GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯1‐6

 首長怪獣――《グールギラス》より声が生ずる。

 

(……現れるとはな。新たなグリッドマン!)

 

 その言葉に巨人――《サイファーグリッドマン》は両腕を構えて叫ぶ。

 

(ここで討ち倒す!)

 

 青錆びの街を蹴りつけ、駆け出した《サイファーグリッドマン》に、《グールギラス》がこぶを発射する。

 

 灼熱の域に達したこぶが破裂し、炎を生じさせていた。爆発の硝煙の向こう側で《グールギラス》の背骨に位置する赤いこぶがいくつも光を発生させた。

 

 直後、赤い光線が幾何学に放射され、《サイファーグリッドマン》を襲う。瞬時に飛び退り、それを回避しようとするが、その動きには濁りがある。

 

 回避機動も儘ならず、《サイファーグリッドマン》はほとんどをその身に受けていた。

 

 項垂れた巨人に、《グールギラス》が哄笑を上げる。

 

(最適化されていないのか。ならばここで死ね!)

 

 赤い背骨が再び光を湛えようとするのを、《サイファーグリッドマン》は察知して《グールギラス》へと飛び込む。至近に入った《サイファーグリッドマン》を《グールギラス》が手首よりこぶを生じさせていた。

 

 そのまま押し込む勢いでこぶを点火させようとする。

 

《サイファーグリッドマン》はその腕を押え込んだ。《グールギラス》が口腔部を開き、喉の奥より火炎弾を発射しようとする。

 

《サイファーグリッドマン》はそれを察知し、長大な首を両腕でひねり上げ、そのまま膂力に任せて背負い投げを決めた。

 

 大地が鳴動し、青錆びの建築物が粉砕される。

 

《グールギラス》の喉から発射された火炎弾が空に向かって放たれ、拡散して降り注ぐ。

 

 炎に包まれた大地で、《サイファーグリッドマン》は《グールギラス》へと手刀を見舞う。

 

《グールギラス》の尻尾が《サイファーグリッドマン》を突き飛ばしていた。建築物に背筋をぶつけた《サイファーグリッドマン》が力なく項垂れる。

 

 その額に位置するタイマーが明滅し始めた。

 

《グールギラス》は立ち上がり、咆哮しながら四肢を開く。

 

 背筋より放射された赤い光線が幾何学の軌道を描いて《サイファーグリッドマン》へと突き刺さりかけた。

 

 それを寸前で巨人は面を上げ、駆け出す事で回避する。全弾が直撃した建築物が赤く照り上がり、焼失していた。

 

(貴様も一瞬で粉砕してくれる!)

 

《グールギラス》に、《サイファーグリッドマン》は駆け込んでいた。しかし接近戦に持ち込もうとも通用しなかったのは目に見えている。

 

(勝負を捨てたか!)

 

 吼え立てた《グールギラス》が口腔部に溜め込んだ火炎弾を《サイファーグリッドマン》はスライディングで地面を滑り、回避する。

 

 その行動はさすがに相手も予想外であったのか、下段より迫った突き上げるアッパーの勢いに《グールギラス》が後ずさる。

 

 その隙を逃さず、《サイファーグリッドマン》は《グールギラス》の首根っこをひねっていた。渾身の力で捩じ上げられた首が耐久値を超え、遂には引き千切られる。

 

 首を失った《グールギラス》がたたらを踏んだ。その断面には機械の電子回路が走っている。

 

 首長の頭が大地を跳ね、火炎弾を撃ち出す。灼熱に染まる街の中心で、《サイファーグリッドマン》は両腕を前に突き出して交差させていた。

 

(グリッド――ビーム!)

 

 左腕を突き上げる姿勢を取り、巨大化したアクセプターより放たれた蒼銀の光線が《グールギラス》を貫く。

 

 撃ち抜かれた形の《グールギラス》が硬直し、蒼い光に包み込まれて収縮していく。

 

(貴様は……我らナイトウィザードが必ず……倒す!)

 

 断末魔と共に収縮し、渦巻いた《グールギラス》の巨体がガラス片のように砕け散る。

 

《サイファーグリッドマン》は額のタイマーを点滅させながら戦局を俯瞰し、やがてその身体も光と共に砕け、拡散していた。

 

 小さな身一つとなった《サイファーグリッドマン》――那由多は己の掌に視線を落とす。

 

 今、何が起こったのか。自分が何をしたのか、それを確かめるように。

 

「今の巨人は……オレが、なったのか……」

 

 朋枝はどこか恐れるように自分を目にしている。しかし、それでも彼女は歩み寄ってくれていた。

 

「……あなたは、何?」

 

 答えようとしたが、答えるだけのものがない。

 

「……まだ、思い出せない。だが、一つだけ。一つだけ、思い出した」

 

 那由多は逆巻く灼熱の風の中で、己の中に浮かぶたった一つを口にする。

 

「――オレはハイパーエージェントだ」

 

 その言葉の持つ意味を、自分でも分からぬまま、那由多は炎に染まった街並みを眺める。

 

「ハイパーエージェント……」

 

 朋枝が呆然と口にして、やがて村の惨状を視界に入れる。

 

「……みんな、死んじゃった。あたしだけが、生き残ったなんて……。お兄ちゃん……」

 

 涙する朋枝を慰めるだけの言葉を自分は持たない。何も持たぬまま、ただ歩き始めるしかない。

 

「オレは……どうやらさっきの蒼い巨人と縁があるらしい。ならば、確かめなくてはならない。オレが、何なのか。何のために、巨人に成れるのかを」

 

 それだけが確かなもの。今の自分の中に芽生えた、新たなる衝動。

 

 しかしその旅路に、朋枝は連れて行けない。朋枝はこの村で生きてきたのだ。自分の勝手な都合に付き合わせるわけにはいかない。

 

「トモエ。オレは進む。進まなくてはいけない」

 

 これまでのように孤独に。これまでのように、自分を知るための旅に。

 

 歩み始めた自分に朋枝は声を投げていた。

 

「待って、那由多。あなたには……何か……」

 

「オレは自分が何なのか知りたい。知らなければ、いけないんだ」

 

「……独りで、怪獣に壊されたこの辺りをうろつくつもり? もし、思わぬ落とし穴に遭遇したらどうするの」

 

「それは……」

 

 返事に窮する那由多へと朋枝は言い放っていた。

 

「――あたしも連れて行って。あたしも、知りたい。あなたが何なのか。怪獣は、どうして、あたしの村を……襲えたのか」

 

「……仇討ちのつもりか」

 

 別段、特別な感情を込めたつもりはない。しかし、朋枝は頭を振っていた。

 

「そうかも。ううん、そうかもしれないってのも張りぼて。そうなんでしょうね。でも、あたしは何よりも、あなたを知りたい。怪獣を倒した、あなたを」

 

「怪獣を、倒した。オレが……」

 

 まだ記憶は戻らない。しかし、旅立たなければいけないだろう。己を知るため、そして何よりも、蒼銀の巨人の謎を、解き明かすために。

 

「……ついて来てくれるのか」

 

「あたしがいないと、すぐに死んじゃいそうだからね、あなたは」

 

 胸を反らし、朋枝が口にするがそれも迷いあっての言葉なのはよく分かった。恐らく、割り切れてはいないのだろう。だが、彼女も当事者とまではいかなくとも、帰る場所を永遠に失ったのだ。自分とはある意味では同じなのかもしれない。

 

「……行こう」

 

 歩み出した那由多へと朋枝は肩を並べる。紅蓮の炎に包まれていく故郷を朋枝は一瞥し、その頬を涙の痕が伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありゃあ、厄介っすねぇ。まさかここで目覚めるなんて」

 

 青錆びの建築物の屋上で、風圧に煽られながら、ツルギはこぼす。アノシラスが鉄柵に乗り出していた。

 

「今の、何? 怪獣と戦った……」

 

「――グリッドマン。まさか新世代が現れるなんて、想定外っすよ」

 

 煉獄の炎を睨んだツルギに、アノシラスは呆然と言葉を紡ぐ。

 

「グリッドマン……。何だろう。懐かしい響きだね」

 

 ツルギは身を翻していた。

 

「あの坊ちゃんとはケリをつけないといけないかもしれないっすねぇ。グリッドマンに変身する、それがどういう意味を持つのか、分かっていないはずもない」

 

 いずれにせよ、自分は怨敵を叩くのみだ。二丁拳銃を携えたツルギはその瞳に復讐の焔を湛えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――へぇ、現れたんだ。新しいグリッドマン」

 

 紫色の髪を傾がせて、少女は円卓に足を置く。どこか軽妙な声に対し円卓を囲んでいた者達は重々しく声にしていた。

 

「まさか、こんなにも早くグリッドマンが現れるとは。我々が片づけなければいけないようだ」

 

「それにしても、《グールギラス》……弱過ぎたな。やはり未熟者にアクセスコードをくれてやるのは惜しい。我々のみで運用すべきだ」

 

「うんうん。キミら六人なら、ボクも安心して任せられるよ」

 

 満足げに微笑んだ少女にそれぞれの影が尋ね返す。

 

「して、迴紫様。このまま静観するおつもりで?」

 

「まさか。ボクに対抗するつもりなんだろうねぇ。でもそれって、ホント愚者。思い知らせてあげないと。この世界は、ボクの物だ」

 

 その左手首には、赤銅色のアクセプターが装着されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【光波超人《サイファーグリッドマン プロトコルモード》】

【炎熱怪獣《グールギラスアルファ》】登場

 

 

 

 

 

第一話、了

 

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