GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯3‐6

《メタラス》の電磁バサミを光刃で払い上げる。相手の装甲はしかし、堅牢そのもの。拡散した光に、敵が電磁バサミを打ち下ろす。宙返りで回避し、着地し様に三翼の光の刃を薙ぎ払う。《メタラス》へと命中するも、全く有効打にはならない。

 

(甘いんだよぉ……グリッドマン! 静かに死んでいりゃ、まだよかったものを!)

 

(わたしは……わたしはハイパーエージェントとして、そしてたった一匹の解き放たれた男として、使命を全うする!)

 

(解き放たれた、一匹の男だと……。吼えていろ、弱者! 《メタラス》の装甲はただの攻撃では貫けない!)

 

《ボルカドン》の火山砲撃が《サイファーグリッドマン》を潰さんと殺到する。《サイファーグリッドマン》は瞬時に飛び退り回避を試みたが、その時には《メタラス》が肉薄していた。

 

(押し潰されろ! 電磁バサミで!)

 

 電磁を纏いつかせた一撃が食い込みかけて、《サイファーグリッドマン》は両腕に蒼い光を滾らせていた。霧散したその光がまるで手甲のように装着される。

 

 蛇腹の手甲が《メタラス》の攻撃を完全に防いでいた。

 

(装甲なんて! 潰し切ってくれる!)

 

 みしみしと音を立てる装甲版に、《サイファーグリッドマン》は瞳を輝かせる。それは確かなる闘志をみなぎらせ、《メタラス》の攻撃を弾き返していた。

 

 距離を取った《サイファーグリッドマン》は天高く両腕を掲げ、交差させる。

 

 直後、蛇腹の手甲が裏返り、鋭い頂点を繋ぎ合わせ、両腕の装甲が合体していた。

 

 形作られたその形状に《メタラス》が絶句する。

 

(巨大な……ドリルだと……)

 

 構築されたドリルが《サイファーグリッドマン》の右手に装着され、何倍にも拡大する。水色の血脈が走り、ドリルに血潮を滾らせた。

 

(サイファー……ドリルゥゥゥ……!)

 

 電磁を迸らせ、蒼い閃光を纏いつかせたドリルが高速回転する。その速度はすぐさま光へと達し、ドリルを突き上げ、《サイファーグリッドマン》は叫んでいた。

 

(ブレイク!)

 

《サイファーグリッドマン》そのものが巨大なる推進剤となり、蒼い光を棚引かせて《メタラス》へと突撃する。《メタラス》が慌てて防御陣を張るも、その防御を容易く打ち砕き、光のドリルが突き抜けていた。

 

《メタラス》の腹腔に突き刺さり、すぐさま光の瀑布がその装甲を巻き込んで剥離させる。

 

《メタラス》が断末魔を上げてドリルに貫かれ、爆散していた。ドリルは再び手甲として、《サイファーグリッドマン》に装着される。

 

 降り注ぐ《ボルカドン》の火球を手甲で弾き返し、《サイファーグリッドマン》はその装備を解いていた。グラン・アクセプターで前面に結界を張り、その結界を飛び蹴りで突き抜ける。

 

 その刹那には《サイファーグリッドマン》は蒼き戦闘機へと変じ、青錆びの街を光速で突き抜けていく。

 

《ボルカドン》が間近に迫り、機首をロールさせ風圧でその巨躯を煽った。だが足場を踏み締めている《ボルカドン》にはまるでダメージにならない。

 

 円弧を描いて復帰した《サイファーグリッドマン》はさらに二重の結界を前面に張り直していた。

 

 その結界を超えた瞬間、戦闘機形態より移行した姿は、蒼い重戦車である。無数の火器を装備した重戦車のキャタピラが大地を踏み締め、《ボルカドン》へと緩慢ながらにその砲門を据えていた。

 

 直後、放たれた業火の塊が《ボルカドン》の堅牢なる装甲を打ち据える。何万度の灼熱に耐え得るであろう、白銀の表皮に穴が開いていた。

 

(まさか……! グリッドマン、貴様……覚醒を……!)

 

(わたしは未だに自分が分からない。それでも、わたしと一心同体になってくれている那由多が叫んでいる。守るべきもののために戦うと! ならば、それに呼応するのが、わたしだ!)

 

 重戦車の砲台が内奥より輝き、莫大な熱量を放出していた。《ボルカドン》の耐熱表皮を貫通し、敵がうろたえる。その隙を見逃さず、即座に巨人形態へと変身し、大地を蹴りつけて肉薄していた。

 

 浴びせ蹴りが《ボルカドン》の頭部を激震させる。すかさず放った左手の光刃がその首を刈るかに思われた、その刹那であった。

 

(させるかよ! グリッドマン!)

 

 降下してきた《ゴロマキング》が鎖を回転させて投擲する。《サイファーグリッドマン》の左腕を拘束する鎖の堅さに、お互いの距離をはかりかねる。

 

(グリッドマン! てめぇ、人殺しに加担する気か? 俺達は人間なんだぜ?)

 

(……そうであろうとも、那由多は守るべきものを見据えた! ならばわたしは、彼の意に背く真似はしない! わたしは、ハイパーエージェントだからだ!)

 

《サイファーグリッドマン》が力強く鎖を引き込む。その力に迷いがないのだと判じたのだろう。《ゴロマキング》は《ボルカドン》を下がらせていた。

 

(……なるほどな。もう繰り言を重ねる気もねぇってわけかい……。なら! 殺し合うしかねぇな! グリッドマン!)

 

《ゴロマキング》の駆使する鎖に鎌が装備される。鎖鎌を手にした《ゴロマキング》がその刃を薙ぎ払っていた。充填されたエネルギー波が放出され、《サイファーグリッドマン》の首を掻っ切らんと迫る。その勢いに、光刃を発振させて同士討ちさせていた。

 

 だが、それを見切らない相手でもなし。

 

 素早い身のこなしで懐に潜り込んだ《ゴロマキング》が鎖を拳に纏いつかせ、そのまま押し上げる勢いのアッパーを見舞っていた。

 

《サイファーグリッドマン》は間一髪でかわすが、今の一撃こそが《ゴロマキング》の本懐だと察知する。

 

(……貴様)

 

(ケンカ殺法ってのは知らねぇらしいな。場数が違うんだよ! ええ、ハイパーエージェントさんよォ!)

 

 放たれた鎖を断ち切ろうとして、その動きが囮である事を寸前で感じ取る。姿勢を後ずさらせた時には、《ゴロマキング》の次手が炸裂していた。

 

 横合いからの殴りかかり。それもゼロ距離に近い感覚だ。正確無比に急所である目つぶしを狙った一撃と、それに付随する暴力に《サイファーグリッドマン》は防戦一方を強いられる。

 

 構え直すが、敵はこちらに武装を施させる隙を与えない。大剣を呼び出そうにも、時間があまりにもないのだ。

 

 懐に潜り込んで、一発浴びせかかる。それが無理ならば蹴り。無理ならば、次なる一手と、相手の攻撃網には一手の遅れもない。《サイファーグリッドマン》は自ずと押されていた。光刃で相手との距離を稼ごうとするが、《ゴロマキング》はこちらの攻撃を恐れずに果敢に攻め立てる。

 

(言ったろ? 場数が違うって。てめぇの攻撃パターンはもう読み切った! どの手で来ようが、どれも先読みしてやんよ!)

 

 その言葉通り、大剣を召喚するために飛び退ろうとすれば足を取られ、《サイファーグリッドマン》は盛大によろけてしまう。転がる前に身を翻し、ロールさせて光刃を拡散させる。

 

(グリッドライト、セイバー!)

 

 三翼の光刃がそれぞれの軌道を描くが、《ゴロマキング》はそれらを鎖鎌で的確に撃ち落とす。《サイファーグリッドマン》は重戦車形態へと変位しようとして、駆け込んできた《ゴロマキング》に突き飛ばされていた。

 

(……こいつ、隙がまるで……)

 

(《バギラ》のジジィや、他のナイトウィザードと一緒にすんなよ。俺は! 第一線で戦ってんだ! 付け焼刃の戦略なんて通用すっかよ!)

 

 回転させて勢いをつけた鎖鎌が疾走する。《サイファーグリッドマン》は姿勢を沈めて回避するも、それを読んでいた《ゴロマキング》が既に肉薄している。

 

 近づかせまい、とグラン・アクセプターより光の皮膜を張り、防御に用いようとするが相手の 暴力は容易く壁を打ち破っていた。

 

 鎖を纏っただけの拳なのに、これまでのどの兵力よりも強靭である。打ち砕く術がまるで思いつかず、その巨躯に打ち込むべき次手も霧散していく。

 

(……この敵は……!)

 

(そろそろ時間のはずだよなァ、グリッドマン! 時間切れで人間に戻ったところを仕留められるか、それともここで! 俺に無謀にも挑んで死ぬか! 好きなほうを選ばせてやる!)

 

 タイマーが点滅を始める。このままでは相手の思い通りに打ち倒されるだろう。

 

《サイファーグリッドマン》は光刃を発振させて威嚇するが、《ゴロマキング》にはまるで通用していないのは分かり切っていた。

 

 ――付け焼刃や、あるいはただのその場しのぎでは絶対に勝てない。

 

 確信に、《サイファーグリッドマン》は硬直する。その間にも無情に時間だけは過ぎていく。点滅が激しくなってきた。

 

《サイファーグリッドマン》も肩を荒立たせ、今にも崩れ落ちそうである。

 

《ゴロマキング》が、裂けた口角をにやりと吊り上げた。

 

(どうやら……ここまでみてぇだなァ! グリッドマン! 俺がてめぇをぶち殺す!)

 

 鎖鎌を携え、《ゴロマキング》が駆け出す。次の一撃で決めるつもりであろう。《サイファーグリッドマン》は己の中に湧いた闘志共々、特攻の覚悟で走り出していた。

 

(差し違えてでも……! わたしは貴様を倒す!)

 

(差し違えだと? 勘違いすんな! てめぇは一人で死ぬんだよォ!)

 

 互いの影が交錯し、お互いの武装が貫かんと迫った、その時であった。

 

「――駄目じゃん。そんなの」

 

 不意に《ゴロマキング》の動きが鈍る。《サイファーグリッドマン》も硬直していた。

 

 眼前に現れたのは、見紛う事なき、人間の少女である。紫色のショートカットに、オレンジの瞳をした少女は、自分と《ゴロマキング》の間の空間に、浮かび上がっていた。

 

(……人間、だと)

 

 互いに必殺の勢いを削がれた中で《ゴロマキング》が声を震わせる。

 

(え……迴紫様……)

 

「駄目だって言ったじゃん。もうっ、聞かないんだから。めっ! だよ。たくさんコード使って、それで差し違え? ……いや、この場合一応はグリッドマンに深刻なダメージを与えられたかぁ……。でも、ボクの流儀じゃないんだよね。たくさん部下使って、心理的に揺さぶりまでかけて、そこまでお膳立てして、何? 何で劣勢なの? ……ホント、意味分かんない。キミさぁ、プライドなさすぎじゃない?」

 

《ゴロマキング》がうろたえて後ずさる。《サイファーグリッドマン》は浮かんだままこちらを注視する少女を睨んでいた。

 

(……君は何だ)

 

「何だって、ご挨拶だなぁ、今回のグリッドマンは。でも、はじめましてだよね。ボクの名前は迴紫。ナイトウィザードの頭目をやらせてもらっている。迴紫だ」

 

 微笑みながらそう口にする相手は、その言葉の事実とはまるで遊離して思えた。

 

 ――この少女が、敵の頭目だと……。

 

《サイファーグリッドマン》の意識と混ざり合った那由多もまた当惑する。こんな少女に、怪獣が率いられてきたと言う事実がどうしても信じられない。

 

 迴紫と名乗る少女は、こちらの眼差しが怪訝そうなのに心外だと眉をひそめていた。

 

「信じらんない? じゃあま、これでも見ればどう? これ持ってるのって、限られているはずだよね?」

 

 迴紫は左手首を掲げる。その手には紛れもない、赤銅のアクセプターが装着されていた。

 

 那由多の意識は己の左手首に装着されているアクセプターと同一である事を認識する。

 

(……我々と、同じ……)

 

「ちょっと違う。ボクはこの世界を自由自在に動ける、最強の存在。キミはハイパーエージェントに留まっているけれど、その域を超えた、超越者。ある意味では……言い方悪いかもだけれど、支配者かな?」

 

 小首を傾げた迴紫に《サイファーグリッドマン》は攻撃も出来ず、ただ持て余していた。それを好機と、《ゴロマキング》が疾駆しかけたのを、迴紫が片手で制する。

 

 迴紫の手から空間を超えて引き出されたのは、巨大な赤銅の杖だ。それが《ゴロマキング》の鼻先へと突きつけられる。

 

「隙あり! って? キミさ、ケンカ上等ってスタンスはいいけれど、グリッドマン相手にてこずり過ぎ。そんなんじゃ、怪獣としても失格だよ。何ならもう、コードも要らない?」

 

 その言葉に《ゴロマキング》は敵意を仕舞っていた。恐れ戦いた《ゴロマキング》は、武器の全てを手落とし、その場で這いつくばる。

 

(お許しを……)

 

《サイファーグリッドマン》はそのあまりの異様さに絶句する。怪獣がただの一少女に許しを乞うている。それだけではない。彼女には全てが出来るかのような万能さが宿っていた。

 

(……ナイトウィザードの、頭目であると言うのが本当なら……)

 

「なら、どうする? ボクをここで殺す?」

 

 面白がって上目遣いに、迴紫は試す物言いをしてくる。ころころ笑う少女に、《サイファーグリッドマン》はグラン・アクセプターより光刃の切っ先を突きつけていた。

 

 相手が全ての元凶だと言うのならば、自分は迷わない。迷わないと決めた。

 

 ――ナイトウィザードを倒す事が、守る事に繋がるのならば。

 

(……わたしは君を討つ)

 

 その宣言に、迴紫は、へぇと感心したようであった。

 

「ここでボクを討つ、か。そう言えるのはご立派。でも、駄目だねぇ。すぐに斬り付けないと。相手は待ってくれないよ?」

 

 その言葉が消えるか消えないかの刹那、《サイファーグリッドマン》の背後から攻撃が見舞われていた。

 

 振り仰いだ先にいたのは赤銅の結晶体である。それらが一斉に火を噴き、《サイファーグリッドマン》を追い立てる。

 

 光刃でいくつかの火線は払ったが、それでも執念深く追ってくる相手に、《サイファーグリッドマン》は戦闘機形態へと変じようとして、既に時間切れが近いのを知覚していた。

 

 その耳元で、迴紫が囁く。

 

「もうすぐ時間切れでしょ? 勝負はまたね。彼は、ちょっと汚い手を使ったからさ。お仕置きしておくから。どれだけグリッドマンが脅威でも、さすがに今回が出過ぎた感あるし……。ゴメンね! 今回のグリッドマンの人!」

 

 素直に謝ってみせる迴紫に《サイファーグリッドマン》と、同一化している那由多は困惑しっ放しであった。

 

 相手は、本当に敵なのか。それすら疑わしい。しかし、《ゴロマキング》を従えている以上、ただ者ではないのは見るも明らかだ。

 

「謝罪の証じゃないけれど、こういうのはどう? グリッドマン」

 

 迴紫が指をパチンと鳴らす。すると、戦闘地帯より下がっていた《ボルカドン》が浮かび上がっていた。展開された結界が幾重にも《ボルカドン》を拘束し、その自由を奪っている。

 

(迴紫様……俺の部下を……!)

 

「部下を大事にするんなら、こんな作戦で勝とうなんて思わない事だよ。さて、グリッドマン。ボクなりの謝罪っ! ゴメンね、今度からはもうちょっと楽しい催しにするからさ。これで今回は勘弁してね。じゃっ!」

 

(迴紫様! お許しを!)

 

《ボルカドン》が叫んだのも一瞬、浮かび上がった自律武装がその体表を貫通していた。

 

 赤い断面が生じたかと思うと、《ボルカドン》の身体は無数に切り刻まれていた。電磁の断面を生じさせ、《ボルカドン》が無残にもバラバラに切り裂かれる。その遺骸が青錆びの街へと落ち、血潮が空間を満たしていた。

 

 言葉を失う那由多と《サイファーグリッドマン》に、迴紫は茶目っ気を込めて言い放つ。

 

「いやぁ、お見苦しいところを見せたね。これでチャラって事で!」

 

《ボルカドン》の身体が赤く昇華し、空間に溶けていく。それを《ゴロマキング》は膝を落とし、茫然と見つめていた。

 

 白濁した瞳に宿ったのは殺意である。

 

 鎌を振りかぶり、《ゴロマキング》が迴紫へと襲いかかっていた。迴紫は赤銅のフィールドを張ってそれを防御する。

 

「えーっ、何で? ボク、正しい事をしたよね?」

 

(迴紫ィィッ! てめぇ、俺の部下をォッ!)

 

 戦闘衝動に沈んだ《ゴロマキング》を正攻法で止めるのは不可能に思えた。だが、迴紫は欠伸混じりに指を弾く。

 

 それだけで無数の自律機動兵装が挙動し、《ゴロマキング》を包囲していた。放たれた光条が《ゴロマキング》を押し返し、そのまま拘束する。

 

「……まだある?」

 

(迴紫……ッ! ここで俺が……殺す……ッ!)

 

 拘束を破ろうとする《ゴロマキング》に迴紫はほとほと呆れ返ったようである。

 

「……邪魔だなぁ、そういうの。思わない? 逆恨みほど、非生産的な事はないって」

 

 迴紫は左腕を掲げる。赤銅のアクセプターが照り輝き、彼女は両腕で十字架を作っていた。

 

「アクセース・フラーッシュ!」

 

 どこか間延びした声と共に引き出されていくのは赤銅の瞬き。光に抱かれた迴紫の身体が瞬時に光速の壁を越え、《ゴロマキング》を射抜いていた。

 

 直後に《ゴロマキング》の背後に立ち現れたのは、赤銅の光を湛えた――。

 

(……グリッドマン、だと……)

 

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