IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 吊橋効果って実際どれだけ続くんですかね。
 


六十三話 少年と肝試し

 夜の学生寮。

 その一室では簪主催の肝試し大会が開かれていた。

 とはいえ参加者はルームメイト同士の簪と本音、そして何故かお呼ばれされた結の三人だけなのだが。

 

「かんちゃん」

「何も、何も言わないで、本音」

 

 彼女は友達が少なかった。

 

 入学当初は代表候補性や生徒会長の妹と言うこともあり話しかけられることもあったのだが、専用機の開発保留や織斑一夏の登場、そもそも姉と比べられたくないと言うことも相まってクラスメイトとは疎遠。半ば孤立していた。

 

 それも専用機を手に入れてからはある程度改善してはいるようだが、それでも一定の距離を開けているのは事実。

 

 閑話休題。

 

 肝試し大会などと銘打ってはいるもののその実いつもの通り簪と本音の部屋に結が来ただけだった。

 

「今日は何するの?」

「今日はね……」

 

 意味深な笑顔を浮かべながら簪はキラリとメガネを光らせ、ディスクスタンドから取り出したいくつかのタイトルをありありと結に見せつける。

 

「ホラー映画で肝試し、だよ!」

「ほらー」

 

 

 ◇

 

 

 いつものごとく簪の懐に座らされ、後頭部に触れる柔らかさと硬さのなんとも言えない感触に目を瞑りつつも、結は鮮明に映るようになった視界情報で目の当たりにする映画に内心浮かれていた。

 

 一発目の映画は不慮の事故で死んだいじめられっ子が蘇り、いじめっ子達を次々に殺めていくスプラッター映画。

 ホッケーマスクで顔を隠す巨漢に追われる様は絶望の惨状が約束される。

 

「あそこの曲がり角に入ると死ぬ」

「え?」

 

 殺人鬼から逃げていた登場人物が結の示した角を曲がると、なんと行き止まりになっていた。

 壁を叩いて悪態をつく男はなんとか逃げ道を探すが、取っ掛かりも少なく登ろうにもレンガ積みの壁は上にそびえ立っていてよじ登るには至難の業だ。

 

 あえなく現れた殺人鬼によって男は聞くに耐えない断末魔を残して無残に殺されてしまった。

 

「あのまま行ったら頭ぶつけちゃうね」

「結?」

 

 登場人物の一人が枠の低い扉をくぐりそこねて頭を打ち、その場に倒れ込んでしまった。

 起き上がる直前背後から殺人鬼が持っていた牛刀のようなナイフが背中を刺し、あっけなく息絶えてしまった。

 

 それからも結は次々とキャラクターの死に方を先に当てては簪と本音を驚かせる。

 

 最後、一人の女が残され殺人鬼は湖の中へと消えていった後味の悪いラストと終わった映画は静かなエンドロールの後、大きくENDの文字を残して最初のメニュー画面へと戻された。

 

「ね、ねぇ、なんでわかったの?」

「お話の最初の方で出てたよ?」

 

 まさかと思い映像を序盤のあたりに戻し再生し直したところ、殺人鬼と化した主人公がそれぞれのキャラを殺した場所は、なんと自分が今までいじめられていた袋小路や、使われていない空き倉庫の小さな扉など、確かに殺された場所と一致していた。

 

 つまりこれは単なる復讐劇ではなく劇場型殺人とも取れる意趣返しのような手口の殺人でもあった。

 

 なんとも質の悪い内容だ。

 それに最初から気がついた結も大概だが、フィクションとはいえそんな意趣返しを行った殺人鬼も相当イカれている。

 それだけ彼らを憎んで止まないのだろう、そう思うとなんとなくだが親近感を覚えた簪は慌てて頭を振って別の映画を用意する。

 

 

 殺人鬼の魂が取り憑いたグッドガイ人形が様々な手口で主人公たち一家を皆殺しにしていくスプラッターホラー映画だ。

 

 場面は警察に追われる殺人鬼が町のおもちゃ屋さんに逃げ込んだシーンから始まる。

 

 そこで殺人鬼は謎の呪術を行い、自分の魂を近くにあった子供用の人形へと宿してその場を乗り切った。

 そしてある一家にその人形は購入され、そこから始まる血みどろの虐殺劇は手に汗握る内容に簪はずっと結を抱えたまま動かなくなるほどで、隣でのんきに棒菓子を咥えていた本音に言われるまで微動だにできないくらいだった。

 

「これ怖いね」

「え、本当!?」

 

 さっきまで追われる側より追う側の感想しか言わなかった結が初めて怖いと言った事にちょっとうれしくなる簪。

 

「倒し方がわからない」

「そこ?」

「バラバラにすれば無力化は出来るだろうけど、乗り移った魂を取り出さないとどうにもね〜」

「本音も!?」

 

 整備士志望の幼馴染と殺人人形の攻略法を議論する小学生とはこれ如何に。

 呪術を使う相手に真っ向から潰しにかかる二人を前に、簪はホラー映画の恐怖よりも二人の胆力に肝を冷やされた。

 

 

 思っていた反応もなく、期待していたラッキースケベもとい吊橋効果も望めないと落胆した簪はため息をつきながら映画の再生を止め、録画していた日曜朝に放送している戦隊モノの特撮を流す。

 

「結、怖いのはここまでにしてこれ見よ」

「うん」

 

 やっていたのは戦隊ヒーロー45作品目を記念して作られた作品で、センターポジション以外全員機械生命体と言うのが特徴のヒーロー。レッド格が戦闘スーツに着替えるのに対し機械生命体はゴテゴテのロボット着ぐるみになるのがインパクトのあるヒーロー達。

 

 なのだが。

 

「なにこれ……」

 

 映像を見る結はあまりの内容に震え慄き恐怖していた。

 

「なんで、怖い……」

 

 内容としては殆どが荒唐無稽もいいところのぶっとび過ぎた内容で、例えるならば「インフルエンザの時にみる夢」「見る麻薬」「ヨホホイ」等が上げられる。

 

 そもそも歴代シリーズの中でも群を抜いてイカれているので、理解しようとするほど頭を痛める内容となっている。

 

「わ、機械の人大きくなった」

 

「なんでおはぎを奪い合うの」

 

「ビルが「ビル」て鳴きながら襲ってくる」

 

「なんで人が大きくなるの。なんで合体してるの」

 

「なんでテニスボールが爆発するの」

 

「怖い……怖い……」

 

 劇中の問題に対する解決策が次第にいろんな意味で過激化していく様を目の当たりにして、理解が追いつかない結はガタガタと震えながら簪にしがみついていた。

 

「なんでこうなるの?」

「なんでだろうねぇ……」

「なんでだろうねぇ〜」

 

 サブカルには詳しい簪やそれに便乗している本音すら、この作品の説明には匙を投げていた。

 

 結局最新話までの視聴は断念され愕然としたままの結は文字通り頭を抱えて部屋の隅で蹲っている。

 

「なんで、なんで……」

「ゆ、結、理解しようとしちゃ、ダメ……」

「『考えるな感じろ理論』だよ〜」

 

 そうは言ってみても受け止めてしまった衝撃を手放すことなど出来ず、処理しきれないまま潰されて情報過多によるオーバーヒートをしてしまった結は知恵熱でダウンし、無碍にすることなど有り得ないので簪は自分のベッドに結を寝かせておいた。

 

「ちゃっかり自分のとこなんだねぇ〜」

「う、うるさい……!」

 

 散らかした菓子や飲み物を片付けながら本音に茶化されて赤くなる簪は小声でブツブツと否定しているが、どれだけ言葉を連ねようとも行動がすべて打ち消していた。

 

 

 ◆

 

 

 その後、起きる気配のない結を見て映画鑑賞会はお開きになり、そそくさと寝る準備を済ませて簪と本音は各々の寝床に潜り込んだ。

 

 少し肌寒いくるいにしておいたエアコンの風に吹かれながら真っ暗な部屋の中、機械的な送風音だけがかすかに聞こえてくる闇の中で時折少年の声が引っ掻くように聞こえてくる。

 

「うぅ〜……テニスになっちゃう……」

 

 どんな夢なの。

 

 やはり初めて見るには刺激が強すぎたのか、他人が聞けば意味がわからない寝言を呻きながら結はうんうんとうなされている。

 

 簪は横たわる姿勢のまま結を抱き寄せ、極力起こさないように努めながら優しく結の頭を撫でてやる。

 

「んぅ……かんじゃひ、おねー、ちゃ……」

 

 何かを感じ取ったのか、結はそんな寝言を呟いてすうすうと寝息を立てている。

 さっきまでの呻き声が嘘のように静かになり、安らかな寝顔で寝始めたのをみて簪も息をついた。

 

「ゆいゆい寝た? かんちゃん」

「うん、今静かになった」

 

 ごそごそと、あまり音を立てないように簪のベッドに入ってきた本音は頬杖をつきながら結の寝顔を眺めていた。

 

「かんちゃんは、ゆいゆいのこと好き?」

「どど、どうしたの、本音?」

 

 突然の質問に吃ってしまう簪だが、あうあう唸りつつもまっすぐに結を見つめている幼馴染の眼差しに当てられ、緊張しつつも微かな小声で答える。

 

「うん、好き。だと思う……」

 

 家族に対するものか、それとも異性に対するものなのか、この感情がいったいどんな気持ちかは定かではない。

 

 もしかすれば執着や依存かもしれない。

 けれど嫌な気持ちはない。

 

「そっか、うん。私もだよかんちゃん」

「ほん、ね……?」

 

 本音はそう言い、頬杖を崩して後ろに隠していた枕に頭を落とし、身体を結と簪に寄せて一緒になって添い寝する。

 三人が並び、きれいな川の字で横になって入るが女子高生二人に挟まれて熟睡出来るのは心を許しているか色情を知らないかの二者択一だろう。

 

 当たり前だがぐっすり眠っている結の頬を指先でつつきながら本音は言葉を続ける。

 

「私もね、ゆいゆいが好き。みんなのことも好き。勿論、かんちゃんも大好き」

「……」

 

 前向きなことを言いながら、本音の声からは寂しさが感じ取れた。

 きっといつか、こんな日々は終わる。

 どんな形であれ、この学園で知り合った人間と別れる日がくる。

 

 結とも、いつかお別れするのかもしれない。

 

 人の人生には出会いと別れがあり、その一期一会を大切にしなければいけない。そんなことを誰かが言っていた気がする。

 たとえどれだけ親しい仲だろうとはなればなれになってしまう時だってある。

 

「もっと、ずっと、一緒にいたいな……」

「私もだよ、かんちゃん」

 

 そう言いながら本音は結越しに腕を伸ばし、結もろとも簪のことをぎゅう、と力強く抱きしめた。

 まるで幼子のような抱擁に気恥ずかしいようなくすぐったいような気持ちが溢れたが、親友なりの気遣いに免じて簪は笑みを一つこぼし、互いに手を取り握る。

 

 もう少しだけ、こんな日々が続きますように。

 

 夏の夜。淡い願いを抱き、少女は眠る。

 少年と親友との出会いに感謝しながら。

 

 





 次回から夏祭りにするかお泊り訪問にするかぶっ飛ばして二学期突入させるかに迷ってます。

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