GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯4‐5

 

 ナイトウィザードのうち、二名が進軍するのはわざわざ言っていないがそれでも迴紫からしてみれば関知の内であろう。どこか彼女の掌の中で踊らされている気もするが、円卓での迴紫の言動を顧みるに、今回は静観の可能性が高い。

 

 ゆえにこそ、ナイトウィザードとして動かねばならない。

 

 モノクルの男はモニュメントを掲げていた。

 

「準備はよろしいか」

 

「いつでも」

 

 女もモニュメントを手に掲げる。互いの怪獣の赤い眼光が煌めいた。

 

「アクセスコード、《バギラ》!」

 

「アクセスコード、《デビルフェイザー》」

 

 それぞれの輝きが連鎖し、構築したのは怪獣態であった。

 

《バギラ》は片腕を失ったままであるものの戦闘自体には差し障りはない。比して女の変身した怪獣、《デビルフェイザー》は一味違う。

 

 漆黒の表皮に、肋骨の浮き出たまさしく悪鬼の様相を呈した怪獣――否。分類上はそれを超える「超獣」。

 

 上位アクセスコードの持ち主の眼光に《バギラ》は冷水を浴びせかけられる思いを感じつつ、天上を仰いでいた。

 

(完全に上がり切れば面倒ですよ)

 

(上がらせなければいい。《デビルフェイザー》)

 

 髑髏の頭部の眼窩が赤くぎらつき、次の瞬間、黄昏の球体へと高重力がかかっていた。電磁波の檻が相手を押さえつけ、そのまま引きずり降ろそうとする。

 

 味方ながらおぞましい、と《バギラ》は感じていた。

 

《デビルフェイザー》の能力はともすれば現状のグリッドマンを遥かに凌駕するかもしれない。そんな力を今、目の前で解き放たれている。

 

 自分もアクセスコードを持っていなければ仲間として活動しようとも思わないであろう相手だ。

 

 徐々に押え込まれた黄昏の球体が自由を奪われていく。触手を周辺へと放つが、どれもこれも実体を持たない《デビルフェイザー》の攻撃の前には無力だ。

 

 その眼球が地上を睨み、光輪が下部に展開される。

 

 またしても広域を粉砕する火力攻撃だ、と判じた《バギラ》は前に出ていた。

 

 光輪が収束し、瞬間的な加速を得て地上を蹂躙と破壊の渦に巻き込もうとする。しかし、光輪が発生する前に《バギラ》はその片腕に青い剣閃を滾らせ、瞬間的な衝撃波を放っていた。

 

 光輪と干渉し合い、直後、互いに爆発の光を拡張させる。

 

 黄昏の球体は攻撃が実行されなかった事実に、触手を漂わせ、上昇に転じようとするが、《デビルフェイザー》の電磁波攻撃がその動きを阻害する。

 

(逃がすと思って?)

 

 黄昏の球体がじりじりと下がってくる。もう少しで射程に入る、と《バギラ》が下段に刃を構えた、その時であった。

 

 ひりつかせる殺気の波に声を弾けさせる。

 

(……これは。いけない!)

 

 その声に攻撃に集中していた《デビルフェイザー》が悲鳴を上げていた。首筋に突き立てられた刃と共に白髪の男が強風にその身をなびかせている。

 

(貴様……ッ。また邪魔立てを……!)

 

「悪いっすねぇ! おたくらの邪魔をするのが、俺の意義なもんで!」

 

 逆手に握り締めた刃を薙ぎ払い、《デビルフェイザー》の頸動脈を切り裂く。血潮が舞ったが、それでも《デビルフェイザー》を簡単に倒す事は出来なかったようだ。

 

 怒りに駆られた《デビルフェイザー》の瞳が赤く染まり、近場の高層建築に降り立った男を睥睨する。

 

 直後には電磁波の檻が無数に放たれ、男を拘束せんと迫っていた。男は巧みに蛇腹剣を使って逃走し、攻撃を回避し続ける。

 

(《デビルフェイザー》! ここはあの男に構っていれば、宇宙人を逃がしてしまう! 相手を間違えてはならないのです!)

 

 その言葉もまるで通じないようであった。雄叫びを上げ、《デビルフェイザー》が光線を放出する。

 

 それに触れた途端、高層建築物が分子分解された。あらゆる物質を塵芥に還すシステム組み換え光線は自分達にとっても脅威だ。

 

 男はその最中でもニヒルな笑みを浮かべる。

 

「やるじゃあないっすか。ですがねぇ! 俺は、おたくらを抹殺する! もう決めたんすよ……手加減はしない。徹底的にってね!」

 

 躍り上がった男は蛇腹剣を伸長させ、《デビルフェイザー》の身体へと乗り上がる。《デビルフェイザー》が全身に電磁波を滾らせて叩き落そうとしたが、その時には相手は反対側へと逃げおおせている。

 

 巨大な体躯ゆえに、自分より小さな相手への対処は難しいのだ。

 

(一旦退くのです! ここでの撤退は敗北ではない!)

 

 このままでは重要な戦力を欠く事になる。そう判断した《バギラ》へと、《デビルフェイザー》は攻撃を浴びせていた。

 

 全身が束縛され、その口角より分子分解の吐息が漏れている。

 

(……黙れ)

 

 完全に怪獣のコードの凶暴性に呑まれている。それ以上に今は殺意に、か。《バギラ》は自身の攻撃手段に相手を正気にさせるものが存在しない事を恨めしく感じていた。

 

 このまま男の思うようにいけば、自分達は同士討ちであろう。

 

 それだけは、あってはならない。

 

《バギラ》は渾身の力を込め、《デビルフェイザー》の電磁拘束を切り裂いていた。

 

 そのまま、天高く掲げた針の腕を打ち下ろす。剣閃が男のいた高層建築を辻風で薙ぎ払っていた。

 

 煽られる形で男が落下する。

 

 勝機を見出した《バギラ》は連続攻撃を見舞おうとするが、その瞬間、天頂より急速落下した光輪による爆撃が地上を染め上げていた。

 

 爆発と破壊の連鎖に《バギラ》はその巨体を揺さぶられる。《デビルフェイザー》も光輪の直撃を受けたせいか、動きが鈍っている。その隙を男は突くつもりのようであった。

 

 建築物の壁を蹴りつけて宵闇を駆け上がり、二丁拳銃が火を噴く。

 

「墜ちろォッ!」

 

《デビルフェイザー》の頭部へと火力が集中し、彼女の視界を遮った。でたらめな方向に放たれた分子分解光線が青錆びの建築物をバラバラに融かす。

 

 攻防が目まぐるしく入れ替わる中で、《バギラ》は黄昏の球体がまた静かに上昇しようとしているのを目にしていた。

 

(我々の目的を忘れてはならない! 《デビルフェイザー》! 宇宙人が離脱する!)

 

《デビルフェイザー》はしかし、男との戦いで手一杯の様子であった。上位アクセスコードの持ち主でも、男の戦法は完全にこちらの弱点を知り尽くした戦い方だ。《バギラ》は、やはり、と声にしていた。

 

(かつての第三席……! その姿を見せろぉッ!)

 

《バギラ》が剣閃を浴びせかける。建築物が両断されるも男を捉える事はなかった。

 

 しかし、《バギラ》はその時、建築物の真下に存在する何者かを知覚していた。男は何を思ったのか、《デビルフェイザー》との戦いを打ち切り、戦場を疾駆する。

 

 駆け抜けた男が抱えていたのは小柄な少女であった。

 

《バギラ》はなるほどな、と得心する。

 

(それが貴様のアキレス腱か。ならば存分に! 利用させてもらおう!)

 

 周囲の建築物を斬り付け、連鎖崩壊を誘発させようとする。これで男は自分は助かっても少女は見捨てざるを得ないはずだ。

 

 そう見込んだ《バギラ》はその瞬間、声を聞いていた。

 

「……使うつもりはなかったんすけれどねぇ。アクセスコード、《シノビラー》!」

 

 瞬間、漆黒の輝きが瞬き、連鎖崩壊した建築物を薙ぎ払っていた。

 

 膨れ上がった光の中に浮かんだのは、赤い眼窩を持つ痩身の怪獣である。両手に携えた武器を構えた相手に《バギラ》は向かい合っていた。

 

(それが貴様の正体か! 《シノビラー》!)

 

(怪獣同士で、語り合うまでもない!)

 

 断じる口調になった《シノビラー》が瞬時に空間を飛び越え、《バギラ》の眼前へと立ち現れる。その姿を両断しようとするが、直前に相手は背後へと逃れている。

 

 あまりの速度に《バギラ》は息を呑んでいた。

 

《シノビラー》の刃が漆黒の光を帯び、闇の剣閃が《バギラ》の首を狙い澄ます。

 

 ――取られた、と錯覚する一瞬。

 

《デビルフェイザー》の分子分解光線が奔り、《シノビラー》は離脱していた。援護がなければ確実に殺されていただろう。

 

(援護を感謝しますよ……)

 

(そいつ……《シノビラー》ね。懐かしい。帰ってきたのは、私達を殺すつもり?)

 

 正気に返った《デビルフェイザー》に《シノビラー》は姿勢を沈ませる。

 

(問うまでもない。抹殺する!)

 

 またしても高機動で掻き消える。《デビルフェイザー》はしかし、落ち着き払って電磁波の波を大地に伝達させていた。

 

 直後、飛びかかろうとしていた《シノビラー》が空中で硬直する。

 

(《シノビラー》。あんたのやり口はよく知っている。怪獣態同士で戦えば、何に気を取られ、何にやられるのか、それくらいの対策、してないと思った? ……あんたがナイトウィザードを出て行ってから想定はしていた。でもまさか、人間態であそこまでやるとは思っていなかったけれどね)

 

 怪獣態になった時点で、《シノビラー》には打てる手立てが限られているのだろう。《バギラ》は圧倒されていたが《デビルフェイザー》は冷静になったらしい。硬直した《シノビラー》へと無慈悲なる分子分解光線が放たれる。

 

 電磁波を切り裂き、離脱した《シノビラー》だが、その片腕が砂のように溶け落ちていた。恐らく避け切れなかったのだろう。呻いた《シノビラー》に《デビルフェイザー》が迫る。

 

(ここで殺してあげる!)

 

 

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