GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯FINAL‐2

 

(貴様は悪だ! あってはならぬ存在なのだ!)

 

 吼えた声と共に赤い巨人が推進剤を照り受け、加速度に身を浸して左手の光刃を払う。《真サイファーグリッドマン》は翳した指先で受けていた。

 

 出力値を引き上げ、その指を引き裂かんと相手が力を込めるが、この躯体は――《真サイファーグリッドマン》の身体は怨嗟の力を全て吸収しているようであった。

 

 不可思議な感覚だ。

 

 敵意を相手が向けて来れば来るほどに、それは力の霧散を招いている。

 

 それを赤い災厄は理解していない。《サイファーグリッドマンシン》と敷島万里が声を響かせる。

 

(仮初めのクセに……! わたしから分かたれただけの、紛い物だ!)

 

(……始まりはそうであったかもしれない。だが、もう別の存在だ。わたしは、《真サイファーグリッドマン》。那由多の魂の光より生まれた、新たなるグリッドマンだ)

 

(知った風な口を! 砕けろォッ!)

 

 相手が右腕のハザード・アクセプターを掲げ、充填された光線を発射する。それを《真サイファーグリッドマン》は掌を前に突き出しただけで防御、否、無力化させる。

 

 光線を中断し、光刃を軋らせた相手へと鏡のように《真サイファーグリッドマン》は左腕のグラン・アクセプターから光刃を発振させていた。互いの刃が干渉し、もつれ合って火花を散らす。《サイファーグリッドマンシン》は瞳に憎悪の色を滾らせていた。

 

 ここで殺し尽くすと言う怨嗟。その眼差しに《真サイファーグリッドマン》は光り輝く瞳を返す。

 

(何故だ……何故絶望しない! 何故、わたしから生まれただけのお前が、わたしに還る事に絶望も、ましてや渇望もないのだ!)

 

 光刃を払った《サイファーグリッドマンシン》に、蒼銀の巨人はグラン・アクセプターより発振される刃を合わせていた。

 

 わざと力量を試されている感覚に相手は嫌悪したのか、加速度と共に襲いかかる。首筋を狙い澄ました剣術を、最小限の手数でさばき、《真サイファーグリッドマン》は光刃を振るい上げる。

 

 その一撃だけで、空間が鳴動し、相手は干渉した刃に押し返される。すかさず懐へと潜り込んだこちらに危機感を覚えたのか、《サイファーグリッドマンシン》は離脱挙動に入りかける。

 

 その腹腔へと、肘打ちを見舞っていた。あえて、剣を返し、打撃を与えた攻撃に《サイファーグリッドマンシン》が突き飛ばされ、そのまま地表を無様に転がる。

 

 浮遊するこちらを見据え、《サイファーグリッドマンシン》は問いかけていた。

 

(……何故! わたしの力を凌駕している! そんな事はあり得ないはずだ!)

 

(あり得ない……。そうかもしれない。だが、わたしは那由多と言う、可能性の塊から生じたグリッドマンだ。その行き着く果ては無限大……彼は仮初めの存在がゆえに、どこまでも未来を描ける。どこまでも無謀の果てにまで、先を見据えられる)

 

(それがわたしとの違いだと言うのか! 墜ちろ! この偽物がァーッ!)

 

 直上に至った《サイファーグリッドマンシン》が拳を固めて打ち下ろす。それを掲げた腕で受け流し、返答のように拳を丹田に打ち込んでいた。

 

 衝撃波が背筋を砕き、超越する。

 

《サイファーグリッドマンシン》の躯体を震わせた一撃がそのまま、直上の雲を破砕し、水蒸気を飛び散らせて赤い災厄の巨人が突き上げられる。

 

 そのがら空きの巨躯に《真サイファーグリッドマン》は身体を躍り上がらせ、赤熱した上段回し蹴りを浴びせていた。

 

(ネオ超電導キック!)

 

 灼熱の脚部が照り輝き、《サイファーグリッドマンシン》の胴体を薙ぎ払う。成す術もなく吹き飛ばされた《サイファーグリッドマンシン》は、高層建築に巻き込まれ砂礫と粉塵に塗れていた。

 

 タイマーが点滅し始める。

 

 既に限界が来ているのだ。

 

(み……認めん……。わたしが生み出したただの仮想人格が、新たなる光として! わたしを拒むと言うのか! ただの仮初めが! 偽り風情が!)

 

(偽りであっても、わたしの心を構築する那由多は間違いなく、人間だ。人間だからこそ、グリッドマンに変身出来る)

 

(世迷言をぉ……っ!)

 

 だが《サイファーグリッドマンシン》はもう動けない様子である。

 

 ここで決める、と《真サイファーグリッドマン》は両腕に装着したアクセプターを交差させていた。

 

 光刃が発振し、青の双剣を静かに下段に構える。

 

《サイファーグリッドマンシン》はハザード・アクセプターに臨界点まで光を充填し、光刃を発生させていた。

 

 赤く染まった電磁が纏いつき、禍々しい刃を携える。

 

 互いに飛びかかったのは同時。

 

 しかし、《サイファーグリッドマンシン》に迷いもましてや躊躇いもない。その振るい下ろされた災厄の剣は《真サイファーグリッドマン》の装甲を切り裂いたかに思われたが、《真サイファーグリッドマン》は瞬間的に、光へと変じていた。

 

 それは純然たる光そのもの。ゆえに斬る事は敵わず、避ける事も不可能。

 

 光が《サイファーグリッドマンシン》を貫通し、《真サイファーグリッドマン》が両腕を振るい上げた状態で背面に屹立する。

 

 勝負は決していた。

 

《サイファーグリッドマンシン》の全身からブロックノイズと崩壊が生じ、亀裂が走ったその身体を保つ事も出来ないのか、膝を落としていた。

 

(……馬鹿、な……)

 

 茫漠とした意識を持て余す敷島万里に、《真サイファーグリッドマン》は言い放つ。

 

(ここが終着点だ。敷島万里)

 

(これがわたしの……終わり、だと……)

 

「――いいや、そうはならない」

 

 弾けたその言葉に振り返る。

 

 ツルギによって頭蓋を砕かれた迴紫は、口元だけでそう発していた。

 

「……こいつ! まだ生きて……!」

 

「邪魔だよ」

 

 放たれた不意打ちの衝撃波がツルギを吹き飛ばす。

 

 鼻から上を失っていながらも迴紫は健在であった。ツルギは高層建築の壁に張り付き、震撼する。

 

「あり得ねぇっすよ! 頭ぶち抜いてまだ生きているなんざ……」

 

「そうだね。ボクもこれ……限界に近い。でも、敷島万里。何をすればお互い、長生き出来るのかくらいは……分かる、よね……?」

 

 その言葉に敷島万里は迷わなかった。元より崩壊の途上にある躯体、彼はハザード・アクセプターの力を用い、満身より赤い光を放出する。その光が煉獄に染まった大地を修復していく様に、ツルギは瞠目していた。

 

「……これは、フィクサービームだと?」

 

「――ああ助かった。自分じゃ出せないレベルだったから」

 

 頭部に肉腫が膨れ上がり、迴紫が復活を遂げる。しかし今のフィクサービームで《サイファーグリッドマンシン》は臨界点を迎えたらしい。

 

 タイマーの点滅が早まり、既に自力で身体は動かせないようだ。

 

(迴紫……。わたしでは勝てない)

 

「うん? 何を勘違いしているのさ。ここから先は、ちょっとこっちもズルしようじゃん。ね? グリッドマン同士なんだから」

 

 迴紫が赤銅のアクセプターを掲げる。その光に《サイファーグリッドマンシン》は還元されていた。《ウィザードグリッドマン》の力の一部なのだろう。

 

 自律兵装の結晶体がいくつも《サイファーグリッドマンシン》へと吸着し、次々とその身からデータを奪っていく。

 

(迴紫ぃ……! 約束が……違う……!)

 

「約束って何だっけ? 思い出せないなぁ。生き残ったほうが正義でしょ? そんな事、最初から分かっているもんだと思っていたけれど」

 

 断末魔の叫びを上げ、《サイファーグリッドマンシン》の力は全て、迴紫へと注ぎ込まれていた。

 

 迴紫の瞳がぼんやりと赤く染まる。

 

「……気ぃ、つけるっすよ、坊ちゃん。あいつ、《サイファーグリッドマンシン》を取り込みやがった……」

 

「ズルはお互い様だよねぇ! よく分かんない無敵フォームになったんだもん! ボクだって使うよ! 最上のチートを!」

 

 迴紫の右腕には灼熱の色に染まったアクセプターが顕現していた。

 

 まさか、と息を呑んだその時には、相手はアクセプターを十字に構えている。

 

「アクセス・フラ――ッシュ!」

 

 その言葉が紡がれた瞬間、屹立したのは《ウィザードグリッドマン》ではあったが、色調が違う。

 

 紫色に染まった《ウィザードグリッドマン》はこれまでの存在とは一線を画しているように思えた。

 

 全身から溢れる活力とエネルギーゲインは、憤怒の赤と、そして元より持ち合わせていた狂気の赤銅を組み合わせ、神秘の紫が全身に滾る。

 

(これが新たなる姿……電脳閃士《ウィザードグリッドマンシン》……。この状態のボクに、勝てるわけがない)

 

《ウィザードグリッドマンシン》は背中に無数の翼を有する。結晶を散らせる赤い翼を纏った相手にツルギと《真サイファーグリッドマン》は絶句していた。

 

「……マジにヤバいかもしれねぇっすね。これまでの、倒せる領域の迴紫じゃない。新しいグリッドマンだ、あれもまた……」

 

(それでも、恐れを踏み越えるしかない)

 

「グリッドマンは恐れ知らずっすねぇ……。だが近づく事も、俺は……」

 

 その腕へと不意に光が宿った。思わぬ、と言った様子のツルギは直後に拡散した光がアクセプターとなって左手に装着されている事に目を見開く。

 

「……俺も、グリッドマンに……?」

 

(共に行こう。迴紫を、倒す)

 

「……そのためなら、元怪獣でもいいって事っすか。おたくもおたくで、手段を選ばないと言うか。でもま、悪くないっすよ。こういう役回りもね! アクセス・フラッシュ!」

 

 十字を描き、アクセプターを押し込んだツルギは光となって《真サイファーグリッドマン》と一体化する。

 

《真サイファーグリッドマン》は両手を交差させ、瞬間的に武装を展開していた。

 

 逆手に握り締めた直刀を構え、《ウィザードグリッドマンシン》を睥睨する。

 

 相手は余裕を込めて所持した杖で地面を叩いていた。

 

 瞬間、翼から散った結晶体の自律兵装が幾何学に動き出す。

 

《真サイファーグリッドマン》は駆け抜けていた。

 

 光の速度に至る前に、敵の放った光条が《真サイファーグリッドマン》の一部能力を剥離させる。

 

(能力の一部阻害……! ツルギ!)

 

(「分かってるっすよ! これを使え! グリッドマン!」)

 

 直後、発せられた一条の光線を受けた《真サイファーグリッドマン》がよろめくが、それは無数に存在する一体が受けただけの傷に過ぎない。

 

 空間を埋め尽くす《真サイファーグリッドマン》の足並みに、《ウィザードグリッドマンシン》が舌打ちを滲ませる。

 

(《シノビラー》の能力か)

 

(「とっておきだぜ! 喰らえ、迴紫!」)

 

 跳躍した幾百の《真サイファーグリッドマン》が光刃を飛ばし、手にした直刀を投擲していた。

 

(グリッドライトセイバー、インフィニティ!)

 

 まさしくその数は観測出来る範囲だけでも無限大。数多の武装を相手に、《ウィザードグリッドマンシン》はしかし、落ち着き払って杖を払う。

 

(でも、ほとんどは幻でしょ? だったらさ、――当たる奴だけ検出すればいい)

 

 浮かび上がったのはシステムコンソールだ。それを相手は避けるでもなく操作し、エンターを押した直後、無限に存在していた《真サイファーグリッドマン》は一体にまで減らされていた。

 

 無限の手数であった攻撃も霧散し、《ウィザードグリッドマンシン》に当たりもしない一撃のみが地面へと直撃する。

 

(これは……!)

 

(元々《ウィザードグリッドマン》はこういう、搦め手が得意なんだ。キミらがどれだけ手を弄そうと、場数と年季が違う。《ウィザードグリッドマンシン》の権限はこのセクターの上位権限に位置する。ゆえに、誰もボクの命令には逆らえない。こういう形であっても)

 

 コンソールが弄られ、そのうち一つの数値が引き上げられた。

 

 瞬間、高重力の投網が《真サイファーグリッドマン》を絡め取り、大地にその身を縫い止める。引き起こそうとしても異常なほどの超重力が躯体を崩さんとしていた。

 

(……超重力の発生……。まさか、事象までも……)

 

(だから、得意だって言ってるじゃん。チート技も、システムのバグに分け入る能力も、桁違いになった。今の《ウィザードグリッドマン》に、不可能はない)

 

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