IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 随分と間隔をあけてしまいすみませんでした。
 今後の話を書くため、心の休養をとっていました。

 ちょっとつらくなるので、へへ。


六十話 少女たちとお出かけ

 

 

「ラウラ、服を買いにいこう」

「何故だ?」

 

 朝、裸で起き上がる同室の相手ことラウラに一言、物申すシャルロットはこめかみに手を当てながらそんなことを呟いた。

 

「ラウラ服全然持ってないじゃん」

「支給された制服がある」

「それを持ってるとは言わないんだよ!」

 

 生まれた頃からドイツ軍に属し、IS部隊の兵士として育てられたラウラにとって一般的な人間の感性というものが疎く、「生きていたらそれでいい」などというほどには物欲が無い。

 

 何か欲しいと言えばそれは大体が武器や暗器の類が殆どで、服や装飾品などという洒落たものは一つとして持ち合わせていなかった。

 

 はじめて同室になって部屋替えをした際、ラウラの荷物がキャリーバッグ二つあれば簡単に収まるような物量の無さにはシャルロットも驚愕した覚えがある。

 

「とにかく、今度お洋服買いに行くからね!」

「むぅ」

「結も連れて行くからね」

「あいわかった」

 

 結の名前を出した途端に打って変わって背筋を正す銀髪の黒うさぎ。

 

「私が結を見てやらねばな」

 

 こっちのセリフだ。

 

 ラウラも大概だが、結の私物事情もラウラに引けを取らない、否それ以上だった。

 

 話によれば篠ノ之博士によって半ば無理矢理この学園へ連れ込まれたらしく来たときには診察服一枚のみという簡素も越えた虚無。

 学園から支給された制服なども有りはするらしいが、それら全てをかき集めてようやくボストンバッグが埋まるかそれぐらいだと言う。

 

 もはや人の生活ではない。

 

 はじめはただの情報採取の相手としか見ていなかったが、今のある程度自由が効く状況になって肩の荷が降りた今ならそれなりに干渉もできるので、これを機に二人を人間並みの感性を持てるよう仕向ける魂胆だった。

 

 

 ラウラはまだ人との関わりがあるからいいけど、結は今から矯正しなきゃ今後の生活すら危ういからね……。

 

 少年は人を避ける気質なので将来孤立しないか不安だった。

 

 ともかく事が決まれば後は日程を決めて出かけるのみ。

 ラウラも用事は大半済ませているようでいつでも出れるとのこと。結も大した用は無いらしいので問題なし。

 

 

 外出申請をするとき、織斑先生が見たことがないような渋い顔をしていたが、二人がいれば一先ずは大丈夫だろうと言って判子を押してくれた。

 

 

 ◇

 

 

 翌日、待ち合わせにしていた校門前では、既に結が待機していたようでパーカーのフードを目深に被り、正門の日陰にしゃがんで太陽と反対の空を眺めていた。

 

「おはよ、結。早いね」

「することなかったから」

 

 大して趣味を持たない結は真耶及び学校から出された課題や報告書、夏期休業課題という名の夏休みの宿題など、一人でこなせるものはすべて片付けてしまい、完全に暇を持て余している状態だった。

 

 暇があれば島内を散歩したり開放されているアリーナで訓練機の相手をしたりなど、遊び盛りというような年頃の子供が、半ば惰性のように過ごしているのは教員間でも問題視する者も少なくはない。

 

 訓練などでは一度に十機以上を相手取ることも多々あり話だけ聞いていれば心配から思わず待ったをかけたくなるようなものだが、その実訓練機のほうが振り回されているらしく、訓練が終われば死屍累々の山の上で一人、結だけが立っているなんてこともザラにある。

 

 

 話が逸れたが、今シャルロットはこの自分に無頓着な無垢過ぎる二人を連れてある程度の感性を育んでやらなければならない。

 

 ショッピングデートなど言っていられる状況ではないのである。

 

 

「二人とも、僕がきっちり綺麗にしてみせるからね!」

「あぁ頼む」

「よろしくおねがいします」

 

 人気の少ないモノレールの中で高らかに宣言するシャルロット。

 その決意が無駄にならない事を祈るばかりである。

 

 

 ◇

 

 

 街に付くとあたりを見回しながらシャルロットはショッピングモールに行きのバスに二人を連れて乗り込む。

 

 二人ともまともな服を持っていないので、3人揃ってIS学園の制服を着ているが、以前揃って出かけたときもそうだったがやはり制服……というよりもIS学園の生徒というだけでだいぶ目線が集まるようだ。

 

「わ、あれってIS学園の生徒さんだよね?」

「倍率一万超えてるとかいうあの?」

「すごーいお人形さんみたい……」

「側にいるのあれ男の子じゃない?」

「ふふ、カワイイっ!」

 

 近くで女子高生のグループがシャルロットたちを見ながら声を抑えることなく噂話に華を咲かせている。

 それに気が付いたシャルロットは気恥ずかしそうに首を窄めて少し赤くなるが、向かいに座るラウラはバスの車窓から望める外景を眺めながら『戦争時化の市街戦シミュレーション』という酔狂な戦線想定に耽っていた。

 

 シャルロットの隣に座る結はと言うと、バス内の喧騒に鼓膜を叩かれながらも車窓から見える色とりどりの街並みに相も変わらず釘付けになっていた。

 

「あついね、シャルお姉ちゃん」

「そうだね。気を付けなきゃ倒れそうだよ」

 

 少年の頬に伝う一つ時の汗をポケットから取り出したハンカチで拭いながら、シャルロットは笑顔で受け答える。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 目的のバス停で下車した三人は駅前のデパートに入ってパンフレットを貰い受け、目的の店に目を通し、行先と向かう順番、道のりを決めて早速出発する。

 

「行くよ二人とも!」

「「おー」」

 

 無表情のまま高らかに拳を掲げる二人を引き連れながら目的の服屋に向かうシャルロットの姿は、あるいは面倒な子供の面倒を見る母親のようでもあった。

 

 元来我の強いラウラだが、シャルロットの言う事だけは大人しく聞く。

 それは彼女の知らない母性だとでも言うのか、それとも肝の据わった相手には頭が上がらないのかは分からないが、シャルロットにとっては聞き訳のいい妹分を引き連れている感覚だとも。

 

「ラウラ、私服はスカートとズボンどっちがいい?」

「どっちでも⋯⋯」

「どってでもいいは無しでね」

「⋯⋯」

 

 一枚一枚物色しながらシャルロットはラウラが言おうとしていた他人任せのセリフを真っ向から否定してみせる。何も言わせてもらえず口をすぼめるララウラだが、仕方なくズボンを選ぶラウラだった。

 そんな銀髪の君の姿を後ろからおもしろおかしくくつくつと喉を鳴らしながら眺めてくる結の姿に恥じらいながら、ラウラはそっぽを向いて気分をはぐらかせる。

 

 その間もシャルロットは二人に似合うコーディネートを考えながらぶつぶつと品揃えと値段、店の傾向などを考慮しながら歩みを進めていく。

 

「取り合えず上から見ていくよ。それならいいモノ見繕えそうだし」

「「はい」」

 

 シャルロットの言葉に大人しくうなずく様はまさしく姉弟のようであるが、その実二人とも自他に興味の無いアバウトな人間同士の似たもの同士なだけである。

 

「服など着れたらいいではないか」

「譲れないモノがあるんだよきっと」

「二人ともー! 早くーっ!」

「「はーい」」

 

 シャルロットの呼び出しに同時に駆けるラウラと結。

 

 

 

 まずはラウラのコーディネートから始まり、店員さんとあれやこれやと意見交換しているシャルロットの姿を眺めながら吊るされた様々なシャツやワンピース、その他多種多様な衣類を煙たそうに眺めるラウラは隣であくびをかみ殺す結に、適当にひっつかんだ服を見せてみる。

 

「結、こんなのはどうだろうか」

「んー、よくわかんないけど、ふりふりしてて可愛いと思うよ」

 

 そんな一部始終を見逃すようなシャルロットではなく、すぐさましゃしゃり出てきた店長に相談、結託して店中の衣類を新旧問わず洗いざらい模索して一着の黒いワンピースをどこからか引っ張り出してきた。

 

「ラウラ、これ着てみてっ!!」

「のわっ。どうしたシャルロット!?」

 

 瞳孔が開きかかっている彼女の覇気に気圧されておずおずと試着室を借りるラウラ。

 手渡されたワンピース以外にもアクセサリーの類をごろごろと渡され、付け方がイマイチ分からずてこずりながらも律義に全て身に付けて試着室のカーテンが控えめに開かれる。

 

「ど、どうだ」

 

 フリルのあしらわれた黒いワンピースからすらりと伸びる健脚には踵が上がったサンダルのようなミュールが履かれ、手首には銀髪に反して白金色に輝くブレスレットが通され、過度に主張をするわけでもなくあくまで身に着けているラウラを立てる程度の輝きを放っている。

 

 その浮世離れした超俗的な佇まいにその場にいた誰もが目を奪われ、息を呑んで見惚れてしまっていた。

 

「可愛い……」

「美しい……」

「素晴らしい……」

 

 半ば語彙の死んだ感想がちらほらと散見され、そんなことを言われ慣れていないラウラからすれば羞恥に晒されているにも等しい状況なのでいつにもまして小さくなっている彼女の心象がさらに縮こまる。

 

 それがなんとも可愛らしく、よだれを垂らすシャルロットと店長は満足げに頷きながら鼻息を荒くしていた。

 

 ラウラは流されるままに服を買わされ、少女たちの買い物はまだ続く。

 

「結はどんな服がいい?」

「パーカー」

 

 最早アイデンティティと化しているフードを一周回って好むようになった結は、大体の服装でパーカーを着るようになった。

 だが、持っているものは殆どが丈の長いもので、手が隠れそうになるほど長い袖を折り込んでようやく使えるほどものしか持っていない。

 

 だが本来の目的は背中のISを隠すためのものなので、言ってしまえばフードさえあればいいのである。

 

 取り外せるフードだったり、ネックカバーやバンダナ等を巻くことによって代用が効くと思うし、そうなれば薄手の服も着れるだろう。

 

「それじゃあ今日は色々着てみよっか!」

「パーカー……」

 

 シャルロットに引きずられ男児用衣類のカラフル過ぎるビビットカラーまみれの服をあれよこれよと目をギラギラさせながら物色してまわるシャルロットを端からラウラと二人で薄ら寒い感情を抱きながら、ただ眺めるだけの結だった。

 

 

 買い物はまだまだ続く……。

 

 

 





 あと数話は夏休み満喫回を書くと思います。

 ではでは。
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