GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯4‐2

 

 絶叫が迸る。

 

《サイファーグリッドマン》を拘束した黄昏の球体より放たれた触手が巨人の躯体を縛り上げていた。

 

 蒼い輝きで切り裂こうとするも、全てを無為に帰すような黄昏の球体は翼を広げる。

 

 球体の中心部に亀裂が走り、見開かれたのは眼球であった。

 

 球体は《サイファーグリッドマン》の体躯を浮遊させる。束縛から逃れようとする《サイファーグリッドマン》へと無数の触手が干渉し、その装甲へと入り込む。

 

 瞬間、電子と光子で構成された《サイファーグリッドマン》の体内がブロックノイズに包まれた。いくつものノイズを浮かび上がらせ、《サイファーグリッドマン》の眼窩より光が失せていく。

 

 戦闘の気迫が消え失せた《サイファーグリッドマン》を黄昏の球体はゆっくりと取り込んでいた。

 

 その巨体がずぶずぶと沈んでいく。

 

 朋枝は覚えず高層建築より叫びを上げていた。

 

「那由多! 《サイファーグリッドマン》!」

 

 朋枝には球体は一瞥もくれず、《サイファーグリッドマン》を吸収したかと思うと、その巨体は高空を目指して浮遊していく。まるで風船のように質量を感じさせない相手に、朋枝は成す術もなかった。

 

「……武器くらいあれば……」

 

 歯噛みする朋枝が手すりを骨が浮くほどに握り締める。

 

《サイファーグリッドマン》を取り込み、黄昏の球体は瞬時に上空へと飛び去っていた。

 

 その残滓さえもない。相手は自分達の手の届かない場所まで離脱したのだ。

 

 青錆びの霧が吹き抜ける街で、朋枝は声を張り上げる。

 

「那由多! お願い! 戻ってきて!」

 

 その叫びも虚しく、高層建築の樹海に埋没していくばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 円卓を囲んだナイトウィザードに、あーあ、と迴紫は呆れ返っている。

 

「手を打つ前に、攫われちゃったねー」

 

 どこか呑気な頭目にナイトウィザードの者達は声を振り向ける。

 

「いいのですか? ……あれは我が方の怪獣ではありませんが」

 

 モノクルの男が鋭い眼光を映像の先に投げる。

 

「……宇宙人、ですか」

 

「めんどいんだよねー。そりゃ、交渉延長していたのは、ボクのミスだよ? でもさー、相手がナイトウィザードを倒そうとするんならまだしも、新しいグリッドマンに目をつけるなんて思わないじゃん」

 

 髪を掻き上げた迴紫はゲーム機のボタンを連打する。どうやらリズムゲームにはまっているらしい。軽快なリズムが、現状の深刻さとはまるで遊離していた。

 

「……我々が打って出ても」

 

「コードの無駄遣いになるよ。相手はこっちの理の通用しない、侵略宇宙人。そんなのに怪獣のアクセスコードなんて使って取り込まれたらどうすんの? 相手に力を与えるだけになるかもしれない。今は待とうよ」

 

「……意外ですね。迴紫様はあんなもの、歯牙にもかけないと思っておりましたが」

 

「慎重でおかしい? ……だって通用しないんだもん。仕方ないじゃん」

 

 どこか不機嫌そうな迴紫は珍しくゲームに全面的に興じているわけではなさそうだった。何回もリズムを外し、苛立ちをゲーム機にぶつける。

 

「ああっ、もうっ! 全然、はまんないじゃん! ……キミらの視線が痛いから言っておくよ。《ウィザードグリッドマン》に変身して、さっさと邪魔な奴を倒しちゃえば……とか思ってるでしょ」

 

 あーあ、と迴紫はゲーム機を円卓に投げる。分かっているのならば、と言葉を繋げようとして、声に遮られていた。

 

「――でも、駄目なんだよねぇ。あれは外からに関しては堅牢なんだ。攻撃はほとんど通用しない。いくら、ボクが《ウィザードグリッドマン》の力を全面的に使用しても、同じだろうね。あれは別権限でここにいるんだ」

 

「別権限……。迴紫様でも相手を制御出来ないと?」

 

「悔しいがその通り。だって裏の裏を掻いて、さらに言えば裏テクのさらに裏ワザみたいな事をされてるわけ。……ま、面白くはないよね。でも、どうしようも出来ない。相手はボクらを警戒して、今まで手を打ってこなかったけれど、興味深い対象が出来たんでしょ」

 

「それが、新しいグリッドマン……」

 

「こっちからしてみれば、面倒を減らしてくれているようで、実は一番に面倒くさい事をされてるんだよね。だって、新しいグリッドマンの中の人がせっかく面白い人だったのに、戦いを持ち越されただけじゃないもん。このままじゃ、グリッドマンも中の人も、永久にあの球の内側の世界に閉じ込められた状態だよ」

 

 浮かび上がった黄昏色の球体は光輪を展開していた。まさか、と息を呑んだ直後、放たれたのは光輪による大質量の爆撃であった。

 

 瞬間的に高速落下した光輪が渦を巻き、青錆びの街を砂礫と破壊で蹂躙する。その攻撃にナイトウィザード達は絶句していた。

 

「あんな威力……」

 

「まぁ、侵略のための基盤だし、これくらいは当然じゃない?」

 

 おかしいとも思っていないのだろうか。このままではナイトウィザードの領分も危うくなる。

 

「……本当に、対抗しなくていいのですか?」

 

「しっつこいなぁ。いいんだよ、別に。だって相手には戦う気なんてないもん。グリッドマンを煽っているほうがまだ楽しいなぁ……。宇宙人って淡白でさ、面白くないんだよ。煽ったって乗ってこないし。かと言って相手は相手で結構、こっちの神経逆撫でしてくるし。……まー、苦手な部類だよ」

 

 迴紫をして苦手と評せられる相手に対して、本当に徹底抗戦の構えも取らないで大丈夫なのだろうか。各々視線を交わし合うナイトウィザードに、迴紫はもうっ! と円卓を叩いていた。

 

「チラチラ見たって解決しないだから! ボクが《ウィザードグリッドマン》に変身して、それでちゃっちゃとぶっ潰しちゃえば早いって、みんな思ってる! 何回も言わせないで。分が悪いの。勝てない勝負はしたくないし、それ以前に勝負のレートにも上がらないんなら、もっと嫌!」

 

 迴紫がここまで嫌悪感を露にするのは珍しい。ナイトウィザードの面々は言葉を失っていたが、やがて意思決定をしていた。

 

「……我々ナイトウィザードは、戦わない」

 

「そうだよ、それでいいの。大体さぁ、あんなのずるっこい。理が違うんだもん。そんなの、ボクらが相手にするのは馬鹿馬鹿しいよ。消耗するだけ。だから、ここは静観。誰かが出ても止めないけれど、絶対! おススメはしないよ。だって負けちゃうもん、あれには」

 

 迴紫は再びゲーム機を手に取り、リズムゲームを再開する。ナイトウィザードはそれぞれ持ち場へと戻っていった。

 

 だが、納得は出来るものか。敵が強大でもやりようはあるのだと、そう確信していた者達は少なくはなかったらしい。

 

 月光の差し込むテラスでモノクルの紳士と、女は密会していた。

 

「……迴紫様は諦めろ、と仰っていましたが」

 

「理が違う、ともね。でも、私達がさじを投げればナイトウィザードの名折れ、でしょう?」

 

 思っている事は同じらしい。紳士はその手に《バギラ》のモニュメントを握り締めていた。

 

 片腕が欠損した《バギラ》に女は嘲笑する。

 

「いいの? 迴紫様に直してもらえばいいのに」

 

「施しは受けない。そうと決めた」

 

 断固とした口調に女はゆるりとモニュメントを取り出す。扁平な頭部を持つ刺々しい怪獣であった。その瞳が赤く点火される。

 

「いいわ。乗りましょう。迴紫様に対して文句があるのならば、私達がまずは、示す」

 

 

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