IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 ちょっと逃げてました。
 ついでにあちこちで読書&他の趣味に走ってました。




六十四話 教師の苦悩

 

 

 カーテンの隙間から射す朝日に嫌悪感を示しつつ、ベッドから這い出た真耶は二日酔いで鈍器で殴られたように響く頭を抱えながら部屋の冷房を入れ、覚束ない足取りで流し台に赴きコップを片手に水道水を呷り飲む。

 

「く、うぅっ……」

 

 多少はマシになった頭痛に眉間のシワを寄せながらも彼女は酒臭い部屋の匂いをどうにかするべくおもむろに部屋の窓を開き、再度水を飲みながらローテーブルの上に鎮座している仕事に関する資料と散乱している空の酒缶を見て、昨日の事を思い出した。

 

 

 昨日は夏季休業開けの授業で使う資料作成とその他林間学校で起きた一連の事件の整理をしている最中、結との出来事でモヤモヤした感情の整理がつかず、酒に手を出して無理矢理眠ってしまったのだ。

 

 普段からあまり飲まない真耶にとってアルコールなど少し飲めば酔えるのだが、その日は、と言うよりここ数日は寝付きが悪く毎晩のように酒に手を出していた。

 

 時刻を見ればまだ朝の七時過ぎ。

 昼間で寝ているものだと思ったが、まだ体力があるのかそれとも逆に無いのか、それはさておき散らかった部屋の掃除をなんとなく済ませ、換気のため開けていた窓を閉め、カーテンだけ開けたまま自己主張の激しい夏場の日光を部屋の照明にしてキャミソールから部屋着に着替える。

 

「結ちゃんは、今日もアリーナで訓練かな……」

 

 事実上専属の教え子の事を案じながら、コーンフレークに牛乳を注いで手っ取り早く朝食を済ませる。

 

 

 ◇

 

 

 残っていた資料作りを進めつつ、真耶は今日の予定を頭の中で立てていた。

 

「買い出し行かなきゃなぁ……」

 

 冷蔵庫を開けたら中身がほぼ空に等しかった。

 仕事に逃げてまともに外出もしていなかったこともあり、食材は底をつき酒も全て空けてしまったので、嫌々ながら買い足しに行こうかなと考える。

 

 初任で副担任とはいえ初々しさなどとうに失い、すり減った精神のまま目の前の仕事と並行に最低限の家事を考えつつ、それと同時に担当の生徒、結の事を考えていた。

 

 私は、あの子の先生としてうまくやれているのだろうか。

 

 あの子の学習能力は悪くない。どころか少し基礎を教えれば簡単に応用をこなしてしまうあたり要領は良いのだろう。今では中学で習うような内容の授業も行っているが、それとは対象的に倫理や道徳といった授業ではいささか問題が残っていた。

 

 ある程度の倫理観は養われているが、時折恐ろしいと感じてしまうほどに自己犠牲の精神が根付いているようで、それは仮定の話はもとより現実彼は何かしら自分を殺して誰かを守るような行為に走る傾向にある。

 

 

 いろいろ頑張ってるつもりだけど空回りしてたりしてないかな。

 

 幾度となく矯正を試みてはいるが、それは福音事件などで如実に現れ、結果的に死傷者は出なかったものの結が重症を負うことが殆どだった。

 いつもいつも大怪我をして倒れる少年の姿を前にする度に胸が締め付けられ、いくら止めようとも彼は笑って死地に飛び込んでいく。

 

 

 

 感情的に打っちゃって、嫌われてたらやだな……。

 

 林間学校最終日。福音事件も絡んでいたとはいえ結果的に彼に手を上げてしまった事を未だに悔やみ、それ以降自ずと距離を開けてしまいわだかまりを抱えつつもどうにもできずに酒を呷る日々を送っていた。

 

 キーボードを打つ指がふと止まる。

 

 目尻に溜まっていた涙が溢れ、胸元を濡らしていた。

 慌てて目元を拭うが蓋をしていた感情とともに涙はとめどなく流れ、やがて止まらない涙を拭うことすら億劫になり、ただ静かに泣いた。

 

 

 

 私は、あの子にとってなんなんだろう。

 

 

 

 母親?

 

 教師?

 

 姉弟?

 

 どれでもあって、どれでもない。

 

 自己嫌悪と自問自答を繰り返して、答えなど見つかるはずもなく、部屋には自分の啜り泣く声と冷房の風音が微かに響いていた。

 

 そんな憂鬱な部屋にインターホンのチャイムが無遠慮に転がった。

 

 夏休みの真っ最中、わざわざ教師のところまで足を飛ばすような物好きな生徒などほとんどいない。

 誰にも会えないような顔をしているのに、いったい誰が……。

 

 なんとか気分を切り替えた真耶は目元を拭い、息を整えて嫌々玄関まで出る。

 

「どちら様でしょうか……?」

「あふっ」

 

 ドアを開けるとゴンと何かにぶつかる音とともに小さな悲鳴が聞こえてきたので何事かと思い下を向くと、そこには鼻を抑えて縮こまる結の姿があった。

 

 片手に何かのチラシを握って。

  

「ゆ、結……ちゃん……?」

「こんにちは、真耶先生」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 その日、いつもの戦闘訓練を済ませた結は暇を持て余し、なんとなしに部活動の様子を見て回っていた。

 

 血気盛んに屋外コートやグラウンド等で練習に励む運動部、それぞれの部室や整備室で作品作りに勤しむ文化部など、各々の青春を一秒たりとも無駄にせんとばかりに打ち込む姿は見ていて飽きないものではあった。

 

 しかし今日は何処もかしこも人の気配が少ない。

 

 全寮制で普段は何処でも人がいるような学校だが、御盆に乗じて日本の学生や教員は実家に帰省する者が多く、長期休暇で一時帰国する者も少なくはない。

 

 そして今日から御盆の期間が始まると言うことで、学校はしんと静まり返っていた。

 

 どうやって暇を潰そうか、そんなことを考えながら結は学園内を歩いていると、掲示板に鮮やかなチラシが貼ってあることに気がつく。

 

「なつ、まつり?」

 

 チラシには大きく『夏祭り』と書かれ、背景には夜空に浮かぶ花火のイラスト。紹介文はそこそこに開催日を見ればなんと今日。職員室でコピーを刷ってもらい、チラシを握りしめて真耶の部屋までやってきた次第だった。

 

 

 結の鼻に応急処置を施し、受け取ったチラシをまじまじと眺めながら真耶は何処か上の空で考えていた。

 

 結ちゃんから来たってことは嫌われてない? そもそも結ちゃん自身そんな事考えても無いのかな……。でももしご機嫌取りとかそんな接待みたいなものだったらどうしよう。一人相撲なのかもしれない。他に一緒に行ってくれる人がいなかったから? 織斑君たちは帰省してるからついでだったりするのかな。それでも私に声をかけてくれたのは……。

 

 堂々巡りを続けていたら、結に袖を引っ張られ、そこでようやく意識が戻る。

 はっとなって結をみると不安そうに自分を見上げていた。

 

「真耶先生と行きたい」

「結ちゃん……」

 

 たったそれだけだった。

 

 だが、それでも、自分を選んでくれた事に喜びを感じなかったと言えば嘘になる。

 

 結の表情は乏しいが、目にはらんらんと光が灯っているのを確かに感じた真耶は意を決して出かける事にした。

 

「それじゃあ、行きましょうか?」

「やったー」

 

 






 いろいろ悩んだ結果、真耶とのペア回と縁日イベントを混合することにしました。
 予定としては次回で夏休み編終了、二学期スタートという流れでいこうと思ってます。

 だらだらと書いたり書かなかったりを繰り返していますが、まだまだ続きますのでどうかご容赦ください。

 ではでは。


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