IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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八十七話 襲撃者と学徒兵

 試合開始のブザーが鳴る寸前、一夏はヒリついた感覚を覚えて上空を見上げ、左腕の『雪羅』をシールドモードで展開した。

 

 予感は的中。極太のレーザーがアリーナのバリアを突き破って降り注がれる。

 一夏は側にいた簪の上に被さるようにしてレーザーを防ぎ、箒と楯無はそれぞれで防御態勢を取り、攻撃の雨を凌ぐ。

 

「また敵襲か!」

「みたいだな」

 

 光線の発生源、アリーナの上空に浮かぶのは赤銅色のIS。

 全身装甲に身を包み、巨大な左腕部からぶら下がるのは、今しがた光線を撃ったばかりだと示すように硝煙が昇っている。

 

 複数機いるようだが、微動だにしていないと思ったら突然四方に散り散りに飛んでいき、残った二機が堂々とアリーナへ侵入してきた。

 

 流線型の機体は左右非対称で、まだ標準的な右腕に対して二周り以上も巨大な左腕には複数の銃口が覗き、上半身と一体化している背部スラスターにも左腕のそれと同じような銃口が左右それぞれ四つずつ確認できる。

 対して下半身は最低限の装飾しかなく、やたらと細長く写って病的なまでのトップヘビーな機体構造になっていた。

 また、雄牛のような角が顎に向かって生えるヘッドギアからは人の顔は見えず、フルフェイスマスクはキチキチと音を立てて一夏達を見据えている。

 

「こいつら、またあの時みたいな無人機か?」

「ならば受けに回ったほうが得策かもしれん」

 

 そんな予想とは裏腹に、敵は徐に左腕の砲門をこちらへ突き出し、一切の躊躇もなく砲撃してきた。

 

「なにッ!?」

「殺らせんッ!!」

 

 展開装甲を開いた箒が全ての攻撃を抑制し、一夏が雪羅のカノンモードでカウンターを試みる。

 だが一夏の攻撃は、敵の眼前で爆ぜた。

 

「ッ!?」

 

 否、防がれた。

 敵の上半身と一体化している背部スラスター。そこから分離した小型のユニットが薄く展開し、シールドビットの役割を果たして防いだのだ。

 

 攻防一体、それも単機で……!

 それが眼前に二機、更に複数機が四方へ飛んでいった。

 狙いは恐らく自分達専用機だろう。今こうして一体につき一対を相手取る形をとっている。

 

 つまり一人で二人を相手して互角かそれ以上という腹積もりなのだろう。

 

 だが相手はそれだけでは終わらなかった。ガシャンと開いた肩のユニットが妖しい音とともに謎の電磁波を垂れ流す。それはアリーナを反響し、ハイパーセンサーにその効果を示した。

 

「何だこれ、スキンバリアーが消えた……?」

「それだけじゃない、先生方とも連絡が取れないわ」

 

 ISの必須機能、絶対防御の機能障害。

 しかも電波障害まで発生させているらしい。

 確かにこの状況で教員方からなんの連絡も無いのはおかしいと感じたが、まさかそんな事になっているとは思いもしなかった一夏。

 

 観戦席はまだ避難する生徒が残っている。

 アリーナの防御結界を意図も簡単に破壊できるような輩を残して退散するわけにも行かない。

 なのでここで迎撃、もしくは足止めする他ないらしい。

 

 再度砲門を構える相手。

 

「一夏くん、箒ちゃん。奴らを抑えて! 私がカバーする!」

「「了解!!」」

 

 武器を構え、それぞれ瞬時加速で飛び掛る二人。

 敵は砲撃準備を解いてシールドビットを展開し、斬り込みを受け流す。

 

 高速で旋回しながらそれぞれ二刀と一対の攻撃を凌ぐ敵機だが、たかが自動防御のビット兵装に足踏みする程度の二人ではない。

 普段、結の卓越したマニュアル操作で繰り出される八枚のシールドビットを相手に悪戦苦闘していたからこそ、その半分にも満たない数のドローンなど相手にもならない。

 

「セイッ!!」

「ラァッ!!」

 

 箒は展開装甲を用いた蹴り上げを、一夏は『零落白夜』を発動した袈裟斬りでそれぞれ敵機のシールドビットを撃ち落とす。

 突破される防壁。更に畳み掛ける一夏だが、腹の底から感じた悪寒に思わず踏み止まった。

 

「待て、箒!」

「ッ!!」

 

 束の間、肉薄した箒に飛びつく敵機の右腕。

 先端には鋭利に尖ったナイフが展開されており、寸のところで仰け反った箒の頬を薄く裂いた。

 

『───ッ』

「このッ!」

 

 もう一機は一夏の隙を狙って左腕の砲門を開き、至近距離で光線を放ってくる。

 すかさず雪羅で受け止める一夏だが、受け切れない熱波がじりじりと肌を焼く。

 

 通常、ISの基本兵装である皮膜装甲があれば、たとえ至近距離で拳銃を撃たれてもかすり傷一つ付かず、Gの圧力もある程度緩和される。

 

 だが今は違う。

 目の前の襲撃者が展開するジャミングによって、ISに備わる薄氷の防壁はかき消され、登場者に直接攻撃が通る。

 人を超人にさせるISの能力は抑制され、偽りの超人は再びか弱い人間へと貶められる。

 

 嫌でも理解させられる死の気配。

 試合などでは味わう事のない命のやり取り。

 

 逃れようのない死地を前にして、肝が縮こまる。

 生きたいと五臓六腑が泣き叫び、脂汗が止まらない。

 

 睨み合いの末に動けなくなる。

 

 そんな二人に、楯無が檄を飛ばす。

 

 

 

「しゃきっとしなさい二人とも!!」

 

 

 肩をはねて驚いた二人は手から溢れそうになった得物を握り直し、楯無の方へ振り向く。

 

 二人の後方、少し下からランスを掲げて胸を張る楯無。

 この状況で尚、あの不敵な笑みは崩れず、悠然とした姿勢は真っ直ぐ敵と、二人を見上げていた。

 

「私の学園を荒らす事は許さない、例え不明の相手でも学園最強は揺るがない」

 

 彼女の専用機、『ミステリアス・レイディ』は特殊装甲である水のヴェールを全身に纏いながら、その槍にも流水をうねらせて飛沫を立てる。

 

「私の庭で好きにはさせないわ」

 

 一夏と箒の間に並ぶ楯無。

 この中で誰よりも小柄な機体だが、誰より勇ましいオーラを背負い、二つの敵機を獰猛な目で見やる。

 

「……お姉ちゃん」

 

 そんな姉を見上げる事しかできない簪は唇を噛み締めて心を震わせる。

 襲撃者が乱入した時から動けなかった自分を悔やみ、この状況で当てにもされない期待度の低さを怒り、何より何も力を示せない非力を憎む。

 

 何も変わっていないじゃないか。

 否、変わるんだ。

 今、ここで、私は!

 

「お姉ちゃん! 私だって、戦えるんだ!!」

「簪ちゃん……それじゃあ任せちゃうわね!」

 

 叫び、武器の薙刀を握る簪は三人のところへ飛んでいく。

 まだ怖い。得体のしれない相手が怖い。

 けれど、逃げ惑って変われないのはもっと怖い。

 

 前の福音事件じゃあまり活躍出来なかった。

 だから今度は、私もちゃんと戦うんだ……!

 

 少女は庇護を捨てる。

 姉の横に立つ為に。

 

 





 本調子が出ないから長引くと思いますがどうぞお付き合いください。
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