IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 明けましておめでとうございます。
 まだまだ続く本編にちょっと不安になってきましたが、まだまだ頑張って書いていきますのでどうぞこれからもよろしくお願いします。






専用機タッグトーナメント編
八十話 他人と家族


 家具の木片、破かれた教本、投げ捨てられた食料品。

 コンクリートが打ちっぱなしの一人部屋に散乱するゴミとかした家具だったものや日用品。破砕されたそれらの片隅や壁、床には血痕がこびりつき、人が暴れた後であることを示唆していた。

 

「………………」

 

 その部屋の中央で力なく倒れ付しているのは一人の少年。

 目元には泣き腫らした後があり、袖や裾には夥しい量の乾いた血のあとがべったりと張り付いてるいるが、肝心の肌に裂傷はおろかすり傷もついておらず、赤みがかった関節が破けた服の隙間から垣間見える。

 

 うつ伏せのまま倒れ伏している少年はパチリと目を開き、腕を床に付いて肘を立たせ、関節や筋肉の動作を確認するようにゆっくりと、身体を震わせながら立ち上がる。

 

 そして関節をゴキゴキと鳴らしながら周囲をじっとりと見回し、なんとなく現状を把握したあたりでぐるると腹が鳴った。

 

「チッ、腹減った……」

 

 小さく舌打ちしながら、少年は床に散らばっていた携帯食料や保存食を拾い上げて舌を出しながら踊り食い、口の中ですり潰すように咀嚼する。コップを拾い上げて洗面所から汲んだ水でそれらをまとめて胃の中へ流し込む。

 

 バッグからまだ食べられそうなものを漁ったり、ぶちまけられた食料品を吟味したりと最低限の補給をしながら部屋中の片付けをしていると、この部屋唯一の扉からノックの音がした。

 

「おはようございます、結ちゃん。今日は学校行けれそうですか?」

 

 鉄製の扉越しからくぐもって聞こえるそれは担任教師である真耶の声だった。

 起きているかどうかの確認。中に入ればいいものをとも思うが、いつかの生徒会長による不法侵入の件でこの倉庫のような部屋の扉は電子ロックが施され、部屋主以外の侵入は難しくなっていた。

 

 なのでこうして扉越しに話しかけているのだが、中の状況がわからない以上は返事をしようがしまいがそれは中の人間次第である。

 

「『おはよう、先生。でもごめんよ、まだ出れそうにないや』」

 

 何を思ったか、少年は返事を返し、登校しない旨をやんわりと伝える。

 その言葉に扉の向こうでは迷いの意を見せる真耶だったが、すぐに「わかりました」と答えて扉の前から去っていった。

 部屋の外から人の気配が無くなり、また静寂が訪れた部屋の中で一人、座り込みながら少年は胸に手を当てて語りかける。

 

 

 

「さて、まだ引き篭もるか? 結」

 

 

 ◆

 

 

 誕生日会を終え、襲撃事件の重苦しさをなんとか見ないように明るく振る舞う学園はどこかぎこちない雰囲気が漂っていた。

 未だ恐怖の念から抜け出せない者、なんとか明るく振る舞おうとする者など様々に、日常は知らぬ顔で過ぎていく。

 

 何気なく挨拶を交わし、先日の慰めや感謝の言葉が教室で飛び交う。

 そんなものを一夏はどこか他人事に聞き流していた。というよりも一切の情報をまともに処理出来ないでいる。

 

 何も変わっていないようで、異変は確かに自分たちの日常を蝕んでいた。

 あれから結は教室に姿を現さない。

 空席のままの机には日々プリントが積まれては回収されを繰り返し、そのぶんだけ結との隙間が開いている気がした。

 

 電車に揺らされているかのように、過ぎていく時間に連れられて現実は着々と、目の前の景色を、人との関係を、少しずつだが確実に変えていく。

 

 結との距離が遠のいているようで、けれど彼に会う顔がなくて、一夏は一人もがいていた。

 

 何も出来ないままに一日が終わり、一年寮に戻っていた一夏は、居ても立ってもいられずに部屋を出る。

 

「一夏くんどこ行くの?」

「千冬姉と話してきます」

「そう。あまり遅くならないでね」

 

 同室の楯無に背を向けたまま行き先を伝え、後ろ手で扉を閉める。

 今にも走り出しそうになる気持ちをなんとか踏み抑え、ズカズカと歩いていく先は寮長室。その扉を叩き、「入れ」と返事があったので中に入ると、部屋の奥で酒を呷る姉の姿があった。

 

 部屋に散乱する酒の空き缶と脱ぎ捨てられた衣類。充満するアルコールの臭いに辟易しながらも、一夏は汚部屋を突き抜けて千冬姉の前まで歩いていく。

 

「千冬姉、聞きたいことがある」

「学校では織斑先生と呼べ」

「俺達の家族の事だ」

「…………」

 

 千冬は何も言わずにまた酒を呷る。

 悠長な態度に業を煮やした一夏は半ば怒鳴る勢いで千冬に尋ねる。 

 

「マドカって誰だ? 結は俺達の家族なのか? 俺達の両親は何処に消えたんだ、俺達はいったい何者なんだ!!」

「一夏」

 

 空になった空き缶を卓上に並べ、冷蔵庫から取り出した新しい缶を開けながら千冬はぶっきらぼうに言い捨てる。

 

「私の家族はお前だけだ。無論、お前の家族も私だけだ」

「千冬姉!!」

「そうでないといけないんだ」

 

 一夏に小学校より前の記憶は存在しない。

 それは年を取るにつれて忘れていったものだからか、それとも最初から存在しないのか。

 

 織斑マドカ。

 

 千冬によく似た少女。

 彼女の存在が、自分たちの生い立ちが、何もかもが今一夏にとって信用出来ない、したくないものになりさがっていた。

 千冬に似た少女は結との姉弟関係を示唆し、当たり前のように凶器やISを振り回し、当然のように戦う様は、自分たちと決定的に生きる世界が異なっているはずなのに、何故かそれが当たり前に感じていた。

 

 拳を握り締めて立ち尽くす一夏を尻目に、千冬は溜息をつきながら飲みかけの酒を呷りあげ、不造作に卓上へ叩きつけて立ち上がる。

 

「来い、一夏」

「どこ行くんだよ」

 

 あれだけアルコールを摂取しているはずなのに悠然とした足取りで部屋を出ていく千冬を追いかけながら、一夏はその行き先を尋ねる。

 だが千冬は一夏に目もくれずにズカズカと歩みを進めて寮を出ていく。

 

「私に勝てたら教えてやる」

 

 秋も中頃を過ぎて夜になれば冷えてきだした。空はすっかり日が沈み、暗い道をたった二人で歩くこと十数分、連れて行かれたのは第二アリーナ。

 ドーム状の天井は夜間仕様で完全に閉ざされ、外からは見えないように遮蔽されていた。そんな中で天井を一周、投光器が設置されており、ブレーカーを上げると一斉にアリーナの中央を照らす。

 

「戦闘の準備をしろ」

「いきなり何だよ」

「私は機体を取ってくる」

 

 一夏の有無を言わさずに千冬はカタパルトに向かいながら社用の携帯電話で何処かに連絡を入れていた。

 思う事がありつつも一夏はISスーツに着替えに行き、早々に【雪羅】を纏ってアリーナの中央で待機していた。

 

 待つこと数分、やがてプライベートチャットに一本の通話が入り、出ると千冬が準備完了を伝えてすぐに通話は途切れる。

 向かい側のカタパルトが開き、すぐにも飛び出してくる相手への臨戦態勢を取りながら、一夏は腰から【雪片弐型】を抜き放つ。

 

 

 

 

「織斑千冬、【暮桜】。出る」

 

 

 

 

 カタパルトから飛び出してきたのは、かつて世界最強と謳われた伝説の機体。藍色の装甲に一振りの刀を携え、その身一つで最強へと上り詰めた千冬の専用機だった。

 

「それは、その機体は……!」

「無人機のコアを使用して再起動実験をしていたものだ。長らく凍結処理をされていたがな」

 

 昔の小柄な印象像からさほど変わってはいないが、背面から伸びる有線コードが機体各部のユニットへと伸びており、全体的にアナログな状態へダウングレードされていた。

 鞘から抜かれた【雪片】は、一夏の持つそれとは違って赤く光を灯し、シールドエネルギーの相違点が垣間見える。

 

「じゃじゃ馬がさらに扱いづらくなったが、まぁ動けん事はないか」

「そんなので戦えるのかよ」

「ふん、なめるなよ?」

 

 普段の教師としての千冬ではない。

 いつもの姉としての千冬でもない。

 

 今一夏の目の前にいるのは、一匹の剣士だった。

 

 睨まれただけで腹の底から冷える気持ちに震え上がる。そんな恐怖を抑えながら、一夏は中段の構えで千冬に対峙する。

 

「挑んでこい、叩き斬ってやる」

 

 鬼は笑う。

 久しい戦場に心踊らせながら。

 






 どうも屍モドキです。
 長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんでした。
 詳しくは活動報告に書いてますが、ちょっとリアル事情でバタバタしてまして、まともに生活が遅れる状態じゃありませんでした。

 なんとか調子が戻ってきたので、またぼちぼち書きます。

 感想なり誤字なりありましたら、ご報告ください。

 ではでは。
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