IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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八十六話 姉妹と紅白

 

 いよいよ再開したタッグマッチトーナメント。

 例年通りならば希望制でほとんどの生徒が出場できたのだが、今回は先の襲撃事件からの再スタートともあって時間的、能力的な制約が多々あり、専用機持ち及び代表候補性以上の待遇を持った生徒しか出場できないようになっている。

 

 それでも大会の熱狂ぶりは凄まじく、ISがモータースポーツの延長に存在する昨今の在り方を示すようでもあった。

 

 ともかくとして無事に大会が開かれるのであればそれ以上の事はない。

 

 

 

「それでは開会の挨拶を、生徒会長からお願いします」

 

 体育館に集う全校生徒。

 整然と並ぶ美女、美女、美女。多国籍の女の群れを前に壇上には生徒会メンバーが舞台袖の横に並び、眠そうに欠伸を噛み殺す本音。そんな彼女の横腹をつついて注意する一夏は、今日行われるタッグトーナメントの相手が誰なのか危惧していた。

 

 ただでさえ今回のタッグトーナメントは規模の縮小の影響で専用機のみの出場となっており、メンバーがエース、エリートの粒ぞろい。しかも各国の最新鋭機カスタム機などワンオフ機体が多いのでそれぞれ対策が異なり、一筋縄ではいかないどころか初戦から大敗を喫する可能性すらありえる。

 

 

 あれだけ千冬に鍛えられたが、恐らく半分も通用しないだろうというのが一夏自身の見立てであった。

 

 ひとり不安に苛まれれる一夏を他所に、楯無は紹介に呼ばれて壇上の中央、マイクスタンドの前に立ち、自分の高さにマイクを合わせて話し出す。

 

「皆さんおはようございます。今日は専用機持ち限定タッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとっても大いに参考になると思います。なのでしっかりと視て、これからの学びにしてください」

 

 淀みなく透き通る声。しっかりとした発音は聞いていてなんとも落ち着く声だ。

 相変わらず圧倒的な存在感を醸し出している楯無さんだが、この人の任期はそれだけではない。

 

「まぁ、それはそれとして!」

 

 さっきとは打って変わっておちゃらけた調子で懐からセンスを取り出した彼女はぱんっ、と扇子を開く。そこには「博徒」と書かれていた。

 

「今日は生徒全員に楽しんでもらうため、生徒会である企画を考案しました。名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!」

 

 わああああああ! と整列していた生徒たちが一斉に騒ぎ出す。

 

「ただの賭博じゃないですか!」

「安心しなさい織斑副会長。根回しは済んでいるから!」

 

 にっこりと微笑む楯無会長。

 教師陣に視線を向けるとその誰もがだんまりを決め込んで反対もしていない。唯一千冬だけがこめかみを押さえて難色を示していたが。

 

「それでは対戦表を発表いたします!」

 

 そう言った楯無さんの後ろに大型の空中投影ディスプレイが用意される。

 そこに映し出されたのは。

 

「げぇっ!?」

 

『第一試合、織斑一夏&更識簪 対 更識楯無&篠ノ之箒』

 

 まさかの初戦から本大会の大本命である楯無との試合。

 幼馴染と学園最強、最近は二人で特訓している様子だったし、連携も申し分ないだろう。勝てる気がしない。

 ふと簪の事を気に掛ける一夏。視線を向けると、彼女はきつく口をつぐんでトーナメント表を睨んでいた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 出場者はアリーナに移動。各控室にて待機、準備をするように言われた。各々作戦の確認をしていたり、精神統一に精を出していたり、試合に向けて万全を期していた。

 

「なぁ、簪さん」

「なに」

 

 ホログラムウィンドウを開き、武装のチェックを行っていた簪は、画面をなぞる手を止めず、一夏の呼び掛けに言葉だけで応える。

 

「いきなり楯無さんと勝負だけど、いけるか?」

「そんな弱音を吐くような人間だったの、あなた」

 

 不安に感じていた心を読まれたようで、図星を突かれた一夏は分が悪く言い返せない。

 

「お姉ちゃんの事は嫌いじゃない。けど結に変な事してたから倒したい」

「あぁ……」

 

 身に覚えがある光景。

 いつぞや、結の部屋で項垂れていた楯無を見かけた時は何事かと焦ったが、今の簪の発言で何があったのか大方予想できた。

 姉妹仲はそこまで悪いわけでもないようだし、敵視と言うより目標といったところか。

 

「じゃあ作戦はこうだ。俺が楯無さんとやりあうから、箒を先に倒すようにしよう。あいつに『絢爛舞踏』は使わせない」

「わかった。お姉ちゃんは任せるから」

 

 一夏はずいと簪へ拳を突き出し、簪は自分も同じようにきゅっと結んだ握り拳を一夏の手にこつんと当てる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 反対側の控室では楯無が恵体をISスーツに収めながら箒と簡易ミーティングに勤しんでいた。

 

「向こうは恐らく箒ちゃんを先に墜としに来ると思うわ」

「うぐ、やはり甘く見られているのでしょうか」

「違うわよ。多分は紅椿の単一仕様を使わせないためね」

 

 パチリとショルダーを弾かせ、楯無は続ける。

 

「なので私が全体のフォローをするから、箒ちゃんは好きな方を倒しちゃいなさい」

「でも、それでは先輩に負担が」

「何言ってるのよ。お姉さん最強なんだからっ!」

 

 そう言って開いた扇子には『圧倒』の文字。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 各カタパルトに四機のISが跨る。

 重いハッチが開き、アリーナへの通路が開かれ、出撃ラインが照らし出される。

 

「織斑一夏、雪羅。行きます!」

「更識簪、打鉄弐式。出ます……!」

 

「更識楯無、ミステリアス・レイディ! 行くわよ!」

「篠ノ之箒、赤椿! 参る!」

 

 信号は赤から青に変わり、一瞬のGが全身にかかりながらそれぞれはアリーナへ一斉に飛び出した。

 

 喝采の中、揃った四人は互いを見合わせながらアリーナ中央の空中に現れたホログラムウィンドウを見据える。

 

『織斑一夏 & 更識簪 VS 更識楯無 & 篠ノ之箒』

 

 選手名からカウントダウンに切り替わり、数字が下っていくにつれて観客は静かに、張り詰めた空気が広がる。

 下がる数字。次第に一秒の間隔が恐ろしく離れていくような錯覚さえ覚える。あと数秒。汗を握り締め、武器を構えて誰もが臨戦態勢に入る。

 

 3……2……1────

 

 

「ッ、何か来る!!」

 

 試合開始のブザーが鳴ると同時に一瞬の閃光があたりを光に包む。

 煌々と光を放つレーザーがアリーナ上空のバリアを突き破り、四人の真上から降り注がれた。

 

 

 

 






 また長らく間隔が空いてしまいました。
 ちょっとゴタゴタが多くて忙しかったです。
 多分まだ忙しい。

 ではではまた次回。
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