GRIDMAN//CODE:Cypher 作:オンドゥル大使
現出した《ゴロマキング》はしかし、身体を斜に裂かれている。その傷跡が生々しく残っているまま、鎖を手に駆け抜けていた。
迴紫が鼻歌を交えさせる。
どこかで聞いたオーケストラの楽曲に合わせ、《サイファーグリッドマンシン》が《ゴロマキング》の鎖を抜け、鉄壁の防御陣を掻っ切る。だが、相手は喧嘩殺法上等の武闘派。鉄拳を握り締めた《ゴロマキング》に対して、《サイファーグリッドマンシン》は直上を飛び越え、振り返り様に斬撃を浴びせていた。
《ゴロマキング》の背筋が割られ、鮮血が迸る中で、怪獣たる彼は吼え立てる。
光刃を掴み取り、そのまま引き寄せての脳震とうを狙った掌底。顎に入った一撃で《サイファーグリッドマンシン》は昏倒するかに思われたが、それと同時に既に布石は打たれている。
ハザード・アクセプターにエネルギーが充填し、掴んだ光刃が消えた代わりに不意打ちのグリッドビームが《ゴロマキング》の顔を焼いていた。
焼け爛れた横顔を晒して、《ゴロマキング》が奮闘しようとするも、一度緩んでしまえば、それは完全に期を逃した事になる。舞い踊るように一閃。《サイファーグリッドマンシン》の刃が《ゴロマキング》の胴を割っていた。
後ずさった《ゴロマキング》に迴紫は落胆する。
「弱いなぁ……。ナイトウィザードってこんなに弱かったんだ? じゃあ組織し直さなくっちゃね。新しいセクターではもう少し骨のある人達を誘おっ」
(迴紫ぃぃぃ……!)
怨嗟の声音に迴紫はふふんとほくそ笑む。
「何? 今さら呼んだってもう仲間にはしないよ?」
(てめぇを……ぶっ殺――!)
「はい、ドーン」
迴紫が手を払い落とす動作と同期して無数の結晶体が《ゴロマキング》に降り注いでいた。断裂し、引き裂かれながらも《ゴロマキング》が声を張り上げようとする。
「ウザいなぁ……。そろそろ死んじゃってよ。往生際の悪い……」
今一度、とどめの攻撃を打ち下ろそうとした、その瞬間、迴紫はぴたりと手を止める。
「……セクターに侵入者? いや、違う。これは……外部からの強制アクセス? 誰が……」
その声を阻んだのは中空より展開された空洞から降り立った鋼鉄の巨神であった。拳が固められ、迴紫を殴り据える。
青い頭部に、真紅の鋼鉄のボディ。黄色い眼光が射る光を灯し、エネルギーボルテージが額で真っ赤に燃え盛る。
その赴く先を迴紫は知っていた。
「特別抑止コード……《ゴッドゼノン》? こんなものを投入してくるなんて……」
跳ね返そうとした鉄拳の威力を、相手は全身より蒸気を滾らせ、倍加して打ち込む。咄嗟に張った防御皮膜が破れ、《ウィザードグリッドマン》の力たる結晶体を防御に用いたが、まるで歯が立たない。相手は暴力の化身だ。力だけに特化した存在と言うのは得てしてやり辛い。
殴りかかられるだけなのに、そのパワーが何者よりも段違いなのだ。
小手先で錯覚させようとしても、それは膂力が打ち破る。パワーが全ての術やこちらの経験則を破壊する。それは迴紫にとって最悪の相性であった。
「小賢しいなぁ……っ。《ゴッドゼノン》なんて今さら。ねぇ、破壊しちゃってよ。グリッドマンなんでしょ!」
その声に《サイファーグリッドマンシン》が跳躍し様に斬撃を浴びせる。《ゴッドゼノン》は鋼鉄の腕で受けてから、片腕を固定し手首から先を高速回転させた。赤く煮え滾った光を宿し、直後には拳が発射されている。
《サイファーグリッドマンシン》はハザード・アクセプターより結界を作り出したが、その時には飛び立っていた《ゴッドゼノン》が結界を超えて殴りかかる。思わぬ攻勢に《サイファーグリッドマンシン》もうろたえている様子であった。《ゴッドゼノン》は四肢を開く。全砲門が一斉に《サイファーグリッドマンシン》を照準し、直後、無数の弾頭が空間を奔っていた。
《サイファーグリッドマンシン》が右腕を掲げ、グリッドビームの構えに入る。
威力の増したグリッドビームならば全て叩き落せるはずであったが、その想定を覆したのは、発射の反動で動けないはずの《ゴッドゼノン》が既に挙動している事実であった。
その腕がハザード・アクセプターを握り締め、力の赴くままに破壊しようとする。しかし、充填されたエネルギー波までは止めようがない。
「撃っちゃって! そうしたら《ゴッドゼノン》でも!」
その言葉通り、《サイファーグリッドマンシン》は赤いグリッドビームを放っていた。《ゴッドゼノン》の装甲が焼け爛れ、各所が粉砕される。如何に堅牢な装甲を持とうとも、グリッドマンの必殺武装を前にすれば紙くず同然。
無数のエラーに落とし込まれた《ゴッドゼノン》を《サイファーグリッドマンシン》が蹴り払い、その巨躯を足蹴にする。
「勝った! これで……」
(――うっせぇぞ、迴紫)
鎖が迴紫の身体を拘束し、もう一本の鎖が《サイファーグリッドマンシン》の背後から縛り上げる。
《ゴロマキング》は最後の力を振り絞っているようであった。
(ああ、クソッ。やれる事は、やってやる。……俺はてめぇの先輩だからな。動きは封じた! やれ、トモエ!)
「小賢しいったら!」
《ウィザードグリッドマン》の権限を行使し、無数の結晶体が《ゴロマキング》へと突き刺さり、そのまま心臓を貫いていた。
《ゴロマキング》が崩れ落ちる。
(……頼んだ、ぜ……トモエ。後輩の意地、見せろ……)
「何を言って……」
瞬間、《ゴッドゼノン》の眼光が輝き、恐るべき膂力で《サイファーグリッドマンシン》の足場を崩していた。
そのまま《ゴッドゼノン》の腕が《サイファーグリッドマンシン》のハザード・アクセプターを引き剥がそうとする。
直後、放たれた六翼の刃が《ゴッドゼノン》の全身を引き裂いていた。噴煙と炎が上がる中で、《ゴッドゼノン》は《サイファーグリッドマンシン》の額と自らの額に位置するエネルギーボルテージを合わせ、光を投射する。
何が行われているのか、迴紫にはまるで分からない。
だが、不本意な事実であるのだけは確かであろう。
「《ゴッドゼノン》……もしもの時のグリッドマンの代理人。ここで破壊する!」
結晶体が降り注ぎ、《ゴッドゼノン》を打ち崩さんとする。
それでも《ゴッドゼノン》は何者かの意志を引き移したかのように動かず、《サイファーグリッドマンシン》へと光を投げていた。