妖怪専門探偵日誌   作:インドレント

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今回は少し長いです。1.5倍ぐらいあります。ご了承ください。


第壱-3話 怪異と妖怪専門探偵

第二の事件が起きた日、連夜は岳川の泊まっているホテルに急いだ。

「岳川さん。今日の事件、聞きましたか?」

「ああ、聞いたよ。嫌な予感が当たるとは。見張りの式神も飛ばしていたんだが…今はもう反応がない。つまりやられた。」

少ししてから連夜が問う

「でも、今回の遺体は全身があるんですよね?じゃあ、朋也を死なせた奴とは違う奴なんですかね?」

その問いに岳川ははっきりと

「いや、同じ奴だよ。」

「何でそんなにはっきりと断言出来るんですか?」

「人間もそうだけれど妖怪には妖怪の『テリトリー』があるんだよね。家の中とか海みたいに広い場所なら複数の妖怪がいる事はよくあるけど、今回は松の木っていう狭い場所だ。なら、そこにいる妖怪は一種類だけだ。」

そこまで聞いて連夜は

「素人な考えかもしれませんけど、人を食べたり、落としたりする妖怪って相当な数がいると思うんですけど。今回の事件の犯人…って言うか妖怪は分かるものですか?」

「確かに人を喰う、高い所から落とす妖怪は結構いるね。でも今回の事件の肝は『和歌山県から移された松の木』に出たってことさ。」

「移ってくる前場所が重要だったってことですか?」

「あぁ、君の友達が聞いた噂と実際に起こった事柄をまとめると一致する妖怪がいるんだ。」

「えっ、じゃあもう妖怪の正体が分かったんですか。」

驚きながら連夜が尋ねると

「ああ、検討はついてる。決着は今夜だ。」

そういうと昼間の内にと夜の準備のために松の木に急いだ。

 

 

松の木の前まで着くと岳川は根元の方に何かを描いている。後ろからちらっと見てみると複雑な星の形を地面に描いていた。描き終えるとその図形に経を唱え、空を九字に切った。

「これで良し。準備は出来たよ。じゃあ夜まで待とう。君はどうする?無理にこの決着に付き合う事は無いんだよ?」

「…いや、自分も付き合います。朋也の命を奪った奴を見たいし、それにこんな事を言うのはどうかと思うんですけど、妖怪ってモノを見てみたいって気持ちも少し…。」

「なるほどね。分かった、けどくれぐれも気をつけてくれ。じゃあ一緒に待つかい?」

「いえ、一度家に帰って夕飯食べてから行きます。」

「了解。じゃあ九時ごろに木の近くはどうだろう。」

「分かりました。」

「あ、後これを持っていてくれ。」

そう言って渡されたのは一枚の紙。連夜からするとなんだか分からないが持っておく事にした。

 

 

夕飯を終え、自分の部屋に戻って出かける支度をしていた時、ふと枕元に置いていた人形に気づく。これはどうするべきかと悩んだがまぁ、お守りみたいなものかと貰った紙と一緒に持っていく事にした。

 

 

連夜が木の近くに着いたとき岳川はまだ来ていなかった。携帯を見ると時刻は八時四十分少し前。少し早く着き過ぎたか?と思いながら待っていると隣にある松の木が目に入る。改めて見るとどこから見ても少し大きめの松の木である。ここに妖怪がいるとは見た感じでは分からない。九時まで残り十分という頃、何処からか音が聞こえてきた。

何処から鳴っているのかと周囲を見回すとその音は隣の松の木の上の方から聞こえてくる。「カラ…カラ…カラカラカラ」と徐々に音が大きくなってきた気がする。やがて「ガラガラガラ…ガラガラガラ」と音が変わってきた。突然の音に驚き、動けなくなっていた連夜はそこでふと木の上の方をゆっくり見上げた。(木の上の所に…『ナニカ』いる…いや、いる、というよりある?しかも一つじゃなくていくつも…。)そこまで分かった所で音が変わる。それは噂では聞いたことがない音だった。「ギィ…ギィ…ギィ」まるで古くなったブランコに乗ったときに繋ぎの部分が軋んでいるような音だと思った。次の瞬間「ギィィィ!」と大きくなったと感じると同時に何かがこっちに向かってきた。連夜は襲われると感じ、身構えた。するとポケットの中から岳川から貰った紙が飛び出してきた。向かってきたものは紙に当たり、バチンッと弾かれる。連夜の目の前に出てきた紙は形を変えて鳥の姿になる。渡された紙は式神だった。鳥型の式神であるが、見張りの時が鳩のような形に対して、この式神は猛禽類のような形をしていた。次に連夜は向かってきたものは何だったのかと前の方を恐る恐る見ると桶のような形の物が木の上から吊られていた。…さっきまで木の上にあんなものはなかった。じゃあ、あれが妖怪の正体で朋也を襲ったものか?様子を伺っていると上の方から太めの綱が凄い速さで式神に向かってきた。式神がその綱をヒラリと躱すと桶のようなものが上から次々と落ちてきて式神に綱を落としてきた。初めはヒラヒラと躱していたが徐々に当たり始めてきた。当たる度にビリビリと欠けていく。そんな光景を呆然として見ていると一つの桶が連夜の方へ向かってきた。式神はその桶の動きに気づいたが綱が動きを変え、式神を連夜の元へ行かせないように妨害を始めた。その桶は連夜の二メートル程前まで来ると、桶の中が見えるか見えないかと言う角度で止まった。桶の中には何か光るものがあるのが分かる。(足が…勝手に桶の方へ…!)慌てて周りを見ると岳川が向こうの方から走って向かってきている。連夜は助かったと安心したが岳川とはまだ距離があり、自分が思った以上に桶へ向かう足が速い。連夜の抵抗虚しく、目の前まで足が着いてしまう。すると桶が連夜の顔まで浮かんだ。そこで連夜は桶の中身を理解した。桶の中には何もなく、ただ小さな光があるだけであった。ふっと光が消え、代わりに桶の内側から無数の歯が生えてきてゆっくりと顔の方に向かってくる。もうだめだと諦めた時、一際大きな音でバンッとポケットから音が鳴った。

瞬間、桶が顔から離れて行き、身体から力がふっと抜けた。そこに岳川が着き、身体は無事かと聞いてくる。連夜は震えながらも頷き

「何で妖怪が離れたんでしょう…?」

と聞いた。岳川は

「私が言った通り、ヒトガタは持っていたようだね。念のために作っておいて良かった。」

と言われて、ポケットを探ると貰ったヒトガタが粉々になっていた。

「君の身代わりになったのさ。」

落ち着きが戻ってきた連夜は知りたかったことであり、最も重要なことを聞く。

「岳川さん。あれは一体何ですか…?」

岳川は一呼吸おき、

「あれは、『釣瓶落とし』さ。しかも、たちが悪い奴だ。」

「釣瓶落とし?」

「ああ、実は県によって姿が違ってね。でもその話は落ち着いてからだ。まずはこいつをなんとかしなくちゃ」

そういうと岳川は懐から一枚の札と小刀を取り出した。そして釣瓶落としに向かって

「一応聞いておくよ。今日から心を入れ替えて人を襲わないって誓うなら今回はただ封印だけにするけどどうかな?」

それを聞くと釣瓶落としは「ギィギィギィギィ」と音を立てた。

「あれは何か言ってるんですか?」

「いや、あれは笑ってるんだよ。そんなことするわけないだろみたいな感じでね。やっぱり説得には応じないか。」

そういうと札を投げた。札が当たった瞬間、釣瓶落としの動きが止まった。

「麻痺みたいものでね。まぁ、こいつくらいの大きさなら早くに解けてしまうけど、この隙に」

小刀を鞘から抜き、九字を切りながら向かって行く。少ししてからまた動き始めた釣瓶落としは綱を四方から落としてくる。岳川はその綱を切っていくが、隙あらば桶が岳川を喰らわんとして襲いかかってくる。しばらく切り合って相手が消耗してきたとみた岳川は小刀を懐にしまった。それを好機と思ったのか釣瓶落としは綱を落としてくる。それをヒラリヒラリと躱していく岳川だが途中か躱し方が変わった。よく見ると今、岳川がいる場所は昼間に何やら星型の図形を描いていた場所。すると岳川が地面に描いた図形の通りに躱し始めた。その躱し方でしばらく躱していると釣瓶落としの動きが止まり始め、綱の先からボロボロと崩れていく。綱がどんどん短くなり、やがて綱がほとんど崩れた頃に岳川は木に向かい、

『臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前』

と九字を切った。すると、ビシッという音とともに釣瓶落としが次々に砕け散るように崩れ始めた。やがて崩れが収まって来た頃、樹木に封印の札を五枚貼り、最後に改めて今回の犠牲者への祈りを捧げて今回の事件の決着となった。岳川は連夜に向かい

「お疲れ様。怖い体験をさせてしまったね。すまない、もう少し早くに来ていれば。」

「その事は気にしてないので大丈夫です。…あの妖怪はどうなったんですか?ボロボロになってましたけど」

「あぁ、前に妖怪は粒子みたいなものって言っただろう?簡単に言うと、最初の小刀の攻撃で粒子の結合みたいなものを柔らかくして、大分柔らかくなったところで、禹歩を使って先端から粒子をバラバラに崩壊させたんだ。最後の九字切りは見た通り、とどめだよ。ここまでやってから封印すれば次に復活するまで相当時間がかかるからね。」

改めて元陰陽師は伊達ではないと思いながら連夜は

「今回何でこんな妖怪が出てきたんでしょうか?」

と尋ねる。それに対し

「もちろん何故そうなったのかも分かっている。だけどその話は明日にでもゆっくりしようか。今夜は帰ろう。もう事件は終わったんだ。」

「分かりました。」

返事をする連夜。何故この妖怪が今になって出てきたのか。その答えは明日ゆっくり聞くとして、今夜はもう犠牲者が出ないことを心の底から喜びながら帰路についた。




読んでいただきありがとうございます。まさかこんなに長くなるとは思いませんでした。次話は何故今になって釣瓶落としが出てきたのかが分かります。お楽しみに、では。
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