目の前で空振りする豪腕。
眩く飛び巻く光線。
四方から絶え間なく降り頻る斬撃。
それぞれ二体一の状況をなんとか維持しながら、一夏と簪、箒と楯無は今日まで培ってきた連携をもって眼前で暴れる無人機を相手取っていた。
何故無人機と断定したか。あからさまに人体の可動を逸脱し、ISの武装部分のみならず、全身装甲に包まれた本体の人形すら360度の回転をしてみせたり、あらぬ方向へ関節を曲げてみせたりと、まるで人の枠に収まっていない動きを前に本能的な恐怖が拭えない。
「簪さん!」
「わかった!」
それでも剣を振るう。盾を構える。
敵の猛攻を凌ぎ、反撃の狼煙を上げて今か今かと首を狙う。
敵の肩に備わっている砲門からおびただしい数の光弾が煌めき、いち早く危険を察知した一夏が簪の前に出て『雪羅』をシールドモードで展開する。
前方からの無数の光線を受け止めた一夏。そして両肩の速射荷電粒子砲『春雷』を展開した簪が、一夏の背後から飛び出して狙い定めた無人機へ粒子砲を撃ち込む。
数回の砲撃をがむしゃらに撃ち、そのうち避けきれなかったらしい二発が無人機の右肩部キャノンと左足を撃ち抜いた。
「当たった!」
「畳み掛けるぞ!!」
一夏に促されているのが癪ではあるが、それでもこの緊急事態で思考停止に陥るよりかマシかと考えながら、簪は対複合装甲用超振動薙刀『夢現』を握り締めて一夏とともに無人機へ近接戦を挑んでいく。
少し離れたところで、箒と楯無が別の個体を相手に戦闘を繰り広げていた。
「楯無さん!」
「ナイスよ箒ちゃん!」
楯無へ向けて放たれた光線を箒が操る背部ユニットの展開装甲で防ぎ、『天月』の牙突から飛び出したエネルギー刃が無人機のシールドエネルギーを削る。
更に大型ランス『蒼流旋』を携えた楯無が、箒の攻撃を受けきったばかりの無人機へ突撃し、その右腕を穿ち落とした。
『……ッ!』
お返しとばかりに無人機が肩のレーザーを仕切りに乱れ撃つが、箒の刀である『空裂』の一振りが放ったエネルギー波が無人機のレーザーを全て無効化してしまった。
そこで箒の攻撃は止まらず、追撃とばかりに分離させた背部ユニットと両手の刀を握り締め、全身の展開装甲を発動させ、当たれば致命傷の一撃を全身から繰り出しながら無人機へと飛び込む。
「や、ァ、あぁァァァ!!!!!」
二刀流の連撃、更に蹴り上げやユニットとの連携により、単騎で全方位からの格闘戦に持ち込む『紅椿』の性能も然ることながら、それらを巧みに使い分け、操る箒の技量も正しく彼女の実力だろう。
だが相手は無人機。人では無ければ心も無い。
箒の猛攻をまともに受けながらものともせず、全身を斬り刻まれながら、なんとその巨腕で箒の上段蹴りを掴み取った。
藻掻き逃げ出そうとするが、いくら暴れ、刃を突き立てても無人機は掴んだ手を離さず、ぐい、と自分に近づけて砲門にエネルギーを充填させる。
「しまっ──!」
「箒ちゃん!!」
至近距離での砲撃。流石に逃げられないと身の毛がよだつ思いで腕を交差させ縮こまる箒だったが、一瞬で半透明のヴェールに包まれ、無人機の砲撃が妨げられる。
振り向くと楯無の専用機『ミステリアス・レイディ』の固有武装である『アクア・クリスタル』を煌めかせながら、彼女は左手に握った蛇腹剣『ラスティー・ネイル』を撓らせ、湾曲した軌道を辿りながら無人機に斬りつける。
無人機の意識が楯無へ向いた瞬間、その隙をついて抜け出した箒が柄頭で無人機の側頭部へ一撃をお見舞いしてやった。
「すみません、楯無さん!」
「箒ちゃん、ここは感謝よ!」
「ありがとうございます楯無さん!」
「よろしい!」
戦闘状況は著しくない。だが楯無との会話で無駄に強張っていた体の力がふと抜けていく。戦いの最中だというのに、妙に嬉しく感じる自分がいる。ちぐはぐな感情が心地よかった。
この人は何処までも凄い人だ。
こんな状況だというのに笑っている。
腹の中を読めない相手というのはどこかきな臭いものだ。そういう所から信用されないものだが、楯無は自分を中心に回りを振り回すので、疑いを掛けるより前にこちらが根負けしてしまう。
底の知れない人間だという凄味を噛み締め、改めて畏怖の念を感じる箒はきりりと意識を引き締めて、両手の剣を構え直す。
そこへ満を持して飛び込んできたいくつかの影。
「あれは!?」
「盾!?」
現れたのは結の小型シールド。アリーナに現れた四枚の盾は、それぞれ二枚一組になって二機の無人機へ突撃していく。
『ッ!?』
突如として現れたシールド達に翻弄されながら、無人機は自分のまわりを飛び回る盾を撃ち落とそうと躍起になっているが、巨腕のスイングも、左手のナイフも、肩のレーザーもことごとく躱され、逆に盾たちからお返しとばかりに体当たりを喰らっていた。
盾だというのに攻撃を受けず、回避して反撃を当てる様は、何処かあの少年に似ていた。だが彼が操っているというのなら妙に納得のいく動きでもあり、無意識に彼の影を重ねていた。
それは一際大きい一撃を無人機に喰らわせ、その反動で飛び上がりながら箒と楯無の元へと降り立った。
訝しげに思いつつも、二人がその盾に触れた瞬間、視界の端に表示されているシンクロ率のメーターがぐん、と上昇し、機体性能が二割増しで引き上げられた。
「凄い、出力も上がっている!」
「これだけのブースト、とんでもないわね」
盾一枚だけでこれ程とは……補助機能にしてもやりすぎよ。
初回使用ですら一割以上ものステータス上昇を施す事ができる補助装置を、あろう事か八枚も同時に併用してみせ、更に自在に使いこなしているあの少年の怪しさが増していく。
話しによればあの篠ノ之博士が与えたと言う。つまりこれだけの後付装備を使わせ、少年と彼のISの機能を増幅させることが目的なのだとしたら。
調べでは少年のISは他人が使っているISを奪い、その機体も能力も自在に扱える。
もしも少年のISが今以上に進化を遂げれば、恐らく学園だけでは対処仕切れない怪物が生まれてくるかもしれない。
もしもそうなれば、最悪彼を殺める事になるかも……。
ぞくりと怪しい考えが頭を過るが、今はかぶりを振って忘れ、盾によるブーストを甘受する。
通常の二倍の量で水のヴェールを流しながら、楯無は激流の槍を高々と携えて胸を張る。
ブーストで使用可能になった単一仕様『絢爛舞踏』を発動させ、全身の展開装甲を発動させる箒もその隣に並び、両手の剣をきりりと握り直して構える。
「やるわよ、箒ちゃん」
「はい!!」
楯無の掛け声を皮切りに飛び出した二人。
二手に別れ、左右からの同時攻撃。射撃態勢にも移らせない速さで体当たりをぶつけ、ぐらりと傾いた無人機に箒の二撃と楯無の回し蹴りが入り、地表へ向かって赤銅色の機体が落ちる。
「往くぞ『紅椿』!!」
「キメちゃうわよ『ミステリアス・レイディ』!!」
箒は両翼の展開装甲ユニットを分離させて追撃、楯無は『蒼流旋』の四連装ガトリングを発射させながら追撃し、距離を詰める。
『ッ──────!!!』
ガトリングの射撃と遠隔の斬撃を無防備の全身に晒されながら、無人機はなおも体勢を立て直して両肩と右腕のキャノン砲を光らせ、反撃に移る。
「喰らうものか!!」
「きゃんっ」
「楯無さん!?」
足元から打ち上がる無数の光弾を全身の展開装甲で露払いをしていた箒の横で、なんの抵抗も見せずに光弾の雨を喰らった楯無が
何事かと分からないまま、知り合いが消えてしまった目の前の出来事に力が抜けていく箒が血気迫る思いで無人機を見下げると、そこにはついさっき真横で蒸発したはずの楯無が無人機の横腹を大型ランスで穿っていた。
「楯無さん、今のは!」
「ふふん。質量を持った残像よ」
先程、蒸発して消えていったものは『ミステリアス・レイディ』の水を操る能力による、水の分身だった。
それを攻撃を受ける前、光弾の弾幕の前に残して回避し、虚を付いた不意打ちを狙ったのだ。
「喜ぶのは倒してから。最後は大きいのやっちゃいなさい、箒ちゃん」
「えっ!? わ、わかりました!!」
それだけ言い残して楯無は時間稼ぎをするべく一人飛び出し、取り残された箒はあたふたしつつもやる事、できる事を見据え、精神統一を始める。
考えろ、いや深く考えるな!
できる事は多いようで少ない、下手な事はかえって足を引っ張るだろう。
今私の手元にあるのは。
私と。
紅椿と。
結の託してくれた盾がある!!
死地の最前線という極限状態が身体を奮わせ、一夏たちや楯無と積み上げて来た過去が意地を踏ん張り、結の盾が意識的か無意識か、湧き上がる感情に、後押しをかける。
ここで折れたら女が廃る!!
紅椿、結、力を貸してくれ!!!
箒の願いに応えるように、紅椿は淡い輝きに包まれ、単一仕様『絢爛舞踏』を発動させ、ゲージを飛び出る勢いでエネルギー残量が回復し、全身の展開装甲から余分に回復していたエネルギーが放出される。
それだけに留まらず、これまでの戦闘経験と盾のブーストによる過剰なシンクロ率がこの土壇場で紅椿に新たな武装を新規構築させた。
「ええぃよくわからんが使ってやる!!」
叩きつけるように眼前に現れた使用許諾を承認し、背面にあった展開装甲ユニットを両腕に沿わせると共に、それらは著しく形を変え、機能を変え、腕と融合した大型のクロスボウのような形状に変化を果たした。
後ろ腰からバイポッドのような支えが生え、地に落ちて腰を据え、両腕を無人機に向けてターゲットサークルを敵機に合わせる。
すぐに撃とうとしたところで何も出ず、肩透かしをくらう箒。確認するとハイパーセンサーの端に『CHARGE』の文字。どうやらエネルギーを充填しないと打てないらしい。
「まどろっこしい、早くせんかっ!」
この戦況で動けないままで焦らされる箒が急かすが、そんなことを意にも介さず武装のエネルギー充填は亀の歩みで進む。
「箒ちゃんもうイケそう!?」
「今終わりました、避けてください楯無さん!!」
今の今まで時間稼ぎとして接戦を持ち掛けていた楯無が箒の声に彼女の方を向くと、キラリと光る二つの星。
「いっけぇぇええええ!!!!!」
死の危険を感じて無人機に水のヴェールを引っ掛け、すぐ様飛び退くと同時に、下方から特大の光線が二本、回避しようとしていた無人機を飲み込み、アリーナの地面すら抉りながら壁面まで押し出した。
けたたましい轟音と土煙。
無人機は一瞬でスクラップになり、スパークを散らしながら尽き果てる。
「わーお。やったわね箒ちゃん」
「ありがとうございました、楯無さん」
◇
無人機の動きに翻弄され、本能的な恐怖に侵されながらも簪は震える両手で薙刀を握り、えいやと心の中で意気込みながら切りかかる。
超高振動薙刀で手足を斬り落とそうと近接戦で刃を振るっている簪だが、無人機は存外に頑丈で、全身装甲の機体を前に薙刀は無慈悲に弾かれている。
硬質合金だって斬れる薙刀なのに⋯⋯!
なんなのコイツ!
無人機の異常なスペックに内心毒吐きながら、今度は脚の関節を狙って薙刀を振るう。
「なッ⋯⋯!?」
だが無人機は簪の一撃に対し、狙われた足を後方へ直角に持ち上げることで回避、そして持ち上げた脚を維持したまま腰ごと下半身を回転させることで反撃に転じてくる。猫? 否、さながらタコのような動きは見ていて本当に気持ちが悪い。
おおよそ人間では真似できない動きから繰り出される攻撃に怯えながら、簪は薙刀の柄で蹴りを受け止め、威力を相殺しきれず真横へ吹き飛ばされる。
「簪さん!」
「私は、大丈夫だから!!」
一瞬こちらへ向かおうとしていた一夏に安否を伝え、無人機へ向かえと促す。
一夏は簪への心配を無理矢理抑えて刀を握り締め、瞬時加速を使い、無人機がレーザーを放つよりも速く懐に潜り込む。
光線の発射態勢から近接戦闘への移行に一拍遅れた無人機は、一夏の逆袈裟が直撃して構えていた左手のナイフが根元から斬り落とされる。
もう一撃、踏み込もうとする一夏だったが、無人機は痛がりも後退もせず、無造作に振り上げた右の巨腕を一夏の頭頂部に目掛けて真っ直ぐり振り下ろしてきた。
「こッ⋯⋯⋯ノォ!!」
咄嗟に突き出した左手の『雪羅』で無人機の巨腕を受け止め、ずしんと来る質量の重みに侍従が傾きそうになった。
あまりの近距離で刀を振ろうにもろくな威力は発揮されず、落とし損ねた無人機の左腕に『雪片弐型』を持っていた片手も捕まえられてしまう。
「しまった⋯⋯!」
両手とも塞がれてしまい、身動きの取れない状態。いくら蹴ろうが頭突こうが暴れようが、ピクリともしない無人機は手放してなんてくれなくて、下手をすれば簡単に骨の一つや二つへし折られそうな力で押し潰そうとしてくる。
密着状態で抵抗できない一夏を前に、手持ち武装のほとんどが物量火器である簪も横槍を入れられず、見守るしかできない状況に焦燥感を覚えていた。
喉が渇く。腹の底で蟠りが渦巻く。頭の中で考えが駆け巡るばかりで行動に映せない事自体が大きなストレスとなり、余計に苛立ちが募る。
「負、け、る、かァ⋯⋯⋯⋯ッ!!!」
背を反らし、胸を張り、肩を盛り上げながら、機械腕を押し退けようとする一夏。ゆっくりと開けていく視界に映ったのは逆光を浴びて良く光る無人機のバイザーと、光が集光し始めた砲門。
この至近距離であの超大なレーザーを撃とうとしているのだ。
逃げようにも膠着状態から抜け出せるはずもなく、目を焼く光をただ見つめることしか出来ない一夏は死の輝きから目を背け、悔しさを噛みしめることしか出来なかった。
「畜生ォ⋯⋯!」
一際大きく輝いた砲門。
その一瞬、視界を遮った一つの影は一夏に届くはずだった光線を防ぎ、さらにもう一つの飛来物が無人機の背後を穿ち、二機の硬直を解いて跳ねて行った。
「な、なんだ!?」
「あれは、結の、盾⋯⋯!」
一夏と簪の前にも現れた結の小型盾。それらは二人の機体に取り付き、『雪羅』には右手の籠手に、『打鉄弐式』にはバックスラスターの一つとなり、これまでの効力と同じように無人機の妨害電波をジャミング、そして機体と搭乗者のシンクロ率のブーストを付与してくれた。
単純に上昇する機体効率は脳へ繋がるハイパーセンサーの情報密度がぐんと増し、されど冴え渡る思考処理でそれらを瞬時に把握。そして安定率の増した稼働効率はそのまま機体火力へと変換される。
「行くぞッ!!」
「うんっ!」
瞬時加速で飛び出した一夏の背後からレーザーで援護射撃をする簪。
その軌道は下手をすれば一夏を背後から撃ち落としてしまいそうなほど際を狙った射撃だが、放った光線のどれもが一夏をすり抜けて無人機の手足や胴体、その末端を狙い撃っていた。
簪の援護で一夏へのカウンターを取り損ねた無人機は、彗星の如く迫る一夏の攻撃を処理しきれず、そのまま突き抜けるような抜き胴を喰らう。
そこで一夏の攻撃は止まず、四基あるうちの一つの背部スラスターで素早く身を反転させ、一夏は斬り放った斬撃を回転にあわせて担ぎ、無人機の背後から振り被った姿勢からの上段斬りを無人機の脳天目掛けて真っ直ぐに振り下ろす。
『――ッ!!』
それでも一夏の二発目の太刀を感知したらしい無人機は、方向転換と同時に大振りに振り回していた巨腕を一夏の腹へ叩きつけようとしていたが、それよりも速く一夏の一太刀が流麗な円弧を描いて無人機の背を斬った。
明らかに人体の存在するであろう部分は肩から深く斜めに斬られていた。だがそんな程度で止まる無人機ではなかった。
今際の際、ありったけのレーザーを撃ち乱れようとチャージをしていた無人機を前に、止めをさそうとした一夏は、簪の抑止の声と共に少し頭上で彼女の専用機、『打鉄弐式』の武装である八連装ミサイルポッド『山嵐』と荷電粒子砲『春雷』の砲門、それら全てが展開され、此方へ、正確には無人機へ向けて展開されていた。
「避けなきゃ知らない」
悪態の一つを吐くことも許されないまま発射された四十八発のミサイルとレーザーの暴風雨。
寸のところで逃げ出せた一夏は背後から感じた殴られるような爆風で放り出され、巨大な爆発は虫の息だった無人機を爆炎に飲み込ませ、簡単にスクラップへと変えてしまった。
「がっちゃ」
「あ⋯⋯危ねぇだろ!!?」
鬱憤晴れましたと言わんばかりにすっきりした顔でサムズアップしてくる簪に食いつく一夏だったが、同じくして他の敵機を倒してきたらしい他の専用機メンバーが集い始め、その誰もが大した外傷もなく揃っていたことに安堵する。
「⋯⋯結がまだいないぞ!」
「本当! まだ戦ってるっての!?」
この場にいる殆どが、少年が寄越した盾のサポートのお陰で生き残れたと言うのに、肝心の少年が未だ見当たらない。
あの無人機たちは揃いも揃って専用機ばかりを狙って戦いを挑んできた。ならば結も狙われていておかしくはないはず。
もしかすれば別のルートで既に避難したか、それとも盾を操ることに気を取られて無人機に苦戦しているか⋯⋯纏まらない考えはどんどん暗い方向へ思考を導き、やっと繋がった通信機能に縋る思いで通信を繋げるよう試みてみる。
『あ、織斑君! 皆さんも無事ですか!』
繋がったのは管制室で対応していたらしい山田先生。
焦った様子の彼女の声が落ち着受けない事態だと知らせてくるようでもあった。
「山田先生、こっちは無事です。ただ、結が見当たらなくて⋯⋯!」
『えぇっ、そっちもですか!?』
しまった、まだ終わってない。
そもそもあの襲撃事件から立ち直れていない少年が、この緊急事態にうまく対応できていたかすら怪しいのに、更に無人機の数撃となれば余計に不安要素が募るのは必然だった。
最初に動いたのは簪だった。
「私、探しに行ってくる⋯⋯!」
「待ちなさい簪ちゃんっ!」
アリーナ地下へ向かって走り出した簪を抑制しようと楯無が彼女の手を掴んだところで、アリーナのカタパルトから乱暴な金属音が遠く響いた。見るとそこには人影が映っていた。
遠くから、カタパルトの中で反響する鎧の足音と、金属の塊を引き摺るような甲高く耳障りな不協和音。
中は暗くて視認しづらいが、赤い軌跡がゆらゆらと目元で揺れているのがハイパーセンサー越しに確認できる。
それが少年の専用機『ガーディアン』のバイザーから発せられるセンサー光だと理解出来るのにそう時間は掛からなかったが、その腕からは茨のようなワイヤーが伸び、その先にはつい先程まで自分たちが苦戦していた無人機達と同型の機体が括り付けられ、無造作に引き摺られている。
ガーディアンはカタパルトの縁まで歩いてくると、引き摺っていた無人機と一緒にアリーナへ飛び降りて、重力のままズシンと広大な地面を踏み締める。
飛び降りた拍子に、仮面がズルリと外れ落ち、下の歪な髑髏が赤い双眸でこちらを見据え、牙が生え揃っている顎の中で、子供の口元がニヤリと嗤った。
『キシシ』
どうもお久しぶりです。
なんか路線変更しそうですが、追加エピソードが挟まるだけで原作沿いではあるので許してください。
次回、ようやく結が活躍しますのでよろしくお願いします。
感想、評価ください。
ではでは。