第一の犠牲者 宝条 朋也の場合
連夜と別れた後、夕飯を食べ、食後の散歩に行くと言って家を出た朋也。もちろん、散歩というのは建前で松の木の噂について調べたかったからである。時刻は午後八時半。内心ではそこにはどんな真実があるのだろうというワクワク感と連夜に今夜、調査するとは言ったが今夜の内に出るのだろうかという不安感が入り混じっていた。
ひとまず、松の木付近をウロウロしていたが三十分経っても変化はない。わずかにこの道を通っている通行人がこちらをチラチラ見ているが気にしないように努めた。やがて通行人の気配が消え始めた頃に喉の渇きを覚えた朋也は飲み物を買いに少し先にある自販機へ向かった。(もしかしたら出てくるまで長期戦になるかもなぁ。ってか今夜出るかも分からないし、もう少ししたら帰っちまおうかな。)と薄っすらと帰宅する考えが浮かび始めたが(いや、連夜に真実が分かったらすぐに教えるって言っちまったからな。自分が一度吐いた言葉には責任を持つもんだよな。)と自身を奮い立たせ、松の木の方に戻るとさっきとは雰囲気が違う気がする。ふと、どこからか音がし始めた。見渡すが周囲に人はいない、朋也一人だった。なのに徐々に音が大きくなってきている。大きくなり始めた頃に朋也はこの音が松の木から聞こえてくるものだと気付く。「カラカラ…カラカラ…カラカラカラ」。音がはっきりと聞こえた時朋也はこれが噂の音かと好奇心半分恐怖半分の感情だった。「ガラガラガラ…ガラガラガラ…ガラガラガラガラ…」と音が変わってきた。朋也が木のどの辺りから鳴っているのかと思い、上を見上げると何かが木の上にある。その何かはスルスルと木から下がってきた。よく見ると中身が光っている。これが先輩が見た光る桶か、と中身の確認の為に足を踏み出そうとするが足が動かず、光に見入ってしまう。先程は動かなかった足が桶に向かい動いた時、朋也は恐怖でいっぱいだった。(先輩が言っていた意味が分かった。確かにこれは嫌な予感しかしない、でも足が止まらない…。)
桶の前まで来た時、フワッと桶が浮かび上がり頭の方から被さってきた。瞬間、桶は上に上がり木の上の方まで来た時、朋也は痛みを感じた。頬が痛い、耳元ではグチャグチャという気味の悪い音がする。続いて指先、肩、脇腹に痛みを感じ、そこで気付いた。(もしかして、俺喰われてる…?いや、でも何に?鳥?まず動物なのか分か…)そこで朋也は何も考える事すら出来ない程の激痛に声を上げそうになる。が、叫んでも声が出ない。少ししてからその理由が分かる。自分の舌がない。「グチャグチャ…ブチッブチブチブチッ…バキッボリボリッゴリッ…ゴリゴリゴリップチッグチッグチョグチャグチャ…」朋也が最期に聞いたのは少しずつ自分が食べられていく音だった。
第二の犠牲者 立川 史の場合
立川 史(たちかわ ふみ)は仕事終わりにその道を通っていた。最近この道で人が死ぬ事件が起こったらしい。犯人はまだ捕まっておらず襲われた理由も不明だそうだ。そういえば最近オカルト好きの同僚が言っていた噂もこの辺りだったような。確か、松の木から不思議な音が聞こえるんだったか。…まぁそんなものはどこかの家の音が聞こえただけだったに違いないが。そう結論付けながら件の松の木を通る。すると「カラカラカラ…」と聞こえた気がして、松の木の方は振り返る。耳を澄ましてみるが音は聞こえない。気のせいかと向き直ろうとした時、松の木の下に何かがあるのに気付く。近づいてみるとそれは桶だった。誰かの落とし物か?と中を覗いていると桶が顔に被さって史を持ち上げながら木の上へ上がっていった。何が起こったのか分からなかった。まず、何故桶が被さってきたのか、桶が自分を持ち上げる事が出来るのか、そして何故桶が木の上まで浮かび上がったのか。混乱していると周囲から「ギイ…ギイ…ギイ」と聞こえてきた。それも一つではなくいくつもいるようだ。その内何かが足に絡み付いてきて史の足を木の枝に引っ掛けた。もちろん枝だけでその重さを支えられる訳もなくパキパキと音がする。すると顔に被さっていた桶が取れる。足を見ると右足だけが枝に引っかかっている。周りを見渡してみると桶がいくつも並んでいた。まるで史が落ちるのを今か今かと待ち望んでいるようだった。意味が分からなかった。何でこんな状況になっているのか。混乱し、絶句しているこの瞬間にも枝は音をあげている。そして史が自身が今いる場所の高さを理解した時、枝は重さに耐えられず折れた。叫ぼうにも落ちている勢いで口が開かず、木の上からは「ギイギイギイギイィ!」という音が聞こえる。その音が桶から出ていると分かった瞬間、史の頭が地面にぶつかった。その衝撃で首の骨は折れ、頭は割れてしまっている。その様子を見て桶たちは木の上でまた笑うのであった。
今回は壱話の犠牲者たちが犠牲になった詳細を書きました。ご気分が悪くはならなかったでしょうか?もしかしたら詳しく知りたいという方がいるのかと思い、書きましたがどうでしょう。妖怪は時に遊びで命を奪う場合もありますので読書の皆様もお気をつけください。それでは、今回も読んでいただきありがとうございました。