GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯FINAL‐6

 

 朋枝の問いかけに那由多は静かに応じていた。

 

「かもしれない……。だが、そうでなはないかもしれない。オレに、まだ、誰かが何かがチャンスをくれると言うのならば、また会えるかもしれない。セクターの、電子の海の彼方で。また会おう、トモエ。それに、臾尓も」

 

「那由多……私はあなたに残酷な運命を課してしまった。それでも……許してくれるの」

 

「許すも何もない。オレを、グリッドマンにしてくれてありがとう」

 

 引き金が絞られる。間もなく敷島万里の意識が那由多を上回ろうとした、その時であった。

 

「ふざけるな! 那由多……仮想人格風情が……! わたしこそが神だ! グリッドマンと成り、ハイパーワールドで最大の功績者として、永遠に存在し続けるのが……! ――いいや、敷島万里。ヒトは、永遠なんて描けない。まだ、そこには至っていないんだ。オレもお前も。終わりにしよう。たった一発の、銃弾で……。那由多ァ――ッ!」

 

 弾き出された銃弾が、敷島万里の頭部を射抜く。あまりにも呆気なく、そして静かに、諸悪の根源は事切れていた。

 

 それと共に、最後の希望も。

 

 臾尓は歩み寄り、見開かれた敷島万里の瞳を閉ざす。

 

 朋枝は銃を下ろして咽び泣いていた。

 

「……本当に、もう会えないの? もう、那由多は……」

 

「……彼は、自分が生きていれば敷島万里の復活の契機を作ってしまうのを分かっていて、自らセクター内で死んでみせた。でも……二度も死ぬ事はないじゃない、那由多。あなたにそこまで……残酷になれなんて、私は……」

 

 敷島万里を倒すためには必要であったかもしれない犠牲。それでも、事ここに至って、彼は本当に死ななければならなかったのか。

 

 その疑念が二人の胸を貫き、涙が止まらなかった。

 

 一人の勇士の死に様にただ涙するしかない。自分達は、無力なるただの人間なのだから。

 

 その時、不意に臾尓の手首に巻かれた受信機に信号が発せられていた。

 

『局長。新宿セクターより信号を受信。……これは、《ウィザードグリッドマン》より、です』

 

「……まさか、まだ戦いを……」

 

 那由多とサイファーグリッドマンがいない時点で戦っても勝算はない。どうすれば、と惑った臾尓にアンドロイドは報告する。

 

『戦闘目的ではない、との事で……管制室に来てもらえますか?』

 

 臾尓は激痛を伴わせて立ち上がろうとする。それに朋枝が肩を貸していた。

 

「死なないでよね、臾尓。まだ、死なないで……」

 

 管制室ではアンドロイド達が情報を処理し、新宿セクターの現状をモニターする。二人のグリッドマンによって完全に再生された白銀の景観に臾尓は息を呑んでいた。

 

「ここまで完璧に……創造したのね」

 

『直通通信です。《ウィザードグリッドマン》より。繋ぎます』

 

(……キミ達人類には、ボクは愛想を尽かしていた。進化なんてあり得ない。これ以上の継続監視は不可能だと。だから、キミらは死すべきだった。あの朽ち果てた新宿が、そのお似合いの結末だと思っていた)

 

 だが、と《ウィザードグリッドマン》は本来の姿で口にする。その立ち姿は純正なるグリッドマンに近かった。

 

 アクセプターを掲げ、彼女は宣言する。

 

(……キミらには価値があった。進化は出来なくとも、現状を生き続ける意義が。それを彼は示してくれた。己の命と光をもって。だから、ボクも返そう。彼に、伝えてもらった志と共に)

 

《ウィザードグリッドマン》の胸部に位置するトライジェスターが光り輝き、白銀の新宿へと光の粒を降り注がせる。

 

(フィクサービーム)

 

 光の残滓が降り積もり、新宿の高層ビルの屋上に再生された姿に、二人とも息を呑む。

 

 まさか、と朋枝は言葉にしていた。

 

「……那由多……?」

 

(彼は最後の最後、データをボクに渡してくれていた。彼自身が敷島万里と決着をつけてから、どうするつもりだったかまでボクは知らない。でも、きっと彼も、会いたかったんじゃないかな。もう一度、キミ達に)

 

「……もう一度、あたし達に……。臾尓、お願いがあるの」

 

 その気持ちを臾尓は汲んでいた。

 

「……セクターに繋げって言うんでしょう。でも、あの那由多があなたとの思い出を持っているかまでは分からない」

 

「それでも、いいじゃない。だって、思い出なんて、記憶なんてなくったって、那由多は那由多だもの。なら一から、作り直せばいいだけなのよ」

 

 朋枝の前向きな言葉に臾尓はここで懸念事項を並べ立てたところで、彼女の意思は変えられないと判断していた。

 

「……羨ましいわね。でも、私はここで見守り続ける。それが私に課せられた、役目だから」

 

「……来ないの?」

 

 臾尓は静かに頭を振る。

 

「私は那由多を利用した。ある意味では敷島万里と変わらない。だから、もう彼とは会えない。でも、その分だけ、あなたは彼と会って来て。たとえ記憶がなくっても、那由多はきっと光を持っている。その光と共に、あらん事を」

 

 朋枝は灰色のアクセプターを掲げ、静かに声にする。

 

「――光あれ、でしょ?」

 

 笑ってみせた朋枝に臾尓も応じる。

 

「そうね。光あれ……ただそれだけの、小さな希望……」

 

 朋枝は再び《ゴッドゼノン》に搭乗したカプセルを目指す。今度は《ゴッドゼノン》としてではなく、朋枝と言う一個人として、那由多に会いに行くのだ。

 

 その姿に僅かながら羨望を感じつつ、臾尓は見送る事に決めていた。

 

 打ち込みで新宿セクターの位置情報を絞り込み、そして最後の最後、朋枝へと再確認する。

 

「……いいのよね?」

 

「うん。もう一度、会うって約束したんだもの」

 

 エンターキーを押す。その直後には、朋枝の意識はデータとなってセクターに送り込まれたはずであった。

 

 残された臾尓は、ふと呟く。

 

「……何だ、寂しいのね、私は」

 

 そんな当たり前の事に、今さら気づいた。己の愚鈍さを笑う前に、今はただ、二人に幸多からん事を――。

 

 




次週、最終回
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