GRIDMAN//CODE:Cypher 作:オンドゥル大使
「あー……空が見えるっすねぇ。青空が……」
新宿駅の構内より空を見渡したツルギは、ふと、寝そべっていた己の身体を手繰り、やがて声にしていた。
「……何で生きてるんすか、俺」
「ボーナスだってさ」
近くで弾けたアノシラスの声にツルギは素っ頓狂に返す。
「ボーナスぅ?」
「彼……グリッドマンのお兄さんを再生するついでだって。お兄さん、データ残っていてよかったね」
やられた、とツルギは頭を抱える。そして、フッと笑みを浮かべ直後には、大きな笑い声を上げていた。
「――ああ、生きてる。生きてるってホント、素晴らしいっすねぇ。こんな、ついででも」
「どうするの? 迴紫は元の正常なグリッドマンに戻ったみたいだけれど」
「どうもこうもないっすよ。目的を達成したんなら、俺がここに居続ける理由もないっすから。お暇するっす」
ドクロ鉄道――いいや、緑色に塗られた山手線の電車がホームに入ってくる。
ツルギはそれを目にして、自分の背に続くアノシラスへと声をかけていた。
「おたくは、どこへ行くんで?」
「お兄さんと一緒に行くよ。私、怪獣だから。気に入った相手と一緒に行くんだ。ホラ、気紛れでしょ?」
「そいつぁ確かに。怪獣の気紛れさだ。でも、俺もどこに行くのか、どうなるのかなんて分からないっすよ? それでもいいんすか?」
その問いかけにアノシラスは微笑みかける。
「だってお兄さん、一人だと突っ走って危ないところに行っちゃう。見張り役が必要だもの」
「違いねぇや。ま、これからもよろしく頼んますよ。怪獣少女。恩は返さなくっちゃいけないんでね」
その言葉を聞いてアノシラスはふふっ、と含み笑いを漏らしていた。
「……何なんすか、そんなに可笑しな事を言ったっすか?」
「ううん。うちの家訓と同じだって思ってね」
「そいつぁ、結構。……そういえば結局、おたくが新宿セクターに来た理由って何だったんで? 恩返しって言ってた気がしますが……」
「ああ、それ? もう叶った。恩返しも、それに見合うものも」
「そうっすか。そりゃよかったっすね」
「うん。よかった。これで思い残す事はなく、ここを去れるね」
山手線のドアが閉まる。その直前、ツルギは見渡す限りの青空を仰ぎ、そして呟いていた。
「……坊ちゃん、おたくも見ていやすかい? この澄み渡った青空を。どこまでも突き抜ける、真実の蒼を――」
空を、眺めていた。
茫漠とした意識の中で、ただ空を。
高層ビルのビル風が外套を煽り、ここにいる命一つの脈動を感じさせる。
降り注ぐのは光の残滓。眩い輝きに押し包まれた巨人が、空高くこちらを見据えている。
「……どこへ行くんだ?」
(どこへも。ボクはキミに、退屈から救ってもらったから。その恩義に報いるために、精一杯、この場所を見守り続ける。いつかヒトが、大いなる情報の海原を超えて、ボクらのように成れるであろう事は、キミが証明してくれた。だからその時まで、ただ待つよ)
「だが、人間にはそんな価値なんてないかもしれない。力に溺れ、闇雲に戦ってグリッドマンの……お前達の期待を壊すだけかもしれない」
こちらの浮かべた懸念にグリッドマンは応じる。
(その時は――もう一度だけ一緒に戦ってくれるんでしょ?)
ああ、と左手に意識を向ける。蒼いアクセプターが装着され、光の脈動を紡いでいた。
「那由多――!」
声がする。
自分の名前を呼ぶ声が。知っている者の声音が。
「……オレはもう行く。行かなければならない。もう一度、再会するために」
(どこまで行くの?)
「きっと、どこまでも……。オレの力を必要とするかもしれない場所は、まだあると思う。だから、最後の最後まで戦い続ける。オレの名前は那由多。ハイパーエージェント、《サイファーグリッドマン》だ」
(……聞いて安心した。じゃあボクも行くね。キミ達人類に、幸多からんと願って)
那由多は左手を翳し、誓いの声を放っていた。
「――光あれ」
(うん。光あれ。ただそれだけが、キミ達の……)
グリッドマンは遥か彼方、空の向こうへと消えてゆく。光を降り積もらせながら。この街に、希望を抱いて。
鳥達が羽ばたき、彼方の青空を目指して飛んでいく。
那由多は身を翻していた。
何を言われるだろう。どのような反応をされるだろう。
――分からない。未来の事など誰も分からないのだ。
ただ、確かなのは一つだけ。
光と共に在るのならば、この命はどこまでも。蒼く燃え続ける。
そして、さぁ――大切な人に、会いに行こう。
この世界に誓った、約束を抱いて。
GRIDMAN//CODE:Cypher END
あとがきをもって完結します。今までありがとうございました。