GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯3‐7

《ゴロマキング》が天を仰いで切れ切れの声を発する。直後、その身体が斜に切り開かれていた。電子の断面が露になり、血潮が舞う。

 

(貴様は……)

 

(名乗るんなら、そうだね。電脳導師《ウィザードグリッドマン》。思い出した? それとも、思い出せないなりに――怖い?)

 

 少女そのもののその声音にどうしてだか、《サイファーグリッドマン》と、それに抱かれた那由多は畏怖の感情に包まれていた。意味は分からない。だが、ただひたすらに――怖い。

 

 その感覚に、伝い落ちる悪寒に、何もかもが支配されている。

 

 自分が敵うはずのない相手に闘いを挑んだのだと、全神経が告げているのだ。

 

(分かんない? それも。あー……やっぱこれ、やめとこ)

 

 直後、迴紫は変身を解いていた。《ウィザードグリッドマン》の躯体が光になって還元されていく。

 

「重たいんだもん、これ。中の人の事も考えてって感じだよねー」

 

 ショートカットを払った迴紫は《ゴロマキング》へと一瞥を投げていた。《ゴロマキング》は先ほどから殺意を滾らせているが、まるで意味を持たないとでも言うように拘束され続けている。

 

 迸った血潮も相当な量だ。ともすれば致命傷かもしれない。

 

(……味方までも)

 

「味方ぁ? 勘違いしてるなー、キミ。ナイトウィザードは利益が一致しているから団結しているだけ。元から思想面や統制面ではずれているんだよ。でも……あの《ゴロマキング》の彼はつまんないよねぇ。笑っちゃう」

 

 それが本当に、心底可笑しな事であるかのように迴紫はぷっと吹き出していた。その様子に死に体の《ゴロマキング》が声を搾り出す。

 

(ぶっ……殺して、やる……。迴紫ぃ……ッ!)

 

「あーあ、似たような事しか言わなくなっちゃった。そろそろ終わっちゃうのかな? あ! じゃあさ! じゃあさ! いい事思いついちゃった! せっかくグリッドマンが二人も揃っているんだから、怪獣の解体ショーやろーよ! 二人で《ゴロマキング》を八つ裂きにするの! 面白そうでしょ?」

 

(何を……)

 

 息を呑んだこちらに迴紫は純粋そのものの口調で問いかける。

 

「えー、いいじゃん、いいじゃん! 怪獣の殺戮ショーなんて中々お目にかかれないよ? じゃあ、まずは片腕から落としちゃおうよ! ボクが先行ねー。さぁーて、どんな声で啼いてくれるのかなー」

 

 自律兵装が躍り上がり、《ゴロマキング》へとその頂点を照準させる。迴紫が手を払えばすぐさま殺戮の刃が放たれるであろう。

 

(殺すぅ……ッ! 迴紫ぃぃぃぃぃぃ!)

 

「あー、うっさい、うっさいぃ。同じ事ばっか言うな、バグってるの? もうっ、じゃあ腕からなんて悠長な事は言わないで、もう首を落として――」

 

 瞬間、光となって駆け抜けた《サイファーグリッドマン》が躍り上がり、迴紫の保持する自律兵装を叩き落していた。光刃を振り翳し、自律兵装を砕いた切っ先を突き上げ、そのまま迴紫へと雪崩れかかる。

 

 迴紫は自らに降りかかる直前で、手を振るっていた。

 

 赤銅のフィールドが展開され、《サイファーグリッドマン》の光刃を阻む。

 

「……何これ。何やってんの?」

 

(……怪獣とは言え……命を無秩序に摘むような真似は……看過出来ない)

 

 その言葉に迴紫は笑い声を上げていた。腹の底を押さえ、何度も息を切らす。

 

「あー、何それ? どういう渾身のギャグ? グリッドマンだって殺してきたじゃん。それなのに、自分はよくって他人は駄目なの? それ、どーいう事なの?」

 

 呆れ果てたように迴紫は首を傾げる。《サイファーグリッドマン》は光刃に限界まで出力を注ぎ込んだ。迴紫の保持する赤銅の壁に僅かながら亀裂が走る。

 

「あのさー、やってる意味分かってる? 別に怪獣なんて何匹死んだっていいじゃん。あいつら悪い事してるんだからさ。覚悟も出来てるでしょ。それなのに、カワイソーだから、やめて差し上げろって? ……矛盾って分かる? グリッドマン」

 

(わたしは……ハイパーエージェントとして、割り切りは出来ているつもりだ)

 

「じゃあなおさらじゃん。意味ない事やめようよ」

 

(だが……「オレはそんなつもりはない」)

 

 入り混じった声音が咆哮を呼び、《サイファーグリッドマン》の内奥より輝かしい蒼の光が放たれる。

 

 光刃が壁を打ち破り、迴紫へと打ち下ろされていた。

 

 だが――。

 

「……あっぶなー。時間切れだねぇ」

 

 迴紫は刃が掻っ切った髪の毛の一部を掴む。少しでも時間があれば、その身体は両断されていただろう。

 

 光へと還元されていく《サイファーグリッドマン》を迴紫は検分するように仰ぎ見た。

 

「……キミ、面白いね。特に今回のグリッドマンの……中の人は。何だかつまんなかった先代を超えた感あるよ、今の一瞬で」

 

 那由多は《サイファーグリッドマン》の体躯を動かそうとするが、光へと変わった身体を稼働させる事は出来ない。

 

 ――目の前に許せない怨敵がいるのに、何も出来ないなんて。

 

 グリッドマンとしての使命だけではない。何よりも自分の魂に、迴紫は唾を吐いた。

 

(……必ず倒す)

 

 その宣戦布告に迴紫は微笑んで手を叩いていた。

 

「うわっ! すっごいね。素で言えちゃうんだ、そんなセリフ……。ま、フツーなら負けフラグだけれど、面白いから受けちゃう。ボクを退屈させないでよ、新しいグリッドマンと、その中の人」

 

 直後、《サイファーグリッドマン》の全身は光に溶けていった。

 

 那由多は高層建築物の屋上より、浮遊する迴紫を直視する。

 

 相手も自分から目を離す事はなかった。互いに互いを敵と決めた眼差しで、那由多は己の内側に沸いた明確なる敵意と共に、叫んでいた。

 

「お前だけは、必ず倒す! 迴紫!」

 

「ふぅん。使い古された台詞で吼えるねぇー。でも面白いから、こっちもテンプレで返しちゃおうかな。……死ぬのはお前だ……とか?」

 

 小首を傾げた迴紫は次の瞬間、赤銅の風になびかれ消え失せていた。

 

 那由多はアクセプターの浮かび上がった左手首と共に、新たに誓う。

 

「……あれが、オレの倒すべき、敵……」

 

 アクセプターの脈動が静かにそれに応えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円卓を囲み、会議が催されたのはその時既に、であった。

 

 モノクルの紳士が仕切り、他の者達がリアルタイム映像を各々目にする。

 

「怪獣は使い捨て、死んでも構わない、ね」

 

 女の声に、聞き取れない小さな声で、少女が返していた。丸眼鏡をつけた少女は特徴的な頭頂部の毛を何回も直しつつ、迴紫の残したゲームをやり進めている。

 

「……迴紫様、こんなところでセーブもせずに……。遊んだら遊びっきり……。ゲーマーの風上にも置けない……」

 

「あんたもこういう時だけ出席するんじゃなくって、常に迴紫様に言えばいいのに。それ、触っていたら迴紫様にばれるわよ」

 

 その忠告に少女は、ひっと短く悲鳴を発し、慌てて指紋を拭う。

 

「見ての通り、《ゴロマキング》の彼がやられました」

 

「迴紫様に、でしょう? どうするの。ナイトウィザードの一員としては看過出来ないとでも?」

 

 女は煙管より紫煙をたゆたわせる。少女が何度も咳き込んだ。

 

「……いえ、ここは静観を致しましょう。ナイトウィザードを構築するのも一枚岩ではない事を、迴紫様は知るべきなのです」

 

 モノクルの御仁の言葉に女はフッと笑みを浮かべる。

 

「あんただって、腹に一物抱えているクチだものね」

 

「……え、迴紫様は、勝手が過ぎる……と、思います。《ウィザードグリッドマン》、だって、明かす予定じゃ、……なかったはずなのに……」

 

「それ含めての緊急会合でしょう? どうするの? 三人いないけれど」

 

「コードを含め、身勝手に振る舞え……。迴紫様が言うのならば、それでいいのでしょう」

 

「勝算はあるって言い草に聞こえるけれど?」

 

「少なくとも伝手くらいは」

 

 モノクルの紳士は手を翳す。映し出されたのは白髪の青年であった。その姿に女が艶やかな息をつく。

 

「……生きていたのね。彼」

 

「我輩らナイトウィザードへの復讐を企てていると思われます」

 

「……逆恨み、ですよ……」

 

「それでも。ナイトウィザードの障害として立ち塞がるでしょう」

 

「彼を殺せ……って言う空気じゃ、なさそうね」

 

 モノクルの紳士は《ゴロマキング》の姿が赤い粒子となって消えゆくのを視認してから、言葉を継いだ。

 

「……我々ナイトウィザードは残り五人。慎重な行動が求められる」

 

「どう立ち回っても、私達は迴紫様からしてみれば玩具なんでしょう?」

 

「走狗には走狗なりの意地がある。それを見せつけましょう。まずは、彼に」

 

 映し出された白髪の青年の名前を、モノクルの紳士は忌々しげに口走る。

 

「ハンターナイト、ツルギ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朋枝は戦場に成り果てた新宿区内をようやく、と言った様子で窺っていた。

 

 那由多から自分が来るまで外に出るな、と厳しく言われてドクロ鉄道の構内に身を隠していたが、当の那由多は一向に戻ってこない。

 

「……もしかして、怪獣に? ……そんな事、ない、よね……」

 

 那由多が自分の下に帰ってくる保証なんてない。それでも、朋枝は信じたかった。那由多は既に掛け替えのない存在になりつつあるという事を。

 

 だからこそ、死んで欲しくない。エゴを言えばグリッドマンに成る必要性もないと感じていたが、それはただのわがままだ。

 

 構内より出た朋枝は焼け野原になっていた新宿の外観が、じわじわと青錆びに浸食され、少しずつ沈静化していくのを目にしていた。

 

 炎は掻き消え、戦場の喧騒は鳴りを潜めつつある。

 

 朋枝はその只中で蹲っている人影を発見し、慌てて駆け寄っていた。

 

「那由多……っ!」

 

 しかし、近くまで迫ってから、それが全くの別人であると思い知る。

 

 金髪の男は蹲り、こちらを凄みを利かせた眼で睨み据える。

 

「なに……見てんだ、てめぇ……ッ!」

 

 その双眸に、殺される、と危険信号が走ったのも一瞬。朋枝は相手が深手を負っている事を認識した。出血が激しく、男は今にも息絶えそうである。

 

「……消えろ……。一人で……死にてぇ……」

 

 通常ならばその声に耳など貸さないだろう。逃げ帰り、那由多を待てばいい。だが、この時の朋枝は、出会ったばかりの頃の那由多の相貌を、男に重ねていた。

 

 頼るべきものも持たず、何者でもない存在――。それはどれほどの孤独だったのだろう。どれほどの、冷たさであったのだろう。

 

 朋枝は気が付くと男に肩を貸していた。男は血濡れのまま頭を振る。

 

「やめ、ろ……。一人で……死なせろ……」

 

「一人なんかで死んじゃ駄目……っ。人間は、絶対に一人で死んでいい人なんて、いないんだから」

 

 その言葉が誰からもたらされたものなのかは分からない。それでも、朋枝は前を向いて宵闇の新宿を歩み進んでいた。

 

 黄金の瞳の月明りの照らす、静かな夜であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【鋼鉄怪獣《メタラス》】

【電波怪獣《ボランガ》】

【火山怪獣《ボルカドン》】

【ツッパリ怪獣《ゴロマキング》】

【幽愁暗根怪獣《ヂリバー》】

【電脳導師《ウィザードグリッドマン》】登場

 

 

 

第三話 了

 

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