GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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第二話 CODE:Genuine
♯2‐1


 ドクロ鉄道が断末魔を響かせながら交通網を疾駆する。

 

 その道筋は誰にも止められず、村々を繋ぐ唯一の高速特急であるドクロ鉄道の運行とダイヤは厳密に守られているはずであったが――。

 

 この時、ドクロ鉄道の運転士はある異変に気づいていた。並走する熱源を関知し、運転士は通信の声を吹き込む。

 

『そのほう、止まりなさい。ドクロ鉄道の運行を邪魔する者には執行権限が与えられている』

 

 警告にも相手は速度を落とさず、ドクロ鉄道へと並んでみせた。思わぬ速度に運転士が窓の外を見やる。

 

 膝頭と脚部に無数の車輪を有したその姿。屹立する茶褐色の影の頭部より赤い瞳が睥睨する。

 

 ――怪獣。

 

 だがまさか、鉄道網に現れるとは思いも寄らない。運転士は再三、声にする。

 

『止まりなさい。ドクロ鉄道にはそのほうを排除する権限がある。止まりなさい』

 

 最後通告のつもりであったが、疾走怪獣は止まらない。それどころか速度を増した。

 

 この先には進路変更のポイントがあり、そこでかち合えば面倒だ。

 

 運転士はドクロ鉄道のコンソールを引き出し、無数に並んだキーボードを叩いてパスワードを入力する。

 

 すると引き出されたのは引き金であった。銃身を握り締め、影の運転士は隣り合う怪獣を照準器に入れる。

 

 瞬間、ドクロ鉄道の格納部が開き、内側から展開されたのは重々しい銃座の数々であった。砲身が怪獣を捉える。

 

『止まらなければ撃つ』

 

 これで最後の警告。しかし相手は速度を殺す気配もなし。運転士は引き金を絞りかけて、不意に照準の中に人影を見つけていた。

 

『……人間?』

 

 その小さな人影が蛇腹剣を払い、怪獣の首に突き立てる。速度に振り落とされないように人影が躍り上がり、怪獣の頭蓋へと二丁拳銃で銃撃を見舞っていた。

 

 咆哮が迸り、怪獣が針のように鋭く尖った両腕を払う。謎の人影が身を翻し、怪獣の眉間へと腰に提げた長刀を引き抜いていた。

 

 黒い鍔の直刀が怪獣の鼻先で抜刀される。

 

 逆手に握った人影は怪獣の眉間に突き刺そうとして、巻き起こった火炎の暴風に煽られる。

 

 車輪から炎が生み出され、その速度を倍加させたのだ。

 

 人影は炎と風圧で今にも吹き飛ばされそうであったが、必死にしがみつき、刀で怪獣の背に回っていた。

 

 雄々しく突き立った背びれへと入り、刃が皮膚を引き裂いていく。血潮が舞ったが、怪獣は意に介した様子もなく、それどころか背びれに向けて暗雲が垂れ込む。

 

 直後、空に発生した雷雲より電流が拡散し、背びれがそれを帯電した。人影はまともに電流を食らった事になるのだが、それでも彼は離れない。

 

 そう、その時点で運転士はその人影が一人の男である事を察知していた。

 

『……ただの人間一人が怪獣を相手取る……』

 

 だが迂闊に発砲出来ないのは変わらない。運転士は声を張る。

 

『そこの人影! 怪獣から離れなさい。ドクロ鉄道が公式に対処する』

 

 砲身が怪獣を狙い澄ますが、それでも人影は食らいついたまま離れない。まさしく執念そのもの。背びれを切り裂き、弱点を探っているようであった。

 

(ちょこざい真似を……! 人間風情が!)

 

 怪獣の声が放たれ、進路変更ポイントに迫る。ドクロ鉄道は一秒たりとも遅れをもたらすわけにはいかない。遅延は死と同じ。

 

 ゆえに、運転士は非情なる判断を求められていた。

 

 引き金に指をかけ、警告はした、と己を納得させる。

 

『これより、砲撃を開始する!』

 

 ドクロ鉄道格納部より放たれた銃座の火線が怪獣へと殺到した。怪獣が火力によろめき、人影も巻き込まれる。

 

 線路より離れた怪獣を気に留める前に、ドクロ鉄道を管理する運転士には冷静なる判断が求められていた。

 

『進路変更ポイントに到達。怪獣を引き剥がし、このまま前進を――』

 

 その言葉を遮ったのは新たなる怪獣の影であった。白銀の怪獣が地を這い、鉱石のように散りばめられた肉体より白い息を棚引かせる。

 

 このままでは直撃する。

 

 運転士はこの時、何重にも封印措置の張られたブレーキを踏むか否かの選択肢を迫られていた。

 

 ドクロ鉄道の運転士がマニュアル外の事をこなす時、もし脱線事故になどに発展した場合には全ての責任を取らされる。

 

 懲戒免職で済めばまだいいほうだ。怪獣相手に、ブレーキを踏むのはドクロ鉄道勤務として最も恥ずべき行為。

 

 しかし、前方の怪獣相手に即座に砲撃するほどの戦闘訓練は積んでいない。このまま、突っ込む前に速度を殺し、ダイヤを犠牲にするしかないのか。

 

 運転士が面を伏せた、その時であった。

 

 蒼銀の輝きがドクロ鉄道の車両より解き放たれる。

 

 浮かび上がったそれはドクロ鉄道の速度を追い越して勢いを殺さぬままに線路上を遮る怪獣へと猪突していた。

 

 光が晴れ、蒼銀の巨人が赤く煮え滾った蹴りを怪獣へと浴びせかける。

 

(超電導キック!)

 

 思わぬ加勢に運転士は呆気に取られていた。

 

 だがそれも僅か数秒のみ。線路が空いたのを視認した運転士の取った行動は素早い。ブレーキを踏まず、そのままの速度を保って怪獣と巨人の脇を抜けていた。

 

 ドクロ鉄道が断末魔の汽笛を上げて次の停留所が近い事を告げる。

 

 しかし、今の巨人と、そして怪獣相手に一人対抗する男は、何者だったのだろうか。

 

 運転士にはそこまでの権限はない。ただ、運行を確保し、絶対にダイヤは乱さない。それだけが、運転士に与えられた絶対であったのだ。

 

 ゆえに、彼らが何者であるのかの問いは、直後には霧散していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ただいま、運行中にトラブルが発生しました事をお詫び申し上げます。本線は次の停留所にて定刻通りに到着いたします』

 

 そのアナウンスを聞きながら、朋枝は客室を駆け抜けていた。突然に現れたドクロ鉄道に並走する怪獣。それだけではない。進路を遮った怪獣を目にした瞬間、那由多はまたしても光の巨人となって飛び立ってしまった。

 

「一体、何なの……。那由多……っ!」

 

 朋枝は前方車両に向けて駆けていくが、その途中で客室乗務員が道を遮る。

 

『ここから先は、指定席となりますので。自由席の方はご遠慮いただいております』

 

「急いでいるの! ……乗り合わせた相手が、行ってしまって……」

 

 どう説明すればいいのか分からずにまごついていると、客室乗務員は落ち着き払って声にする。

 

『もうすぐ次の停留所に到着します。誤差は一秒未満ですので、ご安心を』

 

「そういう問題じゃないの! さっきの怪獣は何? どうしてドクロ鉄道は発砲した事を公にしないの」

 

 その言葉にはさすがの客室乗務員も参ったらしい。どこか気後れ気味に言い返していた。

 

『……守秘義務に抵触しますので』

 

「怪獣が出たのよ! 落ち着いていられるわけがない」

 

『しかし、運行に支障はございません。どうかお客様には冷静になっていただきたく……』

 

「冷静って……! だって怪獣を倒すために……那由多は……!」

 

 だが自分に出来る事など何もない。朋枝は無力感を噛み締めつつ、とてとてと指定席の車両から歩み出てきた緑のパーカーの少女を視界に入れていた。

 

「ねぇね、さっき怪獣に発砲したでしょ。私、知ってるんだから」

 

『お客様。ドクロ鉄道の運行に支障はございません。どうか客席でお待ちを』

 

 へへっ、と少女は特徴的に笑う。

 

「いいの? 怪獣に発砲した時、人がいたよね? 人間がいたのを分かっていて、発砲したって言えばドクロ鉄道の沽券に関わるよね」

 

 人間がいた? その言葉に朋枝はうろたえていた。客室乗務員はどこかで知らされていたのか、それとも知っていて指示をした側なのか、少女の言葉に逡巡を挟む。

 

『……お客様、事実は……』

 

「私、言ってもいいんだよ? 人間がいて、それを分かって撃ったって」

 

「それって本当なの? 怪獣相手に、人間が……?」

 

 その段になって少女は初めて朋枝を意識に入れたらしい。瞠目してふふっと笑う。

 

「……お姉さん、私に似ているね。でも、私、怪獣だよ?」

 

 思わぬ言葉に朋枝は混乱する。今、この少女は何と言ったのか。

 

「怪獣……」

 

 朋枝は少女を上から下まで検分する。緑色のフードを被った、小柄な少女だ。肌は少し浅黒い。どこかこちらを試すような瞳を持っており、心情は窺い知れなかった。

 

『お客様。落ち着いてください』

 

「私は落ち着いているよ? でも、怪獣を倒すために、撃ったってばれたらまずいよね」

 

 客室乗務員は苦肉の策とでも言うように少女へと声を搾っていた。

 

『……それは次の停留所でお聞きしますので』

 

 朋枝はその隙を逃さない。客室乗務員が少女に気を取られている間にその脇をすり抜けていた。制止の声がかかったが知るものかと一蹴する。

 

 指定席車両を抜け、朋枝は息を切らしていた。

 

「那由多……無事でいて……」

 

 

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