GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯3‐2

 

「とんだ坊ちゃんっすねぇ。戦い方が荒っぽいのなんのって」

 

 口にしたツルギは白髪を掻き、嘆息をついていた。どうにも怪獣相手に立ち回りが怪しい部分がある。それはグリッドマンとしての覚醒がまだ浅い事を示しているようであった。

 

「ねぇ、お兄さん。私達が、手伝えれば」

 

 アノシラスの提案にツルギは手を払う。

 

「駄目っすよ。グリッドマンに手を貸したら、ただでさえ狙われているのに俺達まで危険になっちまうっす。今は相手の目がグリッドマンに向いている。俺からしてみればチャンス以外の何物でもない」

 

 今を逃せばナイトウィザードの手薄な時期を狙うのは難しいだろう。それに、と先ほどの怪獣三体、否、四体へと思いを馳せる。

 

 あの場には三体しかいないように思われたが、首を落とされた怪獣が身軽な挙動をするものか。

 

 グリッドマンには仕掛けられた罠すら看破出来ないようであったが、完全に張られていた相手の術中にむざむざはまったようなものだ。

 

「あんな雑魚相手に、苦戦し過ぎなんすよ。それに、三体しか見えてないのも問題っす」

 

「……もっといたの?」

 

 アノシラスも三体しか関知出来なかったのだろう。それも致し方なしと感じていた。

 

「最低でも四体。いや、統率している一体を含めれば、五体っすかねぇ。そのうち一体は確実にナイトウィザードの一席のはず……」

 

 睨んだツルギにアノシラスはふぅんとどこか他人事のようだ。

 

「お兄さんとそのナイトウィザードって言うの、関係あるんだ」

 

「ま、浅からぬって奴っすよ。おたくこそ、何で俺について来るんすか。あんだけの大規模戦闘があったんだ。逃げたっていいっすよ」

 

 その言葉にアノシラスは踊るようにツルギの前で足並みを弾ませた。

 

「やだ。だって、お兄さんだけじゃきっと、死んじゃうよ?」

 

「強情っすねぇ。ったく、誰に似たのやら」

 

「それ、先代かも。先代も負け知らずだったから」

 

 アノシラスが口にした「先代」という言葉にツルギは、なるほど、とこぼす。

 

「先代、か。あのグリッドマンもそうなのかもしれないっすねぇ。先代の宿縁に縛り付けられている……。自分の本当に戦う意味さえも分からずに」

 

 そうだとすれば、グリッドマンの変身者は不幸だ。本当に戦うべき相手を見据えず、闇雲に力を振るっているのならば怪獣とさして変わらない。

 

「せめて、振るうべき対象を、間違えなければいいんすけれどねぇ……」

 

「グリッドマンは、間違えるの?」

 

 純粋なる問いにツルギは、いや、と返答する。

 

「間違えた時は、死ぬ時っすよ。グリッドマンならば特に、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迴紫様。いいのですか。……コードをばら撒いて、あの男は勝手をしております」

 

 モノクルの紳士の言葉に、迴紫はゲーム機を睨んでいた。

 

「そうだねぇ……。やっぱりさ、パラディンを主軸にして、育成するのが正しいのかなぁ。ホラ、最初からパラメータ高いじゃん」

 

 どうやら今はシミュレーションゲームに夢中のようだ。迴紫はこちらに一時として目線を振り向けない。それが純粋に、戦士としては失格だと烙印を押されているようで、人知れず拳を握り締める。

 

「……コードをばら撒けば、それだけ力は拡散します。危険なのだと、判断されたのでは?」

 

「それってキミらの判断じゃん。ボクは最初っから、どっちでもいいんだよねぇ」

 

「どっちでも……とは?」

 

「コード一つで出来る事なんてたかが知れてるよ。キミらナイトウィザードがどう考えているのかは知らないけれど、怪獣を増やして勝てるって言う論法なら最初からそうしているし、それで負けるんならグリッドマンはそこまでだし……。あ、ねー、やっぱさ。軍師キャラも育てておくべきかな? 火力低いんだけれど、後半だと優位だし!」

 

 声を弾ませてゲームに興じているが、モノクルの紳士は迴紫本人が決して耄碌していない事を自覚している。彼女は誰よりも俯瞰しているはずだ。この戦局を理解して、コードをばら撒いた。それでどのように戦力が分散するのか分かっているのに。それでも、やはり愚の骨頂とは思えないのは、窺い知れないものがあるからだろう。

 

 それは彼女を頂点として組織すると決めてから、ずっとであった。

 

 ナイトウィザードは迴紫を頂点として組織されなければならない。迴紫でなければ自分達はつかなかったはずなのだ。

 

「……先代を倒した時も、そのような感覚だったのですか」

 

 その言葉に迴紫の指先が止まる。そのオレンジ色の瞳がこちらを捉え、初めてここに自分がいる事を認識したようであった。うろたえ気味に後ずさった自分に、迴紫は目を細める。

 

「……何かさぁ、もっといいジョークを言いなよ。先代を倒した時の話を持ち出すなんて、キミってつまんないね。あんなの、結果論じゃん。ボクはそんな短絡思想に映る? いや、もちろんキミらからしてみれば死活問題かもしれない。でも、ボクにその質問は、ナンセンスだ」

 

 迴紫が左手首を意識する。内包するその「力」を意図した瞬間、モノクルの男は目礼していた。

 

「……失礼を」

 

「いいっていいって。ボクの態度が煮え切らないのがよく分かんないんでしょ? そりゃ、リーダーなら毅然として、グリッドマンを倒せ、とか言うべきなんだろうけれどさ。そーんな気にはなれないんだよねー。まぁ、彼も被害者だし」

 

「被害者……。グリッドマンが、ですか」

 

 円卓に寝転がり、迴紫はゲーム機を手にうぅんと呻る。

 

「そうでしょー? だっていきなりさ、その日からキミはグリッドマンだ、正義のヒーローだって言われて、じゃあピンと来る? ボクなら来ないなぁ。納得していないんだよ、彼だって。急にグリッドマンに選ばれたわけなんだから。いや、これも語弊かな。選ばれたわけでもないのに、ある日突然グリッドマンで、誰が納得出来るって話」

 

 その論調は淡泊でありながらも、どこか達観さえも窺わせた。そういうスタンスだから、迴紫は今回のグリッドマンに対してある種の静観に近い姿勢を貫いている。それが正しいのだと、どこかで理解しているのだと。

 

 だが得心は行かない、とモノクルの男は問いかけていた。

 

「そうだとしても……グリッドマンは我々の敵です」

 

「まー、そうかもねぇー。その見方が正しいんだと思うよ。うん。……でもボクなら御免かなー。起きて朝の支度をしていたら急にグリッドマンなんて。そんなの……つまんないでしょ」

 

 ――つまらない。本当に、その一語に集約されるかのように迴紫は呟く。

 

 彼女からしてみれば、そのつまらない相手に善戦している自分達もまた、つまらない存在なのかもしれない。

 

「迴紫様……。しかし我々はあなたのために……」

 

「あっ、ねーねー! やっぱり弓兵も育てておかないと! 遠距離って便利じゃん! あー、盲点だったー! ステータス全部パラディンに振っちゃったよー! リセット、リセットー!」

 

 ごねて神聖なる円卓の上をばたつく相手が自分達を統率する人間だとはまるで思えない。しかし、一度でも彼女の機嫌を損ねればそれだけで命がないのだけはハッキリしている。

 

 モノクルの男は冷たい汗が伝い落ちるのを感じていた。首裏に浮かんだ汗は確実に殺気を関知している。

 

 迴紫の視線が自分を捉えたほんの一瞬でも、命を摘まれる感覚があった。

 

 それほどまでに、彼女は――。

 

 

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