IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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六十八話 特別特訓と弱味

 場所は道場。

 

 道着を着て木張りから畳張りに反転する床を挟んで一夏と楯無が対面していた。

 その傍らでは布仏姉妹と結が並んで正座している。

 

「ルールは一夏君が私を倒せたら勝ち。その間一夏君がどれだけ倒れてもいいわ。それでいい?」

「ハンデにしては大きすぎません?」

「だって私つよいもの」

 

 飄々と笑う様に思わずしかめっ面になる一夏だが、それらを飲み込んで向かい合う相手に一礼し、半身で構える。

 対して楯無は構えることなく立ち尽くしたまま、じっと一夏を見据えてていた。

 

「それでは、はじめッ!」

 

 虚の掛け声とともに先制を取ったのは楯無。

 

「っ!?」

 

 開始と同時に駆け出し、一夏の懐に潜り込んで避けようと仰け反った身体をさらに上へ押し上げ、関節を伸ばさせた状態に運び、そのまま簡単に背負い投げへ持っていった。

 

 あれは、無拍子!?

 

 人間には一定のリズムというものがある。それを元に動き、止まり、行動を起こすのが人間、というか生物の基本だ。そのリズムを崩すようなアクションが奇襲だったりするのだが、それらも一定のリズムのもとに行われる。

 

 だが、その一拍同士の間に付け入るような事はなかなか難しく、これを武道の世界では無拍子と呼ばれ、達人でもできるものは少ない。

 

 それを簡単に繰り出せるこの人って……。

 

 

 立ち上がり、構え直す一夏は心の内で無意識に侮っていた態度を改め、今度は真剣な眼差しで楯無をじっと見据えて闘気を高める。

 

 多分、今の自分尾実力ではどれだけ本気でやろうと勝てる気がしない。

 なら、どこまで通用するのか確かめる。ついでにこの人の技の一つでも盗んでやるつもりでやってやる!

 

「いきますよ!」

「いつでもおいで」

 

 駆け出した一夏。

 ハンデとばかりに待ち構える楯無に掴みかかろうとする一夏だが、伸ばされる腕を悉く叩き落とす楯無。

 

 どれも本気の攻め手じゃない。だけどブラフって訳でも無いのよね。

 

 誘い受けを狙っている訳でもなく、一挙一動が決め手に欠ける一撃。

 そんな軽い連打の中、一撃だけ本気の攻撃が混じって楯無の襟元を狙ってきた。

 

「っ!」

 

 だがその程度で動じる楯無ではなく、一夏の腕が自分の襟を掴むよりも先に手刀でその手を弾いた。だが、それだけでは終わらない。一夏は落とされた右手を引っ込めると同時に反転しながら左手を出していた。

 

 急な猛攻と本気の二撃目、虚を突いた攻撃に身を引く楯無。それを追いかける為一歩踏み出した瞬間、出した足を払われてそのまま一夏は前のめりに倒れてしまう。

 

「ざーんねん、もう少しだったわね」

「ぐっ……まだまだァ!」

 

 起き上がりざま構えず飛び込んだ一夏。

 その顔面を躊躇いもせずに横蹴りで受け止め、更にそのまま蹴り上げて一夏の顎を打ち抜く楯無はようやく化けの皮が剥がれたようにそれまでのにこやかな表情を獰猛な笑みに変える。

 

「さぁ、まだまだやるわよ」

 

 ………

 ……

 …

 

 

 それから数十分。

 一夏が一方的に攻めてはいるものの、どの攻撃もいなされ、躱され、無力化されてしまう。投げたと思っても宙を舞っているのが自分だったなんて事もあり、原理も理解も追いつかないまま、されるがままに倒れていた。

 

 付け加えて楯無の技の豊富さ。いや豊富どころかほぼすべての格闘技、武道に精通している。

 投げたと思えばローキックが飛んできたり、防いだと思ったら床にダイブしていたり、必死に絞り出したあの手この手を片手で捌かれてしまっては流石の一夏も心が折れそうになっていた。

 

「こ、な、く、そぉぉぉおおお!!!」

「あら、もう打つ手なし?」

 

 半ば自棄になりながら一夏は真正面から突っ掛かり、楯無の胴元を狙って腕を伸ばす。

 また同じ手を……と落胆した楯無がその手をの払い除けたように思われたが、一夏は必死に喰らいつき、楯無の袖を掴んでいた。

 

「っ!」

「取ったッ!」

 

 一種の動揺、その隙を見逃さず一夏はもう一方の腕で楯無の襟を掴み、渾身の投げを放とうとしたその時。

 

「あら」

「あっ」

 

 乱れていた道着が引っ張られ、大きく開かれてしまった襟元からよく実った巨峰がまろびでてしまった。

 

 咄嗟に結の視界を遮る布仏姉妹。さすが従者。

 

「う〜? 見えないよ〜」

「まだ早すぎますから」

「たっちゃんのは刺激的過ぎるから〜」

 

 派手なブラに支えられた二房のメロンがたゆんと柔らかくたわんで弾んで……そんな目の保養もとい目の毒な光景に思わず釘付けにされてしまった一夏は、次の瞬間掌底を顎に喰らい、さらに胴体を中心に撃たれる連撃によって人生初となるリアル空中コンボをその身に受けながら、華麗に意識を刈り取られた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 初夏の日差しを浴びながら、俺は走っていた。

 何処かへ向かうために一目散に、誰かに会うために必死に。

 

 やがて姿が見えてきた人影。

 井戸の前に佇む、巫女装束に身を包んだ、長い黒髪を一つに結んだ少女。

 その子が振り向て此方を向くが、逆光か日陰だったのか、その子の顔が見えない。良く知っているはずなのに、忘れてなんかいないはずなのに。

 

 張り詰める思いを伝えようと彼女へ手を伸ばし、何処まで行っても届かないもどかしいさに不安になりながら、ただ叫ぶ。

 

 

 

 『君が    

 

 

 ⋯⋯⋯

 ⋯⋯

 ⋯

 

 

「……かはぁっ!」

 

 目覚めた一夏は起き上がろうとして頭を何かに遮られ、起き上がれない反動を硬いベッドに打ちつけた。

 

 頭が固定されている……? いや、誰かに掴まれている!

 

 はっきりしていく意識で頭から胴体へかけて絡まっているものが人の腕だと知った一夏は、次に何が頭を支えているのか髪の毛越しの感触でそれが誰かの太ももだと悟った。

 

「こ、ここは……」

「お目覚め?」

 

 最近聞いたばかりの慈愛に溢れた猫撫で声。

 いっそ清々しいまでの胡散臭さを醸し出していると言うのに、この人は何故こうもとっつきやすく、人の警戒心を掻い潜ってしまうのか。

 今もこうして膝枕をされていが、不快感や嫌悪感などは一切湧いてくることはなく、優しい子守唄も相まってもう少しだけ……なんて思ってしまう自分に驚いた。

 

「⋯⋯そういや、なんで楯無って名前なんです?」

「気になるわよね。この名前は更識家の当主が代々踏襲している名前なのよ。私は十七代目更識 楯無」

 

 逃げられないと悟った一夏は気を抜けば再び寝てしまいそうな意識で、楯無の膝から会話を持ちかけていた。

 深いことは聞かず、それも時代なのか、それとも強ければいいという制度なのか⋯⋯そんなことを考えつつ彼女と同じ姓を持った簪の事を聞こうとしたら保健室の扉が開かれた。

 

「失礼します、織斑一夏は⋯⋯⋯貴様、何をしている」

「ら、ラウラ!?」

 

 保健室の戸を開いて現れたのは銀髪の少女、ラウラだった。

 今日の一夏の訓練相手でも会ったラウラは時間になっても姿を見せない一夏を訝しんで多方面を探し回っていたのだが、ばったり出会った織斑先生から聞いてここ部活一棟保健室にきた次第なのだが、来てみれば等の一夏は謎の少女に膝枕をされていると言う状況で、呆れて怒る気も失せた。

 

 そして何かを思いついたラウラは懐からスマホを取り出し、無言のまま一夏たちをパシャリと撮った。

 

「⋯⋯⋯ふっ」

「おいなんで今撮ったんだよ!」

「いやなに、ただの私用だ。きにするなははははは!!」

「笑ってんじゃねえよ!!」

 

 嬉しそうに逃げ出すラウラを追いかけようとしたが、なおもがっちりホールドしてくる楯無先輩に阻まれて立ち上がることも儘ならない一夏は、なおもカメラを向けるラウラの撮影を許してしまい成すすべなくシャッターを切られてしまう。

 

 楯無はと言うと、嬉しそうにカメラへ視線を送ったりピースサインをしたり、両手で一夏の頭を抱いたりと熱烈疑惑でも掛けられそうなポーズばかり摂るので収拾がつかない。

 

「私との特訓をサボってこんなところで上級生と逢引か、箒が見れば怒り狂うだろうな」

「箒とは⋯⋯なんで知ってるんだよ!?」

「林間学校で抜け出していたのをしってるぞ」

 

 まさかのセリフに言葉が詰まる一夏は何も言い返せずに口籠る。

 

「遊んでないで早く特訓をしにいくぞ」

「お、おう」

 

 一頻り笑った後、ラウラは途端に素に戻って保健室から出て行った。 

 そこでようやく解放され、一夏はラウラの後へ続いて第四アリーナへと向かった。

 

「生徒会長も来るんですが?」

「だめ?」

「いやいいですけど」

 

 




 無気力が続いて遅延⋯⋯。

 完結するまで書きたい⋯⋯。

 ではでは。
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