GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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第三話 CODE:Inimicus
♯3‐1


 いくつかの火球が空間を掻っ切り、青錆びの街に殺到する。

 

 激震する建築物の中で怪獣の放つ業火球を浴びた建築物が連鎖爆破し、街並みを照り返す灼熱の夜明けを刻み込んでいた。

 

 灰色の火山怪獣が青錆びの街を凝視する。黄色の眼窩がぎらつき、次なる標的を定めようとしたその時であった。

 

 蒼銀の光が加速度を上げて急行する。それに追いつかんと白銀の鋼鉄怪獣がハサミ型の手を伸ばしていた。

 

 遮断しかけた光球が晴れ、蒼銀の巨人が左腕より刃を発し、鋼鉄怪獣と渡り合う。

 

 鋼鉄のハサミを振り翳し、怪獣《メタラス》は叫びと共に巨人――《サイファーグリッドマン》の腹腔を抉ろうとする。それを跳躍して回避した《サイファーグリッドマン》は高空より火山怪獣、《ボルカドン》の動向に目を凝らす。火山の背面にエネルギーが充填されているのを察知した《サイファーグリッドマン》は腕を交差して練り上げた光をグラン・アクセプターに溜め込んだ。

 

(グリッド、ビーム!)

 

 一条の光軸が《ボルカドン》へと降り注ぎかけたが、それを阻んだのは《メタラス》の白銀の装甲である。

 

 照り返した勢いで霧散したグリッドビームはまるで通用していない。《サイファーグリッドマン》は加速度を上げて降下し、その足を赤熱に染め上げていた。

 

(超電導キック!)

 

 赤熱化した蹴りの一撃を《メタラス》が受け止める。だが、その装甲にも翳りが出ていた。亀裂の入った個所へと、《サイファーグリッドマン》は拳を浴びせかけようとして、横合いから襲ってきた超音波に阻害されていた。

 

 紫色の怪獣がこちらの攻撃を遮断する超音波を発し、《メタラス》への必殺の一撃を邪魔する。《サイファーグリッドマン》が左腕を払い、発振させた剣筋に光を宿らせる。

 

(グリッドライト、セイバー!)

 

 三翼の円弧を描く光刃が放射され、電波怪獣《ボランガ》の首を刈っていた。脱力した《ボランガ》へととどめの一撃を見舞う前に、《メタラス》がハサミの手で《サイファーグリッドマン》を締め上げる。

 

 全身に迸らせた水色の血脈に光を滾らせ、《サイファーグリッドマン》は膂力で圧倒しようとするが、その時には中空より降り注いできた業火に焼かれていた。

 

 噴煙を引き裂いて《サイファーグリッドマン》は攻勢を確かめる。

 

 対峙するのは三体の怪獣であった。

 

 音波怪獣《ボランガ》、それに鋼鉄怪獣《メタラス》。街へと被害をもたらすのは火山怪獣《ボルカドン》。

 

 三体の怪獣が連携を密にして、こちらへと追撃を見舞おうとする。《サイファーグリッドマン》はグラン・アクセプターより光刃を発し、《メタラス》と打ち合う。

 

(お前達は、何のために街を襲う!)

 

《サイファーグリッドマン》の問いかけも虚しく、雄々しい猛りが押し返した。《メタラス》へと斜に切り裂く攻撃を浴びせようとして、その装甲の堅牢さに遮られていた。

 

(グリッドライトセイバーが通用しない……? ならば!)

 

 天へとグラン・アクセプターを掲げ、円環を描かせる。空間を貫き、大剣が舞い降りた。

 

(電光超剣、サイファーグリッドキャリバー!)

 

 突き上げた大剣の勢いで《メタラス》を退けさせる。それでも残り二体の怪獣は健在だ。《サイファーグリッドマン》は光速へと転化し、頭を失った《ボランガ》へと突撃する。

 

 相手に回避する術はない。そう思えていたが、《ボランガ》は何と異様な反応速度で回避行動に移った。

 

 加速をかけていた《サイファーグリッドマン》が何もない空を引き裂く。勢いでつんのめった形の《サイファーグリッドマン》へと火球弾が殺到する。大剣を翳して防御するも、防ぎ切れない攻撃網に《サイファーグリッドマン》は剣を振るい上げていた。

 

 大剣を天高く掲げ、脈動を同期させる。水色の血脈を至らせた大剣が《サイファーグリッドマン》の鼓動と合致し、直後には再び《ボランガ》へと斬りかかるが、相手は難なく避けてみせる。

 

(……何かがおかしいぞ)

 

 判じた瞬間には頭を失ったはずの《ボランガ》がこちらへと急速接近していた。まさかほとんど死に体の相手が肉薄するとは思えず、《サイファーグリッドマン》の反応が遅れる。

 

 それを見越したかのように、《メタラス》が電磁バサミで《サイファーグリッドマン》の動きを阻害した。大地を伝った電流に《サイファーグリッドマン》が身悶えする。

 

 息も絶え絶えに大剣を地面に突き立てる。

 

 額のタイマーが点滅を始めていた。

 

(このままでは……)

 

《ボルカドン》が火球を背筋より放射する。《サイファーグリッドマン》は地を蹴って跳ね上がるが、その勢いは衰え始めている。大剣を振るい上げ、火球を切り裂くも、追撃の《メタラス》の攻撃までは防げない。

 

 電磁バサミが《サイファーグリッドマン》を拘束し、頭のない《ボランガ》より催眠音波が放たれていた。タイマーの点滅が早くなる。《サイファーグリッドマン》が戦闘形態を維持出来るのも限界に近かった。

 

《サイファーグリッドマン》が大剣を放り投げる。

 

 勝負を捨てたように思われたのだろう。怪獣達より哄笑が上がる。

 

《サイファーグリッドマン》はグラン・アクセプターを輝かせ、内奥より叫んでいた。

 

 直後、投擲した大剣に命が宿り大地を切り上げ、疾走する刃が《ボランガ》の体躯を両断する。さすがにその軌道までは読めなかったらしい。背後よりこちらの手へと戻ってくる大剣の勢いに《メタラス》が拘束を緩めていた。

 

 その隙を逃さず、《サイファーグリッドマン》は光刃を発生させ、下段より《メタラス》を斬りつける。

 

 無論、《メタラス》の装甲は覚悟の上だ。光の剣を弾いた《メタラス》の装甲であるが、足を止めるのには有効であったらしい。大剣の刃が《メタラス》の片腕を根元から斬り落とす。

 

 叫びが迸る中で、《メタラス》と《ボルカドン》が光に包まれ、収束した。

 

 相手も時間切れであったのか、再び静謐に沈んだ街並みを見据え、《サイファーグリッドマン》の体躯が光の粒へと還元されていく。

 

 高層建築の屋上で那由多は風圧に煽られる外套姿で佇んでいた。

 

「……倒し切れなかった、な」

 

 三体もの怪獣を一手に相手取るのはやはり難しいのか。否、そもそも本当に三体であったのか……。

 

「敵は待ってくれない。オレは、もっと強くならなければならないのかもしれないな」

 

 左手首へとアクセプターが沈んでいく。グリッドマンに成る必要性がないのならば、今は静観するしかない。

 

 那由多は高層建築より飛び降り、外套をはためかせて複雑怪奇に入り乱れる構内へと落ちて行った。

 

 着地した那由多は周囲を見渡す。《ボルカドン》の業火は青錆びの大地をも焼き尽くす灼熱であった。どこかで火炎が巻き起こっていても不思議ではない。

 

「……延焼していないのならば……」

 

 それでいい、と結ぼうとして、那由多は声に足を止められていた。

 

「――グリッドマンだな?」

 

 その声音に反射的に銃を突きつける。相手はヒヒッ、と下卑た笑みを浮かべていた。

 

「安心しろよ。場外乱闘は得意だが、気分じゃねぇ」

 

「……お前は」

 

「怪獣を率いている連中の、その一人、とでも名乗ろうか」

 

 まさか敵が生身で自分に接触するとは思いも寄らない。那由多は引き金に指をかけていた。

 

「……何のつもりだ。ここで殺されたいのか」

 

「怖いねぇ、今回のグリッドマンは。にしても、何にも知らねぇみたいだな。その様子を見る限りじゃ」

 

「何にも……? 少なくともお前達を倒すべきだと言うのは知っている」

 

「いや、そいつは知らねぇって言うのよ」

 

 男の姿はちょうど陰になっており、明確な像を結んでいない。那由多は銃を突きつけたまま問いかけていた。

 

「お前達は何だ。どうして、怪獣になって破壊を行う?」

 

「順序が逆だねぇ、グリッドマン。それを言うのなら、てめぇは何で、グリッドマンに成って俺達を阻む? そっちだって、意味のねぇ戦いじゃねぇのか?」

 

「それは……」

 

 言葉を濁す。自分とて意味のない戦いをしている。そう突きつけられてしまえば何も言い返せない。どうして自分がグリッドマンに変身出来るのか。何故、変身しなければならないのかは依然として不明なままなのだ。

 

 相手は高笑いを上げていた。

 

「何も分かんねぇまま、ただ殺し合いを続けるかねぇ、グリッドマン。それとも……人並みに交渉でもしてみるか?」

 

「交渉、だと……」

 

「応さ。てめぇが何でグリッドマンになっているのか、何でグリッドマンは怪獣と敵対しているのか、それを教えてやる、手助けをするのもやぶさじゃねぇって言ってんだよ」

 

「どういう腹積もりだ。お前達は人々を殺し、破壊の限りを尽くすはず」

 

「その認識はちと甘ぇな。そういうわけじゃねぇんだ。俺達の本当の意義を知りたきゃ、ここに来な。本当の戦いを教えてやるよ」

 

 人影がカードを投げる。笑い声を響かせながら離れていく相手に、那由多は警戒の糸を途切れさせず、気配が散るまで銃口を向け続けていた。

 

「……那由多」

 

 不意打ちの声に銃を向け直す。目を見開いて朋枝が硬直していた。

 

「お、脅かさないでよ……」

 

 脱力した朋枝に那由多は誤魔化していた。

 

「ああ、いや。ちょっとあった」

 

 拾い上げたカードを懐に仕舞う。朋枝がこちらを窺ってきた。

 

「大丈夫? さっきの怪獣、強そうだったし……」

 

「制限時間内に相手も撤退した。それで御の字だろう。……オレも、力の使い方を学ばなければならないようだ」

 

「力の使い方って……グリッドマンの戦い方って事?」

 

 問いかけられて、那由多は掌に視線を落とす。まだグリッドマンの力の、その何割を引き出せているのかも不明。そんな状態で戦い続けられるものか。

 

 きっと頭打ちが来る。その前に、引き出さなければ。

 

 グリッドマンとしての戦い方の全てを。

 

「……だが、誰も教えてはくれない」

 

 あるいは先ほどの人影がその伝手だとでも言うのだろうか。どう考えても悪魔の誘惑に等しい。

 

「ねぇ、那由多。怪獣が襲ってくるのも、どんどん時間が短くなっているよね。……そろそろドクロ鉄道で移動したほうがいいんじゃないの?」

 

「シンジュクを離れないほうが得策だろう。どうしてだか分からないが、ここならば相手に対して不利にはならない気がするんだ」

 

 理由はない。ただ、ここならば有利とはいかずとも不利にはならない。その確証は依然として不明であったが。

 

 朋枝は納得が行かないらしい。頬をむくれさせて抗議する。

 

「……こんなところ、危ないよ。いつ怪獣が来るかも分からないし、それにどこまで歩いても、村もなければ聖域もない」

 

 最初に朋枝がいたような集落は見受けられなかった。あるいはこの区画にはそういうものは存在しないのかもしれない。朋枝からしてみれば危険なだけの場所だ。早々に離れたいのが人情だろう。

 

 だが、那由多からしてみれば、敵を迎撃するのに人的被害が出ない場所のほうがいいのは身勝手ながらこの場所が合致していた。

 

 人を見かけないだけではない。二次被害が出ないならば怪獣に後れは取らないはず。しかし、朋枝を守りながらだと話は違ってくる。

 

 今回のように三体以上の怪獣に囲まれれば、自ずと派手な立ち回りを要求される。そうなれば朋枝の安否でさえ自分からしてみれば二の次になってしまうのだ。

 

 だから、彼女がここを立ち去りたいと言うのならば、それは加味すべきである。

 

「……トモエ。ドクロ鉄道に乗るとして、どこまで行ける?」

 

 朋枝は財布を取り出し、紙幣を何枚か数えていた。

 

「あたしと那由多なら……二駅分くらいなら」

 

「それで逃げ切れる保証はあるのか?」

 

 それは、と口ごもる。きっと、どこまで行っても、怪獣のいない場所の見当なんてつかないのだろう。かといってここにいるのも危険には違いない。那由多は一度、ドクロ鉄道に問い質すべきだと感じていた。

 

「安全圏くらいは心得ているだろう。トモエの言うようにドクロ鉄道が中立だと言うのならば、中立圏を知らないのはどうかしている」

 

「それは……つまりドクロ鉄道には安全な場所の伝手があるって言いたいの?」

 

「なければ中立の意味を崩す。それは明らかにおかしいはずだ」

 

 ドクロ鉄道側に、まともな人間がいるのかは分からないが、旅客の安全な運行をメインとしているのならば、最悪の想定も浮かべているはずだ。

 

 それをうまく突ければ安全圏を確保出来るかもしれない。

 

「ドクロ鉄道相手に……交渉か。何か怖いな……」

 

「怖い? 何故だ」

 

「だって、相手は天下のドクロ鉄道ですもの。もしもの時には永久追放くらいはされそうじゃない?」

 

「怪獣じゃないんだ。恐れる事なんてないだろう」

 

「……そりゃ、那由多はそうかもしれないけれど……」

 

 煮え切らないのは自分にはグリッドマンと言う力を持っているが朋枝には力がないからだろう。もしもの時、自衛も出来ないのでは危ういのは承知している。しかし、今は少しでも逃れる術を探すしかない。

 

「……駅に行こう。ドクロ鉄道にだって当てはあるはずだ」

 

 そう信じて、歩み出すしか方策はなさそうだった。

 

 

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