IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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六十九話 指南と先輩

「あれ、一夏? 今日は第四アリーナでラウラと特訓じゃなかったの?」

「あぁ、いろいろあってな」

 

 何か諦めたような顔持ちでシャルロットとセシリアに事情を説明する一夏。彼の性格を知っているからかシャルロットは失笑しながらも訓練の付き添いに承諾し、少し離れた位置にいるセシリアはというと、あまり快くは思っていなかったようだ。

 

 それもそのはず。

 一夏の白式が二次移行で雪羅へと変貌し、射撃機能も有してからと言うもの、セシリアが一夏に唯一勝っていた特性が被ってしまい、更にはビーム兵器主体のブルー・ティアーズでは雪羅の『零落白夜』とも相性が悪く、ここ最近のセシリアの戦績は負け続きだった。

 

 そんなわけで射撃も格闘もこなせるシャルロットに頼み込み、こうして対近接訓練に勤しんていたのだが、当の一夏が来てしまい興ざめしてしまった。

 

「それで、そちらの方は?」

「セシリア、生徒会長だよ」

「あぁ、そういえば見たことあるような……」

 

 流石に失礼では? とは言い出せす、なんなら自分も同じような感想を抱いた仲なので言葉にしない一夏。

 

「一夏くんの特訓に私も参加する事にしちゃったので、以後お見知りおきを!」

「はい?」

「そうでしたの?」

 

 箒と簪を除き、ほぼ全ての専用機持ちの生徒からとてもありがたいご指導を受けることになった一夏。

 

 離れたところで結がラウラに高い高いをされながらISを展開していた。

 何をしている。

 

「さて、まずお二人は『シューター・フロー』で円状制御飛翔(サークル・ロンド)をしてもらえる?」

「構いませんけど」

「それは射撃型の戦闘動作(バトルスタンス)ですよね?」

 

 楯無が提示したのは互いに円を描きながら旋回飛行し、同時に銃撃訓練を行うものだった。

 

 そもそもISのPICとは基本的にオート操作になっているのだが、これでは細かい操作や移動ができないデメリットがある。それをマニュアルに切り替えて飛行するのは相当に高度な技術で、飛行制御に思考を割きつつ状況把握と戦闘にも意識をしなければいけない。しかもこれが亜音速の領域で行われるような戦闘だからこそ厄介で、雪羅のスペックを考慮したら最悪の場合自滅で身体が吹き飛ぶ。

 

「しかし一夏さんの機体は近接特化型⋯⋯」

「二次移行で射撃兵装が追加されたからか?」

「ご名答、ただそれだけじゃないのよね。一夏君の機体は近接特化で射撃兵装も付いたけど、あの荷電粒子砲は狙撃銃に近い。だから⋯⋯」

「接近して叩く」

 

 楯無は何も言わず、にこりと微笑んで扇子を開く。そこには『見事』と書かれていた。

 

「そのためにはまず射撃型の戦闘方法を学ばなきゃね。それでは二人とも、よろしくぅっ!」

 

 そして準備が整った二人を離れたところから見上げる。

 アリーナフィールドには『ブルー・ティアーズ』と『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』が向かい合って並び立ち、それぞれ狙撃銃と機関銃を携えていた。

 

『それじゃあ始めるよ、セシリア』

『構わなくてよ』

 

 二人同時に右回りに旋回しながら撃鉄を引き、飛行射撃が始まる。

 互いに旋回することで正面からの弾丸を回避し、だんだんと加速していくも調和が乱れることはなく射撃は激化していく。

 

「すげぇ⋯⋯」

「マニュアル操作であの練度、回避と命中両方を意識してだよ。機体をちゃんと乗りこなせていないとなかなかああはいかないね」

 

 感心しているのもつかの間、楯無は何かを思いついてオープンチャットのマイク越しに一つのボイスレコーダーを近づけ、中に録音されている一つの声を再生した。

 

 

『お姉ちゃん大好き♡』

『へあっ♡!?』

『おひゅ♡!?』

 

 編集されてずいぶんと甘ったるい言い方に調整された結のラブコールに思わず反応してしまった二人、しかし悲しいかな。今は射撃訓練中で、絶賛ドンパチやっている最中に気を抜いてしまえば起こる事故はただ一つ。

 

『『あっ』』

 

 互いの弾丸に撃ち落され、そのまま制御を失った二人はそれぞれ壁と地面に墜落して大きな土煙を上げていた。

 

「こうならないようマニュアル操作のときはしっかり操縦に意識すること。わかった?」

「酷い人だ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それから二日、一夏は楯無の猛特訓に励んでいた。

 

 左腕の『雪羅』をカノンモードにし、オートからマニュアル操作に切り替えた飛行操作に四苦八苦しながらシューターフローで飛ぶ練習を繰り返し行っている。

 

 気を抜けばすぐさま地面に真っ逆さまなたどたどしい操作感に、見ている方はにやけていたり落ち着かなかったり。

 

「速度落ちてるわよ。しっかり集中しなさい」

「わ、わかりました」

 

 いつものおちゃらけた雰囲気とは打って変わって真面目な楯無生徒会長のご指導の下、一夏はPICを全てマニュアル制御に変えたISをなんとか動かしていた。

 

 それまで頭をそこまで使わなくてもよかったオート操作とは違って、姿勢制御から武装の調整まで、機体情報の全てを把握して動かさなければならないため、意識していないと飛ぶことすらままならず、その度にフィールドの端に居る楯無先輩から喝を入れられる。

 

 カノンモードの『雪羅』のエネルギー再充填にあと二十秒、アリーナフィールドの上空に浮いているバルーンに目標を定め、覚束ない足取りのシューター・フローで死に物狂いで飛ぶ。

 

 機体制御の全てをマニュアル化しているため、雪羅の射撃の反動も自分で制御しなくてはいけない。戦車の砲弾を簡単に上回るような砲撃の制御を失敗しようものなら簡単に壁にめり込んでしまう。なったのだから言えるあの痛みと虚無感といったら。

 

 しかし、どうして射撃訓練の基礎を習っているのか、未だによくわからない。

 どうせなら射撃主体の相手との実践訓練の方がまだ有意義なのでは? と思ってしまう。

 

『はいそこー。余計なコト考えない』

「すみません」

 

 口出しできない要因として、生徒会長の説明は実に分かりやすかった。『一番頭のいい人間というのは誰にでもわかる言葉で説明できる者だ』と何かの本で読んだ気がする。生徒会長はまさしくそんな人だった。

 

『よし、速度上がってきたね。ここでシューター・フローから瞬時加速(イグニッション・ブースト)いってみようか』

「いきなりそんな⋯⋯!」

「急ぐ!」

「は、はい!」

 

 言われた通りシューター・フローから瞬時加速に切り替えて飛ぼうとしたら、姿勢制御を失ってそのままの勢いで壁に墜落してしまった。

 

「いってぇ⋯⋯」

「こらこら、瞬時加速のチャージもしながらシューター・フローも維持しなきゃ」

「難しいです⋯⋯」

「泣き言言わない。みんなできてるのよ」

 

 ああ、日本人の性か、そう言われては何も言い返す術はない。

 

「ほら起きて。もう一回」

「はい⋯⋯」

 

 どのコーチよりも分かりやすい反面、誰よりも厳しい。そんな更識楯無先輩の指導はまだまだ続く。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「あら、織斑くん」

「あ、布仏先輩⋯⋯」

 

 廊下で偶然出くわしたのほほんさんのお姉さん。ええと⋯⋯。

 

「虚でいいわよ。妹もいるし」

「じゃあ、虚先輩。楯無先輩ってどんな人ですか?」

 

 一夏の質問にふと物思いに耽る虚先輩はからかうように微笑みながら一夏の瞳を見据えて答える。

 

「疑うのは否定しないけど、人の好意は素直に受け取ることよ」

「それはまぁ、そうですけど」

 

 その意見は同意だが、ほぼ初対面の人間にああも手厚く構うものだろうか。

 結というイレギュラーを抱えているせいもあってか、やたらと人とのかかわりが増えて正直困惑している自分が居る。

 

「あの方は私でも分からないことが多い。けど考えがあっての事なのよ」

「そうですか」

 

 幼馴染でもわからないとは、どれだけ謎が多いんだあの残念な先輩。

 しかし、あの人柄も相まってか妙に納得してしまう。

 

「一つ忠告しておくわ。どれだけ予防しても注意しても絶対振り回されるから。体力だけはしっかりしないとね」

「じゃあ、食事はちゃんと摂るようにします」

「喉を通るといいわね。ふふ」

 

 こえーよ。

 

 

 ふふふ、と笑って去っていく虚先輩を見送ってから自分の部屋に帰る一夏。 

 

「おかえりなさい、ごはんにします? お風呂にします? それともわ・た・し?」

 

 即刻ドアを閉め、すぐさ部屋番号と鍵の番号を確認する。表札の名前もチェック。織斑一夏、よし、違わない。

 きっと疲れていたんだろう。そう言うことにしておこう。そうでないと自分の部屋に裸エプロン姿の楯無先輩が新婚夫婦の常套句みたいな出迎えなんてしてるはずがない。

 

 息を吐いてもう一度ドアを開けると、さっき同じポーズでまた楯無先輩が出てきた。

 

「おかえりなさい。私にします? 私にします? それともわ・た・し?」

「選択肢がない!」

 

 せめて夢であってほしかった。

 

「なんで一年の寮に!」

「生徒会長特権」

「職権乱用!」

 

 部屋の入り口で人目も気にせず騒げば野次馬も集まるというもの。しかもただでさえ目立ってしまう男性操縦者ということでなんだなんだと見に来る人間が集えば興味が無くても耳に入ってくるだろう。

 

「一夏。何をしている⋯⋯?」

「ほ、箒ぃ!?」

 

 そこにはなにやら四角い包みをもった幼馴染が信じられないモノを見たような顔をして震えていた。

 

「わ、私にあんなことを言っておきながら、お前と言う奴は、お前と言うやつはぁぁぁぁ!!!!」

「ぎゃあああああ!!!!」

 

 空いていた右腕にISを展開し、抜刀された日本刀を展開しておもむろに斬りかかってきた箒。

 避けるか、防ぐか、いやでも先輩が。そんなことを考えていた一夏を他所に楯無は余裕の笑みで一夏の前に裸エプロンのまま躍り出て大型ランスを展開し、箒の日本刀を軽々と受けた。

 

「あらら、情熱的。けど今一夏君を亡き者にされちゃうとおねえさん、困っちゃうなぁ」

 

 そう言いながらランスで日本刀を巻き上げ、飛ばされた刀は勢いよく壁に刺さった。お隣さんごめんなさい。

 

 まだ引き下がらないと言いたげに箒は一歩詰め寄ろうとしたが、楯無先輩が先にランスの切先を箒に向けて抑止した。

 

「勝負あり、お話きいてもらえる?」

「ぐッ⋯⋯!」

 

 負けを悟ったか、箒は不服ながらも力を抜いてISを収納し、野次馬たちに一礼して扉を閉じた。

 

 




 
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