IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 注意。
 今回は原作最新刊のネタバレを含みます。
 知らないよという方はw〇kiやピ〇シブ大百科をご覧になった上で読んでも大して変わらないのでそのままお読みください。




八十四話 絆と呪い

 今日も日が暮れて、アリーナで剣を交える日々。

 

 相も変わらず一夏の劣勢だが、その足取りは次第に後退を止めた。

 千冬の鬼のような猛攻に反発し、たった一振りの剣を相手に両手を使ってようやく対処していた一夏。追いつけたと思えば足癖の悪い蹴りが下から飛んできて、更に追い込まれる。

 

 剣道の試合とは異なる異種格闘技戦。それも生身ではないのだから、攻撃のリーチや間合い、打ち出せる速さ、威力、何もかもが桁違いなのに、目の前の姉はその更に上を往く力と技で搦手も正面突破も捻じ伏せてくる。

 

 最初こそ愚直に『雪片弐型』一本で挑んでいた一夏だったが、それも二日と待たずに左手の武装腕『雪羅』を多様するようになり、だがしかし付け焼き刃の二刀流もどきではこれまでのやり方に毛が生えた程度の抵抗しか出来なかった。

 

 だが一夏とて、何もがむしゃらに突っ込んでいるのではない。

 連日のように一撃必殺の嵐に見舞われながら、ようやく身に付けてきた動体視力と回避性能。それは愚直に生存率を引き上げ、継戦能力の向上に貢献していた。

 

 千冬の斬撃は速く、重く、鋭い。『暮桜』と『雪片』の性能が相まって一撃離脱戦法を主とする戦い方なのだが、これは単一仕様の『零落白夜』の燃費が悪く、そうせざるをえないからこその戦い方である。

 

 現役時代、千冬は一撃で勝負を決める事が多く、それにより的確に相手の急所を狙って攻撃を行うようになった。

 

 そして今、千冬はその単一仕様を発動しないまま一夏と対峙している。

 それは決して弟を軽んじての事ではない。

 

 長期戦こそが一夏の能力を発揮する条件だからだ。

 

 故に千冬は自身の単一仕様を封印し、出来る限り戦闘を継続させられるように仕向けて剣を交わす。

 

 当然だが一夏の方は『零落白夜』を発動しながら打ち合っているが、第三世代の燃料を持ってしても両手の消費機に加え四基のスラスターを扱う『雪羅』では燃費は最悪。エネルギーの消耗度はまだ千冬の『暮桜』の方が軽度だった。

 

「ゼラァァッ!!!」

「ッ!」

 

 一夏の袈裟斬りを片側のスラスターを吹かし、瞬時に半身で避ける。

 すり抜けざまに抜き胴を仕掛けるが、一夏は『雪羅』で千冬の太刀を弾き、刀身が当たらないと踏んで柄頭で千冬に殴りかかる。

 

 零距離、互いに体勢が崩れた状態で、一夏の捨て身特攻になすすべ無く甘んじて受け入れる千冬でもない。

 刀を振るには些か不十分な姿勢だと悟った千冬は、躊躇うことなく一夏の顔面にヘッドバッドを叩き込む。

 

「がぶっ……!?」

「頭を使えよ」

 

 そういうことではないだろう。仰け反りながら思う一夏だが、瞬時に雪片弐型を握り直し、頭上から真っ直ぐに振り下ろす。

 

「そう何度もッ……」

「それでも!!」

「なにッ!?」

 

 切り上げで一夏の太刀を受ける千冬。

 だが一夏は刀身が触れる瞬間、『零落白夜』を発動した。一瞬の勝負に出たのだ。

 だが、それを見越した千冬も同じく雪片に『零落白夜』を発動させる。

 旧型と新型、二つの刃が互いを仕留めんとばかりに激しく鬩ぎ合い、シールドエネルギーを瞬く間に損耗しあう。

 

「ラァァァッッ!!!!」

 

 逃さない、そんな気迫で迫り、雪片弐型を両手で掴んだ一夏は踏み込むと同時に一息で千冬を雪片ごと斬り伏せた。

 

 千冬のもつ雪片の刀身は半ばでばっさり切り落とされ、突き抜けた斬撃は暮桜の右腕と右半身に深い斬撃の痕を刻みつける。

 

 『暮桜』のシールドエネルギーはたちまち消え失せ、通り越したダメージはそのまま機体骨格へと伝わり、多大な損傷を負わせた。

 

 寸のところで絶対防御の発動が間に合った千冬だが、大なり小なり自身にも攻撃が通ってしまったようで右半身から血を流す。

 

「しまっ……千冬姉ぇッ!!」

「ぐ、うぅ……心配するな、一夏……」

 

 エネルギー切れでパワーアシストの無くなった『暮桜』は、その疑似コアのせいか機体が待機形態に縮まることも無くその巨体のままにぐらりと傾く。

 すぐさま駆け寄る一夏は千冬を地面に横たえ、手足に張り付く武装を次々に剥いでいく。

 

 身軽になった千冬は一夏の手を借りながら尚も流血している傷口を抑え、誰もいない控室に転がりこんだ。

 

「死ぬなよ千冬姉……!」

「バカを言うな、こんなもので死なん……」

 

 ◆

 

 

 あらかたの応急手当が済んだ千冬はただの布切れに成り下がったISスーツからジャージに着替え、控室のベンチに腰掛けて一息つく。

 汚れたガーゼや布切れを片しながら、一夏は手当の間ずっと黙りこくって千冬が話すのを待っていた。だが彼女は黙々と手を動かすばかりでまだ口を開かない。

 

「何から話せばいいか……そうだな」

 

 躊躇っていた言葉を、伝えたくなかった事実を今一度確かめるように、千冬は普段とは何もかも違う弱々しい覇気で言葉を紡ぐ。

 

「あの日、私は逃げ出したんだ。お前を、お前だけを連れて」

 

 まだ物心もついていないような幼子だったお前の手を引き、私はある施設を逃げ出した。追手は少なくて、今思えば怖いくらいすんなり抜け出せたものだ。

 後から知ったが、あれは束の差し金だったらしい。

 

 あいつは似たような実験施設で当時開発段階だったISを創っていた。

 私達はそこで知り合った。今では感謝すべきなのかわからんがな。

 

 施設から逃げ出した私達を篠ノ之家の人たちが不憫に思って色々と手助けをしてくれた。そのおかげで今もあの家に住めるのだ。

 

 断っていたのに学業もこなせたのはひとえにあの人たちのおかげだな。

 

「あの施設での日々は地獄だった」

 

 薬品と血肉の匂いがそこら中から漂い、誰かの悲鳴だったり、怒号や、様々な破壊音がずっと鳴っていた気がする。

 聞かないように、覚えておかないように努めていた。

 

 私に似た子供が何人もいた。

 そのどれもが五体満足でなかったり、数日とせず見かけなくなったり、いろんな理由で消えていった。

 その施設にいた大人達は私を『完成品』だと称して色んな実験をさせてきた。

 

 織斑計画、私はその計画の千番目の試験体らしい。

 

「だから千冬」

 

 やっと完成した強化人間の創造。

 その初めての成功例。

 

 様々な人間の遺伝子を掛け合わせ、より優れた身体能力を獲得させ、更に遺伝子改造により常人では到達しえない強靭な身体を造り上げた。

 

 だが欠陥はあった。

 

 爆発的な筋力は忽ち身体を破損させる恐れがあった。

 

 

「並の人間に比べれば正しく超人並みのこの身体。だが長時間酷使すれば壊れてしまう」

 

 瞬間的な力なら耐えられたが、長いこと戦うのは向かなかった。

 やむなくして計画は練りなおされ、直線的な力から永続的な継続力を求められた。

 

 そこで治癒能力に振った個体の製造がおこなわれた。

 何度負傷しようとも忽ち回復し、また戦いに身を投じれるように。

 

「私という糧を経て生み出された、新たな強化人間」

 

 その第一号こそお前だ、一夏。

 長期戦闘において真価を発揮する再生型強化個体。

 

 そしてお前の完成と共に、束が研究していたISも同じく実用段階までこじ付けたらしかった。

 

 常人でも簡単に超人になれる夢の兵器。

 あいつらはずっと戦争がしたかったのさ。

 

 その後、私たちを生み出した計画は凍結、それからはISを主に開発が進んでいた。

 その一時の隙を突いて私は、お前を連れて逃げ出した。

 

「これが私の知る、私たちの過去だ。後は知らない」

 

 吐き捨てるように言い残し、千冬はまた黙りこく。

 そのころには既に血は止まっていて、ガーゼに染みる血は赤黒く固まっていた。

 

「じゃあ、父さんは、母さんは……」

「そんなものはいない。強靭な遺伝子の塊だ。私達は」

 

 今まで散々隠されてきた過去をこうも簡単に津々浦々語る千冬に動揺を隠しきれない一夏。

 小学生から前の記憶が無いこと、親の不在、死にかけても生き延びたほどのやたらと丈夫な体。今まで不思議に感じていた事の裏付けをされる過去はあまりにも残酷で呆気ないものだった。

 

「戦いから遠のけて、牙を抜いたつもりだった。だが鍛えてみれば、やっぱりお前も『織斑』だったな」

「…………」

 

 諦観した目で更衣室の天井を眺めながら、千冬は小さく息を吐く。

 自分たちの名前に何が込められているのか。

 それを知って胃の中のものが込み上げてきて喉の奥を焼く。

 

「なぁ千冬姉。俺は、俺達は……何者なんだ……?」

「………なんだろうな」

 

 次第に垂れ下がっていく一夏の頭を、千冬はベンチから立ち上がって空いた片手で抱き寄せる。

 気付かぬうちに震えていた背中に手を回され、いつぶりかの家族の抱擁に一夏はしがみつくしかなかった。

 

「それでも、お前は、私の弟だ。それだけは忘れてくれるな」

 

 それは家族の絆か、それとも血の呪縛か。

 二人を繋ぐものは何にも変えられない。

 内側から芋虫が這うような気持ち悪さを覚えながらも、身体に流れる異形の血は目の前の姉と同じものだと思うと、それでも孤独は無かった。

 

「さて、明日も早い。もう寝よう」

「そんな、流石に休んでもいいんじゃないか?」

 

 そそくさと更衣室を出ていく千冬の背を追いかけながら、一夏も救急箱を片付けて付いていく。

 

「公務員は忙しいんだよ。お前も遅刻するなよ、高校生」

「……わかった、おやすみ。千冬姉」

「あぁ、おやすみ。一夏」

 

 それが痩せ我慢だとはわかっていたが、千冬の強さを知っている一夏は何も否定せず、ただ笑って見送る。

 真実を知っても今の現実は何も変わらないのだと知らしめるように、いつもの笑顔で言葉を交した。

 

 

 

 ◆

 

 

 真っ暗な、誰もいない通路を一人、少年がヒタヒタと歩き回る。

 

「こっちの通路は、何処に繋がってるかな〜っと?」

 

 今いるのは第三アリーナに繋がる連絡通路。

 殺風景な道は暗く閉ざされ、足元の非常灯が怪しく床を照らしている。

 

 更衣室の一つに入り、壁際のロッカーによじ登って排気ダクトの穴を覗きながら少年は何かを確かめるように小さく音を響かせる。

 そして手に持っていたドライバーでダクトの蓋を取ると、そこへ腕を突っ込み、その先から茨の触手を伸ばして穴を隅々まで調べる。何に触れたのか、どこまで続いているのか、張り巡らせた触手に意識を向けながら、一つ一つ確認する。

 

「やっぱり通気口はほぼ一通だな。なるほどなるほど」

 

 ダクトから腕を戻して再び蓋をする。

 小さなメモをつけながら少年は行為室を出て、また奥へと歩いていく。

 メモは学園島のマップが事細かく記され真っ黒に染まっていた。

 

 






 千冬と一夏の過去が出ました。
 まぁ人造人間なのは最新刊で出てたのでここまでは。
 さてさてこれからどうなるやら。

 ではでは。
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