GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯4‐6

 

「どうなってるの……」

 

 茫然とした朋枝は二体だと聞かされていた怪獣が、三体、それぞれ争い合っているのを目にする。

 

「やっぱりか。だが、あいつは……」

 

「ねぇ、あんた……。分かっていて――」

 

「あんたじゃねぇ。先輩って呼べ。にしたって、怪獣態になってやがるとはな。案外、追い込まれたって事か?」

 

 漆黒の怪獣を囲い込むように、以前現れた刃の怪獣と、新しく出現した骨ばった悪魔の怪獣が攻撃を浴びせかける。疾駆の怪獣が跳躍し、全身から赤い光線を浴びせかかった。幾何学の軌道を描く光線は朋枝達にまで及ぶ。その光線が命中したと確信した朋枝が瞼を閉じたその時、男が前に出てそれを叩き落していた。

 

 人間とは思えない動きに朋枝は絶句する。

 

「あなたは……何者……」

 

「言ったろうが。先輩って呼べって。だが、あいつ、自分を見失っているのか? 怪獣態になったからって動きにキレがねぇ」

 

 あの漆黒の怪獣の事を、男――先輩は知っているのだろうか。朋枝は迫り来る怪獣達の戦いに息を呑んでいた。

 

「……どうするの。那由多もいない。グリッドマンだって……」

 

「ここをどう収束させるのか、ってヤツだな。だが……案外、事態はすぐに収まるかもしれねぇ。ナイトウィザードはあの球体に攻撃を仕掛けた。ともすれば、反応はあるかもな」

 

「宇宙人なんじゃ……」

 

「何を目的にしているのかってのを見失わなけれりゃ、自ずと答えは出るもんだ。あの宇宙人は何のために、グリッドマンを攫ったのか。答えの赴く先を知っていれば、当然……」

 

 そこまで口にして悪鬼の怪獣が電磁波の檻に漆黒の怪獣を閉じ込めていた。片腕しかない刃の怪獣が腕を掲げる。

 

「……怪獣同士で……」

 

「これは、ちぃとヤバいか。トモエ! 頼みがある。目ぇ、瞑っていてくれ。俺がいいって言うまでな」

 

「……何でよ」

 

「さっき助けたろうが。死にたくなければさっさとしろ」

 

 朋枝は不承ながらに瞼を閉じる。こんな危うい均衡で相手の言う事を聞くのは癪であったが助けられたのは事実。

 

 何よりも、今まで自分を救ってくれた那由多は、一度として嘘はつかなかった。自分を欺かなかった。ならば、ここで誰かを信じるのも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさか本当に目を瞑ってくれるとは思いも寄らない。しかし、男としては助かっていた。

 

「……先輩って呼ばせている手前、裏切る真似はしたくないからよ。行くぜ」

 

 手にしたモニュメントの肩口から斜に切れ目が入っている。それでも、まだ戦闘継続は可能のようだ。

 

 今は、一瞬でもいい。この力を行使する。

 

「アクセスコード……」

 

 瞬間、引き出された《ゴロマキング》の腕が《デビルフェイザー》の首根っこを押え込んでいた。弾き出された鎖が相手の姿勢を傾げさせる。

 

(……《ゴロマキング》……! 何故!)

 

「悪く思うな。これも、義理を返すって名目だ。別にグリッドマンに寝返ったわけじゃねぇ」

 

《デビルフェイザー》が締め上げられていく。完全に怪獣態になる事は出来なくとも、こうやって搦め手で怪獣態の不意を突く事は出来る。

 

《デビルフェイザー》を窒息死寸前まで追い込んだ刹那、《シノビラー》の姿が掻き消えていた。

 

 無数のクナイを投擲し、《デビルフェイザー》の身体に切れ込みを作った《シノビラー》はそのうち数本に鎖をつけ、悪鬼の怪獣を前のめりに倒していた。

 

 携えたのは一振りの長刀である。逆手に握り締めたそれを、《シノビラー》は掲げ《デビルフェイザー》の首を刈らんと迫った。

 

(いけない! 怪獣態を解くのです!)

 

《バギラ》の言葉も遥かに遅い。《シノビラー》の刃は《デビルフェイザー》を打ち砕くかに思われた。

 

 だが、そこで不意に《シノビラー》は頭部を押さえて蹲る。赤い眼窩が明滅し、急速にエネルギーが失せていく気配がした。

 

「……時間切れか」

 

 舌打ちを漏らし、《ゴロマキング》の男は《デビルフェイザー》の拘束を解く。《シノビラー》の姿が消滅し、《バギラ》と《デビルフェイザー》は砂礫の街に取り残されていた。

 

 こちらの位置を察知される前に、と《ゴロマキング》の腕を用いて、朋枝を運ばせる。朋枝はそれでも律儀に目を閉じていた。恐怖を押し殺すかのようにきつく瞑っている。

 

「いい子だ。ちょっとばかし安全圏まで移動するぜ」

 

(逃がしはしない! 《ゴロマキング》!)

 

《バギラ》の剣閃が迫るも、どれもこれも当てずっぽうだ。人間態の自分を捉えられるほどの熟練度ではない。《ゴロマキング》の男は新宿駅構内へと朋枝を運び込んでからモニュメントを仕舞う。

 

 ここまでの追撃はなさそうだ、と判じ朋枝に促していた。

 

「目ぇ、開けていいぜ」

 

 朋枝は周囲の様子が一変している事に困惑していた。

 

「……逃げ切れたの?」

 

「何とかな。だが、連中はヤベェ。あんまし正面切って戦うべきじゃないだろうな。……なら、利用出来るものは利用する、か」

 

《ゴロマキング》の男は歩み出していた。その背中に朋枝が声を投げる。

 

「置いて行っちゃうの?」

 

 足を止めたのも一瞬、男は朋枝に微笑みかけていた。

 

「……俺と会った事は忘れたほうがいい。グリッドマンには言わないほうが賢明だ。なに、ここはドクロ鉄道の中立地帯。さすがに攻めては来ねえさ」

 

「ここが、中立地帯……」

 

 ナイトウィザードである自分には中立地帯を見分ける能力がある。男は朋枝へと一瞥を投げてから、別れの言葉を口にしていた。

 

「……なるべく早く忘れろ。そのほうが、きっとてめぇのためにもいい」

 

 その言葉を潮にして、《ゴロマキング》の男は駆け出していた。

 

 モニュメントを掲げ、部分的に《ゴロマキング》を召喚する。

 

 脚部へと同調させた《ゴロマキング》の疾駆が瓦礫を飛び越え、《デビルフェイザー》と《バギラ》の戦地へと割り込んでいた。

 

(……何のつもりなのです)

 

「何のつもりでもねぇ。単純に、俺は迴紫にはもうつかない。その姿勢をハッキリさせるために来た」

 

(迴紫様を裏切ると……)

 

「間違えんな。切ったのは向こうのほうだ。俺は、腹掻っ捌かれても忠義を誓うほど、愚直でもねぇんでね!」

 

 モニュメントを掲げ《ゴロマキング》の腕が空間に呼び出される。その鎖がまたも自身を狙うと感じたのだろう。後ずさった《デビルフェイザー》を飛び越え、鎖は脱力している《シノビラー》へと延びていた。

 

 鎖越しに《シノビラー》へと言葉を投げる。

 

 ――てめぇなら、上手く逃げ切れるだろ? 後は頼むぜ。

 

 僅かに反応を寄越したのを確認し、《ゴロマキング》の腕を振りかぶり、鎖ごと《シノビラー》を投げ捨てていた。

 

 その行動に二体が逡巡の間を浮かべる。

 

(今のは《シノビラー》を潰した、と考えても?)

 

「ああ。とどめのつもりだ。俺もあいつには一家言あるんでね」

 

(じゃあ、戻ってくるって言うの?)

 

「言ったろうが。忠義はもう誓う気はねぇ。だがナイトウィザードとして存在しなければ、俺には価値もない。それに、てめぇらだってここに来たのは何も迴紫の命令じゃねぇんだろ? 迴紫なら、あんなのに仕掛けろなんて命令しないはずだからな」

 

 図星だったのか、二体が沈黙する。男はフッと笑みを浮かべていた。

 

「戻ってやるよ。古巣ってヤツに」

 

 瞬間、《デビルフェイザー》が人間態の女へと戻る。恐らくは時間切れか、それともエネルギー切れを起こしたのだろう。

 

 先ほどの戦いで《シノビラー》に殺されても何らおかしくはなかった。疲弊が出ているのか、息を切らしている。

 

「……それは迴紫様にもう忠誠は誓わないけれど、それでもナイトウィザードの席を譲る気はないと?」

 

「一度手に入れた力だ。手離すのは惜しいんでね」

 

《バギラ》も人間態に戻り、モノクルの奥から問いかける眼差しを送ってくる。

 

「それならば、《ゴロマキング》。あなたは戻ってくる資格がある」

 

「資格、ねぇ。そいつもチャンチャラおかしいと言えばその通りなんだが。死んだはずの身だ。あまり口先だけで出過ぎないようにはさせてもらう」

 

「そのほうがいい。元々、口だけは達者であった。それを自重するくらいで」

 

《バギラ》はそう思っていたのか。《ゴロマキング》の男はふんと鼻を鳴らしていた。

 

「雁首揃えたって、今は不利だ。一旦退くぞ。もう《シノビラー》に強襲されたくはねぇだろ」

 

「あなたがさっき投げ飛ばしたんじゃない」

 

 女の言葉に《ゴロマキング》の男は肩を竦めていた。

 

「確かに、離脱させる場所まで投げたつもりだが、戻ってこねぇ保障もねぇだろ。ずらかるぞ。ナイトウィザードの干渉はここまでだ」

 

 それには同意らしい。二体はモニュメントの力を使い、この場から消え失せていた。《ゴロマキング》の男も自分のモニュメントに権限が戻っているのを自覚する。

 

 改めて、自らの道化に嫌気が差す。だが、これは返すと決めた借りの処分だ。

 

 ならば全うして見せよう。

 

「……《ゴロマキング》、帰投する」

 

 その姿も瓦礫の街から消え失せていた。

 

 

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