IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 お久しぶりです。

 世間は色々ありましたが、私は変わらず書いていきます。

 


七十三話 対話と挑発

 あれからすぐに学園に戻った一夏たち。

 教員達の立ち回りと情報統制の賜物で一般の来客はもちろん生徒たちの大半が襲撃事件があったのを知る者はいなかった。

 

 生徒会が開催していた演劇で入場者や殆どの生徒が一か所に纏まっていたおかげだ。これも計算尽くだとすれば、楯無生徒会長の慧眼はどこまで見越しておいたのか、と一夏は素直に感服してしまう。

 

 体育館に集う生徒達の前で壇上に上がり、集計された用紙を眺めマイクを掲げる生徒会長の姿を整列した全校生徒がギラギラした目つきで見上げたいた。

 

「学園祭人気投票、結果発表〜〜〜〜〜!」

 

 バラエティ番組みたいなノリで始まった。

 放送係ドラムロールを流すな。

 

「一位は………生徒会の『演劇』でぇぇぇぇぇす!!」

 

 一瞬で冷めた全校生徒。

 そんな話があってたまるかと言わんばかりの猛抗議があちこちから飛び出している。

 

「ふざけるなー!」

「そんなの認められるものですか!!」

『演劇の参加条件は生徒会への投票よ。みんなありがとう、ありがとう!!』

 

 めちゃくちゃだ。

 男をダシにしてほぼ全校生徒の票を掻っ攫っていった生徒会長へのヘイトは今まさに奈落の底へ落ちていった。

 盛大なブーイングの嵐を前に楯無は涼しい顔を浮かべた扇子で扇いでいたが、それをパチンと閉じてマイクのそばで、響くように表彰台を叩き乾いた音を響かせる。

 

『しかぁーし。これで終わってはみんなも不服でしょう。、そこで!』

 

 パンと広げた扇子には『共有』の二文字が。

 

『織斑一夏君には今後、各部への出張援助を引き上げてもらう事にします!』

「流石生徒会長!!」

「それでこそ我らの会長!」

「アナタに一生付いていきます!」

 

 手のひら返しにももう少し緩急つけないか? クルックルじゃないか。

 手首にベアリングついてるのか?

 ていうか俺の意見は?

 

 所属決定から派遣要員任命までがスムーズ過ぎて軽く引いてしまう一夏。逃げ道など無いと言うような期待の眼差しを早くも全方向から向けられて、今日一番のため息が漏れた。

 

 やっぱり、ひとたらしだ……。

 

 

 

 セシリアは内心穏やかではなかった。

 

 私よりもBT兵装を使いこなしていた、祖国では一番適性が高かった私よりも……。いえ、こんな考えでは成長もありえませんわ。もっと、鍛えなければ。でも……。

 

 これ以上何をすれば?

 

 銃撃戦の術は先輩や教員の方からみっちり指導していただき、自主練や復習も欠かさず、わからなければロジカルに追求して頭と体に叩き込んできた。

 それなのに、手も足も及ばない。

 

 私は、何をすれば……。

 どうやって……。

 

 あの方に勝てばいいの……?

 

 

 

 

「セシリアお姉ちゃん」

「ひんっ!?」

 

 教室で意気消沈していた時、結に突然声をかけられて飛び起きたセシリアは慌てふためきながら機嫌を取り持って笑顔を浮かべる。

 

「な、な、なんですの、結さん?」

「んーとね。ちょっとお話したいから、外に行こ」

「はい、構いませんが」

 

 どもる結を訝しく思いながらも、手を引かれて小さな少年のあとを付いていく。

 

 

「セシリアお姉ちゃんはさ、あの時のISのこと知ってる?」

「……あれは、我がイギリスのISでした。BT二号機『サイレント・ゼフィルス』私のブルー・ティアーズの姉妹機です」

 

「じゃあ、あの機体に乗ってた人のことは、知ってる?」

「そこまでは、残念ながら把握してません」

「そっか……うん、ありがとう」

 

 結は建前の礼だけ伝えて去っていった。

 

「結さん!」

「なに?」

 

 思わず呼び止めてしまった。

 しかし後戻りなどする気もないセシリアは意を決して少年に頭を下げるのだった。

 

「私に特訓を積んでいただけませんか!?」

 

 

 ◇

 

 

「ビームを曲げたい?」

「はい!」

 

 曲がるものなのか? そういえばあの姉妹機に乗ってた人は曲げてたな。信じられないが目の前で実例を出されているので信じざるをえない。

 

「どうやれば光線を曲げられるのでしょうか……?」

「光線を曲げる、かぁ」

 

 光とは真っ直ぐに進むものだ。

 長射程のレールガンなら磁場をいじってどうにかできるかもしれないが、純粋な光線銃の弾道を変えるなんて荒唐無稽な芸当などできるはずもない。

 だが、あの襲撃者が駆るISはそれをやってのけた。

 

 衝撃砲を撃ち、空間を留め、水で盾を作る。

 ISならばどんな事でも可能だと、証明されているのだから、やるしかないのだ。

 

「結局、イメージによるところが多いから、ビームを曲げるイメージをしよう」

「ビームを、曲げるイメージ……」

 

 言われてはいそうですかと出来るものではない。ISの操縦は操縦者とISのコンタクトが肝であり、適合率が高いほど人とISの間にあるズレが無くなり、操縦もより感覚的に、ラグが少なくなる。

 

「撃ったら撃ちっぱなしになってる。ビームの先まで意識して」

「そうは言われましても……!」

 

 ライフルの射撃とはわけが違う。

 実弾や通常のレーザーライフルは、射出したらそれっきりだ。

 だがBT兵器は射出時間が長く、光線が文字通り『線』になって飛ぶ。これは他の弾丸が『点』だとすれば、幾らか干渉しやすい構造になっている。

 

 けれど、光の速さで飛ぶものを視認ないし知覚するには相当の集中力と動体視力が必要だ。

 

 それ以前に、それだけの芸当をやってのけるには鍛錬どころか自分のISをより理解しなければならない。

 文字数字を並べただけの論文でも説明書でもなく、もっと深く、自分の指を動かすほど無意識に操作が出来るくらい、ISを識らなくてはならない。

 

「セシリアお姉ちゃんはISの、ブルーティアーズの声をちゃんと聞いてる?」

「は? ブルーティアーズの、声?」

 

 突然そんな質問をされて思わず素っ頓狂な声が漏れるセシリア。 

 

「ISのみんなだってお話できるんだよ」

「いくらAIが発達しているからと言って、言葉を交わせるわけが……」

 

 それはあなたの特殊技能では?

 という言葉をぐっと飲み込み、藁にもすがる思いでセシリアは今身につけている『ブルー・ティアーズ』の声を聞こうと集中してみることにした。

 

 目を閉じハイパーセンサーの知覚の更に奥、データ化された機体情報の渦に思考を傾けていると、目の前にいたガーディアンに手を握られる。

 

「ゆ、結さん?」

「ほら集中して」

「は、はいっ」

 

 セシリアは思わず意識してしまいそうになるが、結は何をするのか自分とセシリアの周囲に八枚のシールドビットを円を描くように整列させ、両手ともセシリアのブルー・ティアーズの両手に沿わせてくる。

 

 訝しむ気持ちも一入にセシリアは自分の機体へ意識を傾けると、さっきとは打って変わってすり抜けるような呆気なさとともに意識が機体の中へ吸い込まれた。

 

「こ、ここは?」

 

 さっきまでアリーナで修練に励んでいたはずなのに。

 今いるのはどう見ても屋内、というか自分の屋敷の中だった。

 

 夢か幻か、腰を低く身構えているとロビー奥の階段を誰かが降りてきた。

 

「あら、お顔をちゃんと合わせるのは初めてですね。セシリア」

「あ、あなたは……?」

 

 落ち着いた女性の声音。

 まず感じたのが肉親のような雰囲気だったが、話し方から立ち振る舞いなどからして母ではないようだった。

 

 蒼いドレスに身を包み、つばの広いハットを目深に被って目元はよく見えなかったが、美しい方なのだと理解するよりも早く感じ取った。

 

「えぇ、えぇ、あの子の助けがあってでしょうけど。」 

 

 ハットの下から艷やかな黒髪を腰まで垂らし、うふふと上品に笑う仕草は東洋の大和撫子のような儚さを垣間見せる。だが格好や立ち振舞は西洋貴族に通ずる気高さも感じられ、セシリアはただただ困惑していた。

 

「ブルー・ティアーズ……ですの?」

「そうね、今はそんな名前でしたわね」

 

 懐かしむような言い方をする女性は被っていた大きな帽子を取り、その尊顔をセシリアの前に晒す。

 

 そしてその顔を見てセシリアは開いた口が塞がらなくなった。

 

「織斑先生……? でも、若い……」

「懐かしい名前。けど違うのよ」

 

 常日頃見ている担任の千冬と同じ顔つき。しかしその容姿は女学生と言われても疑わない程に若く、普段なら絶対に見せないような柔らかい微笑みを浮かべていた。

 

 もしかすれば、『ブリュンヒルデ』と呼ばれていたあの頃よりも若いかもしれない。

 

「この姿は言わば影。最初のパイロットにして最高のパイロットだったあの人の。私は、私達は覚えてる、いや覚えてしまったのよ」

「………」

 

 ISは、コアネットワークと呼ばれるオンラインサーバーで繋がっている。その空間でIS同士は情報共有したり、データやエネルギーの受送信を行ったり出来る。

 

 もしも、目の前の影とやらがISの適合率に関連しているのであれば、織斑一夏がISを扱える理由の裏付けにもなる……?

 

 遠い思い出を眺める彼女は色褪せた瞳に輝きを宿してセシリアに向き直る。

 

「セシリア」

「は、はい!」

 

 織斑先生に呼ばれたような気持ちになって、セシリアは思わず姿勢を正しながら返事をする。その様にブルー・ティアーズはくすくす笑いながいたずらっぽくセシリアに語りかける。

 

「私を魅了してみせて。貴女の輝きを私に魅せて」

「わたくしの、輝き」

 

 試すように、誘うように。にんまりと嗜虐的に嗤うブルー・ティアーズは再び帽子を被り直し、くるりと身を翻しながら声高らかに楽しそうな笑みを浮かべて嗤う。

 

「そうすれば応えてあげられる。心躍る狂詩曲(ラプソディ)を、貴女と私で、一緒に!」

「きゃぁっ!?」

 

 ブルー・ティアーズはセシリアの手を取り、二人だけの屋敷で軽やかに踊り始める。

 ワルツのようなゆったりとしたものではない。燃えるように情熱的で、針のように繊細な、そんなタンゴを誰もいないたった二人で。

 

 わけもわからず踊らされるセシリアは、それでも彼女のステップに付いていこうとするが、彼女はいたずらにステップを変えたり韻を踏むような振り付けをしてみたり、ひっきりなしにリズムを掻き回してくる。

 

 どんどんと迫るテンポに足を掬われ、転げてしまいそうになるたびに彼女に引き戻され、振り回されるまま彼女のダンスに付き合わされるセシリアは、テンポの合わない足取りに息苦しさを覚えていた。

 

 仮にも愛機とのペアだというのに、こうも波長が合いませんの?

 

 曲も流れないロビーの中央で、ブルー・ティアーズは突然ピタリと立ち止まり、少し遅れてセシリアも歩みを止めた。

 

「なぜ、止まったのですか?」

「……残念。今回はここまでみたい」

 

 突然何を言い出すのか、そう思っていたセシリアだが、自分の体が先端から透けているのを見てぎょっと目を剥く。

 

「は、えぇっ!?」

「さぁいってらっしゃい。もっと私をワクワクさせてね。セシリア」

 

 光に包まれ、引き上げられるような浮遊感を受けながら上へ上へと昇っているセシリアを、ブルー・ティアーズはにこにこと手を振りながら見送っていた。

 高貴な微笑みとは裏腹に退屈そうな眼差しをした彼女をみてセシリアは不服に思いながらも、彼女の言葉を噛み締め、消えてしまう寸前に誓った。

 

「絶対に、強くなってみせます! そう時間は取らせませんわ!」

 

 それだけ言い残して消えていったセシリアを見送り、ブルー・ティアーズは尚も笑顔を崩さないままその場に佇むのだった。

 

 

 ◇

 

 

 壮大な物語を読み終えた後のような、茫然とした意識の中から浮き上がったセシリア。

 

「ん……ここは」

「起きた?」

 

 目覚めるとアリーナの上空がうっすらと赤みがかっているのが見えた。

 

 もう、夕暮れ? アリーナの使用時間が……そんなにあの空間に居座っていたのかしら……。

 

 寝起きのような鈍った思考回路をなんとか働かせながら、今まで何をしていたのか思い出したセシリアは、あれが幻では無かったのかわからないでいた。

 

「どう? ブルー・ティアーズのお姉ちゃんとはお話しできた?」

「は、はい……」

 

 結のその言葉を聞いて、あの体験が夢でも幻でも無いのだと思い知らされる。

 

 逆に言えば結さんはいつでもあのようにISと対話が出来る? いやもしかすれば日常的に会話しているのであれば、それだけで凄いことなのでは……? 

 

 改めて目の前の少年が人間離れした存在なのだと思い知らされるとともに、何故生きているのか不安になってきた。

 

 そしてあの体験が本物だとわかり、愛機に軽くあしらわれた事にふつふつと憤りを募らせる。

 

「えぇ、えぇ。やってみせますとも……」

「セシリアお姉ちゃん?」

 

 安い挑発ですこと。

 受けてやりますとも。

 

 小馬鹿にされて簡単に折れるほど安い意地は持ち合わせていない。それは祖国の性が、それとも彼女の生来か。どちらにしても負けずぎらいな彼女を滾らせた事実は変わらない。

 

「必ずや貴女をモノにしてみせますわっ!」

 

 結と自分以外誰もいない静かなアリーナで、セシリアは高らかに宣言する。

 

 あの襲撃者に勝つため、自分の愛機をわからせるため。

 強くなると誓ったのだ。

 

『そこの生徒ー。アリーナ閉じるから出なさーい』

「あ、ハイ」

 

 

 





 お久しぶりです。屍モドキです。
 二ヶ月ぶりですね。
 最近お仕事が増えましてまともに書ける時間が減りました。週末もなんだかんだとしてたら終わるぐらいには多忙になってきたので、どうしようかなと。

 最近人生何度目かの熱中症になりました。
 皆さん夏場はお気をつけて。

 ではでは。
 また次回。
 
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