よろしくお願いします。
「あやや!号外ですよー!号外ー!」
幻想郷最速のブン屋、射命丸文は新聞をばら撒きながら幻想郷の空を飛び回る。
季節は秋、肌寒くなってくるが、ブン屋は年中無休なのである。
彼女の新聞、『文々。新聞』はかつては特定の人物(暇人。例:紅魔館の門番)にしかまともに読む人の居ない、お世辞にも人気がある新聞では無かった。
しかし、彼女の新聞は思わぬ形で人気を獲得することとなる。
その皮切りとなった記事は『射命丸文の異変密着レポート』である。
つまり、彼女は『精霊異変』で起こった事実と自分が感じた事を記事にしたのだ。
それは、人妖共に興味のある記事だったのか彼女の新聞は最初に印刷した部数では足りなくなり、うちにもくれ!という声も多く頂いた。
それから、彼女の新聞は幻想郷の名物新聞として皆に認められる新聞となった。
今回の文々。新聞号外の記事は
『精霊異変にて幻想郷を救った幻想郷の英雄、日下部真言の失踪!?』というものであった。
日下部真言ーーー彼は外の世界から幻想郷にやって来た人間であり、約一年半前の異変解決の宴会の後、姿を消した。
彼と関わりのある人間や妖怪達が捜索をしたが見つからず、文の新聞によって彼の失踪について皆に知ってもらい、彼の捜索の足がかりにしようとしたのだ。
「あややや、でも、こういう依頼をいただけるようになるとは、私の新聞も有名になったもんですね〜にゅふふふふふ〜♪」
文は鼻唄交じりに空を飛んで行く。
そんな彼女が配る新聞を受け取った人物が一人、それは、ピンク髪に二つのお団子をつけ、右腕全体を包帯でグルグル巻にしている仙人ーーー茨木華扇。
彼女は大きな紙袋を手にして
「そろそろ、頃合いかしらね」
とニヤリと笑って見せると家路を急ぐのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは茨木華扇の屋敷。
純和風の外観の屋敷で、妖怪の山にあり、茨木華扇がそこで暮らしている。
そこには、華扇しか住んでいないはずだったのだが、ここ一年半の間、住み込みで仙人の修行をしている人間がいた。
「ただいまー」
「お帰りなさい、華扇師匠。」
華扇が家に帰ってくると、それを出迎える。
彼女を出迎えたのは
「今日もしっかり修行していましたか?真言。」
幻想郷の英雄、日下部真言その人であった。
彼は異変の後、直ぐに仙人である華扇の噂を聞きつけ彼女に弟子入りしたのであった。
それから、一年半の間、彼は一度も茨木華扇の屋敷から出ていない。
彼女の家は正確な経路を辿らなければ着くことは出来ない、隠れるにはうってつけの場所であった。
何故、彼が隠れる必要があったのかと言うと、彼は精霊異変解決の宴会にて、参加者全員の前で全裸を晒した可能性があるからである。
まあ、他にも理由があるのだが。
宴会の際、彼は一応未成年なので、酒を飲んだ事が無く、直ぐに泥酔して錯乱し、目を覚ましたら会場の中心で全裸で寝ていた。
「もう、お嫁にいけない!!!」
「真言?発作?病院行く?」
真言はおよよよよと、両手で目を抑え、錯乱する。
彼が錯乱するのはいつもの事なので、華扇は呆れた顔でさりげなくひどい事を言う。
〈・・・・俺はその時起きてたから、真実を教えてやろうか?〉
「(や、やめろぉおおおおおおおお!!!)」
〈実はなーーー「AIBOOOOOOOOOOOOOO!!!」
「だからぁ!うるさいわよ!真言!」
「し、師匠!すいません!すいません!」
即土下座。
これは、真言が幻想郷生活で身につけた数少ない自衛スキルの一つ。
何も考えず、謝る→謝られた側は中々武力行使は出来ない→生存確立が上がる→明日の朝日を拝める→美味しいご飯が食べられる→彼女が出来る→人生薔薇色
「もういいわ」
「はいっ!ありがとうございます!」
真言は敬礼する。
師匠のお説教は長くて辛いのだ。
すると
「おやおや、お取り込み中かねえ?」
窓が開き、そこからサボリ魔船頭の死神、小野塚小町が顔を出した。
「すいませんでしたぁああああ!!!」
土下座再び。
真言は小町の姿を見るや否や土下座をした。
小町は妙に迫力のある土下座に頬を引きつらせるも、コミュニケーションをとろうと試みる。
「お、おいおい、一体あんた、あたいに何をしたんだい・・・・」
真言は小町に土下座の理由を話した。
一年半前、三途の川で彼女を気絶させ放置したことを大変申し訳なく思っていると。
〈まあ、あの時は異変の真っ最中だったし、仕方無かったけどな〉
「(・・・・そうだけども、とりあえず謝っとく、それだけ。)」
〈相棒・・・・お前にプライドはねえのかよ〉
「(犬に食わせた、まる。)」
「まあまあ、気にしてないから。
頭上げなよ人間。」
「はい」
真言は言われた通りに頭を上げる、すると
「あああああっ!!」
小町は物凄い驚き、懐から新聞を取り出し、写真を指差す。
一年半程時間が経っているので、髪が伸びているが、その顔は完全に一致していた。
「お、お前さん、こ、この記事にある幻想郷の英雄じゃないか!?」
「ええ、まあ、日下部真言です。
よろしくお願いします。」フカブカ-
「おっ、おう、あたいは小野塚小町、死神だよ。よろしく。」
真言は深々と頭を下げて自己紹介をするーー小町は若干引いていたが、
お互いに自己紹介を済ませる。
「で、貴女は何の用でここに来たのかしら?サボリ?サボリなの?」
華扇が意地悪な笑みを浮かべ、小町に尋ねる。
サボリと言われる事に対して小町は普段から言われ慣れているからか、怒らず、平然とした態度でその質問に答える。
「この記事だよ、この記事。
幻想郷の英雄失踪っ。
この件について四季様に聞いたら、お前さんの所に行けって言われたから、来たってわけだ。
まさか、本人が居るとは思わなかったけどね。」
四季様というのは、小町の上司で幻想郷の閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥの事である。
今は彼岸で黙々とルーティンワークを続けているらしい。
「(映姫様にはお世話になったからお礼を言っときたいんだよなあ・・・・)」
「で、あたいからも質問。
どうして幻想郷の英雄サマはここで一年半も隠れるように暮らしていたんだい?」
「英雄サマなんてやめてくださいよ。
僕はそんなご立派な人間じゃないですし。
隠れてた理由だって大した理由じゃないですから。」
「いやいや、謙遜しなくてもいいんだよ?
ほらほら、理由をとっとと吐いちゃいなよ、ねえ」
小町は身を乗り出して真言に尋ねる。
それを華扇は手で制して
「彼が隠れていた理由の一つは貴女のような人が現れるからよ。
幻想郷の英雄・・・・そんな立派な二つ名に文々。新聞の記事によって彼の噂は幻想郷中に広まっています。
この状況で真言が出歩いたら、人々は彼の元に殺到するでしょう、それを彼は良く思わないようです。
人を尊敬したり、崇めたりする人々には分からないでしょうが、崇められる人はそういう風に思われるのが苦手な場合もあるのでしょう。」
「ふ〜ん、そんなもんかねえ〜
あたいには良くわからないねえ〜」
小町は首を傾げながら、間の伸びた口調で言う。
華扇は小町の様子を見ると、微笑みを浮かべて
「貴女だって、貴女に会うためにたくさんの霊達が殺到してきたら嫌でしょう?」
「それは確かにやだねえ〜あたいの仕事も増えるし、休憩したいよ〜」
小町の仕事は死神の船頭。
死んだ幽霊を船に乗せ、三途の川を渡り彼岸へ渡らせる。
それが彼女の仕事だ。
幽霊の数が増えるとそれは、彼女が彼岸へ渡さなければならない。
つまり、彼女の仕事が必然的に増えると言う事だ。
普段から仕事に積極的でなく、サボり魔の小町としては嫌なことだろう。
小町はげんなりした表情で言う。
ところで、と小町は仕切り直しという具合に、真言に向き直る。
「真言、あんたはずっとここにいるつもりなのかい?外に出れないのは不便だろ?」
「確かに、不便ですが・・・・
僕も出来れば、久しぶりに外に出たいのですけどね。」
真言が言い終わると、華扇は両手をパンと合わせ、提案をする。
「もし、外に出ても人に追いかけられる事が無くなる方法があるとしたらどうする?真言。」
「そんな奇跡的な方法があるのなら・・・・お願いしたいですけど」
「はーい、承諾いただきましたー」
と華扇は嬉しそうな笑みを浮かべると、真言の後頭部を殴りつけた。
真言は不意の一撃で見事に気絶した。
「おいおい、急にどうして気絶させたんだい?」
「ふふ、それは後のお楽しみよ。
また明日の昼頃にここに来てください。
面白いものをお見せ出来ると思いますよ?」
「まあ、あんたの弟子だから好きにするといいさ。
じゃあ、また明日の昼頃来てみることにするよ、じゃあねー」
小町は窓から外に出ると、三途の川へ向かうのであった。
彼女が仕事をしにいったのか、サボリにいったのか、それは皆様のご想像にお任せします。
・・・・ちなみに、彼女は後に四季映姫にこってりしぼられるのであった。
「さて、そろそろ作業を開始しましょうかね。」
華扇は大きな紙袋の中からある物を取り出した。
そして、彼女は真言にそれを使う。
「うーん、やっぱり赤がいいかしらね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翌日、華扇の屋敷。
「にゃ、にゃんじゃこりゃあああああああああああああ!!!」
そこに響く真言の絶叫。
彼は洗面所の鏡で自分の姿を見て、その顔を驚愕に染めていた。
彼の目に映ったのは赤、赤、赤、真っ赤に染まった自分の髪。
そう、一年半の間伸ばしっぱなしで腰までかかる程長さの長髪になっていた彼の黒髪は、見事な赤髪に変わっていた。
「し、師匠!華扇師匠!!」
彼は華扇の部屋に向かってドタバタと走る。
すると、部屋から出てくる件の人物、茨木華扇。
「あら、おはよう。
真言。」
「はい、おはようございます!ーーーじゃなくって!!」
真言は自分の髪を指差して言う。
「これ、これですよ!
一体どういうことですか!これ!?」
「綺麗でしょう?」
「確かに綺麗・・・・じゃなくってぇええ!
どうして僕の髪を染めたんですか!?」
「貴方が外に出たいと言うから、変装の為ですよ、変装。」
「・・・・」
真言は怪訝な顔をした。
髪染めなんて幻想郷に入って来てたのか・・・・ああ、香霖堂か。
「(髪の色が変わっても顔は僕そのままだから、変装になってないと思うんだけど)」
〈俺はその赤髪好きだぜ。
イカすじゃねえか〉
「(・・・・他人事だからって)」
「とりあえず、朝食の用意をしますよ。
外に出る云々の話は朝食後にしましょう。」
華扇はそう言うと、足早に台所へ向かった。
「はぁい。」
真言は、なんかはぐらかされたような気がしてたが、お腹も減ったので、いい加減に返事をし、華扇を追いかけて台所へ向かうのであった。
華扇の屋敷は見た目だけでなく、中も純和風である。
幻想郷自体がそもそも、文明の進歩が外の世界に比べると遅いので、純和風の屋敷は珍しくないのだが、外の世界から来た真言には、全てが新鮮で逆に新しく感じられた。
この台所もその一つだ。
かまどに囲炉裏など、現代では僻地に住むような人や民族でしか使わないような調理器具があり、慣れるまで苦労したものだ。
薪で火をつけ、料理をしていく。
料理は基本真言が主に作っている。
華扇も料理は出来るのだが、彼女の生真面目な性格からか一手間加えまくるのである。
だから、華扇が料理をすると時間が掛かりすぎるのである。
彼女曰く、空腹を耐えるのも修行なんだとか。
彼女が一手間加えようとする前に止めつつ、真言は料理をする。
「ここでーーー」
「はいはい、次は魚を焼きますよー師匠ー」
「・・・・真言はどうして私に一手間を加えさせてくれないのですか?」
ジト目を真言に向ける華扇。
「・・・・・・・・師匠の料理は一手間加えなくても十分美味しいからですよ」
「っ、そう」
料理を褒められて嬉しいのか、華扇は照れてそっぽを向く。
「(本当に師匠の料理は美味しいんだけど、一手間加えさせてしまうといつまで経っても料理が終わらないからな〜初めてのここでの食事で5時間近く待たされて空腹に苦しんだのは今でも鮮明に覚えてるよ)」
そうして、朝食は完成する。
典型的なザ・和食。
鮭の塩焼きに味噌汁、米、冷奴、漬物など和食といえば、という料理が並んでいく。
「「いただきます」」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
食事を終え、ようやく本題に入る。
「で、師匠。
この髪は一体?」
「似合ってますよ。」
ニコニコと真言を見つめる華扇。
真言ははぁ、と溜息を一つ。
「これって、変装ですよね?
でも、髪染めただけじゃ変装にならないと思うんですけど・・・・」
「ふふっ、そうですね。
お昼頃には死神も来てしまうし、そろそろ完成させますかね。
真言、ついて来なさい。」
有無を言わさぬ様子の華扇。
真言はそんな彼女についていくしかなかった。
「で、ここで何をするんですか?」
連れてこられた部屋にあるのは、大きな鏡台。
華扇は椅子を持って来て真言にそこに座るように指示する。
借りてきた猫のように大人しく真言は椅子に座った。
「では、始めますよ。」
「師匠、一体何を、っ!?」
真言が言い終わる前に華扇は彼の頬にファンデーションを塗った。
「化粧ですよ、化粧。
真言、貴方は外に出る為に変装、いや、女装をしてもらうことにしました。
おお、やっぱり化粧ののりが良いですねー」
いつになく楽しそうな様子の華扇を見て、真言は目を閉じ、抵抗するのを止めた。
数分後、真言が目を開けるとそこには、美少女がいた。
鮮やかな赤髪ロングのストレートヘアー、きめ細かく美しい白い肌、吸い込まれそうな大きく黒い瞳ーーーそんな美少女が鏡の中で僕を見つめてくる。
ああ、これがゲームの画面から嫁が出てきて欲しいと思う人の気持ちなんだろうなと真言は思い、うっとりとした顔をした。
すると、鏡の美少女もうっとりとした顔をする。
笑顔を作る、美少女も笑顔に。
手を振る、美少女も手を振ってくれる。
変顔をする、美少女も変顔にーーーゴチン、華扇は真言にげんこつを落とした。
「いってえ!何するんですか!師匠!?」
「その美人の顔で変顔をしないでください」
「あ、やっぱりこれ僕なんですか・・・・ってえええええええええ!!!」
真言は鏡の中の自分を指差して大声で驚きを表現する。
華扇はやかましそうに耳を手でおさえた。
「(それにしても、これが僕かあ〜
信じられないな。
あと、美少女なのに男の制服着てるのがなんかシュールだ。)」
という真言の心の呟きをまるで聞こえていたかのように華扇は紙袋の中から二着の服を取り出す。
ブレザーとセーラー服
「永遠亭の兎と命蓮寺の舟幽霊からいただきました。
では、どちらにしますか?」
物凄い楽しそうな華扇。
「今の僕の制服のままじゃダメなんですかねえ・・・・」
「ダメです」
「だけど・・・・」
「ダメ」
「でも」
「ダメ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃあ、ブレザーで」
「はい」
華扇から手渡される白のブラウスとワインレッドのブレザーにピンクの短めのスカート。
彼女は早く真言のブレザー姿が見たくてワクワクしているのか、凄い良い笑顔だった、逆に怖い。
「き、着替えますから出て行って下さい!」
「?私は、問題ないけど?」
「僕に問題があるんです!!!」
真言は無理矢理華扇を部屋から追い出した。
そして、素直に着替える真言。
彼の唯一の救いはパンティーではなく、スパッツだったことだ。
着替えが終わり、鏡の前に立つ。
そこには、白のブラウスの上にワインレッドのブレザー、ピンクのスカートを着た赤髪の美少女がいた。
華扇から渡されていないので、ネクタイはしていないが、しなくても問題なさそうだ。
そして何より、似合い過ぎている。
完全にお嬢様学園に通う令嬢でした。
「(・・・・流されて着てしまった。
未だに鏡の美少女が自分だと信じられない。)」
〈相棒、確かにこれなら誰もお前だと気付かないだろうよ。
でも、男として非常に救えないな。〉
「(それはいっちゃらめええええええええ!!!)」
「終わったかしら。
おおっ!」
華扇は部屋に戻ってきた途端、真言の姿を確認すると、彼に抱きつき、彼の頭を撫ではじめた。
「私の予想以上です〜
かわいいかぁわぁいい〜」
「し、師匠!?放してくださいよ!!」
なんとか真言は力づくで華扇を自分から引き剥がし、一目散に逃げ出す。
理由は身の危険を感じたからだ。
主に貞操的な意味で。
まず、真言は昨日小町と出会った居間に向かった。
しかし、それは失敗だった。
真言は広い居間なら逃げるのに向いてると思っていたのだが、時間は既にお昼時、昨日と同じ窓が開いて小町が現れた。
「よぉ、今日は昼ご飯もご馳走になろうと思って早めにき・・・・」
「(ま、不味い!?
女装をしてることがばれたらまた僕の黒歴史の新たな1ページになってしまうことは間違いない!!!)」
小町は女装真言を見ると、おやおやおや〜と真言の顔を覗き込む。
真言は必死にばれないように目を逸らす。
覗き込む、目を逸らす、覗き込む、目を逸らす、覗き込む、目を逸らす・・・・これを二人が数回繰り返した後
「あんた、誰だい?」
小町は真剣な顔で真言を見つめ、問う。
真言はその眼光に気圧され、じりじりと後退していく。
しかし、彼は壁に追い詰められ、逃げ場を失った。
「ぼ、」
「ぼ?」
真言は「僕」と言いそうになるが、それを咄嗟に飲み込む。
さらに、彼にもう一つ問題が生じる。
名前だ。
「(真言は流石にダメだろう・・・・ま、ま、ま、まこ、まこ、まこ、こ、こ、こ、こと、こと、こ・・・・)」
「だぁかぁらぁ〜あんたは一体何者なんだい?」
「わ、私は・・・・こ、ことね、言音です。」
もう1人の真言、言音が生まれた瞬間であった。
「そう、言音ね、いい名前じゃないかい。」
「(ば、ばれてないのか・・・・)
あ、ありがとうございます。」
実際、ばれていない。
小町はまったく目の前の言音と名乗る少女を華扇の新しい弟子の1人かな、くらいに思っていた。
真言はばれてない事実に胸を撫で下ろしたが、それも本当に一瞬だけ。
「あら、真言。
居間でなにしてるの。
ああ、小町、その子が貴方に見せたかった面白いものよ。」
真言に女装を施した張本人ーーー茨木華扇が居間にやってきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「あはははははははははは!!!」
「うう、笑わないでくださいよぉ・・・・」
すべての事情を聞き、真言を指差して笑い転げる小町に軽く涙目の真言。
二人は今、台所におり昼食の支度をしている。
華扇は何か用意するものがあるそうで、席を外している。
「いっやあーほんとにわからなかったよ!
完璧な変装だね!
流石、仙人!あたいの想像の上の上をいくねえ!」
カラカラと笑いながら小町は自分が持参した魚を捌いている。
小町が持ってきたのは秋の味覚の代表、秋刀魚。
その秋刀魚は小町が休憩中に釣ったらしい。
「にしても、真言、いや言音だったか、料理の手際がなかなかいいじゃないか。
しかも、えっらい美人だし。
こりゃ、いつでも嫁にいけるな!」
「真言ですよ、真言。
あと、男なので嫁にはいけません。」
「あはは、それもそーか!」
笑いながら秋刀魚を捌いていく小町。
なかなかの技術である。
手際良く秋刀魚を開き、腑をとる。
負けじと真言も包丁で野菜を切っていく。
トントントンと軽快な音が台所中に響いた。
「(小町さん・・・・なかなかやるじゃないですか、これは僕も負けてはいられませんね)」
「(女のあたいが男に料理で劣っちゃあ駄目だよね。しかも、人間に。
あたいの女と死神としてのプライドが傷つくからねえ。
死神流魚調理術・其の伍をお見せするしか無いようだねえ。)」
二人は料理をしながら「ふっふっふっふっ」と不気味な声を出しながら料理を進めていく。
華扇曰く、「物凄いシュールな調理風景」だったそうな。
出来上がった秋刀魚の蒲焼と野菜スープ、それに米をつけて昼食完成。
それを卓袱台に並べて三人で囲む。
「「「いただきます」」」
真言、華扇、小町の三人は手を合わせ昼食に手を付ける。
「で、小町、最近の三途の川の様子はどうですか?」
「そうだねえ、最近、幽霊が増えてきた気がするね。」
「そう、やっぱり・・・・」
「師匠、やっぱりって?」
「貴方は精霊異変が終わりの告げた後の人里現状を知らないでしょう。
私が説明してあげますよ。」
そう言うと師匠は今の幻想郷について説明してくれた。
「今の幻想郷は不安定です。
妖怪達が異変の影響で人間を襲ったので、人間と妖怪の関係は険悪になるのかと思われましたが、八雲紫の手回しや命蓮寺の聖白蓮の真剣な訴えの末、敵対するまでにはならなかったのですが。
問題が発生しまして、本来人間を襲わない妖怪達が異変で人間を直接襲う機会を得てしまった為、人間の味を覚えてしまったのです。
だから、人里を襲う妖怪は以前より多くなってしまい、人間はストレスを感じています。
このままではいつの日か人妖の闘争が起こる可能性が高いです。」
「闘争って程でもないけど、小競り合いなら各地で起こってるみたいだしねー。」
真剣な華扇の説明に、適当な口調だが真剣な表情の小町。
真言は自分の疑問に思った事を言う。
「ですが、人間より妖怪の方が強いですよね?だから、人間を襲おうとする妖怪を退治すればいいだけじゃないでしょうか?」
妖怪退治ならそれを生業としている人間ーーー霊夢さんや魔理沙、早苗さんなどがいるので、問題ないはずだ。
「確かに貴方の意見も一理あります。
しかし、妖怪が人間を襲う。
それだけでは無いのです。」
「師匠、どういうことですか?」
「人間が妖怪を襲う。
という事態が起こっているのですよ。」
華扇の発言は衝撃的なものだった。
人間が妖怪を襲うーーーそれは今まで幻想郷が作ってきたパワーバランスが崩れてきたということだ。
「人間達は武器を取って妖怪達を襲い始めたんだよ、妖怪の動きを止める金網に麻痺毒、煙幕とかその他諸々。
正直、低級妖怪なんかじゃ手も足も出ないね。」
「確かに小町の言うとおり、武器も人間の持つ恐ろしい力ですが、それよりも人間には恐ろしい力を持っています。」
「恐ろしい力・・・・?」
「なんだい?それは」
「『知恵』です。
人間はたとえどれほど弱い妖怪であっても知恵を絞り、弱点を見つけ、考察し、圧倒的な物量で妖怪に襲いかかります。」
「(人間怖え)」
〈確かに妖怪にとって人間達の『知恵』は確かに脅威だろうな。
ほとんどの妖怪は『力』がすべてだと思っているからな。
妖怪ってのは個人の戦闘能力が人間に比べ、桁違いに強いから、常に真っ向勝負を挑むんだよ。〉
「(もしそれで負けたならそれはつまり自分の『力』が相手より弱かったと。)」
〈良く言えば真面目。
悪く言えば脳筋馬鹿ってことさ。〉
真言が相棒と脳内会話をしている内に話は進んでいく。
人間の脅威から今後の対策について。
「で、仙人的にはこれからどうするつもりなんだい。」
「・・・・人間を襲おうとする妖怪を片っ端から退治するか、人間から妖怪を襲う為の手段を奪い無力化する。
のどちらかでしょうかね。」
「けど師匠、それでは・・・・」
「はい、貴方の予想通り誰かが傷つく事は確実ですね。」
「まあ、これを無血で解決するのは不可能だろうねえ。」
こうして議論は振り出しに戻る。
三人共、人間と妖怪どちらも傷つく事は望んでいない立場の者達だーーー小町は幽霊が増え、仕事が増えるのが嫌だという気持ちも無いわけじゃないが・・・・
「師匠、でも時間が無いわけじゃないんですよね?」
「ええ、確かにすぐに激しい戦いが起こることはありませんね。」
「なら、僕は今の幻想郷を見て回りたいと思います。
で、どうやって解決すればいいのか、自分の意思で決めたいと思います。」
「ふふ、貴方ならそう言うと思いましたよ。」
華扇は微笑むと真言の首に黒のマフラーを巻きつけた。
そのマフラーの黒と真言の髪の赤、二つの色のコントラストがより真言の赤髪を綺麗にみせる。
「ほー、なかなか似合ってるじゃないか、その黒のマフラー。」
「今の真言なら何を着ても似合いますよ。」
「華扇、今の真言は『真言』じゃなくて『言音』なんだよ。」
「言音・・・・ですか、確かに今の彼にぴったりないい名前ですね。」
笑い合う華扇と小町。
どんどん自分が男じゃなくなっていく事に軽く現実逃避したくなる真言もとい言音。
「じゃあ、あたいは三途に戻るとするよ。
じゃあね、華扇に言音。」
「さようなら。」
「あー、言音。
もし三途に来る機会があったらあたいに会いにきな。
四季様に会わせてやるよ。」
「小町さん、ありがとうございます。」
「またなー」
そう言うと小町は窓から三途の川へ向かって行った。
「では、私達も外へ向かいましょうか。」
「はい、師匠。
僕、頑張ります。」
「『僕』?」
「え?」
「今の貴方は真言ではありません。
言音ちゃんです。
言音ちゃんの一人称は『僕』ではなく『私』でしょうが。」
「わ、私。」
「そうですそうです。
あと、口調も女らしく、ね?」
「え、どういうことですか?」
「違う。」
「ZE☆」
「却下。」
「・・・・どういうことなの、よ」
「もっと可愛く。」
「ど、どういうことなの?」
「もっとナチュラルに。」
華扇先生の女口調講座は小一時間程続くのであった。
おかげで真言君は立派な女口調を身につけたのであった。
To Be Continued.
感想をいただけると作者のやる気が有頂天に達する。