同時刻、管制室では織斑 千冬の指揮のもと教師も生徒も避難誘導や各施設の閉鎖の為に尽力したいた。
「各閉鎖のロック解除、ハッチ開きます!」
「来賓方の避難完了、学園生徒も続いて避難終わりました!」
「電波戻りました、映像映します!」
襲撃してきた無人機の殆どが倒されたおかげで、学園中に波状していた通信妨害の電波が失せ、アリーナのリアルカメラが再起動される。
モニターに映し出された死屍累々の悲惨な光景に、その場の誰もが息を呑んだ。
「あれは……」
「結、ちゃん……」
そこかしこに転がっているのは学園でも選りすぐりと思われていた各国の代表候補生徒達。誰もが徹底的に打ちのめされ、画面越しでは生きているかも怪しい。
そんな中、未だ倒れる事なく交戦している二組。
一夏と楯無の前に並ぶ、二体の騎士。
片やつい数十分前にアリーナの防壁を突破して現れた正体不明の無人機と思しき赤銅色のIS。
もう一つは、見慣れた大盾を悠然と振り回す、白いIS。
それが上代 結が持っていた小型盾の集合体だと理解するのに時間は掛からなかった。
そして、少し離れたところで二組の戦いを傍観している骸のISが一機。
いつか見た上代 結の機体である【ファントム】本来の姿と酷似しているものの、変形している装甲や一夏達と交戦している無人機らを見るに恐らく彼奴の能力が操作しているのだろう。
全く同じ状況で千冬は苦い顔を浮かべる。
上着のポケットの中に潜ませているグリップスイッチの硬い感触が言葉にできない程気持ち悪く、唇をキツく噛み締めていた。
今すぐにでも駆け出して一夏を助けたい。
内なる激情に駆られそうな思いを無理矢理踏みつけ、今課されている学園の、生徒達の責任者としての立場が、責務が自分の肩を掴んで離さない。
しかも今で出たところで、あの激化したIS相手には生身では太刀打ちもできないだろう。一夏との特訓によって潰された【暮桜】は大破。修復にはまだまだ時間が掛かる。
つまり今の自分に出来る事はここで大人しく眺めている事だけ。
募る憤りを静かに燃やし、千冬は画面を見上げる。
「一夏、頼んだ……」
◇
もう何度目かもわからなくなった切りかかり。
「はァ……ッ、はァ……ッ!! ラァ……ッ!!!」
アリーナ中に散々響かせた甲高い金属音が一際大きく耳を劈き、腕が緩みそうになって慌てて刀を握り直す。
大盾によって弾かれた自分の剣撃。そしてお返しに繰り出された盾の無人機による回し蹴りを左手の籠手で受け、姿勢を崩される。
よろけた一夏を無人機は大盾で更に追撃を食らわせ、膝を折ったところで無操作に蹴り飛ばした。
「ぐぅ……ッ!」
『…………』
無人機【ゴーレムⅡ】は自分で蹴り飛ばした一夏の前まで歩き、目の前で盾を起こして立ち塞がる。
主である骸の下までは行かさないと言わんばかりに、冷徹に見下してくる。
まるで結と戦ってるみたいだ……。
ゴーレムⅡは全身が小型盾で構成された無人機だが、その動きはこれまで相手取った無人機どもとは違ってさながら有人機のようなしなやかさで動き、行動している。
更に盾を主体とした攻防一体の動きは普段の少年と全く同じ戦い方。
彼の精神がそのまま宿っているような錯覚さえ起こる気味の悪さが、余計に攻撃を躊躇わせ、意思を鈍らせてくる。
それでも、俺は……。
目前に差し迫った黒い感情が、事実が、選択肢が、俺の手足を絡めとって重くのしかかる。
昔握らされた『人を殺す為の道具』が今自分の手にあるのだと再認識させられ、嫌でも重大な局面に立たされている事を実感する。
一夏は我武者羅に立ち上がり、切りかかる。
「オォォ────ッッ!!!!」
雄叫びを上げ、己の体を奮起させる。
それが虚勢だとしても、引き下がれないのだから。
◆
少し離れた場所で、楯無は大型ランスと蛇腹剣によって赤銅色の無人機を相手に立ち回っていた。
「ハァッ!!!」
ランスを携えて突進。だが鋭利な先端は無人機の巨大な腕によって防がれ、無人機にナイフでの反撃を許してしまう。ギラリと光るナイフを畳んだ蛇腹剣で弾き、再度広げた鞭のよう刃をしならせ、頭を斬り落とすつもりで剣を振るう。
「チッ……」
寸のところで避けた無人機。しかし致命傷を免れた程度なようで、肩部スラスター兼レーザー砲の一部を斬り落とすには至ったようだ。
半壊した肩部ユニットを撫で、恨めしそうに此方を睨む姿はまさに人間そのもの。さっきまで相手にしていた同型の無人機とは比べ物にならないほど人間臭く、さながら血が通った誰かが操縦しているようでもあった。
ただでさえパワー負けしている性能差。技能で補ってやっと勝てる相手だったのが、その差まで埋められては勝ち筋すら見えない。
しかも、恐らくだが相手は手加減をしてこの程度だと言う事。
それもそのはず。今はあの骸の機体によって全員がISとのシンクロ率を大幅に下げられた状態。
元々マニュアル操作での運用を想定したチューニングを施している機体だった事もあり、シンクロ率を落とされた反動は他の専用機に比べて著しく、自分も単一仕様が発動できない状態にまで陥れられ、【ミステリアス・レイディ】の象徴であった水のヴェールが展開できない状態だ。
それなのに今まで倒されずに立っていられるのは単純に相手が手を抜いているからに他ならない。
ならば、その意表を突いてやる。
構えたランスの根本に、アクア・ヴェールを操る為のナノマシンを貯蔵していたタンクを連結させる。最早水も操れない塵芥になりかけていたナノマシン。それらを全てガトリング砲を備えたランスに充填させ、準備を整える。
「一夏君。後は任せたから」
「は、楯無さん!? 何する気ですか!」
飛び出した楯無は蛇腹剣で無人機を牽制し、より脅威となり得る巨腕と肩の砲門前を避けながら接近。一気に近づいたところでランスを横一文字に薙ぎ払い、無人機の反撃も纏めて吹き飛ばす。
「逃さないわよ」
吹き飛ばされた無人機が地面を跳ねながら体勢を起こした時、支線の先では蛇腹剣の刃を螺旋状に巻き、刺突の構えで引き絞る楯無の姿が映っていた。
危機を察した無人機が、楯無の間合いから逃げ出そうとしたが、それよりも疾く楯無は引き絞った蛇腹剣の刺突を放ち、連なった刃はスクリューを描きながら無人機の腹を穿いた。
「まだまだぁ!!!」
楯無はさらに、伸び切った蛇腹剣の刃を巻き戻し、自身を急接近させながら無人機の懐に飛び込み、備えていたランスをガツンと大きな音を立てて突き立てた。
『ッ……!!』
根深く突き刺さったランスは無人機の腕を持ってしてもなかなか引き抜けない。
藻掻くゴーレムは身体に突き立てられた二本の剣のせいで無理矢理身動きを封じられ、楯無への反撃も窮地からの脱出も困難になっていた。
身じろぎすら許さず、楯無の猛攻は止まらない。
「爆ぜなさい」
ゴーレムに突き立てられたランス【蒼流旋】の先端に備わったガトリング砲をゼロ距離で浴びせ、機体内部に無数の弾丸を無操作に撒き散らされる。関節からバレルフラッシュの光が漏れ、バラバラと弾が撃ち込まれる度にゴーレムは痙攣しながら内部から膨れ上がる。
広げたスクラップ塊のように膨張していくゴーレムは、すでに事切れたかと思われた。
『───ッ!!』
だが、ビクンと頭部センサーが起き上がり、楯無の顔を視認するやいなや垂れ下がっていた右腕だけを振り上げ、ブレードを展開し、自身の懐に潜り込んでいた楯無へ向けて真っ直ぐに振り下ろした。
「この──ッ!」
ゼロ距離での一撃を楯無は蛇腹剣から離した腕で受け止め、しかしISの装甲に深く刺さったブレードは簡単には抜けない。
ファントムが操っていたと言えど所詮は無人機。痛みなど無く死にもしない人形をどれだけ嬲っても、事切れるまで立ち上がるような存在に形を留めるような戦い方では決着がつかない。
「楯無さん!!」
加勢に入ろうとした一夏だが、目の前に立ち憚るのはガーディアンによく似たゴーレム。それは重厚な見た目からは想像が付かないほど機敏な身のこなしで楯無のもとへ駆け付けようとした一夏の前に回り込み、牽制も簡単に捌いて移動を阻止してくる。
「クソ、退いてくれ!!」
焦燥感に駆られている一夏を尻目に、楯無は冷静に今の状況を観察していた。
出せる全力は既に出し切り、満身創痍の今ではここまでか。
せめて一発でも、あの子にお見舞いしておきたかったな……。
そんな事を思い馳せながら、楯無は使いたくなかった奥の手を発動する。ランスのスイッチを押し、槍に貯蔵しておいたナノマシンを無人機の抉れた腹に全てを注ぎ込む。
『ッ!?』
機体装甲から内部の先に至るまで、またたく間に侵食されていく無人機は何が起こっているのか認識するよりも早く、結末は訪れる。
窮地だと知りつつ、悪手だと思いつつ、それでも楯無は不敵な笑みを浮かべ、無人機の事を下から睨みつけながら爆発に自分諸共呑み込まれた。
橙色の光が無人機を中心に破裂する。
一瞬遅れて爆音が新しい辺りの空気を叩き広げて風圧に押されてよろける。騒音が収まってあたりを見回すと無人機は木端微塵に弾け、爆風をまともに喰らった楯無は近くで転がっていた。
「『九匹』」
ゴーレムⅡに阻まれ、駆け付ける事もできなかった一夏はただ見ているだけだった。
「『あ~あ、せっかくの
いよいよたった一人になるまで残された一夏は、胸の内を削られるような焦燥感に駆られる。
動悸が激しく、縺れるような荒い呼吸で躰が震え、全身から脂汗が止まらない。
駄目だ、戦わなきゃ、倒さなきゃいけない。
今ここでアイツを、結を止めなければ、ファントムを倒さなければ、きっともっと大きな被害になる。
でもそれでいいのか?
アイツを倒してはい終わりでいいのか?
俺は結を、みんなを守りたくて強くなったんだろう?
それなのに結を倒していいのか?
守ると誓った相手を傷つけるのか?
迷いが判断を鈍らせる。
震えて力が抜ける掌を何度も握り直し、迷いを放棄する。考えないように努める。だがそれが何か間違っているようで、心の何処かで後ろ髪を引かれるような後味の悪い感情に足を掴まれる。
その気持ちは無意識に型に現れ、気づかぬうちに一夏は守りの姿勢を取っていた。
「ッ!!」
接近するゴーレムⅡ。
低い体勢から上に突き上げるような籠手のアッパーカットを半歩下がって躱し、続けて繰り出される大盾の薙ぎ払いを『雪片弐型』で弾く。重たい一撃で姿勢が崩れそうになるのを気合で踏ん張り、よろけたところに飛び込んできた足蹴りを左手の『雪羅』で受け止めた。
なんて威力だ……!
圧倒的な質量差で押し負け、くらりと目眩がする。
そんな無防備を晒してしまっては格好の的。ゴーレムⅡは大盾を勢い良く一夏へ投げつけ、その影に隠れながらドンと一発踏込みを入れて、低姿勢の状態からロケットのように飛びついてきた。
「なっ……!?」
剣で大盾を横に弾くと眼前まで迫っていたゴーレムⅡ。振りかぶっていた拳を認識したのが早いか、繰り出される拳打を寸のところで回避する。だがゴーレムⅡは攻撃の手を止めず、足を回して空中制御を取り、その回転の勢いを活かして回し蹴りに繋げてくる。
蹴りは一発で終わらず、続けてもう一発、もう片方の足で繰り出され、それも防いだ一夏の腕を足掛けにして一夏の頭上まで駆け上がり、鉄塊のような盾の脚を真っ直ぐに持ち上げ、ギロチンのような踵落としを一直線に振り下ろす。
「グゥぅッ……!!」
踵落としをまともに喰らってしまった一夏は置き去りにしかけた意識を取り戻すより先に、背中から伝わる大きな衝撃に潰され、アリーナのグラウンドに深々とめり込んだ。ゴーレムⅡが更に一回転して二発目の踵落としを一夏へぶつけたのだ。
「がッ……グふッ……」
体中を駆け抜けた衝撃で身動きはおろか呼吸すらまともにできない一夏は、明滅する思考で何をされたのかも理解できていなかった。ただ攻撃を受け、自分が不利なんだとおぼろげに感じるのみだった。
ゴーレムⅡは伸びている一夏の上に降り立ち、黒髪の頭を無造作に踏みつける。
「『十匹』」
やり切ったような、ノルマを熟した後の無力感を感じさせるような声でファントムはつぶやく。
だがそれに反し、一夏は覚醒した意識で身体に鞭打ち、背面スラスターの噴射口をゴーレムⅡへ向けて一斉にブーストをかける。
『ッ!』
高熱の噴射熱がゴーレムⅡのマスクを焦がす。
スラスターの熱に堪らず吹き飛ばされたゴーレムⅡは弧を描いて吹き飛び、四足獣のように両手足で降り立ち、センサーアイを一夏へ向けて威嚇するように身構える。
地面へめり込んでいた一夏は手足を這わして勢いを横方向へずらし、半ば弾かれるように抉れた地面の窪みから抜け出して膝立ちのままゴーレムⅡへと向き直る。
顔にへばり付く泥を拭い、口の中を噛んでしまって溜まった血反吐を吐き捨てて刀を構え直す。
「まだ……終わって、ない……!!」
「『へェ……』」
這いつくばるように起き上がる一夏。
ゴーレムⅢからの連戦に継ぐ連戦により、エネルギーも底を尽きかけ、体力も相当に消耗している。非常事態という今の状況からのストレスで更に疲弊感が増し、一夏は最早気力だけで立っている状況だった。
「『今度はオレが相手をしてやるよ』」
ファントムが薄ら笑いを浮かべて呟く。骸が腕を振るうとゴーレムⅡは途端に子機のシールドビットへ分解され、盾達はファントムの司令に従うように一斉に躯へ収束し、盾達はそれぞれ籠手や脛当、肩当、草摺、胸当てへと変形し、先のゴーレムⅡのような形態を、ファントムに着られるように形成する。
小型盾の鎧を撫でて、茨を伸ばして手繰り寄せたガーディアンの仮面を掴み、自分の顔に被せる。
「『ン〜。着慣れたモノは馴染むな〜。気に食わんが』」
ファントムはそんな事を宣いながら、両拳をぶつけて笑う。
駄目だ、慎重になり過ぎるな。臆病になるな。
挑まなければ勝てない、戦わなきゃいけないんだ……!
「『来ないのか? じゃあオレから行くぞ』」
空気を叩きつけるような爆音を響かせた超加速。
ファントムは全身の盾の鎧に備わるスラスターの全てを噴射し、一直線に一夏へ向かって飛びつく。
「っ……!」
刹那の攻撃を見切った一夏は、まだ目眩の残る頭でなんとか防御姿勢を取る。
加速の乗ったフルスイングの拳。構えた左腕諸共押し込まれて吹き飛びそうになるのを必死に堪える。骨にまで響くような打撃は暴走車が衝突したような甲高い金属音を響かせて、ついに一夏を防御ごと殴り飛ばす。
貫かれるような腕の痺れを振り払い、殴られた慣性を無理矢理受け流してその勢いのまま右回転。ステップを踏みながら横薙ぎに剣を振る。
「グっ……ゼぇアァッ!!!」
苦し紛れの一撃。だがファントムはなんの驚きも見せず、自ら一夏へ距離を詰めて間合いに潜り、『零落白夜』の発動範囲外である刃の根本にわざとぶつかって攻撃を止めた。
「っざけんな……!」
バイザー越しに映るファントムの眼がニヤリと嗤う。『雪片弐型』の刀身では近すぎる間合いを離すために後退を選んだ一夏。しかしそれも許さんと、ファントムは一夏と同じ速さで進行し、傾いている一夏の上半身へ向けて掌底を当てる。
「くッ!」
「『へへェ』」
飛行中に崩された体幹は簡単に地面に向かって倒れ、背部スラスターごと地面に擦り付けられる一夏。そこへ拳を叩き落とそうとしていた。
しかし一夏は迫っていたファントムに足をかけて蹴り上げ、巴投げの要領で骸の機体を投げ飛ばす。
「『おォっ!?』」
「そう何度もやらせねぇよ!!」
投げ飛ばされたファントムは宙返りをしながら四肢を地面につけて着地し、一夏はすぐさま起き上がって刀を構える。
「『そうでなくちゃァなァア!!』」
「クッ……!」
ファントムの急接近に身構える一夏。
だが、予想に反して後ろから受けた灼けるような衝撃に泡を食らう。
「ぐぉッ!?」
振り向くと、そこには『ブルー・ティアーズ』の専用武装、BT兵装のライフルビットが銃口から硝煙を上げて漂っていた。
武装の略奪……!?
ここに来て今更使ってきやがった……!
ライフルの不意打ちに気を取られてしまった事を悔やみながら視線を前に戻すと、そこにはもう誰もいない。移動を許してしまったと更に唇を噛み、ハイパーセンサーで探知をしたら、ファントムは頭上にいた。
「!?」
感知したと同時に頭上を見上げる一夏。ファントムは両手にISの基本武装の一つである携行ナイフを逆手に取り、自由落下している最中だった。
一夏は横転しながらそれを回避し、顔を上げればまたファントムはそこから姿を消している。音もなくその場から消える様はさながら亡霊のようだ。そんな事を考えてゾクリと震える一夏だが、そんな事を考える暇もなく次の攻撃が襲ってくる。
「ラァッ!!」
左手後方から飛んできた青龍刀の投擲を刀で叩き落とし、右前方から飛来する双刃を躱し、後方から乱射されたガルムの一斉掃射を展開したバリアで受け止める。
倒された面々の武器を我が物顔で使用しながら多方面から矢継ぎ早に攻撃を仕掛けてくるファントム。
時として自分が使いながら、はたまた分離したシールドビットの子機によって操作しながら、単機で小隊を生み出し、全方位から一夏を嬲り殺しにしていた。
擬似的に行われる一対多の包囲戦。
多種多様な武器や兵装が絶え間なく飛び交い、その場での停滞を余儀なくされる。致命傷を避け、一寸の隙を見逃さないよう意識はファントムの方へ向けながら、ハイパーセンサーによる感知で降り掛かる弾丸と光弾と刃の嵐を凌ぐ一夏。
それぞれ単機で稼働させ、それぞれに異なる武装を使用させるにもやはり限界があるだろう。ファントム自身は近接戦闘は避け、まだ使える武装の選定と援護射撃を主として立ち回っている。
「ココだッ!!」
そのおかげで、激しい包囲網も一定の隙が生まれている事に気がついた一夏は、一瞬の隙間を掻い潜って自分を囲う包囲網から抜け出した。
瞬時加速によって追撃を凌ぐ。段階加速で更にヒット達の狙いを撹乱させ、照準の中にさえ収まることを拒む。
狙うはファントム。
超加速による速度を乗せた居合斬りを放つ為、それを確実に当てる為、多方面に飛翔しながら視線の撹乱を狙い、空中から地上に立っているファントムへ向かって一筋の道を見定める。
ここだと胸の内で叫ぶ。
横一文字に構えた『雪片弐型』を目一杯引き絞り、背部に備わる四基のスラスター全てによる爆発的な瞬時加速で、空気の壁を叩き割りながら飛び出した。
一夏を見つけたファントムはラファールから奪ったパイルバンカーを打たんと構えていたが、それよりも一夏が早かった。
だが。
『「死にたくない!! 助けてお兄ちゃん!!!」』
「──────ッ………」
居合斬りを放とうとした刹那、助けを乞う結の声に鈍ってしまった一夏の心は太刀筋を歪ませ、急ブレーキを踏んでしまう。
攻撃が不発に終わった一夏は完全な無防備姿をファントムの目の前に晒してしまい、待ってましたと言わんばかりにニヤリと嗤ったファントムは、構えていたパイルバンカーの一撃で一夏を躊躇いも無く殴り飛ばした。
ガンッ! と大きな音を立てて超短射程の射出杭は咄嗟に構えていた一夏のガードごと彼を吹き飛ばす。
「『ギャアアーーーッハハハハハハハハ!!!!!! まァァーた引っ掛かったなぁぁぁ〜〜〜〜!!!』」
、
投げ捨てられた空き缶の様に無様に転がっていった一夏を眺めながら、心底おかしく笑い飛ばすファントムは、持っていたパイルバンカーを放り投げ、腹を抱えて笑い転げている。
しかしそれでも骸の猛攻は止まらない。仰向けの姿勢から飛び上がり、四足姿勢で一夏に向かって飛び出し、鳥か獣の様な速さで突撃してくる。
それを見た一夏が『雪片』で迎撃しようとした刹那、ファントムは自らの身体から盾の鎧を分離させ、個々はシールドに戻りながら拡散して刀との衝突を避けた。
「な……!」
それぞれのシールドは空中を機敏に旋回しながら一夏に向かって再度突撃を図っている。
一枚、複数枚、前後左右上下から立体的に、おびただしい数の小型盾が無数に一夏に向かって飛んでくる。それを一夏は右手の刀『雪片弐型』と左腕の『雪羅』によって迎撃。躱し、弾き、いなして、出来る限りダメージにしないように努めるが、それも虚しく一発もらえば隙が生まれ、そこを突くように別の一撃が辺り、消して弱くない盾の攻撃はじわじわと一夏を追い詰め、すり潰すように、丹念に叩きつける。
やがて一夏も、まわりに転がる皆の様に、迎撃もやむなく膝をつく。捌き切れなかった打撃の連打が徐々に、機体を屠り、喰らいついていた執念を丁寧に丁寧に叩き割る。
やがて盾の雨は止む。
ついに静かになったアリーナには、ただ一人、骸の機体だけが立ち尽くしていた。
◆
心を打ち砕かれた簪はただ傍観していた。
打ち負かされた生徒達に混ざって、尚も戦いを挑んだ姉と一夏の背中を呆然と眺めていた。
しかし、奮闘も虚しく楯無は自爆によって倒れ、最後まで残されていた一夏すらも少年の悪辣とすら思える不意打ち騙し討ちの数々に負かされ、たった今手酷い一撃を喰らって自分のやや後方まで飛んできた。
もう敵いっこないよ、諦めようよ……。
とうに心は折れていた簪に敵対の意志は無く、黙って見ている事しか出来ない。
戦意喪失してしまった彼女はもう戦えなかった。
あれだけの猛攻を一身に受けながら、一夏は尚も立ち上がろうとしていた。その執念は何なのか、簪にはもはやわからなくなっていた。
もう何やったって無駄なのに、この人はなんで……。
たったそれだけ、何かが気になって簪は垂れる前髪の隙間から、履きを引きずりながら立ち上がる一夏の横顔を見上げ、ぎゅっ、と息を呑む。
開いた瞳孔は一点に少年を捉え、血の気の引いた顔つきは真っ青に染まる。
全身至る所に出来た大小様々な傷から流れていた血は既に固まり、筋肉が膨張しそうなほどの脈動を見せている。
力任せに刀を握り締め、両手で大きさの違う握り拳を作り、大股を開いて亡霊を睨む様は人とは思えない形相だった。
そこには一匹の、鬼の姿があった。
お久しぶりです。
駄目でした。纏まらない。
次、次こそは……!