岳川は狒々の話にあった社を目指して山の中へと進んで行く。しばらくして目の前に岳川の首くらいまでの高さの小さな社が現れた。所々古くなって欠けたりしているが社としては十分だった。社には小さな鳥居と扉が付いていて開けると中には木の箱が一つ置かれていた。箱の隣には注連縄が一本落ちていて元々箱に巻かれていたが切り取られたような跡がある。岳川は箱を慎重に持ってみる。
「ん?中に何か入ってる…?少し重いな。」
恐る恐る開けてみると中には破かれた封印の符と握り拳より二回り程大きなガラスの球が四つ入っていた。
(このガラス球…普通のガラス球じゃ無いな。恐らくこのガラス球は妖怪を封じ込める事に秀でている呪具の類だ。そしてこれは球が四つである事に意味がある物だな…。そこまでは分かるがその意味は一体…?ん?球に何か彫られてるな。)
手にした球には小さな文字で『東』と彫られていた。まさか、と思い他の三つを見てみるとそれぞれ『北』『南』『西』と彫ってあった。
「そうか…!これはそれぞれを東西南北に置いておき、それぞれの場所を線で結んだ時の範囲の内側にいる妖怪を封じ込める物なんだ…。だからこの山の妖怪を封じた奴は全てを封じ込める事が出来たと言うことか。となると…」
岳川は自身が居る方角を確かめ、地図を開くと
「これは前もって準備をしておいた方が良いな。出来れば早めの方がいい。…人数も必要だし、宇和島さんが心配だ。一度車まで戻るか。」
そう思い車の方角へと下山する事にした。
岳川が車に戻るとその周りの地面が何か鋭く細い物で削られたような跡が無数に残っていた。山の中へ行く前に貼っていった符もほとんど黒く焦げたようになっていた。岳川は急いで車の中へ入ると
「宇和島さん!無事ですか!」
と声をかけた。宇和島は後部席で丸まっていた。どうやら気を失っているらしい。
「宇和島さん!しっかりしてください。一体何があったのですか。」
そう言って起こすと少しずつ宇和島の目が開いてきた。
「…岳川さん?……岳川さん!よかった、戻ってきてくれたんですね。」
岳川をその前に確認するとすぐに起き上がってきた。
「不安な思いをさせてしまい申し訳ありません。それで私が山に入っている間に何が?」
「はい。岳川さんが山に入ってからしばらくは何もなく普通だったんです。でも急に雨が降ってきて…」
「雨ですか?」
「はい。ザーって感じで。窓の外を見るまでは結構降ってきてるけど岳川さん大丈夫かなと思ってたんです。ただ窓の外を見てみると妙なんですよ。雨が降ってる音は聞こえるのに雨粒が見えないんですよ。目に見えない位細い雨がたくさん降ってるのかなと思って地面を見たんです。そしたら地面は濡れてなくて、でも音は聞こえる。なんだこれって呆然としましたよ。そしたら後ろからパチンッと音がして。びっくりして後ろを見たんです。でも何もいなくて気のせいかと思ったんです。そしたら次は目の前でパチンッって音が鳴って、よく見たら窓とかドアに貼ってる札から聞こえてたんですよ。安全だとは分かってましたけど、やっぱり心配になってしまって。助手席や後部座席にも札は貼ったので後部座席に移動したんです。それからもたまにパチンッと音がしてましたが頻度が高くなかったのでそこは安心しました。そしたら山の中から十人位の人が出てきて車の周りに集まってきたんです。初めは何か聞きたいことでもあるのかなと思ってたんですが車を囲んで集まり出した辺りからパチンッパチンッと音が連続して鳴るようになって、それでこの人達はこの世のモノでは無いんだと思ったんです。車を囲んで少しした時にその中の一人が何かぶつぶつと呟き始めたんです。何を話してるんだと思ったら違う人もぶつぶつ呟き始めて一人、また一人と増えていって最後には車を囲んで全員がぶつぶつ話し始めたんです。…頭がおかしくなりそうでした。正直、叫んで逃げたい気分だった。外から雨の音は聞こえるし、パチンパチンッと音は聞こえる、さらには車を囲んでの話し声ですから」
「それは、大変な体験をさせてしまったようで申し訳ないです。恐らくその集団はこの山の霊気に釣られた浮遊霊の集まりでしょうね。恐らく山に入ろうとしている人にちょっかいをかけたかっただけだと思います。ただ、私が戻って来た時にはそんなモノはいなかったのです。その後に何かあったのですか。」
「はい、その後その集団は居なくなりました。…ただ私はその後の出来事を生涯忘れないでしょう。」
「一体何が…?」
「…しばらくその集団にちょっかいをかけられていたんですがある時、ピタッと声が止んだんです。雨の音も札から発せられる音も全て。周りを見るとその集団は居なくなっていました。何が起きたのかと思っていると山の中から岳川さんが出て来たんです。私は岳川さんが追い払ってくれたんだと思ったんです。でも、様子がおかしくて真面目な顔で私の顔をじっと見てるんです。そして車まで来ると『宇和島さん。開けてください。』って言ったんです。思わず開けそうになりましたが山に入る前を思い出して、「鍵は開いているのでどうぞ」と言ったんです。でも、その岳川さんは変わらず『宇和島さん。開けてください。』しか言わなくてあ、この人偽物だって分かったんです。その後、私は黙ってたんですが相手は開けてください、開けてくださいって言ってました。やっぱり自分では開けられないんだなって思ってたらその人いきなり私に向かって笑ったんです。えっなんでって思ったんですけど妙に不思議な笑顔で思わず愛想笑いしちゃったんです。そしたら全身がグニャって粘土みたいになったかと思ったら綺麗な女の人になったんです。ただ、その女の人私の方を見るなり目を見開いて『開けろ!』って言いながら来たんです。でも、札のせいで触ることが出来ない。そしたらその女の人の髪の毛がブワッって逆立って一つ一つが意思を持ってるみたいに車にぶつけて来たんです。その瞬間車の中の札が一斉にバチバチバチバチッてすごい音がしたんです。札のおかげで車の周りに壁があるみたいな感じに守られてましたけど、ぶつけて来てるのは本当に髪の毛なのかって思うような音がするんです。ガンッガンッガキンみたいな感じの金属みたいな音が。音が激しくなるにつれて札の色がだんだん黒くなってきてこれはまずいんじゃないかと思ってたんです。もう全ての札が黒くなってダメだって時にフロントガラスに置いてた水晶がパリンって割れたんです。そしたらその女も音も聞こえなくなったので安心しました。でも油断は出来ないと思ってお守りを握りしめてたんですがいつの間にか寝てしまって今に至るわけです。」
「なるほど。やはり私の姿で来ましたか。警告しておいてよかったです。…こちらの状況も大詰めといったところです。ただその為には人手がいる。今日は一度、帰って今後のことを話しましょう。よろしいですか?」
「はい。…岳川さん、引き続き調査よろしくお願いします。」
そう言って、岳川と宇和島は山を後にした。宇和島と別れた岳川は仲間たちに連絡を入れた。しばらくすれば集まるだろう。(恐らく準備には時間がかかるが準備が終われば決着は早いだろう。…つまりこの事件も終わりが近いってことだ。だが気は緩めない。油断すればこちらがやられるからな。)
お読みいただきありがとうございます。前書きで書いた通り怪談の書物や怪談朗読の動画、怪談のDVDにハマっております。恐らく蒐集家としてはまだまだでしょうが、最近集めたり聞いたりしているうちに家に人の気配やラップ音がし始めております。喜ぶべきなのかどうなのか。ではまた次回お会いしましょう。