夏は膝から崩れ落ちた。
まさか断られるとは到底思ってもおらず、一夏の誘いに首を横に振った結は項垂れる一夏に駆け寄って背中を擦る。
「なんでなんだよ結~……」
「ごめん、お外はまだ怖くて」
しゅんとさみしそうに眉を垂らす少年を見上げ、一夏は彼の境遇を改めて慮る。
今まで一度も外の世界を知らずに生きてきた結は、限られた空間に居る事が当たり前だった。固く閉ざされた鉄の壁だったり、先の見えない果てしない海であったり、何かが遮っていた。
「俺も一緒に行く。俺だけじゃない、みんなもいる。だから、外に出てみないか?」
少しの迷いが結の答えを遅らせる。
「また、誰かに怪我させたら……」
「そうなる前に俺が止める」
慄然とした態度を示す一夏はさまよう結の目を確と見詰め、嘘偽りのない真っ正直な気持ちをぶつける。
「お兄ちゃんが、一緒なら」
「本当か、よっしゃ!!」
おずおずと差し出された手を掴み取り、一夏は飛び上がって結を抱き締めながら溢れんばかりに喜んでいた。驚きつつもはにかむ結をみて、一夏は結が以前より笑うようになった気がした。
◇
日を改めて休日に外出することになり、診察衣と制服、パーカーしか持っていない結の服の調達と目前に迫った林間合宿へ向けての水着の新調が今回の外出の目的だった。
校門前に集合する結はパーカーのフードを目深に被って刺すような陽射しの目下に晒されながら待っていると、不意に日陰が自分を覆い隠したので見上げると日傘を刺したセシリアがにこりと笑っていた。
「おはよ、セシリアお姉ちゃん」
「ごきげんよう結さん。そんな格好ですとまた倒れてしまいますわ。こちらにおいでくださいまし」
セシリアはそう言いながらショルダーバックから水の入ったペットボトルの封を開けて結に手渡し、飲むように促す。
両手で大事そうに抱えながら水を飲み、身体に水分が沁みわたる感触に浸っていた。
「ぷあ、ありがとう」
「どういたしまして」
水を得た魚のようにふわりとした活力を取り戻した結。
二人で晴天下の相合傘を楽しんでいればようやく他の面子も集まってきた。
おおよそいつもの面々が揃ったところで簪がいない事に気が付いた。
「簪お姉ちゃんは?」
「ISの作製がもうすぐ完成だから今日は来れないとさ」
本音をはじめとした整備場志望の生徒達と協力して製作に当たっているため、下手に息抜きも出来ない変わりに作業ペースは早いもので、当初の予定よりもかなり進んでいた。
既に八割方まで組み上げられたISは残すところ少しの武装と各部出力の調整をする程度で、学生達だけで造られた物ながら技術は折り紙付きで、各国の最新型ISと肩を並べる程の精度が期待される。
「またの機会に一緒に行こうって言ってたぜ」
「うん」
俯く結の頭をフードの上からがしがし撫でてやり、一夏を見上げる少年は困ったように笑っていた。
◇
初めて目にするモノレールの異質さにドギマギしながら一夏達に手を引かれ乗り込んだ結は、程よく温度調整された車内で背伸びをし、他には誰もいない車内の窓に張り付いて外の景色を眺めていた。
果てしない海と青空に挟まれ、水平線を越えた先に見えた本州の大地を見付けて興奮気味に一夏に訪ねる。
「お兄ちゃん。あれはなに?」
「あれは日本の本土だ。学園島なんかよりもずっとでかいぞ」
「へぇ……」
結の眼差しはモノレールが進むにつれて近づいてくる日本の大地に釘付けだった。
目的の駅に着いて全員下車し、結は一夏の手を握って一夏、箒を先頭に七人は移動を始める。
各国の美女が集まりしかもIS学園の制服を着て歩いていれば目立つのは必然であり、周囲からは小声で話す声が聞こえたり、またある方からは黄色い歓声が届いてくる。
セシリアやシャルロットなど社交場に慣れている者は向けられる視線に笑顔を返したり、ラウラなど厳格な者は慄然とした態度を貫いていた。
未だ奇異の目に晒される事に慣れない一夏は肩身を狭くしつつも手を引く少年に格好を付けたくて肩を力ませながら進む。
「うるさい」
「有名税というやつだ。仕方ない」
聴力を人並み以上まで取り戻した結は周囲の歓声に眉を顰ませながらフードを目深に被る。
訪れた知らない街で知り合いの影に隠れながら、向けられるスマホのカメラから視線を外して何でもないように振る舞う。
「あれが二人目の……」
「まだ子供じゃん」
「その可愛い御尊顔を拝みたい!」
変な輩は何処にでも沸いてくるようだ。
顔も知らないような人間に観られる事は慣れているはずなのに、今は何故だか心がざわついた。
夏の日差しに情熱的な目線を送られながら一行は市内一大きいのショッピングモールに到着した。
ここにないものは市内の何処にも存在しないと豪語するほどで、実際それだけの品揃えを実現しておりここに来れば一通りの買い物は済むと言われている。
「それじゃあ僕達はあっちを見てくるね」
「おう、後で合流だな」
臨海学校に向け、貸し切りのビーチで着るための水着選びに勤しむ少女達。
姦しく楽しそうに派手な下着のような布に何故ああも面白おかしく反応できるのだろうとぼんやり考えながら、結は一夏に手を引かれるまま男性用の水着売場に連行された。
「結に似合うやつ、パーカーは必須だろ? ならこっちかな……」
一夏は幾つかの水着を持ってきては姿見の前に立ち尽くしている結の体の前にかざしてしげしげと眺めては「違うな」とか「こっちの方がいいかもしれない」とか良いながらまた水着を取っ替え引っ替えに持ってくる。
ついに業を煮やして結は一夏が持ってきた大きめのパーカーとトランクス型の水着をむしりとってこれでいいとざっくばらんに伝える。
「これでいいのか?」
「これでいい」
服には無頓着な結は適当に選んだ裾の長い水着を選び、一夏も丁度目に止まった無難な物を持って集合場所に戻ると既に他のみんなが集っていたので驚く。
「もう済んだのか?」
「うぅんまだだよ。実はね、みんなの水着を二人に選んでもらおうと思ってさ」
そういうシャルロットは早速二人を連れて女性用の水着売り場に姿をくらませる。
「こんなのとかどうかな?」
「どうだ、一夏?」
「アタシはこれ!」
「悩みますわね」
きゃあきゃあ言いながらあれやこれやとビキニであったりパレオだった利を持ってきてはとっかえひっかえに選び倒し、姿見の前でかざして見たり他の者に見せて意見を交換したりする彼女たちを傍から眼福とでも言わんかのような朗らかな笑みで見守る一夏と退屈そうに欠伸をする結。
箒たちに掴まって意見を求められる一夏をほったらかしにして離れていようと彼らから距離を取って待っている緒、突然背中から尖ったもので叩かれるような衝撃がした。
「う゛」
振り向くとヒールを履いた見知らぬ女性が冷たい眼差しで見下ろしていて、手に持っていた衣類をばさりと無造作に投げてきた。
「ねぇ、これ返しといて」
「誰?」
その女はぴくりと眉を顰め、結の足を踏み躙りながら続ける。
「黙って従っとけばいいの。男なんて私たち女の言いなりでいればいいの。分かる?」
「なんで?」
この女が何を言っているのか全く持って分からない結だったかが、異変に気が付いた一夏が箒たちを振り切って結と女の前に立ち塞がり、結から衣類を引っ手繰って女の腕に押し返す。
「何? 戻しておいてよ」
「そんなの言われる筋合いはない。自分で戻してこいよ」
「あらいいの? ここで私が叫べばあんたなんか痴漢で捕まえられるのよ?」
卑しくにたにたと下品な笑みを浮かべる女に嫌悪感を感じる一夏。
この世にISが登場して以来、女にしか動かせなかった超兵器を重んじる動きが世界で起こり、世の女性はそれに傲り男を蔑み下僕のように扱ってきた。
歯向かうのならば冤罪は当然のように横行され即刻逮捕だったりと、それはもう好き勝手のやりたい放題が当然だった。
男性操縦者と言えど、世界でたった二人しかいないイレギュラーは見下されてきた男達からすれば崇められこそすれど下手に権力を持ってしまった女性たちからすれば目の上のたんこぶ、煙たい存在でもあった。
もっとも、目の前のこの女がそこまでの意図でこんなことをしているのかと思いもしないが。
「謝るか、痛い目みたいならそれでもいいけど?」
それを言った女は周囲を見回して警備員を見つけ呼びかけようとしたところで結が徐に自分の右手の人差し指から爪を一息に剥がした。
「んっ」
「はぁ!?」
赤黒い鮮血が滴り爪を剥がされた指先が痙攣しているが、当の本人は平然とした顔で剥がした爪を女に見せ付ける。
「これでいい?」
痛覚が鈍っているからこそできる異常な行為にその女は爪を跳ねのけ口を押えながら逃げ出そうとしたところで既に背後に回っていたラウラに足をすくわれて無様に頭から倒れる。
すかさず馬乗りになって関節を極めたラウラは女の髪を掴み上げ、ドスの効いた小声で耳元に語り掛ける。
「この非礼、貴様のような安い人間の命で償えると思うな?」
そのまま腕をへし折ってしまおうとしたラウラだったが、誰かに肩を掴まれてあらぬ方向に曲げようとした手を止め自分の肩を掴んだ相手を見上げる。
そこには厳しい目をした千冬がいた。
その後ろでは千冬の背に隠れていた真耶が何事かと背伸びをしながら覗こうとしているがよく見れずにぴょんこぴょんこ跳ねている。
「それまでにしておけラウラ」
「⋯⋯教官がそう仰るのであれば」
「やれやれ、手間のかかる生徒だ」
掴んでいた女の手を離すとその女は四つん這いになりながらその場から逃げ出した。
元世界最強を目の前にして尻尾を巻いたことに更に嫌気がさすが、深追いはするなと言われたし、当の結は何事も無かったと言うふうに自分が爪を剥がした指の背をまじまじと眺めていた。
「結、大丈夫か!」
「うん。もう生えてきてるから」
そう言って一夏に指を見せつける。
そこには既に一ミリほど伸びた真っ白い爪が頭を出していた。
この調子ならあと数時間で何事もなかったように治るだろうがそれでもいい気分はしなかった。
「すまん、俺が付いていながらあんな目に合わせちまって⋯⋯」
「何が?」
他人が優しかろうが厳しかろうがそれが『他人』であるならば関係のない、どうでもいいモノだった。
家族や友人は守り、それ以外とは必要以上に関わらず、義理も仇も等しく受け取らない。
後ろめたい空気が漂う中、千冬の咳払いで気は紛れて、「さて」と二つの水着を取り出した千冬が一夏と結の二人に白と黒の水着を見せる。
「二つに絞れたのだがな、どっちがいい?」
言われて一夏がすぐに見たのは黒い水着。
いつも黒いスーツを身に着け似合っているだけあって水着でも似合いそうだと想像するが、それを他の見ず知らずの人間に見られて視線が集まるのもどうか、と良からぬことを考えてしまい一夏は白い方に目を向ける。
結はそんな一夏の視線を負いながら両方の水着を見比べて繰り方の水着をまじまじと見る。
「白、かな」
「黒」
別々の意見が出たことに回りは固唾を飲んだが、一番驚いたのは一夏で、逆に千冬は見透かしていたかのようににやりと笑った。
「お兄ちゃんずっと見てたし、こっちの方が良いと思ったから」
「お前は昔から気に入った方を先に見る癖があるからな、黒にしよう」
そう言いながら千冬は黒い方をじっと見つめ、一夏の耳元で耳打ちする。
「私がそんじょそこらの男に付いて行くような軽い女に見えるか?」
「そんなこと思ってねえよ!」
それならいい。と身をひるがえして千冬はにまにま笑いながら何も分からないまま事が終ってしまい混乱している真耶を連れて去っていった。
残された者たちはぽかんと呆けていたが、思い出したかのように水着を選びに走って最終的に決めてきた幾つかの水着を持って二人の前に立ち塞がり最終戦別のため目をギラギラさせながら二人の意見を待ち構えていた。
ようやく買い物が終って行く当てもないので酷暑の目下に晒されるのも嫌がり学園に戻ろうかとシャルロットが提案したところで一夏は申し訳ないように皆に切り出した。
「悪い、俺ちょっと結を連れて行きたいところがあるんだ。みんなは先に帰っててくれないか?」
「それはいいが、二人きりでか?」
「あぁ」
一夏はいつになく真面目な顔で箒にそういい、箒も下手に詮索するのも良くないと黙って了承してセシリアたちに事情を話して一夏たちと箒たちは別の行先に行くため駅で別れた。
「一夏お兄ちゃん。何処に行くの?」
「俺の家だよ。俺と、千冬姉の家」
電車は一夏の故郷へと走り出した。
感想で「結を最初に何処へ連れて行くのか」という疑問がありましたが普通に外出させてしまいました。
とくにそこらへんを考えていなかったので初めての外出が平凡なものになってしまいどうにもヤキモキしますがそこは次回に回します。
ではでは。