IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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九十五話 鼠と猫

「これより状況を説明する」

 

 場所はIS学園特別地下区画、オペレーションルーム。

 

 本来であれば生徒は誰一人入る事が許されない場所に集められた現在の学園戦力である専用気持ちの全員、箒ら五人、更識姉妹と二、三年の二人が揃っていた。

 

 その面々の前に立つのは千冬と真耶。

 このオペレーションルームは完全独立した電源で稼働されているらしく、旧式の投影ディスプレイには現在地と学園マップが表示されていた。

 

「現在学園は全システムがダウンしており、何らかの電子攻撃、つまりハッキングを受けていると断定します」

 

 普段と打って変わって堅い物言いの真耶。それだけこの状況がかなりの緊急事態なのだと言外に伝わってくる。

 

「今の所生徒に問題はない。一部の防壁が降ろされ閉じ込められてはいるが、命に別状はない」

 

 質問はあるか、と千冬は全体に問いかける。

 

「IS学園は独立したシステムで動いていると聞いていましたが、それがハッキングされるという事はあるのでしょうか?」

「それは問題ではない。問題は現状攻撃を受けている事実だ」

 

 ラウラの問いに千冬が答える。

 現状優先すべきは問題の追及ではなく解決が先決だと述べる。

 

「敵の目的は?」

「それがわかれば苦労はない」

 

 ダリルの質問に答えかねた千冬は少し困ったように口を開き、問答を終え次の話に移った。

 

「更識姉には学園の護衛に付いてもらう。ケイシー、サファイアは一般生徒の救助にあたれ」

「篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんはアクセスルームに移動、そこでISコアネットワーク経由で電脳ダイヴをしてもらいます。更識簪さんはそのバックアップについてください」

 

 千冬と真耶の説明が告げられ、その内容を聞いていた彼女達は静かなものだった。

 

「……えっ!?」

「電脳ダイヴって、あの!?」

 

「理論上可能なのは皆さんご存知ですよね? IS搭乗者保護神経バイパスから電脳世界へと仮想可視化して侵入できる……あれは実際に可能で、アラスカ条約で制限こそされていますが今回は特例事項のケース4に該当する事態なので許可されます」

 

 真耶の説明を聞かされてもあまりピンと来ていない一年生達。

 

「安心しろ、危険性はない。だが同時にメリットもない。どんなコンピュータであれ、人間が電脳ダイヴするよりソフトかハードをいじった方が早い」

 

 処理速度で考えれば機械の方が速い。そして接続や切断も容易である事から殆どの場合、人間の脳でハッキングを行うという奇妙な行動の意図すら読めない。

 

「が、今回敵はシステム面からの侵入により学園へ攻撃していると判明。ハッキングによりプログラムでの防壁はほぼ機能しておらず、電脳ダイヴでの人力による排除しか手がない」

 

 独自システムであるが故、全機能を掌握されてしまうと手も足も出なくなる。が、それ以上の被害が出ないのもまた事実である。想定していなかった敵の能力や規模が掴めない以上、相手の土俵に上がる他ない。

 

「電脳ダイヴ中は……本人が無防備になるので、危険が伴いますので……」

「この状況下だ。嫌ならば辞退も認める」

 

 簪の説明に、千冬がせめてもの提案をしめしてくれる。

 ISを経由した電脳ダイヴをするのであれば専用機からの侵入が容易てあるのは確かだ。そう言った理由で箒達を選抜したが、あくまで彼女達は学園の生徒である。

 ラウラなどの軍人も居るが、この緊急事態に参戦させる言い訳にはならない。

 

 だが、彼女達は応える。

 

「いいえ、やります」

「無論ですわ」

「やってやろうじゃない!」

「ベストを尽くしますよ」

「命令ならば遂行するまで」

 

 頼もしさを覚える言葉に千冬はニヤリと笑みを浮かべ、パンッと手を叩いて指示を轟かせる。

 

「それでは各自持ち場に着け! 解散!」

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 沢の小岩に腰掛け、一夏とヒカルノは並んで釣り糸を垂らす。

 

 何を考えているのかわからない。そんな印象が強いヒカルノと隣合わせで居る現状に若干の戸惑いと気まずさを感じながらどうしたものかと一人考える。

 

「一夏くんはISソフトウェアについて何処まで知っているのかな?」

「えぇっと、ISコアごとに設定されているもので、非限定情報集積によって独自の進化を遂げるのと、あとは先天的な好みとか、そういうのがあるってことくらいは……」

 

 突然の質問に驚きつつ、仕事柄みの質問だと妙な関心を懐きながら一夏は必死に暗記した教科書の内容を繰る。

 

「フンフン、模範解答だね。ちなみに非限定情報集積というのはコア・ネットワークに接続する際に用いられる特殊権限だね。通常のネットワークに使われたらハッキングし放題だ」

 

 ハッキングという言葉に多少の引っ掛かりを覚える一夏だが、そんな怪訝も他所にヒカルノは更に質問を問い掛ける。

 ファントムが他の機体を奪ったり武装を許可もなく扱える理由の末端がそこにあるのだろう。

 いや、それだけではない。もしも期待と常にリンクしている結の脳がそのコア・ネットワークと常時繋がっているのだとしたら、あの少年の脳に掛かる負荷はいったいどれどけのものになるのか……?

 

 

「ではコア・ネットワークとは?」

「えっと、元々は宇宙活動を想定したISの、星間通信プロトコルで、すべてのISが繋がる電脳世界ですよね?」

「そ~そ~。なんだよ勤勉だな〜。もう少し不真面目でもいいのに」

「それは駄目でしょ」

 

 真面目な意見を述べる一夏にぶすーっとわかりやすく不貞腐れるヒカルノ。

 

「それじゃあそのネットワークにおける情報交換、あるいはデータバックアップなんて言うのも存在する事は知ってる?」

「え?」

「おやおや、知らないのかい。例えば君の『白式』が織斑千冬専用機『暮桜』から単一仕様の情報を継承したり、白式と同じコアを持っていた初代IS『白騎士』の武装を再現したりとか、ね」

「…………」

 

 ヒカルノは怪しい笑みを浮かべながらじっと少年の顔を見る。

 しかしそれは先程の剽軽なものではなく、何処か捕食者地味た不気味な笑顔だった。

 

 恐らく先日の戦闘データを観たのだろう。

 姉の専用機と同じ単一仕様【零落白夜】をそのまま継承しているのは、少なからず篠ノ之束博士の思惑を感じるが、それ以上にIS同士の繋がりが強いらしい。

 更にファースト・インフィニット・ストラトスと呼称される『白騎士』と同じ武装を使えたのは、コア・ネットワークに保存されていた過去のデータから拝借された代物だったのか。

 

 殆どがむしゃらで自分でも何をしていたのかよくわかっていない一夏としては、あの時の詳細や機能の理解など一つもわからないので、黙りこくるしかない。

 

「ところで君の竿が撓っているが」

「あっ!」

 

 言われてようやく気がついた一夏は慌てて竿を引き上げるものの、引っ掛かった獲物は仕掛けが外れて逃げられてしまった。

 

「とまぁ、私はそんなISの調教をやっているのだが」

「調教、ですか」

 

 あまり聞き慣れない単語に首を傾げる一夏。

 

「そう、射撃が苦手なISを説得してみたり、使用できるよう訓練してみたり、まさに調教さ」

 

 これが難しいのだがね、とニヒルな空笑いを浮かべるヒカルノ。そんな彼女の竿が突然強く撓り、ピンと糸が張る。

 

「お、私も来た」

 

 そう言いながらヒカルノも竿を撓らせて振り上げると、川魚にしては大きな魚が釣り上がった。

 

「お見事です」

「フフン、チョロいぜ」

 

 釣り上がった魚を掲げながら、ヒカルノは胸を反らし、自前の大きな双峰を重たそうに揺らす。

 咄嗟に視線を逸らした一夏を心底面白そうに見つめながら、魚籠に魚を入れて笑う。

 

「男の子だねぇ」

「ちが……スミマセン……」

「結構結構。生命力は大事さね」

 

 内心箒に謝りながら、一夏は羞恥に耐えるのだった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 暗い通路の傍らで、漆黒の戦闘用スーツに身を包む千冬。簡易ワイヤーアンカーを手首に巻き、ブーツに足を通す。強化外骨格のアタッチメントを被るように纏い、そして腰に備わっているホルダーへ、壁に掛けられていた片刃の対IS用ブレード───通常よりも更に細く、カタナのような形をしたそれ──を腰のホルダーへ左右三対、系六本を束ねて装備する。

 

 一通りの装備品を取り付け終わった後、咥えていた髪紐を取り、腰まで届く長い黒髪を片手でぐい、と束ねて縛り上げる。

 

「この髪型も久しぶりだな」

 

 小型無線機を搭載したチンガードヘッドギアを被り、雑音の激しい通話で真耶と連絡を取りながら更に二振りのブレードを手に取り、足元の灯りだけが列を成して灯る通路を進む。

 

「さて、行くか」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 簡易ブリーフィングが終了し、各機材の運び出しとその他諸々の準備に追われながら真耶は結の入っている棺をある場所へと運び込んでいた。

 

 そこは迷宮のような学園地下の奥深く、知るものは学園関係者ども少いと言われる、【暮桜】の保管場所であった。

 

 第二回モンドグロッソの決勝戦で不戦敗を喫した機体は、ある私闘による処罰としてコアを抜かれ、機体は学園内に封印される措置を取られた。

 だがそれも擬似コアの運用試験という名目で限定的に運用はされたものの、【暮桜】に組み込まれていたコア自体は今もこの学園の何処かに凍結して保管されているらしい。

 

 その場所は真耶にも知らされておらず、知るのは学園長か織斑千冬の二人ぐらいだろう。

 

 先程千冬から連絡があり、向こうは既に戦闘準備を終えて出撃したらしい。

 自分も早く向かわなくては……とは言いつつ機体の準備は出来ており、後は現地で乗り込むだけなのだが。

 

 ともかく急がねばなるまい。

 真耶はISハンガーごと巨大な棺を【暮桜】の前に降ろし、外付けしたモニターからバイタルサインが正常値である事を確認する。

 

「行ってきますね、結ちゃん」

 

 作り笑いで優しく声を掛け、棺の硬い肌を撫でる。

 すぐに踵を返して部屋を後にした真耶。

 一粒の涙を振り払い、履いたシューズでギュッと床を踏み締めながら一歩歩き出す。

 両頬をパンと叩き、拳を握って決意を固める。

 

 山田真耶、行きます!

 

 

 





 どうも屍モドキです。
 着実に進んでます。次から戦闘シーン書けます。嬉しい。

 結達もすぐにお出しできたら良いなと思います。
 感想評価、ありましたらお願いします。

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