IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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五十四話 少年達の決意

 結がキレた。

 いつも静かなやつがぶちギレると恐ろしいなんてよく聞くが、まさかここまでとは思いもしなかった。

 

 まず主導権を完全に掌握されている。

 身体だけじゃなく、IS()や忌々しい盾までも操作権利を奪われている。

 

 あれだけ俺を拒んでいたコイツが、今は俺を必要としていること事態が異例で、それこそが何よりもおかしかった。

 

『面白ソウジャネーカ』

 

 嘯くようにひひひと嗤う。

 

 

 俺の力をどう使うか、見物だぜ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 潮風に靡かれてフードが揺れる。

 ISスーツを纏った結は首に下がるペンダントを外して握り、祈るように額に押し当てる。

 

「これを、使えば……」

 

 ガーディアンは後付武装として運用出来る様に束によって手を加えられたIS用の封印装置だ。

 元々は別のISに取り付けられるはずだったモノを先生が渡してきたらしい。ファントムすら押し込め稼働限界を迎えるまで決して開くことのない棺桶は、今では自分の意志で開けられる。

 

 一夏の負傷に心が揺れた。

 ほんの一瞬だけ一夏の死を覚悟した。

 

 あれだけ拒んでいたファントムを受け入れる事すら苦では無くなった。

 ファントムを受け入れたことにより棺桶に蓋をする理由が消え、棺は空になる。

 

 その開いた棺の中に、今度はあのISを入れる。

 

「結ちゃんっ!」

 

 息を乱しながら走ってきたのは真耶だった。

 汗で張りつく乱れた髪を乱雑にすくい、眼鏡をかけ直して結に詰め寄る。

 

「今すぐ部屋に戻りなさい、じゃないと、怒りますよ!」

 

 血気迫る勢いで怒鳴る真耶を寂しそうに見上げながらも結は何も言わない。

 

「いっぱい怒りますからね、泣いたってやめませんから、結ちゃんに嫌われても、怒るんだから……!」

 

 無駄な事だと分かっていながら真耶は引き止める。

 溢れんばかりに涙を溜める瞳には少しの力強さもない。か細くなる声音は震えていて今にも泣き出してしまいそうだった。

 

 そんな真耶を見上げながら結は下唇を噛み締めて一度頭を下げる。

 

 たったそれだけなのに、今世の最後とでも言いたいほどに落胆する真耶は身体から力んでいた力がふいにすり抜けてかくんと倒れそうになるのをなんとか踏みとどまる。

 

「ごめんなさい、真耶先生。でも行かなきゃいけないから」

 

 次に頭を上げたときには、結は寂しそうに微笑んだ。

 

 結は視線を真耶から海の向こうに向け直し、煌煌と色めく夕陽に目を細めながらISを展開した。

 

 

 

 

「ファントム」

 

 

 

 ガーディアンではない。

 騎士の様なガーディアンとは打って変わって人骨を模したようなそのISは通常の物よりも一回りほど小柄で、節々から生身の腕や脚が隙間から覗き、流線的な形状をしており人体の構造に近い。

 

 内部フレームをそのまま稼働させているような歪なISは髑髏の意匠が全面的に凝らされた仮面を少年の素顔に被せ、吊り上がった眼孔から赤い閃光を垂れ流していた。

 

「結、ちゃん⋯⋯」

「ガーディアン、展開」

 

 盾のペンダントを握りながら結が呟いた瞬間、ペンダントは自ら発光しながら消失し、変わりに少年の全身を覆いつくす堅牢な装甲となって展開される。

 

 ただしこれまでにかけて付け足された足枷や鎖などは消え失せ、元の無垢なガーディアンがそこに立っていた。

 

 

 先刻束から貰い受けた八枚の小型盾を肩と背部ユニットに一対ずつ、前後の腰部装甲に一対ずつ連結され、防御面の下に隠されていた噴射口を下方に揃えて向ける。

 

「行ってきます」

「待って、結ちゃ⋯⋯!」

 

 仮面の下は見えないが、優しい声音でそう言った結は真耶の制止に耳も貸さず爆発的な初速で空へ向かって飛び上がり、あっという間に見えなくなってしまった。

 

 立ち尽くす真耶はその場にへたり込み、静かに啜り泣きながら結が飛んで行った先を見つめていた。

 

「難儀だな……」

 

 物陰から様子を眺めていたラウラは真耶への声掛けも叶わず眉を顰める。

 

 傷心の彼女を慰める暇もない。振り向くと代表候補生の面々とすっかり意気消沈してしまった箒が揃っていた。

 

「さて、行けるかお前たち」

 

 追加武装の調整をする者やISの最終チェックを行う者など、出撃に備えて各々準備に勤しんでいた。

 

「準備万端ですわ」

「アタシも」

「セットアップは完了、いつでもいけるよ」

「怖いけど、いくしかないよね」

 

 皆覚悟を決めたように張り詰めた意識の中、箒だけは訳がわからないとばかりに困惑していた。

 

「何をする気だ、まだ出撃命令も出ていないのだぞ、みんな!」

 

 織斑先生からの指令はまだ何も出ていない。

 だと言うのに何故勝手に出ようとするのか、わからなかった。

 

「何って第二ラウンドよ。とっとと行くわよ」

 

 当然のように吐き捨てる鈴を前に、箒はバツが悪そうに俯くしかなかった。

 自分の自惚れで失敗した手前、最早ISに乗ることすら申し訳が立たないと感じてしまうほどに彼女の心は罪悪感に苛まれていた。

 

「私には、もう、戦う資格も、一夏の側に居ることも出来やしない……」

 

 うじうじと自己嫌悪にしか走らない箒に鈴は苛立ちを覚え、箒の胸倉をつかんで揺する。

 

「甘ったれてんじゃないわよ!」

 

 鈴の激昂に箒は何も言わない。

 

「専用機持ちってのはね、そんなわがままが許されるような立場じゃないのよ! それともアンタは戦うときに戦えない臆病者なわけ!?」

 

 それでも鈴の言葉は止まらず裏に潜む滲むような努力の末端を知らしめられる。

 それが悔しくて、されど認めざるを得ない事実を前に箒は躍起になって感情のままに吠える。

 

「じゃあ⋯⋯どうしろと言うのだ! お前たちのように代表候補生になったわけではない、実力で専用機を得たわけではない、ただの、凡人で⋯⋯」

 

 憎悪の果てに振るった剣は無慈悲な力に染まり、エゴに塗れた恋慕は想い人を窮地に追い詰めた。

 

 結局自分はただの凡人で、己の力だけで得たものなど何一つない空っぽな人間だった。

 

「あっそ。それじゃあそこでずっと蹲ってなさいよ。アタシたちだけでなんとかするし。一夏のことも諦めるってわけでいいのね」

「⋯⋯ッ! それは、そんなのイヤだ⋯⋯!」

 

 ハッとなって顔を上げた箒は熱くなる目頭に力を込めて必死に涙を堪え、鈴に面と向かって思いのたけをぶつける。

 

「私だって一夏のそばに居たい、そのために姉さんに頼んでまで専用機を手に入れたのだ、ここで引き下がるなど、したくない!」

 

 思った以上に勝手に口が動き、思っていた事、隠してきた事、募らせていた思いを吐露し、堪えていた涙が一筋頬を濡らした。

 

「それでいいじゃない。アタシが同じ立場なら同じことをするわよ」

「り、鈴⋯⋯?」

 

 溜め込んでいた感情を吐き出した箒を抱擁してやる鈴の声音はあくまで優しいもので、慈愛に満ちていた。

 

「一夏の事が好きなんでしょ? 諦める必要なんてないじゃない。最後まで足掻いてみせなさいよ。アタシもアンタも一夏が好き。いつでも全力全開でやらなきゃ張り合いがないってものよ」

 

 箒の背を摩りながら、あやすように言い聞かせる。

 ライバルだなんて言いながらも、鈴はそれ以上に箒の事を良き友として思っていた。

 

「私も、一夏が好きだ。一夏の傍にいたい⋯⋯!」

「それでいいじゃない。ほら、リベンジかましに行くわよ」

「あぁ!」

 

 友に手を引かれ、少女は再び立ち上がる。

 雪辱を晴らすため、己を乗り越えるため。

 

 




 遅れてスミマセン。
 ライズやってました。

 あと福音編もうちょっと続きそうです。

 
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