GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯2‐7

 突然に光になった。

 

 朋枝は那由多の身体を押し包んだ蒼銀の光に瞠目する。那由多はそのまま上昇し、やがて光の粒は弾け飛び、溢れんばかりの輝きを拡散して巨人の姿を取っていた。

 

 蒼銀の巨人は怪獣を前に構えを取る。

 

(光波超人、《サイファーグリッドマン》!)

 

「サイファー……グリッドマン……」

 

 またしても現れたのか。朋枝は呆然と眺めていると、不意に視線を感じて意識を向ける。

 

 いつからそこにいたのか。青い二つ結びの髪を風圧になびかせた臾尓が佇んでいた。

 

「……あなたは」

 

「《サイファーグリッドマン》は味方。それだけ分かっていればいい」

 

「味方って……。ねぇ、グリッドマンって何なの? 那由多は……何者なの……」

 

 搾り出した声音に臾尓は頭を振る。

 

「多くを知る必要はない。ただ一つ。グリッドマンは怪獣に勝利するために存在している」

 

「それが那由多だって言うの!」

 

 責め立てる論調に臾尓は目を伏せていた。

 

「……これ以上は言えない」

 

「駄目っ! 教えてよ! どうして、那由多はグリッドマンに……巨人に成れるの? 怪獣って何? あたしの村は何で聖域を超えて襲われたのよ!」

 

 堰を切った感情の言葉にも臾尓は静謐の瞳で返すのみであった。

 

「……いずれは分かる。今は、分からないでいい。《サイファーグリッドマン》は勝利する。見るといい。最適化は成された」

 

 ハッと振り仰ぐと、《サイファーグリッドマン》が以前銀色であった箇所が赤く染まり、全身に走っている水色のラインの光が太くなっていた。まるで血脈の力強さを主張するように。

 

「あれが……最適化された……グリッドマン」

 

「そう、今の《サイファーグリッドマン》ならば、あの程度の怪獣は倒せる」

 

「……あなたは何。何で、そんな事を知っているの」

 

 疑念に臾尓は口を開こうとして、自律行動する蠅の怪獣が迫り来ていた。

 

「また……っ」

 

 武器がない。どうしようもないかに思われたその時、臾尓が手を翳す。瞬間、展開された青白いフィールドが蠅の怪獣を弾き飛ばしていた。相手は壁の突破を不可能だと判じたのか、飛び去っていく。

 

「……臾尓。あなた……」

 

「また会うだろう。その時は……」

 

 答えを彷徨わせた臾尓に問い返す前に、激震と粉塵が彼女へと覆い被さっていた。灰色の砂礫に視界が遮られたのも一瞬、臾尓は跡形もなく消え去っている。

 

 まるで最初から存在しなかったかのように。

 

 朋枝は後ずさり、《サイファーグリッドマン》と針の怪獣の戦いの行方を見据えていた。

 

「……何が、起こっているの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(グリッドマン。最適化しましたか。だが、その程度でこの《バギラ》を下せるとお思いか!)

 

《バギラ》が両腕の針で指揮し、自律怪獣で視界を塞ごうとする。それに対し、《サイファーグリッドマン》は左腕を大きく掲げていた。

 

 円弧を描き、光の渦が自律怪獣を吸い込んでいく。

 

 やがて円環の刃となったそれを《サイファーグリッドマン》は平手で翻し、《バギラ》に向けて放っていた。

 

《バギラ》が針の腕で弾き返す。刃の光輪が地面に突き刺さり、深々と砂礫を掘り返していた。

 

(直撃すればやられていたとでも? ……嘗めないでいただきたい!)

 

《バギラ》が腕を突き出して《サイファーグリッドマン》を穿とうとする。それを相手は半身になってかわし、腕をひねり上げていた。その膂力は想定を遥かに超えている。みしみしと筋肉繊維が引き裂かれていくのを予感した《バギラ》はもう片方の腕で地面を突いていた。

 

 途端、高速回転した針の腕が土くれを巻き上げ、《バギラ》の周囲を土の壁が覆っていく。《サイファーグリッドマン》の攻撃を遮断したのは砂礫に混じらせた蠅型怪獣だ。

 

 彼らの放つ羽音の高周波が《サイファーグリッドマン》の平衡器官を阻害し、僅かによろめかせる。

 

(もらった!)

 

 その隙を逃さず、心臓に突き入れようとした一撃を防いだのは、グラン・アクセプターより生じた刃であった。

 

 直刀の光刃が発生し、《バギラ》の腕を切り裂く。

 

 宙を舞った《バギラ》の腕が高層建築物に突き立った。

 

(グリッドマンめ……。剣も使うと言うのか)

 

(グリッドライト――)

 

《サイファーグリッドマン》が光刃の片腕を掲げ、大きくその腕を引く。《バギラ》は攻撃を予見して自律怪獣を一斉放出し、壁を形作っていた。

 

(セイバー!)

 

 直後、《サイファーグリッドマン》が躍るように腕を翻させ、三翼の光刃を放出する。それぞれの光刃が壁を打ち砕き、《バギラ》を守る術を打ち崩していた。

 

(……やりますね。だが忘れたか、グリッドマン。貴様の戦う相手は、この我輩だけではなかった事を!)

 

 その時、地面が鳴動し、出現したのは結晶体の怪獣、《ギラルス》が《サイファーグリッドマン》を押し倒さんとしていた。

 

(グリッドマン! 俺様相手に逃れられるかな!)

 

(《ギラルス》! 今度は負けない!)

 

(吼えるだけならば弱者でも出来る! 敗北しろ! グリッドマン!)

 

《ギラルス》へと《サイファーグリッドマン》は光刃を浴びせかかる。しかし、光線攻撃は全て、《ギラルス》の体内に宿る結晶体が反射し、偏向させ、刃のエネルギーを無情にも奪っていく。

 

(グリッドライトセイバーが……)

 

《ギラルス》は体内に溜め込んだエネルギーを乱反射させ、鼻先に位置する角に充填させた。

 

 直後、放出されたエネルギーの瀑布に《サイファーグリッドマン》は地面を蹴って飛び退る。

 

 しまった、と思ったその時には、先ほど相手にしていた《バギラ》が消え失せていた。恐らく、《ギラルス》は時間稼ぎに現れたのだろう。

 

 まんまと術中にはまってしまったわけだ。《サイファーグリッドマン》は《ギラルス》相手に構えを取る。

 

(《ギラルス》! 怪獣は、わたしが討つ!)

 

(吼えていろ、弱者が! 光線攻撃はこの《ギラルス》には通用しない!)

 

 そうだ、《ギラルス》には光による攻撃は一切通じない。ならば、と《サイファーグリッドマン》はグラン・アクセプターを天に掲げ、そのまま円を描いていた。

 

 円環より青白い光がもたらされ、切り取られた空間より出でたのは――巨大な一振りの剣である。

 

 地面に突き立った漆黒の剣を《サイファーグリッドマン》は掴み取っていた。

 

(剣だと……そんな得物で!)

 

《ギラルス》の放った光線を《サイファーグリッドマン》は大剣で弾き返す。相手がたじろいだのも一瞬、《サイファーグリッドマン》に宿る血脈が大剣にも至り、血筋が大剣に生命を与えていく。

 

 途端、弾け飛んだ剣の皮膜の下にあったのは輝きを放つ光の大剣であった。

 

(電光超剣! グリッドマンキャリバー!)

 

 光の大剣の切っ先を突き上げ、その刃を《ギラルス》に向ける。《ギラルス》は負けじと吼え立てていた。

 

(そんなもので! この《ギラルス》の装甲を貫けるものか!)

 

《ギラルス》が全身から光を拡散させ、周辺へと爆撃を浴びせかかる。しかし、《サイファーグリッドマン》は跳躍し、その攻撃からは逃れていた。

 

 大剣を振るい上げ、《サイファーグリッドマン》の眼窩に必殺の光が宿る。打ち下ろした一閃が《ギラルス》の前足を切り裂いていた。

 

 電線が走る断面より血潮を撒き散らし、《ギラルス》が叫びを上げる。

 

《サイファーグリッドマン》はその期を逃さず、下段より大剣を払い上げていた。《ギラルス》の巨躯が浮かび上がり、その鋼鉄の身体にいくつもの傷痕が刻み込まれていく。

 

 全身に内包していた光のエネルギーが過熱し、《ギラルス》の表皮の内部で赤く染まった。

 

 途端、これまで制御出来ていた光エネルギーを制御出来なくなったのだろう。《ギラルス》の内部で誘爆したエネルギーがその身体から鉱石の輝きを奪っていく。

 

《サイファーグリッドマン》は大剣を担ぎ上げ、その剣先を真正面に携えた。

 

 刹那、《サイファーグリッドマン》の疾駆が蒼い光に包まれ、加速度を伴わせた銀閃が《ギラルス》の体内を貫通する。

 

(光波剣術、サイファーキャリバーエンド!)

 

《ギラルス》の鼻先に位置していた角が砕け散り、赤く煮え滾った一閃がその巨体を両断していた。

 

(おのれ! グリッドマン!)

 

 断末魔の叫びを上げて《ギラルス》が爆発の光に包まれていく。その身は赤い光に還元され、中天に吸い込まれていった。

 

《サイファーグリッドマン》は大剣を手に空を仰ぐ。漆黒の暗夜で睥睨する月を眺め、《サイファーグリッドマン》の身体は光に溶けていった。

 

 還元された光の粒が那由多の身体を形成する。

 

 傷は癒えている。那由多は左手首を意識したが、既にアクセプターは消え失せていた。

 

「……オレは……」

 

 その言葉を遮ったのは朋枝の声である。

 

「那由多! 生きて……!」

 

「トモエ。すまない。心配をかけたな」

 

 だが何も氷解はしていないのだ。グリッドマンとは何なのか。怪獣とは何なのか。そもそも……自分は何者なのか。

 

 最適化が成されても依然として記憶には靄がかかっており、何一つ思い出せない。それでもはっきりしているのは、自分はハイパーエージェントである事。そして、那由多と言う名前である事だ。

 

 朋枝は全身を隈なく観察し、茫然と呟いていた。

 

「何とも、ないの……。あんな大怪我をしていたのに……」

 

「ああ。オレも、知らなくてはいけない。一刻も早く。オレが何なのか。グリッドマンとは、どのような繋がりがあるのかを」

 

 足元に落ちていた鏡を見やる。反射した姿は、グリッドマンではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 双眼鏡から仔細に観察し、ツルギは嘆息をついていた。

 

「ようやく最適化、ってところっすか」

 

「ねぇ、お兄さん。グリッドマンは、味方なの?」

 

「それを決めるのはあっちのお役目って奴っす。俺らはせいぜい、割を食わないようにナイトウィザードを追うとしましょうや」

 

 そう、自分は所詮、ナイトウィザードを追い詰める事こそが目的の走狗。しかしながら、先ほどのグリッドマンの戦い振りには思うところがあった。

 

「……どこまで思い出しているのか知らないっすけれど、早くしたほうがいいっすよ。時間は、あるようでないんすからね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ギラルス》を犠牲にしたのは自分の失態だと、罵られても仕方がなかったが、円卓の会議は思ったよりも迅速に進んでいた。

 

「別段、おっさん一人に全ての責任を被せるこたぁねぇだろ。ナイトウィザードの末席を穢すにしてもよ」

 

 彼からそのような言葉が出たのは意外だが、どうせ迴紫の印象を良くするためのその場限りの言葉だろう。当の迴紫はシューティングゲームに熱中していた。

 

「あー、駄目。勝てないなぁ……。えっと、《ギラルス》のコードの人が死んだんだっけ? ……ま、いっかぁ。ちょっとグリッドマンの力を見誤っていたんでしょ? いいじゃんいいじゃん、一回くらい」

 

「その一回が後々響いてくる場合がございます、迴紫様」

 

「どうか、ご決断を。我らナイトウィザード、いつでもあなたの思うがままに」

 

 この期に乗じて自分を売り込みたい連中に吐き気がする。しかし、立場さえ違えば自分もそうなっていたであろう。モノクルの男は片腕の欠けた《バギラ》のモニュメントを骨が浮くほどに握り締めていた。

 

 これはまさしく屈辱の証。

 

「えーっ、どうしよっかなぁ……。じゃあさ、グリッドマン倒した人が優勝のゲームしようよ。コードは使い放題! みんなで仲良く分け合ってね」

 

 まさか、と全員が息を呑む。ナイトウィザードの頭目たる迴紫は何でもない事のように円卓上にコードをばら撒いていた。

 

 それぞれ、重要となる怪獣への変身アクセスコードばかり。それを安売りすると言うのか。

 

「……迴紫様。しかしそれでは下っ端の造反を生みます」

 

「いいんじゃないの? ちょっとくらいはサービスしないと、みんな窒息しちゃうじゃん。ホラ、早い者勝ちだよ。ボクが見てないうちに、各々取っていってねー」

 

 ひらひらと手を振る迴紫の動向を窺いながら、ナイトウィザードそれぞれがコードを手に取っていく。自分達の部下に回す分もあれば、もしもの時の備えもあるのだろう。

 

 モノクルの男はここではその資格がないとぐっと奥歯を噛み締めていた。グリッドマンを倒すと息巻いてこの様では、コードを受け取れるものも受け取れない。

 

「……我輩がグリッドマンを必ず倒す……」

 

「誰でもいいよー。倒せるんならさっさと倒しちゃってー。それで倒されちゃうんなら、今回のグリッドマンもその程度だよねぇ」

 

 迴紫は興味があるのかないのか、ゲーム機を叩きつけるように連打する。ナイトウィザードはそれぞれの思惑を胸にこの場では解散していた。

 

 次にグリッドマンを追い込むのは誰なのか――互いの腹の探り合いも込みで、であろう。モノクルの男は迴紫を睨み据える。

 

 ――ここで覇権を握るのは自分だ。それだけは譲れない。

 

 そんな気を知ってか知らずか、迴紫はゲーム機を卓上に投げていた。

 

「まぁーた負けた! もうっ、何でこんなに弱いかなぁ、ボク」

 

 ゲーム機の画面には「ゲームオーバー」の文字が躍っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

【光波超人《サイファーグリッドマン ジェニュエンモード》】

【結晶怪獣《ギラルス》】

【裂刀怪獣《バギラ》】登場

 

 

 

 

 

第二話 了

 

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