IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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夏休み編
五十八話 少年の思い出


 福音事件というアクシデントに見舞われながらも楽しい楽しい林間合宿は無事終えることができ、より一層陽射しの強さを増した七月の酷暑に負けんばかりに活気を放つ女生徒達は各々やいのやいの休み時間を過ごしていた。

 

 誰も欠ける事なく帰還できたものの、変わった事がいくつかあった。

 

 篠ノ之 箒が代表候補にもならずに篠ノ之束の手によって専用機を、しかも世界中が開発を急いでいる第四世帯のISを手にするという事態に学園は国家所属を見送り、学園所属の扱いを取った。

 

 更に織斑 一夏の専用機が二次移行を完了し、更に男性操縦者としての価値が高まり、より一層その身を狙われる危険性が出てきた。

 

 そして結のISも形態移行をしたのだが、不思議な事に学園に戻ってからもう一度ISを展開したらいつものガーディアンが出てきた。

 本人曰く「あれはファントムと一緒に出さなきゃムリ」だそう。

 

 そして一番変わったのは織斑一夏と篠ノ之箒の関係だろうか。

 

「一夏! 少しいいか?」

「なんだよ箒」

 

 手作り弁当の包を恥じらいながら手渡す箒から嬉しそうに受け取る一夏は満面の笑みで感謝の言葉を連ねる。

 初々しく華やかな光景に男日照りの激しい女子達は相当に羨ましそうな目線を送るが本人たちは気づかない。

 

 視線の流れ弾が結にも飛ぶが、バックに潜む真耶の影に怯えて手を出すものはいなかった。

 

 それでも気になるのは少年に想い人がいるかどうか。

 

 しかしそれを聞いてしまった日にはどうなるかわかったものではない。

 

 自分だったらどれほど嬉しいだろう。しかしそこに自分はいない、でも気になる。

 

 果たして山田教員だろうか、それとも専用機持ちの誰かだろうか、はたまた……!?

 

 そんな憶測飛び交う中で一人平然を装いながら……否、本当に平然としながら特攻を仕掛ける猛者がひとり。

 

「ゆいゆいって好きな子とかいるの~?」

「うん? うん」

 

 ナイスだのほほん、しかしバッドだったのほほん。

 クラスのほとんどの女子が思わず立ち上がり、数名は気絶。何処から沸いたか廊下にも人集りが壁を作って耳を澄ませる。

 

「いるんだ~……いるんだっ!?」

「う、うん」

 

 珍しく本音が大声を張り上げて驚き、手に持ったいた棒菓子を落としてしまう。

 だが咄嗟に平静を保って詳細に探りを入れる本音。

 

「だぁれ?」

「昔、一緒の施設にいた、女の子……」

 

 その回答に挙動不審だった婦女子たちは胸を撫で下ろして腰を据え、気を失っていたものたちは立ち上がって息を整えていた。

 

「その子ってどんな子だったの?」

 

 流石にここまであからさまになれば、一夏も話を理解してきたようで、弟のように思っている結の好きな人と言うものが気になって訊いてくる。

 

「なんだろう、千冬先生みたいな感じ」

「千冬姉か、いい趣味してるな~……」

 

 一夏が想像したのはやたらと手の早い女の子で、それでいて不器用ながら人思いな優しい人物像だった。

 

「馴初めはどんなだったんだ?」

「一人で居たらね、向こうから話しかけてきたの」

「ほう、積極的だったのだな」

 

 思い浮かべるのは黒い髪を背中まで伸ばした同じ背丈の女の子。

 勝気でいつも不敵に笑う彼女は初めて顔を合わせたはずの自分にいろいろな事を訊ねてきた。

 

「いろいろお話ししてて、ぼくの方が年下って分かったら『私の方がお姉さんだ!』て嬉しそうにしてた」

「微笑ましいですわね」

 

 姉のようなメイドがいるらしいセシリアは自身を重ねて思わず笑う。

 

「少しの間だけしか一緒にいなかったけど、楽しかった」

 

 寂れてきている、忘れてはいけない、濃紺で淡い記憶。

 

 

『ずっとここにいるのか、お前?』

 

『そうか、お前は末っ子になるのか。それなら私はお姉さんだな!』

 

『私と一緒にここを出よう、お前となら私は何でもできる!』

 

『絶対また戻ってくる! だから待っていてくれ、結!』

 

 記憶のなかの彼女は表情豊かで、笑い、怒り、泣き、色々な顔を見せてくれた。

 ほんの一時しか隣にいなかったが、忘れ難い大切な思い出だった。

 

「なんて名前なんだ、その子?」

「えっとね……」

 

 なんていったっけ、確か……そうだ。

 

 

 

「マドカちゃん」

 

 

 

 

「座れ貴様ら、授業を始めるぞ」

 

 扉を開けて入ってきた疲れ気味な織斑先生の一言で人だかりは蜘蛛の子を散らすように散開して各々の席に着く。

 

 マドカか。円香、円夏……なんてな。

 

 チャイムが鳴る。

 

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