GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯2‐3

 円卓を囲んだ五人に語りかけた人影は厳めしい声音であった。

 

「……人間、それもかなり頑丈な……。何者なんだ」

 

 全員に視覚映像が同期されたところ、一人が哄笑を上げる。

 

「こいつ相手にむざむざ逃げ帰ったわけかい!」

 

「……対処不能な相手に時間を割くわけにもいくまい。我輩らとて、何分も怪獣になれるわけではないのだ」

 

「十分の楔は思ったよりも深刻ね。もっとも、その辺を解消するのが、我らの長の役割なのだけれど」

 

 言葉を振られ、最奥に座り込んで円卓に足を乗せていた少女が、うん? と返答する。

 

「ボクにやれっての? ……面倒だなぁ。キミらさ。もっと自分で頑張ってみなよ。新生グリッドマンだって不完全なんだし」

 

 少女は携えたゲーム機を操作するのに余念がない。シューティングゲームに興じており、やたらと連打していた。

 

「我輩らもそれは薄々感じている。だからこそ、追撃のためにドクロ鉄道を襲った。本来は不可侵領域であるはずの」

 

「言い訳はみっともないぜぇ? それとも! グリッドマンに勝てないからって人間相手に! 時間を浪費したあんたの未熟さを暴露しているのかい!」

 

「いずれにしたところでドクロ鉄道にマークされれば厄介となる。あれは不可侵領域だからな。攻撃された、という一事だけでも次からは動きにくいぞ」

 

 高笑いが上がる中で、モノクルの人影はそれぞれの言葉を真摯に受け止め、少女へと進言する。

 

「迴紫様。どうか次の任も我輩めにお任せを。《ギラルス》の部下もよくやっております。彼奴を連れれば、今のグリッドマンならば追い込めるかと」

 

「それさー、別にいいけれど、前回の議席であんまし他所の奴にアクセスコードを配らないって判断だったじゃん。ボクの知らないところでまた何か変えたの? うぉっと……ちょこざい! 当たるわけないじゃん!」

 

 ゲームに夢中な少女――迴紫は視線を振り向ける事もない。モノクルの御仁は否定も肯定もしなかった。

 

「……ドクロ鉄道を制するのに一人では難しいと判断したのです」

 

「何てこたぁねぇ! 己の未熟さに部下の一人でも引き連れないと不安ってか? こいつぁ、とんだ幹部もいたもんだ!」

 

「貴様こそその汚らしい言葉遣いをやめろ。それとも……怪獣形態になった影響か? 二流以下の怪獣では人格にも影響が出ると見える」

 

 その挑発に相手は乗っていた。

 

「……どういう意味だ、てめぇ」

 

「言葉通りだが? 二流怪獣へのアクセスコード持ちでは、我輩らナイトウィザードの格を下げるだけだ」

 

「ンだてめぇ……。ヤんのか」

 

「いつでも。我輩は受ける」

 

 立ち上がりかけた男を、女の声が制する。

 

「おやめなさい。つまらない諍いで議席を汚す事はないでしょうに。それに、私達六人は最初に迴紫様よりアクセスコードを賜った身。そう容易く怪獣に変身はしてはならない」

 

 その言葉で幾分か冷静さを取り戻したのか、ケッと毒づいて男は席に座り込む。

 

「……命拾いしたな」

 

「互いにな。して、迴紫様。今のグリッドマンならば取れます。我輩にお任せを」

 

「好きにしてー。今の彼、ちょっと弱いからさー。もうちょい強くしてからじゃないと、退屈で死んじゃいそう……って、あー! やられちゃったじゃん!」

 

 ゲーム機を円卓に叩きつける。画面にはゲームオーバーの文字が躍っていた。

 

「それは御意に。今のグリッドマンは我々ナイトウィザードが恐れるまでもない」

 

「油断はしない事よ。グリッドマンは無限に進化する。それは分かり切っている事でしょう」

 

 女の声にモノクルの男は目線を振り向ける。

 

「それは警句と受け取っても?」

 

「好きになさい」

 

 女は紫煙をたゆたわせる。手にした長い煙管を吸っていた。

 

「ただし、間違えない事ね。私達は迴紫様のためにいる。戦いも、過ぎれば毒となるわよ。怪獣形態を二度も三度も晒せば、自ずと対策は練られてしまう」

 

「違いねぇ! この世には無敵の怪獣なんていないんだからな! ま、俺はてめぇと違って負け戦の後にこうして厚顔無恥にここに訪れたりなんてしねぇがな」

 

「言っていろ。《ギラルス》の部下も確信は得た様子。力の使い方を学べば、誰にでもアクセスコードを物に出来る可能性はあります。継続任務の指示を」

 

「んー、勝手にすれば? ボクが退屈しない程度で、頑張ってねぇ」

 

 円卓に叩きつけたゲーム機を拾い上げ、またしても迴紫はゲームに興じる。モノクルの男は一礼して身を翻していた。

 

 その瞳が強い闘志を灯し、モノクルの内側で輝く。

 

「……人間風情に後れは取らん。グリッドマンは、我輩が倒す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 訪れた連絡室でドクロ鉄道の連絡員に拘束されていたアノシラスを目にして、ツルギは嘆息をついていた。

 

「……なーにやってんすか、おたく」

 

「あ、お兄さん。終わったの?」

 

「終わったも何も、相手はまだまだ手があるようで。……んで、何で拘束されているんで? 俺の番号にドクロ鉄道から直通がかかってきた時にゃ、何事かって思ったっすよ」

 

『親御さんに見てもらう必要があると思ったので』

 

 影の連絡員の言葉に面倒事か、とツルギは直感する。

 

「親御さんって……。おたくなんて言ったんすか」

 

「何でもないよ。お兄さんが私と一緒に旅をしているって事だけ」

 

『彼女だけでは今回の賠償責任を負えそうにないので、保護者を確認したところ、番号の中にあったのがあなたであっただけなのです』

 

「そいつぁ、誤解っすよ。俺、こいつの親でもなけりゃ、血縁でもないんでね」

 

『ですが客室乗務員を脅したのは罪に値します。ご存知の通り、ドクロ鉄道は中立、不可侵地帯です。そこに脅迫を持ち込んだのはドクロ鉄道が遵守している、ダイヤの乱れを生じさせかねない。賠償責任があるとすれば、その一点に尽きます』

 

 要はアノシラスだけではどうにも頼りないから、自分が呼ばれたと言うわけか。ツルギは白髪を掻いて頭を振る。

 

「俺に多額の賠償金を支払えって? どういう罪で? おたくらはちょっとした子供のいたずらや戯れ言にいちいち目くじら立てて、そんで賠償賠償ってか? もうちょい寛容になってくんなさいよ。子供のした事でしょうが」

 

『それは我々の言い分であって、あなた方の言い分ではない』

 

 参ったな、とツルギは切り抜けるべき策を講じようとして、アノシラスが挙手する。

 

「私、今回の事、何にも知らないし、何も言わないよ?」

 

 それの意味するところを連絡員も汲み取ったのだろう。ドクロ鉄道の不手際――安全な旅の提供とダイヤの乱れを起こしかねなかった状況を誰にも話さない、とアノシラスが言えば、そこまでの事態ではあったのだ。

 

 相手は、ふむと一拍置く。

 

『もちろん、我々には何の損害もなかった。それは間違いないでしょう』

 

「だから、賠償とか、そういうのもなかった。だよね?」

 

 思いのほかアノシラスは世渡りに慣れているらしい。ドクロ鉄道の連絡員もそう言われてしまえば追及のしようもない。

 

『……今回限りですよ』

 

「ごめんね、お兄さん。時間取らせちゃったね」

 

 連絡室を後にして、ツルギは嘆息を漏らす。

 

「……一人で切り抜けなさいよ、おたくも」

 

「だって、あそこで待っていなかったら、お兄さん、またどっか行っちゃうでしょ?」

 

 確かにアノシラスが拘束されていると連絡を受けなければ一も二もなく敵への追撃に回っていただろう。ある意味では彼女のほうが自分達の実情を理解しているのだ。

 

「……相手方は待ってくれやしねぇっす。こっちから仕掛けないと」

 

「私、手伝えるよ」

 

「期待してねぇっすよ。それに、女子供を巻き込むのは性根が腐っているって奴っすから」

 

 手をひらひらと払うとアノシラスはふふっと笑う。

 

「あのドクロ鉄道の中でね、必死なお姉さん、見かけたんだ」

 

 ドクロ鉄道に乗り合わせた乗客の話だろうか。ツルギは欠伸を噛み殺してそれを耳にする。

 

「そいつは結構な事で」

 

「その人、ナユタって名前を呼んでいた。変わった名前だよね」

 

「俺やおたくが言えた義理じゃないでしょう。にしても、ナユタ、ね。確かに変わった名前っすわ」

 

「とても慌てて先頭車両に急いでいた。おかしいよね。だってあの時、お兄さんが戦っていたのを野次馬根性で見るのなら、格納車両……つまり真ん中を目指さなきゃ見れないのに、前に行くって」

 

 その奇縁にツルギは立ち止まる。帰結する先の結論を彼は窺っていた。

 

「……それ、マジっすか?」

 

「本当だよ。先頭車両に慌てて走って行っちゃった。でも、前にあったものって言えば」

 

「……線路のポインタを押さえにかかっていた怪獣……。それと蒼と銀の……グリッドマン」

 

 因縁めいた名前にツルギは歯噛みする。ともすれば自分達は思いも寄らぬ相手と出くわしていたかもしれないのだ。

 

「……その連中の行方は?」

 

「知らないよ。だって私、捕まっちゃったし」

 

 ニアミスか。ツルギは己の迂闊さに頭を掻く。

 

「ああっ、チクショウ! ……でも方向性は間違ってないって事っすよね。俺らと同じ場所を目指して、グリッドマン……いいや、そのナユタってのは近くにいる」

 

 確証はない。アノシラスの聞き及んだだけの別件の可能性はあったが、わき目も振らずに目標を目指すにしては、奇妙な取っ掛かりが生まれていた。

 

「お兄さんは、グリッドマンに会った事があるの?」

 

「……いっぺんだけっすけれどね。ま、それも会ったって言うより一方的にこっちが見かけたレベルで」

 

 アノシラスは立ち止まり、こちらを振り仰ぐ。

 

「グリッドマンって、何?」

 

 ツルギは話すべきか、と思案する。ここで事実を話したところで、アノシラスには何の影響もないかもしれない。だが自分に同行している以上、余計な情報は彼女を危険に晒す。

 

「……言うべき時が来たら話すっすよ」

 

「約束だよ」

 

 歩き始めた二人は壁に書かれた文字をさすっていた。古代文字、既に解読の術が永遠に失われた文字達が看板や壁にやたらめったら書かれている。

 

 どうやらここは人間の集積地点であったらしい。入り組んだ階段にいくつもの階層に分かれた複雑怪奇な構造。外に出ようと思っているだけなのに、青錆びに塗れたこの駅を通過する事さえも容易ではない。

 

「……一旦、どこかで休みやしょう。そうしたほうがいい。この地下迷宮を攻略するのに、一晩はかかる」

 

「ここ、お兄さんは土地勘ないの?」

 

「初めて停留する駅っすからね。ほとんど初見っすよ。ま、それでも見知ったものがあればそれを指針に進めるでしょうし、今はとにかく雨をしのげるところが、欲しいっすね」

 

 鉛の雨雲が重く垂れ込めている。もうすぐ夕立が雷を連れてくるだろう。

 

「天気が急変する前に、屋根のある場所まで行くっすよ」

 

「じゃあ競争ね。私、一番もらうから」

 

 駆け出したアノシラスに声を投げる前に、ツルギは先ほどの怪獣の事を考えていた。

 

 ドクロ鉄道は中立地帯だ。それを侵してでも相手には何か急がなければならない事情があった。それは恐らく、前回出現したグリッドマンに関係しているのだろう。

 

「……あの坊ちゃん、ナユタってのか。いや、そうとも限らないがしかし、連れがいるとはな。……ま、俺も言えた義理じゃないっすけれど」

 

 既に小雨がぱらぱらと降り出している。ツルギは荷物を担いで、急ぎ足になっていた。

 

 

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