IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 超お久しぶりです。


 仕事が多忙になり、もう元気がなくなって呆けた生活を送っていました。

 今回はちょっと大事なお話です。

 ではどうぞ。








キャノンボール・ファスト編
七十四話 ヒトとIS


 それからというもの、セシリアの特訓が始まった。

 

 まず、彼女は音楽を聴くようにした。なにも現実逃避はなく、それが最善だと判断したからである。あの日、結に導かれたブルー・ティアーズとの対話の中で、彼女と二人きりで踊った感覚を思い出すため、セシリアはアップテンポの曲を耳にするようになった。

 

 勉学の合間にはイヤホンを身に着け、部活でも楽曲を嗜み、日々のバイオリンは疎かになり、もっぱらエレキギターを掻き鳴らしているようで、今までのクラシックを尊重していた彼女からは考えられないような変わりようだった。

 

「ロックですわ」

「どうしたセシリア」

 

 シルバーアクセを巻いていかにもなパンクファッションに染まっている彼女。

 あまりの出来栄えにかける言葉を見失っていた一夏は、突然の世迷い言に思わず突っ込んでしまったことを悔やむ。

 

「んっん。失礼、取り乱しました」

「取り乱すの次元が違うんだが」

 

 シルバーアクセを取っぱらいながらセシリアは何事もなかったかのように席に座るが、纏う雰囲気は少し前のような焦燥感や憤りを感じさせるような刺々しい様子ではなく、どこか気怠けなジャンキーな影を纏っていた。

 

「ところで一夏さんはISの声というものを聞いたことはありまして?」

「ISの声? あぁ〜〜〜………」

 

 問われて思い出すのはあの林間学校での出来事。

 今はもうほとんど覚えていない夢の内容だが、確かに誰かと話したことだけは覚えていた。

 

「なんか、応援されたような、気がする」

「気がするって、覚えていませんの?」

「林間学校の時の記憶だし、ちょっと覚えてないな」

「そうですか……」

 

 申し訳ないと思いつつもこればかりはどうしようもない。ISとは未だ未解明な部分が多く、作った張本人である篠ノ之束博士すら完全な解析は不可能と白旗を振るレベルなのだ。

 だが、一夏もそうだったように専用機との一対一でのシンクロ内であれば、あるいは理解を示せるのかもしれない。

 

「結さんはISの声は聞こえますの?」

「え、聞こえないの?」

 

 あの少年は別だが。

 その身にISを宿し、聞くところによれば四六時中ISの声が聞こえてくるらしい結にとっては、むしろ声など聞こえなくてもいいと思えるかもしれない。

 しかしだからこその適合率であり、専用気持ちの中でもずば抜けて高いポテンシャルを秘めた結はもしかすれば国家代表にも匹敵するほどの実力を持っている。

 

「以前に共鳴してからは何も……」

「ふぅん」

 

 特段面白くもつまらなくもないような生返事を返す結。

 

 あの時結に補助をしてもらいながら共鳴し、ブルー・ティアーズと対話して以来、一向にあの時のような共鳴反応をするようなことは無く、記録に残っていた恐ろしいまでの適合率を再現するには至らなかった。

 

 

 普通、大半の女性がISに登場した際の適合率が10%前後で、良くても30%代が出るくらいだ。

 

 四割を超えてきたら軍や国から専用機の勧誘が来たりする程で、尚且つ個人用にチューニングされた専用機等であれば適合率は五割も超えられる。

 

 ここまでが人がただISに乗っただけの話であり、それ以上の数値となれば血の滲むような鍛錬が必要となる。

 

 

 異端な例として、ラウラは生まれた時からISに乗るための調整を受けているだけあってその適合率は80%弱にまで上り、世界唯一の第四世代を駆る箒はその機体性能もあって適合率だけで言えばあの生徒会長とも肩を並べれる程だ。

 

 

 そしてそれらを圧倒するのはISそのものを身体に宿す上代 結。

 適合率は90%を常に超え、聞いた話ではあの福音事件の時見せた共鳴現象と呼ばれる形態移行のとき、100%を出したとか。

 

 それをなせるのは特殊なISのおかげでもあり、また、彼自身の出生元にも秘密があるのかは定かではない。

 

「じゃあもう一回共鳴してみようか」

「……わかりました」

 

 喉に絡まる蟠りを飲み込み、セシリアは少年の提案を受け入れた。

 

 

 ◇

 

「これ使ってみて」

「結さんのシールドビット、ですか?」

 

 以前のように手を握られて一緒にシンクロするのかと思ったら、今度はシールドを渡されて少し困惑する。

 

 確か、林間学校の時あの篠ノ之束博士から渡されていたシールドビット、でしたわね。

 

「これ使うとね、すっごくISと繋がりやすくなるんだよ」

「それは、リンクの補助装置のようなもの、ですか?」

「んー、なんかね、響くの」

 

 言い方的に補助装置というより反響装置か。

 それならば扱いとしてはBT兵器よりも更なる空間認識能力を求められる筈。

 

「今度はぼくが助けない代わりにその盾と一緒にしてみよ」

「これと、ですか?」

 

 質問は後回しにしてセシリアは画面の文面で渡された四基のシールドビットを受理し、武装登録した後に展開してみる。

 

 ブルー・ティアーズの基本武装であるライフルビット達とは違い、あくまで規格外な追加武装なので、収まる場所がない四枚のシールドはセシリアの周囲で一定間隔を保って浮遊していた。

 

「それじゃあ集中して、フィッティングするときみたいに」

「わかりました」

 

 セシリアは視界を閉じ、意図して過集中状態に意識を体の奥へと傾けてブルー・ティアーズの音に耳を済ます。

 

 普段なら機体情報やハイパー・センサー等がいつもの数倍の精度が出せる程度だが、今回はそれらも超えてより深い領域まで踏み込んで来ている。

 

 全身の皮を剥いで精神を剥き出しにされたかのような、針の切っ先を多方面から向けられているような、ひりついた感覚にまで研ぎ澄まされていく。

 

 激しい戦闘の中でも中々入れることのない、いわゆる覚醒状態にまで突入したセシリア。

 

 ここまでは常人が努力して到達出来る領域。

 

「ん、それじゃあシールドと同期接続してみよう」

 

 結に促されるまま、漂うシールド達に意識を広げる。

 

「んぎっ!?」

 

 劈く金属音のような耳鳴り。途端、頭に流れ込んでくるISの情報群。無理やり共有されているような濁流にセシリアは頭を抱えて倒れそうになるのを堪える。

 

 

 これは、なんですの!?

 これがシールドビットの恩恵、いや効果と言ったほうが正しい!?

 

「結さん、これは、一体……!?」

「えへへ。凄いでしょ」

 

 マスク越しににへら、と笑う少年はセシリアの周りに浮いていたシールドビットを片付け、膝をついていた彼女に手を差し出して起き上がらせる。

 

 過集中で敏感になっているところへ全身に針を刺されるかのような感覚に痺れてしまうセシリア。

 

 だが尚も集中を途切れさせる事なくブルー・ティアーズとの同調共鳴に思考を割いている胆力は流石と言うべきか。

 

 

 ただ受け身で使っていてはあっという間に呑み込まれてしまいそうな使用感に抗いながら、セシリアは必死に自分の愛機とのコンタクトに迫る。

 

 

「そう、ゆっくり、行っておいで」

 

 結の言葉を聞いてすぐ、二度目となるディープシンクロに意識を預けてセシリアの魂は機体の奥底に誘われた。

 

 

 ◆

 

 

 ここは、またあの場所……。

 

 気がついたら前回と同じように宮廷のような屋敷のロビー。

 振り向くとそこにはつまらなさそうに厳かな椅子に腰掛ける令嬢ことブルー・ティアーズの姿があった。

 

「ナンセンス」

「は、なんですって!?」

 

 開口一番にまさかダメ出しを喰らうとは思ってもいなかったセシリアは声が裏返りながらも食い下がる。

 

「大体、貴女が協力してくれないから困ってるのでしょう!?」

「貴女の熱が足りないのよ。もっと情熱的なものをちょうだいな」

 

「あの盾を使ってる時点で、補助輪のついた自転車を乗り回してドヤ顔している子供と一緒よ!」

「何もそこまでではなくって!?」

 

 例え方があまりにも酷すぎる事に思わず声を荒らげるセシリアだが、そんなものに意を汲むブルー・ティアーズではなく、額を抑えながら残念そうに俯いて首を振る。

 

「自分の信念を簡単に捨てるようなお方に貸す私では無くてよ!」

「じゃあどうすればいいのですか!」

 

「他人に言われて楽器を簡単に変えるようでは一流とは言えないわ」

 

 その言葉に息が詰まる。

 今までの行為を省みて、自分は確かに己の道を見失っていた用に思えたからだ。

 近頃耳にしている音楽はどれもアップテンポで響くような曲ばかり。

 バイオリンではあまりに役不足なところがあり、同じ弦楽器の中からエレキギターを弾くようになっていた。

 

 だが、曲にあった音が手に入ったとはいえそれで満足しているのかと言うと、また違ってくる。

 耳に染み付いた音色とは程遠い、電子的な音にはどうしても心が追いつかないのだ。

 

「信念を貫きなさい。変わらなくていい。でも進化しなきゃ」

 

 優しく微笑む彼女の瞳に魅入ってしまい、思わず言葉を見失うセシリアはポカンと彼女を眺めていた。

 

「と言うことで出直してらっしゃい」

「はわっ!?」

 

 が、つかの間肩に添えられていた両手に力を込められ、軽く突き飛ばされた。背後は既に屋敷の床は無く、セシリアは何もない空間にあっさりと落ちていった。

 

「あんまりですわ!!」

「うわっ」

 

 セシリアが飛び起きると、目の前で様子を伺っていた結が大きな鎧をガシャンと揺らして小さく驚いた。

 

「進化……長所……?」

「何かわかった?」

「いえ、進展は望めません……」

 

 あまり収穫は無かった。

 付き合ってもらったのにこの結果で、見るからに落胆するセシリアを労ろうと言葉を選ぶ結だが、あいにく小洒落た台詞が言えるほど大人ではないので、ただう〜う〜と唸るだけだった。

 

「今日はひとまず休みます……」

「うん、元気出してね」

「はい……」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「オルコットさん。ちょっとよろしいですか?」

「山田先生、どうかしましたか?」

 

 放課後のアリーナから寮に戻る途中、廊下で出くわした山田先生に呼び止められたセシリアは、収まりの悪い腹の虫をひとまず抑えてけて教師に向かい合う。

 

「実は内密のお話がありまして……」

「何かあったんですの?」

 

 山田先生はあーだこーだと言葉を濁しながら、申し訳なさそうにセシリアの顔を覗きながらぽろりと言葉を溢す。

 

「オルコットさん。貴女のご両親について、お聞かせ願えますか?」

 

 そのセリフにピクリと眉が振れるセシリア。

 だが、ただの冷やかしや興味本位でそんな事を聞くわけがないと悪い言葉を飲み込んだセシリアは咳払いをして、「場所を変えましょう」と応接室での対談を求めた。

 

 それに頷く山田先生は申し訳なさそうにペコペコと頭を下げながら何度も謝罪と御礼を連ねるもので、いつぞやに二体一で捻じ伏せられた事を思い出しながら、複雑な心境で小さな副担任の背中を眺めて後ろについていく。

 

 引き戸を開けて、そこそこ狭い部屋に通される。

 安くはないが一級品には届かないようなソファに腰掛けながら、セシリアは対面で紙とペンを用意する山田先生を待ち「では、どうぞ」と促されて一つ息を呑み、一つ一つ言葉を紡ぎだす。

 

「ご存知のとおり、両親とは死別しておりまして、詳しいことはわたくしもあまりわかりません」

 

 これは事実。まだ齢十に満たない頃に亡くなった両親達との面識は薄く、厳しかった母と怯えていた父はお互いにお互いを避けているようでもあった。

 二人とも仕事だなんだと家を空ける事も少なくなく、私はいつも習い事に追われていたような気さえする。

 

「母は名家の生まれでして、父が婿養子として家に入り、母の姓で結婚したと聞いてます」

「では、お父様の旧姓は、わかりますか?」

 

 旧姓? そんなものになんの意味が……。

 だが探りたい気持ちは一緒。ある日に上代 結のハンカチを見た時の、否定したい気持ちをぐっと堪え、頭の中にある家族の血筋を辿る。

 

「確か……ハイド、アーネスト=ハイドです」

 

 昔、まだ両親が生きていて、そこまで不仲ではなかった時、自分の誕生日会に集まった親戚達。その中で父と話していた人達。

 あの日父が持っていたハンカチと同じ色の布。それが結の持ち物だと手渡された時の感情は、言い表し難いものだった。

 

「どうして、このような事を?」

「結ちゃんの出生について調べていたところ、本人からオルコットさんに似た人物の特徴が出まして。それで事情聴取というわけでは無いですが、お話を聞きたく……」 

「そんな、父に限ってそんな……話、は……」

 

 言い淀む山田先生をよそに言葉に詰まるセシリア。そこでふと何かを思い出したかのように顔を上げ、実家に帰省した間に見つけた父の日記のことを思い出した。

 

「日記……父の日記があるんです!」

 

 すぐ様日記を取りに戻ったセシリアは、駆け足で部屋から一冊の本を手繰り寄せ、また山田先生のもとへ駆け戻る。

 

 持ってきた日記を対談室の低い机に叩きつけるようにして置き、小口の錠を解いて中を見せる。

 にゅっと手を伸ばして日記にかじりつくように見つめる山田先生だったが、すぐにセシリアに向き合った。

 

「これなんて読むんですか⋯⋯?」

「英語くらい読んでくださいな⋯⋯」

 

 大丈夫なのかこの人。

 もどかしい気持ちでいっぱいになりながらもセシリアは懇切丁寧に翻訳し、日記の内容を伝えた。すると山田先生は目を剥いて慌てだし、忙しなくメモを取りながらセシリアの解説を逐一ノートに書き込む。

 

「……と言うことが書いてます」

「大問題じゃないですか!?」

 

「ですが父はもう死んでいますので」

「それを安心材料としていいんですか?」

 

 当の本人が既にこの世を去っているので、これ以上はほぼありえないと思いたい。だが先日の襲撃事件といい、裏で何かしらが活動を始めているのも事実。

 それが父親の行っていた非人道的な研究と何かしら繋がっているのだとすれば、この日記は事実を裏付けるために欠かせないものになるだろう。

 

「そういえば、以前林間学校の時に篠ノ之博士から言われた事があるのですが、『お父さんの部屋に行きな』と……それでこの日記を見つけたんです」

「あの篠ノ之博士が知っていたと……?」

 

 日記の中に出てきた女の人とは関係なさそうだが、父の研究を知っているような口ぶりでもあった。

 

 世界の軍事機関を同時にハイジャックしたり、数時間は要するISの専用機のチューニングを数分で終わらせたりするようなあの人なら、一個人の機密情報を知っていてもおかしくはないが……。

 

「この件は織斑先生にも話してみようと思いますが、話しても構いませんか?」

「問題ありません。是非お願いします」

 

 セシリアは日記を山田先生に預け、ひとまず対談は終わりを迎える。

 互いに飲み込めない気持ちを抱えて、真耶は早足で千冬のもとへ向かった。

 

 

 ◆

 

 

「そういう事が……わかった。可能なら聞いてみるとしよう」

「え、篠ノ之博士と連絡とれるんですか?」

「電話番号くらいなら知ってる」

「電話番号」

 

 全世界指名手配犯の電話番号⋯⋯。

 色々ツッコみたいが、真耶は千冬に日記を手渡して内容を確認してもらう。

 内容はあまり深く読み漁らず、流すようにページを捲っていた千冬だが、後半の研究が行われていたところで一瞬手が止まり、そこからは白紙のところまでじっくりとその震えた文字列を見つめていた。

 

「しかし、こんな研究までされていたとは……」

 

 日記を読みながら改めて思い返してみると、人体とISの融合という箇所に引っかかる。

 再生医療の一端を担うような研究だが、それまでの経緯にはあまりにも褒められないような出来事が断片的ではあるが綴られている。

 

 人体に直接ISを……。

 

 まるで結のような、いや、恐らくは本人がこの研究の被験者だったのだろう。

 

 日記の日付や結の肉体年齢から鑑みるに、時系列が一致している。

 

 だがそれを裏付けるにはこの証拠だけでは心許ない。

 

 

 心底不本意だが、聞いてみるか。

 

 千冬は職員室を出て、誰もいない屋上で電話のコールを鳴らしてみることにした。

 

 

 ◆

 

 

 とある研究施設。

 警告音がけたたましく鳴り響き、そこかしこから非常用のランプが点滅している廊下で、半壊状態の研究所を我が物顔で練り歩く女の姿が一人。

 

「ここも模造品のガラクタばかり」

 

 死屍累々の山を踏み越えながら、瓦解した研究所を練り歩く。

 各部屋には研究資材のナマモノだったり、人間擬きの欠片やIS調整用の機械などがあちこちに投げ出されており、元から杜撰な施設だったことが伺える。

 

 研究資金が降りなくなったか、それとも元からか。どちらにせよ興味はないけど。

 

 冷えきった眼差しで歩いていると、警告ブザー音に相まって場にそぐわない明るいメロディが流れ出す。

 

「ん、この着信音は♪」 

 

 ワンピースのポケットから取り出した携帯電話の画面には、旧友の名前が表示されていた。

 すぐさま通話状態にして画面を耳に押し当てると、聞き慣れた冷たい声が聞こえてきた。

 

「もしもし? ちーちゃん! 何かな何かな? 愛の告白してくれちゃう?」

『オルコットの父親について聞かせてもらおうか』

 

 その言葉に束はにた~とした笑みを浮かべ、面白おかしくケタケタ笑いながら快諾する。

 

「いいよいいよ〜。どこまで話そうか? うふふふ♪」

 

 廊下を歩く足を止めず、通話したまま束は人気の無くなった研究所を突き進む。

 それと同時に千冬との会話には楽しそうに話に耳を傾け、前提として何処まで知っているのか聞いてみたり。

 

「ハイド君について何処まで知ってるのかな?」

『大学病院所属の研究員で、再生医療の研究をしていたらしいな』

「公の情報ならその程度だよね〜」

 

 アーネスト・ハイドが医療の研究に携わっていたのは事実。イギリスの出生記録や各施設の在籍記録を確認する限り、至って普通の人物ではあった。

 

 だがそれはあくまで表の話。

 裏では日記の通り知らずしらずのうちに人体実験の手伝いをやらされており、その結果として一人の()()()が生まれた。

 

 それが結である。

 

「私自身に彼との接点なんて欠片もないけど、彼の文献を読んでみた感じ私も考えたことがある設計なんだよね」

『ISを直接埋め込むことが、か』

「そかまではしないかな~? あまりにナンセンスじゃん」

 

 あの日記の内容から見るに最初はただのISに臓器をあてがう程度の行為だったようだが、支援組織の裏を明かされてからはいくつかの被検体を乗り換えしながらISの適合者を造っていたのだろう。

 

 結が何人目かはわからないが、それまでの実験体は性能測定のためのサンドバッグにされていた。

 生き残っていたものもいたようだが、それらもまた何処かの武装組織だったりに売られていたりしていたようだった。

 

『研究所とやらの場所を探ってみたが案の定情報は無し、場所も誰かのおかげで壊滅されて物的証拠もゼロときた』

「てへぺろっ!」

『次あったら締め上げるからな』

 

 あの日、あの研究所の殆どを壊滅させた張本人である束。あの日はただでさえ自分が造ったISを勝手に弄くられていた事に苛立っていた事に加えて、ISと()()の融合という、単純でつまらない研究に腹が立ってしまい、徹底的なまでに施設を壊して回っていた。

 

「ちなみに資材や資金を出資してた企業の名前なんだけど、知りたい?」

『亡国機業だろう。把握している』

「だよねぇ〜!」

 

 自分たちと関わりがあると言うならそこ以外検討がつかない。千冬はそう言いたげに亡国機業の名前を口にする。

 

『奴ら、まだISを持っていたのか?』

「公開されてないコアもあるし、一機や二機ぐらい抱えていてもおかしくはないでしょ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そもそもISを製造するにあたって、確かに設計開発したのは束自身だが、資金も資材も施設さえも協力をしてきたのは亡国機業達だ。

 

 生産ラインを設けてそこそこの数を量産し、白騎士事件を引き起こした後に世界各国へISを売り込む。元からその計画は束と千冬、そして亡国機業が一枚噛んでいた。

 

 それをあとから一抜けて全ての責任を束一人に押し付け、逃げていった事に関して彼女自身は気にしていないが、千冬としては少し不憫に思っている。

 

「偶然か知らないけど、ゆーくんの設計思想は白騎士とちーちゃんに似たものを感じるよ~」

『嫌味か? 喧嘩なら買うぞ?』

「も~違うってば~!」

 

 世に出回っている全てのISは、コアネットワークと呼ばれる情報網で繋がっている。

 それは良くも悪くも互いの情報を水面下で共有しあい、更なる最適化を求めて意見交換をするのだが、最初が悪かった。

 

 織斑千冬という究極の個体による最適解をよもや最初の機体が知ってしまったせいで、全ての機体は千冬をベースにして搭乗者を選ぶようになってしまった。

 

 試行錯誤も取捨選択もなにもない。最初から極めて正解に近い解を与えられてしまったせいで、IS達は搭乗者の選択肢を狭めてしまい、より千冬に近い者をパイロットとして選ぶようになってしまったのだ。

 

 その負い目もあって、千冬は戦う事を辞め、教鞭を振るう立場に回った。

 

 

 結はその最適解を覆すため、改良を施された最新の個体であり、またそのISも独自の進化を遂げている。

 

 

『⋯⋯プロジェクトモザイカはまだ終わっていないと思うか?』

「どうだろうねぇ~。でも、ゆーくんが生きてる時点で保留、もしくは次の段階に進んでると思うよ」

 

 そもそもISの登場で一度は頓挫したはずの計画だが、まさか対抗馬のISに適応させる形で復活させるとは。強欲というか贅沢というか、奴らにとってポーズも体裁もないらしい。

 

「答え合わせはできたかな?」

『概ね確認は取れた。分かり次第また連絡するさ』

「ちーちゃんなら大歓迎だよ! またね~バイビーベイビーサヨウナラ~!」

 

 千冬との通話を名残惜しくも切り上げ、束は携帯電話亜をポケットに丁寧にしまう。そして辿り着いた、目的の場所の扉を叩いてみる。

 無論返事など無いが、人の部屋を訪ねるならばノックはマナーなのだから。

 

 

「でもあの理論は、面白くないけどそりゃあやりたくなるよね」

 

 研究所からデータを抜き取り、今も自分のラボのデータベースに存在する論文を頭の中で暗唱しながら、ある部屋に入る。

 

「う、うぅ⋯⋯」

 

 そこには、長い銀髪を床に垂らした一人の少女が培養液に濡れて横たわっていた。

 ラウラと同じ銀髪。同じ容姿。同じ声音。

 彼女がデザイナーベイビーであるならば、複数の同一個体が生み出されていてもなんらおかしい事ではない。それどころかラウラ自体が欠陥品である以上、それ以上の上位互換を生み出すべく更なる開発をしていたっておかしくない。

 

 そしてこの施設はその極秘研究機関の一つであり、結が居た施設とも関連があった所。

 だから束はこうしてわざわざ呼ばれてもいない施設の門を叩き、このつまらない計画を稚拙な怒りで潰して回っていた。

 

 裸で床に横たわり、苦しそうにもだえる少女の両目は抉れており、赤い鮮血をさながら涙のように流しながら脳に直接伝わる激痛に悶え苦しんでいる。

 

 そんな彼女の苦しみに漬け込むように、されどメガミのような慈悲深い心で、束は少女の前でしゃがみ込み、暗闇から少女に手を差し伸べるのだ。

 

 

 

「君、生きてみるかい?」

 

 

 

 少女は何も言わない。

 だが、差し伸ばされたその手を、あらん限りの力を振り絞って握る。

 

 束は嬉しそうに笑いながら、彼女を抱えて踊るように舞い戻る。

 新たなる研究のために。

 

 






 次回やります詐欺を繰り返してはや数年。
 ようやく話の核心に触れることが出来たと思います。

 気づいてる人がどれだけいるのか知りませんが、暖かい目で見てやってください。

 次はキャノンボールファストまで進められたらいいなぁ⋯⋯。


 ではでは、ご感想などお願いします。

 
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