GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯6‐6

 瞬間、ツルギの姿が掻き消える。グリッドライトセイバーの光刃が空を裂き、瓦礫の街を焼き払っていた。

 

 それでも姿は目視出来ない。どこへ、と首を巡らせた《サイファーグリッドマンシン》の背後へと、漆黒の怪獣は立ち現れていた。

 

 無音の只中で、暗殺が実行されようとする。

 

 それを敵は気配で察知し、光刃を払う。

 

 受けたのは、《シノビラー》の体躯であったが僅かに異なる。全身に赤色のラインが走り、疾駆はさらに鋭く、鋭角的な意匠となっていた。赤い眼差しが射抜く光を灯す。

 

「あー、気を付けてね、《サイファーグリッドマンシン》。彼、あの姿に成ったらそれなりに強いよ」

 

 その言葉が消えるか消えないかの刹那には、《カンフーシノビラー》は跳躍し、《サイファーグリッドマンシン》を飛び越えようとしていた。

 

 光刃を払ったものの、その関節を極め腕を逆に曲がらせる。折れ曲がった異音が響き渡り、呻いた《サイファーグリッドマンシン》は浴びせ蹴りを返していたが、《カンフーシノビラー》は受け流し様に、無数のクナイを投げていた。《サイファーグリッドマンシン》が叩き落すも、それら一つ一つに触れた箇所から腐敗が始まっていく。

 

 分子分解の属性を伴わせた武装だ。触れるだけで相手は組織崩壊してしまう。《カンフーシノビラー》は印を結び、直後には躍り上がっていた。その印から放たれたのは、無数の呪符だ。《サイファーグリッドマンシン》が呪符を光刃で焼き切るも、それは既に予見された攻撃。

 

 呪符から引火し、《サイファーグリッドマンシン》の周囲が火炎に包まれた。黄金色の火炎に相手が狼狽している間にも、《カンフーシノビラー》は次手を打つ。

 

 逆手に握り締めた直刀を構え、その姿が直上に現れていた。

 

《サイファーグリッドマンシン》が赤く滾る拳で応戦するも、その鉄拳と刃が干渉して火花を散らす。

 

 直後には、互いに後ずさった形だが、《サイファーグリッドマンシン》からしてみれば、限りあるリングの中で追い込まれたようなもの。

 

 黄金色の火炎に触れた瞬間、電撃と痺れがその身体の内部神経系統を焼いていた。

 

「……へぇ、考えたね。分子分解の炎で彼の周囲を包んで逃げられないようにして、それでじりじりと倒すんだ? ま、無理ゲー感のある強キャラ倒すんならそれも手かな」

 

(余裕こいている場合か? このまま突破する!)

 

《カンフーシノビラー》が分裂する。分身の術を使った相手に、《サイファーグリッドマンシン》はその拳を大地に打ち付けていた。

 

 途端、地面より噴き出たマグマが《カンフーシノビラー》の分身を引き裂いていく。瞬く間に押し広がった火炎攻撃に《カンフーシノビラー》が舌打ち混じりに飛び退っていた。

 

 その姿に迴紫は、はい、と手を叩く。

 

「今の攻勢、勝てていたのに退いたね。その時点で、もう勝負は決したよ」

 

(……何を根拠に……)

 

「だって、無策でも飛び込んでいれば、勝てていたのに。惜しい事したね、キミ」

 

 瞬間、《サイファーグリッドマンシン》の身体より迸った輝きが分子分解の火炎を吹き飛ばしていく。フィクサービームの光が拡散し、《カンフーシノビラー》の術を破っていた。

 

(空蝉の術が……)

 

 いつの間にか直上まで迫っていた《カンフーシノビラー》が分身が消え去った事に当惑する。その身へと《サイファーグリッドマンシン》は肉薄していた。

 

「だから、さっき飛び込んでいたら、って言ったじゃん。馬鹿だよね。勝てたチャンスをふいにした」

 

(迴紫ィ――!)

 

 その言葉が弾ける前に、《サイファーグリッドマンシン》の振るい上げた光刃が《カンフーシノビラー》の片腕を断ち切っていた。フィクサービームの作用か、分身が作れず、《カンフーシノビラー》がそのまま背筋より無様に落下する。

 

 降り立った《サイファーグリッドマンシン》が光刃の切っ先を突きつけた。

 

 王手である。だが、《カンフーシノビラー》は諦めず、光刃を掴み取った。

 

(ここで諸共……!)

 

 炸薬に火が通り、最大攻撃力の爆発が辺りを覆うかに思われたが、《サイファーグリッドマンシン》は落ち着き払って対処する。

 

 刃が奔り、全ての爆薬の導線を断ち割っていた。

 

 火を失った爆薬は完全なる無用の長物。硬直した《カンフーシノビラー》の胸元に刃が入っていた。

 

 迸る悲鳴に迴紫は満足そうに頷く。

 

「いいね、いいね。もっと苦しんでよ。ボクを殺すために努力したって言うのに、それでも届かない。その無力さ、噛み締めながら死ぬといい。だって、キミが何年かけたのかは知らないけれど、ボクはこのセクターじゃ神様なんだ。届くと思ったのが間違いなんだよ」

 

 迴紫がとどめの命令を下そうとした、その時である。

 

 空間を奔った鎖が迴紫の身体を絡め取っていた。そのまま打ち下ろされて砂塵が舞う。

 

「ぺっ、ぺっ……。泥だらけじゃん。誰?」

 

「迴紫。ここでケリつけさせてもらうぜ」

 

 鎖を伸ばしたのは《ゴロマキング》の腕を召喚した男であった。一世一代の大勝負なのだろう。その双眸に宿った決意の光に、迴紫は、あーあ、と声にする。

 

「あっちもこっちも、ボクを殺したい奴ばっか。そんなに恨まれる事をしたっけ?」

 

 小首を傾げた迴紫に《ゴロマキング》の男はすかさず腕を召喚し、迴紫の身を拘束する。

 

「……てめぇらも日和ってんじゃねぇ! ナイトウィザードってのは迴紫の言う事をはいそうですかって聞くために組織されたのか? 違うだろ! 俺達の理想のためだ。その思考と迴紫の理想が一致していたから、まだ団結出来た。だってのに、今の迴紫はどうだ? 身勝手に理屈を振り翳して、このセクターを破壊しようとしてやがる。こんなのを看過していいのかよ! てめぇら!」

 

「あー、体育会系のノリ嫌いー。そんなに吼えなくてもいいじゃん。ってかさ、納得いかないのなら、一人一人なんてめんどくさいし、全員で来なよ。そうすれば分かるし、それにさ、因縁抱えたまま次の段階に至られても面倒なんだよね。なに? この新宿セクターの事、そんなに気に入ってたの? 《ゴロマキング》の彼」

 

「……少なくとも守るべき意地はあった。部下達の命もな」

 

「意地、命ねぇ……。何だかこじんまりとした感じに纏まっちゃったな。ボクはさ、別にナイトウィザード解散! とか、キミらもう要らないとか、言ってないよね? ボクの目的をこのセクターで果たすのに、グリッドマンの彼が要るってだけの話で。キミらはどっちもでいいわけじゃん。これまで通り、ボクにつくか、それともここで見限るかは自由! そんなに難しく考える事かなぁ?」

 

「ああ、何にも難しくねぇさ。二人とも! 死んでいった連中に、恥ずかしくねぇのか! そんなんで冥途であいつらに会えんのかよ!」

 

 啖呵を切った男に迴紫は手を叩いて囃し立てる。

 

「いーね、いーね。そういうの。一生かかっても聞けるか聞けないか分かんない、ごろつきっぽい台詞。……で? ボクを縛ってこれで終わり? 何だか拍子抜けかなぁ」

 

「……そうでもねぇんじゃねぇか」

 

 その言葉にやおら《デビルフェイザー》と《バギラ》が動き出す。その動きが敵意ある感覚だと思い知り、迴紫は喜悦に口角を緩めていた。

 

「……へぇ、考えなしってわけでもないんだ? この期に乗じてボクの支配から逃れ、ナイトウィザードの頭目、って腹かな?」

 

「……俺達の総意だ。てめぇは罰を受けなきゃいけねぇ! 迴紫!」

 

「罰、ね。概念としちゃ間違ってないけれど、でもさ。――古臭いんだよ、いい加減」

 

 鎖を断ち割ったのは浮かび上がった赤い自律兵装の光条だ。迴紫を守るように結晶体の自律兵装が磁石のように変位し、その速度もバラバラに《ゴロマキング》の男へと襲いかかる。

 

 だが、その道筋を阻んだのは分子分解光線であった。

 

《デビルフェイザー》の裏切りに迴紫はふんと鼻を鳴らす。

 

「そうなっちゃうんだ?」

 

(……勝てるほうにつくだけよ)

 

(同じく。迴紫……驕り過ぎたな。我輩らを軽んじて、ただで済むと思うな)

 

《バギラ》が片腕の刃を返し、青い剣閃を浮かび上がらせる。疾走した剣閃が迴紫にかかる手前で《サイファーグリッドマンシン》が立ちはだかっていた。

 

「……めんどいなぁ。あの怪獣三人組、倒しちゃって」

 

 髪を掻き上げた迴紫に代わって、《サイファーグリッドマンシン》が憤怒の雄叫びを上げ、《デビルフェイザー》に飛びかかる。

 

 分子分解光線を放つ口腔部をまず切り裂き、次いで返す刀がその背筋を割っていた。エネルギーの収束する背びれが引き裂かれ、行き場のないエネルギー波が分散する。

 

 それを逃さず、無慈悲な光刃が《デビルフェイザー》の胸元を断ち割った。

 

 臓物を引き裂かれた《デビルフェイザー》がかっ血し、その場に蹲る。飛翔してきた斬撃を《サイファーグリッドマンシン》はハザード・アクセプターから展開した余剰エネルギー波で受け流し、そのまま青い剣閃を吸収した。

 

 ハザード・アクセプターの光刃の一部と化した剣閃を溜め込み、《サイファーグリッドマンシン》が構えから抜き放つ。

 

 六翼の刃が空間を疾走し、《バギラ》の四肢を断裂させていた。

 

(ま、さか……)

 

 崩れ落ちる《バギラ》と戦闘続行不可能な《デビルフェイザー》より声が発せられる。

 

(こんなに……違うなんて……)

 

「言ったじゃん。彼は強いって。あとは、キミ一人だね? どうする?」

 

 小首を傾げた迴紫に男は奥歯を噛み締めていた。

 

「……決まってんだろ。命ある限り、俺は果たすぜ。復讐って奴を! アクセスコード、《ゴロマキング》!」

 

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