IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

73 / 110
 


七十一話 少年と学園祭

 実のありすぎる特訓と並行して行われる学園祭準備。それらも乗り越えてようやくの学園祭当日。

 一夏たちのクラスはメイド喫茶を開くことになり、ホール担当は主にメイド服。見世物件ウエイトレスの男二人は執事服を身に着けていた。

 

 何故メイド喫茶なのかと言えば発案はまさかのラウラ。案件を担任である織斑先生に説明したところ、職員室で爆笑していた。

 

 どうやら夏休みの間で縁があったようで、ダメ元で協力を頼んでみた結果なんと快諾。全員分のメイド服を貸出させてもらえることに。

 ホールで使う机などの調度品は、セシリアの意向で本場イギリスから職人お手製のゴチック式テーブルセットが搬送され、庶民皆様は震えながらセッティングしていた。

 

「上代くんの制服はどっち……?」

「……ッ!」

「やっぱりそこか……!」

 

 謎の発言とそれに反応する有象無象。

 何が「やっぱりそこか……!」だ。男物一択だろうに。

 

「男用に決まってんだろ」

「以前使った執事服があるだろうが」

 

 これにはラウラも呆れ顔で同意見だったらしく、ため息をつきながら一喝していた。

 

「え、でも、上代くんのメイド姿、みたくない?」

「見たいに決まってるだろうばかもの」

「せめて止めろよ」

 

 おいラウラてめぇ。

 だめだこいつら、早くなんとかしないと……。

 

「か、上代くん、スカート履かない?」

「ぼく何でもいいよ」

 

 抜け駆けとばかりに血走った双眸をギラギラ光らせてメイド服片手に詰め寄る女生徒。さして何も不快感は感じていないのか平然と渡された衣装を受け取ろうとする結を引き止め、予め用意されていた服に袖を通すよう促す。

 

 準備前の衣装替え。メイド姿の同級生というのはやはり新鮮なもので、みんな容姿が整っているのでどれも様になっていた。

 

 結を引き連れ自分たちも着替えて戻ってきた二人を一組の生徒が出迎える。

 

「一夏、着替えたか?」

「おう箒。洋服も似合ってるじゃねえか」

「っ! そ、そういうお前も、様になっているぞ」

 

 クラシックなロングスカートのメイド服。

 媚びないデザインであるからこその奥ゆかしさが箒の大和撫子な雰囲気と合っていて、いつも見慣れた道着姿とは違った趣に思わず見惚れてしまいそうになる一夏。

 

 打って変わって普段の制服姿から大人びた執事服に身を包む一夏はいつもよりも落ち着いた印象を受けて思わずたじろいでしまうクラスの面々。だがふと見せるいつもの朗らかな笑みは変わらず優しさを保っていて、そのギャップに当てられて目眩を起こすものもちらほら。

 

「これでいいの?」

 

 白い半袖のカッターシャツに黒いサス付きショートパンツ、ガーター付きの純白の膝丈ソックスにローファを履き、こつこつと小気味よく鳴らしながら出てきた結。

 首元にはネクタイの代わりにスカーフを巻き、首の裏を隠していた。

 前髪を髪留めでまとめ、普段下ろしていたせいもあってかよく見えるようになった瞳からはいつもよりも大人びた印象を受ける。

 

「ほっっっそ」

「すね毛なんて無い」

「ちょっとあざとすぎませんかね、おっふ」

 

 おかしい、ちゃんと執事服を用意されていたはずなのに。

 中性的な格好でありながら、細い体躯の中にはしっかりと男らしい骨付きを感じさせる結の立ち振る舞いに意識を刈り取られてしまう者も出る始末。

 

 当人はなんともないようにその場で回りながら自分の格好がおかしくないかまじまじと見下ろし、いつもは隠れているがショートパンツを履いてるせいで日の目を浴びることになった太ももを擦りながら、股を閉じてもぞもぞと照れていた。

 

「えへへ、ちょっと恥ずかしいね」

「ヒュッ」

「ホフッ」

「ハァッ」

 

 もしかすれば初めて拝むかもしれない結の『照れ顔』に思わぬ不意打ちを喰らってしまった面々は揃って胸を抑えて膝から崩れ落ちる。不毛である。

 

「これはお出し出来るものではない! 刺激的すぎる!!」

「だめ?」

 

 鼻血をだくだくと流しながら血眼で結の制服改正を訴えるクラスメイトを冷ややかな目で眺めながら、一夏は改めて執事服を探してきた。

 

「ほら、もうすぐ開店しなきゃいけないから裏で着替えてこい」

「うん。わかった」

 

 程なくして学園祭が始まった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 IS学園は人工島に建てられたISパイロット、整備士育成のための学校で、各国からの優秀な人材が集まる場所でもある。

 

 なので普段は基本外部の人間が立ち入ることは出来ないのだが、こういった催し事の際はその限りでなく、それぞれの国から自国の武装やらオプションツールなどを売りにきたり、お偉いさんが視察にきたりなど様々だ。

 

 しかも今回は生徒一人に付き一枚、知り合いへ贈れる招待状が配布され、一般人の来客もちらほら見受けられる。

 

「はーい並んでくださーい! 最後尾はこちらですよー!!」

 

 そんな中でも一年一組は大繁盛だった。

 例の男性操縦者を一目見ようと来場客が押し寄せ、開店から数分で学園生徒関係者から外部の人間まで多種多様な人々がわらわらと押し寄せてきた。

 

「何か手伝えることはないか?」

「あー! 織斑君出てこないで!」

「騒がしくなって収拾つかなくなるでしょうが!」

「す、すまん!」

 

 のこのこやってきた有名人に廊下は騒がしさ二倍増しになり列が乱れそうになるのをなんとか食い止めるメイド姿の一組生徒。

 やらかしたと後悔してすぐさま教室に引っ込んだ一夏は、持ち直してホールの接客に戻った。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様⋯⋯て、鈴!」

「なにしてくれてんのよ一夏ぁ!!」

 

 来店した客の注文に来てみればそこに座っていたのは二組のクラス代表こと凰 鈴音だった。

 クラスの出し物の衣装なのか、煌びやかな赤いチャイナドレスに生足を惜しげもなく晒し、イスに腰かけてつま先のヒールを揺らしていた。

 

「アンタのせいでウチの集客率が落ちてるじゃない!」

「しらねーよ!」

「何よその言い草、アタシはお客よ! ちゃんと接客しなさいよ!」

「こんの⋯⋯ご注文はお決まりですか、お嬢様⋯⋯」

 

 悔しそうに頭を下げる一夏をみて鈴は嬉しそうにないんまりと笑っていた。

 

「あ、鈴お姉ちゃん。いらっしゃい、ませ」

「あら結⋯⋯結!?」

 

 ゴチック式に整えられた格好をした少年を目の当たりにして鈴は椅子から転げ落ちそうな勢いで取り乱す。

 普段のだぼっとした恰好から一変してハリのあるシャツを着こみ、サスペンダーを肩にかけてショートパンツを履いていて幼さはしっかり残しており、髪を上げて大人びた雰囲気の中に残る少年らしさのギャップに当てられて卒倒しそうになった。

 

「お持ち帰りは!?」

「ねーよ」

 

 鈴は舌打ちをしながら一夏から渡されたメニュー表を眺め、普通の喫茶店となんら変わり映えしない一覧を睨みながら隅の方にある一風変わった品があるのを見つけた。

 

「ねぇ、この『執事にご奉仕セット』てなに?」

「⋯⋯お嬢様。こちらの『メイドのご奉仕セット』はいかがですか?」

 

 あからさまに話を逸らそうとした一夏をみて鈴は何かあると察し、身を屈めて今度は結にコソコソと聞きにいった。

 

「ねぇ結。この『執事にご奉仕セット』てなに?」

「んーとね。二人でお菓子食べるの」

「執事にご奉仕セット一つ、お願いね」

 

 一夏はため息を吐きながらオーダーを厨房の方へ届けに行った。暫くしてトレイにチョコのついた棒菓子が添えられたグラスを載せて鈴のいるテーブルまでやってきた一夏はグラスをテーブルに置き、心底嫌そうな目で結の隣に並んだ。

 

「では、どちらの執事にご奉仕なさいますか?」

「は? なにそれ」

 

 ようは選べと。

 今、目の前で嫌そうに接待している小憎たらしい幼馴染と、よくわかってないのかぽかんと微笑んでいる幼い少年。

 

「どっちもってあるの?」

「料金二倍、時間制限十分で終了後即退店となりますが」

「やってやろうじゃない!!!」

 

 鈴は財布から表示金額の倍の金をテーブルに叩き出し、ちょっと気持ち悪い笑みを浮かべながら『執事にご奉仕、欲張りセット』を頼むこととなった。

 

「で、何するのよ」

「それではセットの説明をさせていただきま……やめだやめだ! なんでお前相手に敬語なんだ!」

「ぷははははは!! イイわよ、アンタならタメ口で許してあげるわ」

 

 我慢の限界が来たのか一夏は頭をかきあげながら結と並んで鈴の向かい側の席になるように座り、棒菓子の入ったグラスを鈴の方に置いた。

 

「コレを俺たちに食べさせる」

「は? なんで金払って食わせなきゃいけないのよ」

「だから他にすれば良かったんだよ、キャンセルは無しだぞ」

 

 あまり良い気はしていない鈴だったが、一夏を辱められると察した彼女は早速一本菓子を取り出し、ずずいと一夏の方に向けた。

 

「お嬢様からのご褒美よ。はい、あ〜〜〜〜〜〜〜ん?」

「くっ……あー……」

 

 仕事の一環だからと自分に言い聞かせながら一夏は差し出された棒菓子にかじりつき、前歯でへし折って荒く咀嚼した後に飲み下す。

 

「少しは味わいなさい」

「嫌だね」

 

 鈴は残った部分を一夏の口に突っ込んでから、何か言いたげな一夏を尻目に今度は結へ菓子を差し出す。

 

「はい結、あーん」

「んぁああ」

 

 餌を待つ雛のように小さなお口を目一杯広げて待っている少年の口へ、霜が溶けて水滴を垂らすチョコ菓子を口の中へ入れてやる。

 下の前歯に当たった感触を確かめてから結は棒菓子に歯を立てて、思っていたよりも硬かったのか一度の咀嚼で菓子を折るにはいたらず舌を這わし、テコの原理でパキンと小気味よく菓子を折った。

 

 甘いミルクチョコのコーティングが咥内の温度でとろけ、ビスケット生地の軸部分をごりごり鳴らしながら咀嚼する。

 

「美味しい?」

「ん、うん!」

 

 花のように笑う少年に満足したらしい鈴は結に小遣いを忍ばせて颯爽と店を去っていった。

 

「凰さん! お店サボってないでちゃんと働いて!!」

「わ、わかってるわよ!」

 

 鈴を迎えに来たらしい二組の方にどやされ、鈴は早足に今度こそ帰っていった。

 

「織斑くん、上代君、二人とも休憩入っちゃって〜」

「「はーい」」

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 結が休憩で教室の外に出ていいようショートパンツ姿から一夏と同じ執事服に着替えさせ、並んで手を繋ぎ外を回る。

 普段以上に人気の増した空間に慣れないらしい結はずっと一夏の手を握ったまま離さず、一夏も握られた手を離さないようにしっかり掴んでいた。

 

 クラスごとの売店やら催し物を端から見て回り、時に食べたり飲んだりしながら練り歩いていると、やはりというかIS関連のセールスの方に話しかけられてしまった。

 

「はじめまして! 織斑一夏さんですか? わたくしIS装備開発企業『みつるぎ』の渉外担当の巻紙(まきがみ) 礼子(れいこ)と申します!」

 

 ふわふわした長い金髪の女性に話しかけられた。

 いかにも営業の者ですといった風な作り笑顔を浮かべる彼女は質の良さそうなスーツにタイトスカートと、これまた身なりもきちんとしている。

 

 結はともかくとして、一夏の方は世界初の男性操縦者として世界各国で報道されまくり、ガッツリ顔が割れてしまっているので、こういった外部ので人間が入りやすい場ではこうしてIS関連の装備や追加パーツの押し売りを受けやすい。

 

 だが一夏は毎度の事この手の話は全て断るようにしている。

 第一に彼の専用機は機体領域の全てを武装の『雪片弐型』に全て食われているから。もう一つは自分自身がこの手の話に疎くて下手をしないためである。

 

「いかがでしょう? 我社の製品は安定性も性能も完璧、せめてお話だけでも……」

「すみません、そういった話はいつも断ってまして……」

 

 圧のすごい笑顔のままグイグイと詰めてくる巻紙さんのお誘いを丁重にお断りしながら逃げるように早足に進むのだが、彼女の方も負けじと迫ってくるもので恐ろしい。

 連れている結には悪いがしばらくこのままはや歩きになるかもしれない。

 

「結、大丈夫か?」

「うん。けど一夏お兄ちゃん、その人もしかしたら……」

 

 何か言いかけた結だがその言葉を待つよりも先に店を回っていた他のクラスの生徒たちと目があった。

 

「あ、織斑くんだ!」

「上代くんも一緒だ!」

「二人とも執事服着てる!」

「追えぇぇい!!!!!!!」

 

 なんでだよ。

 

 群れを成して襲い掛かってくる集団を目の当たりにし、一夏と結はいつもの調子のまま走り出した。

 

「あ、ちょ、織斑さん!?」

「すみません、俺ら逃げますので!!」

 

 二人は一目散に逃げ出し、礼子は押し寄せる女子高生の群れに押し流され、一夏達を見失ってしまった。

 

「………チッ」

 

 誰かの小さな本音が賑やかな喧騒の中に溢れた。




 本調子出ないです。
 次回学園祭後半。

 ではでは。

 感想、評価よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。