GRIDMAN//CODE:Cypher   作:オンドゥル大使

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♯2‐2

(本当に出てくるとは思わなかったな。新しいグリッドマン……!)

 

 白銀の鉱石を鎧のように纏った怪獣が吼え立てる。それに対して、蒼銀の巨人――《サイファーグリッドマン》は両手で構える。

 

(怪獣はわたしが倒す!)

 

(粋がるなよ、ルーキー。この《ギラルス》を纏った俺様は年季が入っているんだよ。少なくとも、お前がグリッドマンになるより遥か前から、こいつを使っている。《ギラルス》の性能、思い知れ!)

 

 大地を削りながら怪獣――《ギラルス》が直進する。這うような挙動に鈍い相手か、と判断を下した《サイファーグリッドマン》はその巨体の直上を跳ね上がり、飛び越えてから振り向きざまに腕を交差させる。

 

 充填されたエネルギーが左手首のグラン・アクセプターに溢れ、光の瀑布を生み出していた。

 

 左手を突き上げて光線を編み出す。

 

(グリッド、ビーム!)

 

 完全に背後をついてのグリッドビームはしかし、《ギラルス》の体内へと吸収されていく。思わぬ挙動にまごついたのも一瞬、《ギラルス》の結晶体の内部をエネルギーが循環し、直後には拡散したエネルギー波が《サイファーグリッドマン》に向けて放たれていた。

 

 反射した自身のビームを受けて《サイファーグリッドマン》がよろめく。

 

(光線対策くらいはしているに決まっているだろう。甘いんだよ、グリッドマン)

 

《ギラルス》が地を這いながら鼻先の角を突き上げる。角にまだ残存するエネルギー波を《ギラルス》は放出していた。

 

《サイファーグリッドマン》は大地を蹴り、バック転で回避する。ドクロ鉄道の線路が焼け爛れ、鋼鉄が融点を迎えていた。

 

《サイファーグリッドマン》は構えたまま、相手への次の手を講じようとするが、その前に《ギラルス》は光を帯びて拡散粒子砲を周囲に向けて放つ。無差別な攻撃に《サイファーグリッドマン》が怯んだのも一瞬。

 

《ギラルス》の姿は影も形もなくなっていた。

 

 逃げるために眩惑として使ったのだろう。《サイファーグリッドマン》は額のタイマーが点滅し始めている。これ以上長くはこの姿を維持出来ない。

 

 蒼銀の巨人は光へと還元され、ドクロ鉄道へと舞い戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ。坊ちゃんにも困ったものでさぁ。不完全なのに怪獣に立ち向かおうとするってのも、なかなかに」

 

 風圧がコートを煽る。ツルギは逆手に携えた直刀を敵怪獣の背筋に打ち込んでいた。そのまま二丁拳銃を構え直し、刀の柄に向けて銃撃を放つ。

 

 怪獣が咆哮し、ツルギを振り落とさんと身をよじる。

 

 ツルギは蛇腹剣を駆使して怪獣の腕の根元へと回り込み、今度はその眼窩を照準する。

 

「目ぇ、いただくっすよ!」

 

(貴様、人間か? こうも頑強な人間なんて、初めて見た)

 

「そりゃどうも! こちとら、あんたが現れるのをじぃーっと待っているのも性に合わないんでね! ドクロ鉄道の切符は安かないんだ。ここで決めさせてもらうっすよ!」

 

 引き金を絞りかけた瞬間、怪獣の背びれから何かが分離する。何が、と視野に入れた刹那、小型の怪獣が牙を軋らせて直進してきた。

 

 咄嗟に身をかわしたが、それでも視界に入るだけで十数匹の小型怪獣が群れを成し、渦巻いて夜空を満たす。

 

 高速振動する羽音を散らせながら、小型怪獣が一斉にツルギへと殺到した。

 

 蛇腹剣で腕から背へと伝ったツルギであったが、このまま怪獣に組み付いていても攻勢には移れない。それどころか相手の小型怪獣は執念深く追い縋ってくるだろう。

 

 二丁拳銃へと持ち替え、小型怪獣へと銃撃網を見舞うが、堅牢な皮膚を持つ小型怪獣は容易く迎撃されてくれない。構造は蠅のようにシンプルでありながら、頑強さは大型怪獣に匹敵する。これを相手取ってうまく生き残れるかは賭けに近い。

 

 舌打ちを滲ませ、ツルギは銃を翳した。

 

「ここまで……っすか。追ってきたのに不甲斐ねぇ……。だがせめて!」

 

 怪獣の皮膚へと一発の銃弾を浴びせ、ツルギは離脱する。小型怪獣の群れが線路へと追撃したが、精密な操作はどうやら不可能らしい。

 

 身を伏せていると怪獣共々、気配は消え去っていた。

 

 ツルギは喧噪の失せた線路上で、嘆息を一つつく。

 

「簡単にくたばってくれないのは、やっぱりって感じっすが、それでも見合う対価は得たっすよ。ナイトウィザード……!」

 

 懐より懐中時計を取り出す。表面に浮かび上がっていたのは撃ち込んだ銃弾より発信される信号であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然に舞い戻ってきた那由多に、最前列の車両まで来ていた朋枝は瞠目して立ち尽くす。

 

 彼は左手首に装着されたアクセプターが青く滲んで光に拡散するのを目にしていた。

 

「……まだ、どこかおかしい……」

 

「おかしいのは、あんたでしょうが! いきなり飛び出さないでよ!」

 

 拳を翳して飛びかかった朋枝を、那由多は軽く身をかわす。

 

「怪獣が現れたんだ。あのままではドクロ鉄道は脱線していた」

 

「それ、言い訳になると思ってるの」

 

 問い詰めた朋枝に那由多はどこかばつが悪そうに視線を背ける。

 

「……いや、ならないな」

 

「分かっているんなら、突然に変身しないでよ。びっくりしたじゃない」

 

 懇々と諭していると、那由多は素直に聞いている様子であった。どこか彼の瞳に浮かんだ疑念に問い返す。

 

「……何かあったの?」

 

「オレが成れるあの姿……。相手はグリッドマンと呼んでいたが、あれになっても勝てなかった。……問題があるのかもしれない」

 

「問題? あんなのに成ること自体があたしからすれば問題だけれど」

 

 蒼銀の巨人の力は一度でも目にすれば分かる。怪獣を相手取って対等に戦える能力などそうそうあるものか。しかし、どこか那由多は得心がいっていないようであった。

 

「……足りないように感じる。この力が、まだ……」

 

「……あんたの疑念は知らないけれど、こっちは困ってるんだから。あんな風に飛び出さないで」

 

「……善処する」

 

「お言葉だけの返答は結構。さ、戻るわよ。あたし達は自由席の切符しか持っていないんだからね」

 

 指定席の車両まで来た時点で、ペナルティを受ける可能性もあったが、すれ違った客室乗務員は何も言わなかった。

 

 恐らく、先ほどの少女の脅迫じみた言葉が効いたのだろう。あれを聞き及んでいた自分には強硬策は取れない、か。

 

「……そういえばあの子は?」

 

 見渡すが、それらしい人影はない。

 

「あの子? 誰の事を言っているんだ」

 

 その時、ドクロ鉄道が断末魔を上げつつアナウンスを響かせた。

 

『間もなく、次の停留所に停車いたします。お降りの方は、切符をお持ち合わせの上、各駅の改札までお通りください』

 

 なけなしの金を叩いて買ったドクロ鉄道の切符もここまでの様子だ。朋枝は切符を取り出し、ため息をついていた。

 

「ドクロ鉄道は高いから、ジャンクを少し売った程度じゃ三駅くらいしか進めないわね。それでも、あんたはこっちに何かあるって言っていたけれど」

 

「ああ。何だか分からないが、こちら側に何かがある気がしてならない」

 

「……随分とあやふやって言うか、そんな第六感で旅をしてきたの?」

 

「いけないか?」

 

「いや、いけなくはないけれど……。旅の資金とかよく持ったわね」

 

「着いた先でジャンクを集めていれば、それなりの金にはなる。それで少しずつ進んでいただけだ」

 

 その旅先に、自分も巻き込まれた、というわけか。朋枝は既に旅立った村を懐かしく思うのと同時に、弔った土の感触がまだ掌にこびりついているのを感じる。

 

 兄を含め、村人達は全員死んでしまっていた。

 

 彼らを弔い、墓を建てたあの感覚は拭い去ろうとしても一朝一夕では消えてくれない。

 

 呪いのようにこの手に染みついているのだ。

 

「……どうした、トモエ。何かあったのか」

 

 那由多の問いかけに朋枝は強がる。ここで自分が折れてしまえば、結局何もかもが水泡に帰すだろう。それに、自分を結果的とはいえ救ってくれた那由多を放ってはおけなかった。

 

「ううん、何でもない。あんた、切符は忘れてないわよね? ないと高額な無銭乗車の罰金を取られるわよ」

 

「問題ない。切符は持っている」

 

「そっ。なら、いいんだけれどさ」

 

 煮え切らないものを感じたのだろう。那由多は問い返す。

 

「トモエ。オレもあの巨人に関しては知りたい。知らなければならないと感じている。だが、どうにも思い出せないんだ。どれだけ記憶を漁っても……」

 

「分かっているわよ。無理に思い出せとは言わないけれどでも……あの姿になる事は、出来るのよね?」

 

「ああ。どうしてだか身のこなしも覚えている。それは記憶ではなく、どこか経験則のような気がする」

 

 掌に視線を落とした那由多に朋枝はうぅんと呻る。

 

「記憶への手がかりはなし、か。何だか気が遠くなりそう……」

 

「すまない。だが思い出さなくてはいけないのは、確かなようだ。……ヤツが言うように」

 

「あんたがよく見るって言う、あの蒼銀の巨人だっけ? 話しかけてくるの?」

 

 聞いた話では特定の条件下になると蒼銀の巨人と同じ影が語りかけてくるのだと言う。そのような眉唾を信じるわけがなかったが、実際に那由多があの巨人に変身出来るのを目の当たりにすれば、それくらいの怪現象は呑み込めた。

 

「ああ。ヤツはオレの事をどうやらオレ以上に知っているような感じがする。それがどうにも……」

 

「気に食わない、か。……でも、そいつは思い出せって言うのよね、あんたに、使命って奴を」

 

 首肯した那由多に、朋枝はどうするべきかと思案して、不意に流れたベルに遮られていた。間もなく駅に到達するらしい。

 

「とりあえず、着いてから考えましょ。あんたの探し求めている何かってのも、案外、すぐそこにあるのかもしれないし」

 

 すぐそこに、という言葉を那由多は口中に繰り返す。

 

「それは、しかし手にする事の出来ない……幻のようなものだ」

 

 

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