宇和島はホームページに載っていた住所の場所へ着いた。そこは和風の屋敷だった。表札の近くにあるインターホンを鳴らす。ピンポーンという軽い音とともに
「はい。どちら様でしょうか?」
「すみません。こちらが妖怪専門の探偵さんの事務所でしょうか?予約とかしてませんけど、話を聞いてもらえませんか?」
「お待ちください。今迎えます。」
そう言って、少ししてから玄関の引き戸がカラカラと音を立てて開く。
「お急ぎの様ですね。どうぞ、中へ。」
家の中へ入り、廊下を抜けて手前の部屋へと通される。
「家の中も和風なんですね。」
「ええ、こういう仕事なのでイメージと合うんじゃないかと。それに私自身が和風の感じが好きなので。お飲み物は?」
「温かいほうじ茶で。」
岳川が台所へ行き、少ししてからほうじ茶を二つ持って戻って来た。
一つを自分側、もう一つを宇和島の側に置き、
「さて、はじめまして。私が妖怪専門の探偵、岳川滋人です。…世間話の様な自己紹介は抜きで話を聞きましょう。」
そう言って岳川は話を促す。そして宇和島は山の中であった事、その時の状況、見つけたものなど細かく話す。
「なるほど。それは奇妙な事件ですね。妖怪事件の可能性は充分にあります。…それにしても貴方は同僚がいなくなった時、よく神隠しの可能性が浮かびましたね?」
「自分、祖父母の家が田舎の方で。子供の頃など近くの山などに入る時、よく言われてました。「あんまり、山の奥に行くと神隠しにあって戻って来られなくなる」って。今思えば心配だったから何でしょうけどそのおかげか他の人よりそういうモノは信じていますから。」
「なるほど。そういう事でしたか。貴方のお祖父様、お祖母様は貴方へ良い教育をなさっていた様ですね。…さて、お話は分かりました。まず、私はその山へ行ってみます。貴方はどうしますか?付いて来ますか?」
「ええ、車でそこまで案内します。」
「分かりました。では早速行きましょう。」
そして、宇和島の先導の元、山へと向かう。山への歩きの道の前で車を停車させて、宇和島が案内しようとすると、
「宇和島さん。貴方はここで帰った方がいい。」
「えっ、何でですか?」
「貴方の話を聞いて、思ったんです。その女が少し貴方達の方を見たのなら、もしかしたら再び、やって来るのを待ち構えているのではないかって。…当たってしまった。山の中から貴方の方へと注がれている視線があります。」
「ですけど、女は一人だけでした。一人だけなら足止めなどの対抗策があるのでは?…それともそれが出来ない程相手がヤバイと?」
「確かにその女は強いとは思いますが、一人なら足止めが出来ます。貴方の事を守りながらでもね。」
「なら、どうして…?」
「…ここが、『魔の山』だからです。」
「魔の山ですか?それは一体…?」
「…魔の山。まぁ言葉通りの意味何ですが。この山には貴方達が見た女とは別の妖怪、魔物の類が多くいます。この全てが襲い掛かってきた場合、貴方を守れる自身が無いのです。なので、貴方はこれを持って車で待っていて貰えますか?」
そう言うと、懐から数枚の札とお守り、小さめの水晶玉を渡した。
「いいですか。この札とお守りは持っていてください。水晶玉は車のフロントガラスに置いておいてください。…一応これも。」
そう言って渡したのは赤みがかった札を数枚。
「この札はフロントガラスにはもちろん、車の全てのガラスに内側から貼ってください。もしガラスに貼り終わって余っていた場合は助手席や後ろの席にも貼ってください。貼り終わったら助手席以外のカギを閉めてください。そして、これが大切ですが、誰が来ても開けてはいけません。それが私の姿でもです。本物の私だったら助手席から乗ることが出来ます。しかし、偽物なら札のおかげで入ることも触ることも出来ないので、どうにかして貴方に開けさせようとします。絶対に開けない様にお願いします。」
「…分かりました。こんな素人の願いじゃ無駄かもしれませんが、車の中で無事を祈っています。」
そう言って宇和島は車の中へと戻り、札を貼っていく。
岳川は一人、山の中へと入る。山の中へ入るにつれて視線が多くなっていく。まずは女を見つけなくてはと入っていく。しばらく行くと、道から外れた場所に山小屋が見える。(あれが話にあった山小屋だな。)そう思い、近づいていく。山小屋の見た目は立派だったのだが中は無人で椅子とテーブルがあるだけのシンプルな作りだった。
外に出て、小屋の裏へ周ってみる。すると、そこには古い井戸があった。木の蓋はそばに落ちていて、井戸の口が開いている。
中を覗くと冷気が登ってきている。中々深い井戸らしく、底が見えない。瞬間、冷気とは違う寒気に襲われる。(これは…妖気。しかも…明らかな悪意がある妖気が下から上がって来る!)急いで木の蓋をして、九字を切る。ガンッと何かが木の蓋に当たり、木の蓋が少し浮く。しかし、岳川の九字で蓋が外れる事はなかった。その後何回かガンッガンッと聞こえてきたが、外れる事は無い。(何とか間に合ったか。ギリギリだったな。)岳川が安心していると山の中から何かが出てきた。それは大きな猿であった。(ただの猿がこんなに大きい筈が無い。それにそんな猿がいたとしても、妖気を纏っているわけが無い。となると…)
「お前は何だ。」
岳川が問うと猿は
「ヒッヒッヒ、俺か?俺は狒々だ。どうにも山の中が騒がしいから他のヤツらに聞いてみれば妙な人間が前に来た人間と一緒に来ていると聞いた。…一目で分かった。お前のことだ。何もんだ?」
「…探偵だ。昔は陰陽師の様な事をやっていた。」
「陰陽師か。こんな時代にもまだいたんだな。陰陽師なら分かるだろう。ここは魔の山だ。人が入るところじゃ無い。」
「そうはいかないんだ。一緒に来た人間の友人がこの山で行方不明になっているからな。」
「ヒッヒッヒ。陰陽師ってのは時代が変わっても人間の味方だな。…でもな、山には山の掟があるんだよ。妖怪にも横の繋がりってもんがあるんだ。仲間達を売る事は出来ないし、傷つけられれば傷つけ返すってもんよ。…さて、改めて問うぞ。山から出て行く気は?」
「残念ながら、無いね。」
「なら、侵入者とみなすぜ!」
そう言うと狒々は風を呼んだ。すると周りの風が渦を巻く様に集まってきて狒々と岳川を包んだ。狒々は飛び上がるとその風を使って縦横無尽な動きをしてくる。
「雷符!」
狒々に向かって雷を纏った札を投げる。しかしそれをヒラリと躱すと、素早く岳川の背後に回り爪で切り裂いてきた。紙一重で爪を避けると上に向かって札を投げた。
「落雷符!」
札から雷が落ちて来る。狒々は躱す事が出来ず、雷に当たる。
「グアアアアアッ!?」
狒々の動きが止まる。岳川は近づいて札を貼ろうとする。しかし、狒々が其処をついて、爪で引っ掻いてきた。岳川は躱しきれず、服が爪の形に破れる。破れた服から見える肌からは血が少し垂れていた。
「陰陽師だけあって結構やるな。だがな、意外と俺はタフなんだよ。元が野生動物だからな。」
その様子を見てこれはまだ続くかもしれないなと思いつつ、相手の次の動きを見る。…戦いはまだ続く。
今までの犠牲者: 一人
読んでいただきありがとうございます。言える事は一つです。自分がいつ、話に出てくる妖怪は毎話一体だけだと言った…?って事です。さて、探偵対狒々。どうなるんでしょうね。では、また次回お会いしましょう。