IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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七十五話 策と壁

 キャノンボール・ファスト。

 

 秋頃に開催されるISの高速バトルレース。本来は国際大会として行われるが、IS学園があることから市の特別イベントとして学園の生徒達が参加する催し物。一般生徒が参加する訓練機部門と専用機持ち限定の専用機部門とに学年別に分かれて競う。2万人以上収容可能な市のISアリーナで開かれる。

 

 開催日が近づき、一般生徒も活気付いている中、専用機持ちはさらに気迫を纏っていた。

 

 元が国際大会なだけあって、各国各社のアピールイベントも兼ねた場でもあり、既存の製品の販促や試作の高機動パッケージの運用試験も行われていたりする。

 

 さらに、今年は代表候補生や専用機持ちがゴロゴロと居るので、例年以上に大会の期待度が高まっていた。つまり会社や国にとっては絶好のアピールチャンスでもあった。

 

 このIS学園でもその波に乗っかろうとする企業が多く、一年生と言えど専用気持ちの殆どは所属国から試験パッケージの搬送がされていた。

 

「『ストライク・ガンナー』。ビットは封印されますが、その分の出力を推進力に回しているので、機動性は格段に向上している……と」

 

 セシリアは本国から渡された専用の武装パックを自分の機体に組み込み、事前に説明されていた機体情報を実際のスペックと比較しながら読み上げてみる。

 

 ビットが完全に固定され、エネルギーを推力に回しているので高速戦闘にはやや心許ないが、バトルレースに出場するぶんには問題は無さそうに見える。

 ただ、妨害ありの今回の競争にはやはり不向きに思えて仕方ない。

 

 それに目先の目標であるBT兵器の屈折がまだ出来てないうえ、ダメ押しとばかりにビットを封印するような装備をつけてしまっていいのだろうか……そんな不安が募るが、逆に考えれば固定砲台と化した今の状態こそ、ビームの屈折が必要になるのだから、むしろ鍛錬には好条件では。

 

「上代、織斑、オルコット。高機動状態で飛行してみろ」

「「「はい」」」

 

 各々専用バイザーをハイパーセンサー内で展開し、通常仕様から高機動状態に移行する。

 

「えぇと、バイザーは……どこだ」

「機体詳細から高速飛行を選ぶと出てきますわ」

「あった、これだな」

 

 一夏はハイパーセンサーの中からアイクリックで高速飛行状態用のバイザーを開き、あまり馴れない視界情報にどぎまぎしながら先に飛び上がった二人の後を追う。

 

 ぐん、と推力に押し上げられるような感覚の後、一瞬乱れてしまいそうになった舵をしっかり取り直し、いつもの飛行よりも何倍も速い速度のまま追いかける。

 

「す、すごいな! ずっと瞬時加速してるみたいだ!」

「速さに慣れるまでは大変ですわよ」

「あんまり喋ると舌噛むよ」

 

 秒読みで二桁後半の時速まで加速し、螺旋を描きながらアリーナの上空を大回りで飛ぶ二人は、さらに前傾姿勢になってついに三桁速度にまで速度を上げる。

 ちょっとでもグラつけば簡単にひっくり返りそうになる慣性をなんとか持ち堪えながら、一夏も負けじと二人のスピードに食らいつく。

 

『織斑、遅れているぞ。スペックはお前のほうが高いんだからな』

「は、はい!」

 

 担任様からのありがたい叱咤をいただき、無理を承知で一気に加速する一夏。

 

「おわっ!?」

 

 だが無理が祟ったか、操舵を誤り方向転換に失敗してしまった。

 空中でスリップしてしまった一夏はそのまま制御を失い錐揉み回転しながら放物線を描いて落ちる。

 

 相当な速度を出していたため、減速もままならずに一夏は大きな音を立てて壁に激突。

 

「各自、高速飛行の練習。この時間は自習とする。アレみたいにぶつかるなよ」

「「「「はい!」」」」

 

 織斑先生はバッサリと吐き捨ててグループワークに勤めさせる。

 その間、専用機持ちは国から届いた追加パッケージのインストールなどに勤しんでいたりする。

 

 シャルロットやラウラも例外ではなく、秋にしては暑い日差しの中でパラソルを立て、涼みながらそこそこ大きいデータパックをヘッドギアに繋ぎ、装備が入り終わるのをまだかまだかと待っていた。

 

 そこに結が降りてきて、IS格納と同時にパーカーを取り出して上に羽織り、二人のところに小走りでやってくる。

 

「まだ時間掛かりそう?」

「あぁ、新型だからな。もうしばらくだ」

「僕はもうすぐ終わりそうだよ。既製品の追加だからね」

 

 頭上でピクピク動いているヘッドギアを結にまじまじと見つめられ、シャルロットとラウラは少し気恥ずかしさを覚える。

 

「動物のお耳みたいで可愛いね!」

「……ん、そうか」

「えへへ〜」

 

 まんざらでも無さそうに口角を上げる二人はもう少しこのままでもいいかな、なんて思っていたが、インストールは存外すぐに終わってしまい、人知れず落胆していた。

 

 

 

 

「上代、高機動時のコツなどあれば教えてほしいのだが、頼めるか?」

「いいよー」

 

 世界で唯一の第四世代型の機体を持たされた箒だが、つい先日までただの一般生徒であり量産機にしか乗ってなかった事から圧倒的な経験不足、更には篠ノ之束お手製のワンオフ機という超人仕様の機体をすぐに使いこなせるわけもなく。

 

 そのうえ、紅椿の単一仕様である『絢爛舞踏』の発動に躓いており、初めて使えたあの一件以来、単一仕様が発動出来ないままであるのも結構な痛手となっていた。

 

 そもそもが展開装甲に頼った性能の紅椿であるが、その出力は常時発動していればあっという間にエネルギー切れを起こしてしまうような機体。それこそ雪羅の『零落白夜』の比ではなく、とてもではないが持続して稼働するには些か障害が大きすぎる。

 

 

 だがそれにも挫けず箒は日々鍛錬と操縦時間を積み重ね、全身の展開装甲をそれなりに扱える程度には練度を上げたものの、それでもラウラやセシリアの第三世代型と同等か、少し遅れを取ってしまう実力だった。

 

 中でも俊敏性に関しては雪羅、ガーディアンが高い部類に入るのだが、箒自身も一夏も初心者から抜け出した程度の実力で、実際のところシャルロットなど企業や軍に所属している者のほうが実力で言えば高いのは確か。

 結に関してはそもそもが枠に収まっていないのでまともに括るのはよくない。

 

「俺も一緒にいいか?」

「いいよぉー」

 

 今日の反省から少しでも高速飛行の経験を積んでおかねば、本番で大恥をかくはめになりかねないと踏んだ一夏は我先に訓練に名乗り出る。

 

 そうと決まれば善は急げ。はやいところアリーナに向かわねば、ただでさえ倍率の高い使用率が、大会へ向けて学園生徒の大半が練習に使っているおかげで最近のアリーナの使用倍率がとんでもないことになっている。

 

 小走りでアリーナへ向かっていると、一夏は通路の脇道で見覚えのある人物を見かけた。 

 

「あれは……」

「……わかった……データは……いつもの……」

 

 遠目からはよく聞こえなかったが、何やら情報交換か定期報告のようにも聞ける会話に少し引っ掛かるものを感じた一夏は物陰に身を潜め、ダリル・ケイシーの話に耳を傾ける。

 なぜこんな事をしているのか自分でもわからないが、以前特訓に付き合ってくれた彼女とは似ても似つかないような、暗い声音がやたら気になってしまった。

 

 やがて連絡が終わったのか、通信を切って振り返ってきたので慌てて踵を返すと、目の前には彼女の恋仲であるところのフォルテ・サファイアが下からこちらを見上げていた。

 

「覗き見っすか、織斑一夏クン」

「違いますよ!」

 

 冷ややかな軽蔑の目に脊髄反射で否定に走る一夏。

 辿々しい一夏を嘲笑うかのように、後ろから迫ってきたダリルが彼の肩を叩き、会話に割り込んでくる。

 

「この一年ボーイに熱い視線で見られてただけさ」

「あ、熱い視線だなんて」

「悪いが私にはもうパートナーがいるんでな」

 

 そう言ってダリルはフォルテの背中に手を回し、ヒラヒラと手を振って去っていった。

 

「ただのデータ報告だよ。わかったら早く練習に行け」

 

 去り際、まるでこちらの疑いを見透かしていたかのような捨て台詞に肝を冷やしつつも、一夏は既に見えなくなっていた箒と結の後を追った。

 

 

 ◆

 

 

 瞬時加速と一言に言っても、機体によって特性が違えば速度の出し方も違う。

 

 例えば一夏の雪羅などは背面ユニットによる加速に依存しており、殆どはそこからの推力で瞬時加速を行う。

 

 逆に結のガーディアンなどは背部ユニットこそ小型だか、全身の各部位に設置された姿勢制御も兼用したブースターを使うことによって瞬時加速が行える。

 

 量産機ともなればある程度の規格化は出来るが他社の機体や、一品モノの専用機となると更に細分化されるので、期待のクセや特性などは使った人間にしか分からない。

 

「全身がブースターのようなものとなっている機体など私の紅椿以外では、上代のガーディアンしか知らないのでな」

「そっか」

 

 PICにより重力に縛られないISは、基本背面に備わっているスラスターによって推進力を得る。拡張装備で推進材を増やしたりも出来る機体もあるが、そんなものは極少数。

 そんな少数のうちに入る自分の機体は特別というより奇異な存在なのだろう。

 

 単機でのオールレンジ攻撃に秀でた紅椿と、単機での全範囲防御に特化したガーディアン。コンセプトは真逆だが、その性能は奇して似通った形に収まっていた。

 

 最も、展開装甲の性能は攻撃だけに留まらない万能性能なのだが、単一仕様有りきの性能なうえ、それを使いこなす腕をまだ箒は持ち合わせていない。

 

「瞬時加速してる最中に急に曲がったら危ないよね」

「勿論だ。横Gで押しつぶされる」

 

 いくら絶対防御で守られているといっても、内臓にいたるまでの衝撃を完全に吸収してくれるはずもなく、戦闘機の最高速度を超えるようなISで急な方向転換をするというのは自殺行為に等しい。

 

「だから曲がるときは、スラスターを全部吹かしておいて、曲がりたい側のスラスターをちょっと弱めたりして調整してるんだ」

「なるほど」

「加速度の差で曲がるんだな」

 

 習うより慣れろと言うことで、結は二人に実践して見せることにした。

 

「いくよー」

 

 ガーディアンの全身に小型シールドを纏い、アリーナの地上から上へ向かって飛んだ結は、全身に備わったスラスターの推力を少しずつ引き上げ、着々と加速していく。

 

 ある程度上昇したのちにタワーの周辺を大きく旋回しながら、どんどんと速度を上げていく結は目まぐるしく過ぎ去っていく景色に目もくれずに体感と脳内で微細な制御を行い、大きく8の字を描きながら飛翔する。

 

 何度か軌道を辿りながら飛び回り、最後に中央の交差をすり抜けた結はアリーナのグラウンドに真っ逆さまに落ち、同時にスラスターの噴射を止めて自由落下する。一瞬バク転しながら姿勢を起こし、下方向へスラスターを勢い良く噴射しながら減速した結は、地面の少し上で強く噴射し、ふわりと降り立つ。

 

「こんな感じ」

 

 じゃあどうぞ、と結は手のひらを二人に差し出すようにして、実際に飛行させてみる。

 

 二人とも機体を高機動モードに移行させ、一夏は背部ユニットにエネルギーを回し、箒は背部ユニットと脚部の展開装甲を起動させる。

 

 それぞれのやり方で飛び跳ね、空気の壁を叩いて急速飛行に移る。

 一夏は先日習ったマニュアル操作で速さからくる空気抵抗に負けないよう、力いっぱい舵を取り、自分が耐えられる限界の横Gを堪えながら結がやっていたような8の字飛びを繰り返す。

 

 対して箒は、高機動飛行自体は難なくこなせるようで、展開装甲の恩恵か空気抵抗などはそこまで苦にならない。だが、シールドエネルギーの減少量が著しく、飛翔に使う量を落とすとたちまち減速してしまう。されど吹かせば残量がゴリゴリ削られてしまい、ままならない。

 

 やはり、『絢爛舞踏』が使えないと厳しいな……。

 

 そんなもの思いに耽っていた箒。その油断が災いしたか、箒はスラスターの出力調整を誤って空中で転げてしまう。

 

「ひっ、きゃあっ!?」

「箒ッ!!」

 

 今日の一夏よろしく制御を失い回転しながら墜落しだした箒にいち早く気がついた一夏が、すぐさま方向転換して高機動状態のまま瞬時加速を行い、空気の膜を叩き割りながら墜落する赤い機体に飛んでいく。

 

 一夏は円弧を描いて横から紅椿をすくい取り、そのままグラウンドへ滑り込むようにして着陸する。

 

「無事か、箒!」

「あ、あぁ。ありがとう……一夏」

 

 鬼気迫る勢いで箒に安否の確認をする一夏。

 絶対防御があるとはいえ、もしもの場合が起こり得てしまうのもまた事実。それを身をもって知っているからこそ、一夏は至って真剣な面持ちで箒にずいと詰め寄るのだが。林間学校から明白に恋心を意識している箒としては、眼前まで迫る想い人の凛々しい瞳に見つめられてそれどころではないのが現実。

 

 もちろん一夏のおかげで怪我もなにも無いが、現在進行形で心拍数が爆上がりし、耳までかんかんに朱く染まる様はなんともいじらしい。

 

 そこでようやく自分たちの態勢が、傍から見てどのようなことになっているのか気付いたらしい一夏が慌てて弁明しようと口をぱくぱくさせるが、思ったように話せなくてしどろもどろになっていた。滑稽である。

 

「い、いつまで抱えているのだ!」

「いや、その……悪気はなかったんだ!」

 

 未だに抱かれたままだった箒は羞恥心から逃れるように一夏の胸を押し退け、熱い抱擁を名残惜しく思いつつも己の心を律して逃れる。

 

「ま、まったく、人目もあると言うのに⋯⋯ん?」

 

 ぶわ、と一瞬光に包まれる紅椿。

 ハイパーセンサーの画面には単一仕様発動のウィンドウが開かれ、明るい色で表示される『絢爛舞踏』の文字が。

 それに伴って視界端のエネルギー残量が、ほんの数パーセントだが増えているのを確かに確認した箒は、あまりの嬉しさに目を輝かせてとびはねる。

 

「や、やった! 発動したぞ!」

 

 当面の課題だったはずの単一仕様発動が思わぬ形で実現したため、柄にもなく喜ぶ姿に一夏も釣られて微笑ましく思っていると、箒はあらぬ事を口にする。

 

「一夏、本番中私に抱きつけ!」

「ダメだろ絶対!」

「二人とも大丈夫だった……なにしてるの?」

 

 お前だけが頼りなんだ!

 そもそもルール違反だろ!

 

 訳のわからない問答を繰り返している二人を尻目に、結は呆れてその場を後にした。

 

 それ以降、本番まで箒が自力で発現出来なかったのは言わずもがな。

 

 






 妙な感じで終わりましたが、次回キャノンボール・ファスト開催です。
 
 ではでは
 
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