それではお楽しみください。
9話
〜小日向未来〜
私を陽だまりと呼ぶ親友……立花響は、私といる時以外いつも影が差しているようだ。いつからだったかな……響が、普段より私といる時間が多くなったのは……
「ねぇ未来……明日なんだけど……」
「どうしたの響?」
最近、怖い人たちに絡まれた私達を響は一人で迎え撃った。私には、ダインスレイフさんのような力はない。友達の部屋に逃げることしかできなかった私は……いつも響の背中を見ていた。
「
「……そっか、響にしかできない事だもんね」
ウソだ……行かないでほしい。どうして自ら死ぬかもしれない現場に飛び込ぶの……?いや……分かってる。響がどれだけノイズを憎んでるか私なんかじゃ測りきれないってことは…… 私はまた、響の背中を見送ることしかできないのだろうか……こんな自分が、たまに許せなくなる。
「うん……もぅ未来!!そんな辛気臭い顔しないの。今までだって大丈夫だったでしょ?いつも通りパパッとやってくるだけだよ」
「そ、そうだよね。響は強いもんね!!響のいるところにノイズなし、みたいな」
「あははっ!!確かにその通りかも!!」
あぁ……私が響を気にかけないといけないのに、何故か私が心配されている。今は偶々、誤魔化せたけど……
「ノイズだってなんだってぶっ飛ばしてくる。そして、未来のいるこの部屋に帰ってこれることがいつも嬉しいんだ。だから……今日は一緒にいてくれる?」
ッ……そうだ。確かあれは中学二年生の時、私が響と一緒にいるからってイジメられてた時だ。あの時は響が助けてくれた。その後も……何回も何回も……そしてそのうち、いじめられなくなったんだ。響の方が、私よりもずっとひどいことを言われて、されてきたのに……気づいたら、響にも私にもそういうのがなくなっていた。そして、次第にそういう人達が学校に来なくなった。
『響ッ!!どこ行くの?』
『ちょっとね……ねぇ未来、私さ……未来と同じ時間を過ごせることが嬉しいんだ。だから……これからも一緒に居てくれる?』
中学の時にも同じ……少し儚げな表情で、まるで叶わない願いを望むような声で……響は私に言った。そっか……イジメの主犯達をどうにかしていたのは……響だったんだ。私と一緒にいるために……
「『もちろん!!今日も……これからも……私たちはずっと一緒だからッ!!』」
一緒にいたいと思うのは響だけじゃない!!私だって……でも……私だけは……あの頃から変わっていない。
〜翌日〜
「ノイズが出るであろう場所はわかる。でも……」
『ちと……遠すぎるなァ……』
いつもの真っ黒なパーカーに長いズボンを履いている響はいつも通りバイザーを付けて、全く車通りのない高速道路を見つめている。
「ねぇダイン、
『さァな……最近『呪い』の扱いの練度が上がっているから言うがァ……俺の中にある、『ノイズを恨む奴ら』の『呪い』が震える時にその方向に行けばノイズが出現って言う仕組みだァ。お前の場合、個人でもそれが可能なんだろうよ』
「いや答えになってないし、それが聞きたかったんじゃないんだけど……まあいいや」
ダインスレイフもはぐらかしているつもりは無いのだろうが、いまいち響には伝わっていない。
「ネットのマップで調べたけど……だいたい薬品工場あたりだね。いつも周囲には気をつけて戦ってるけど……あの白いコスプレ女と風鳴翼さんの流れ弾で大爆発が起きる未来が見える……」
『確かになァ……だがァ、今回あの女が出てくるんだったら目的はおそらく……アイツが言っていたデュランダルだろう。それがぶっ壊れるようなことはしねェさァ』
いつも以上に施設や建物に気をつけて戦わなければいけないことに響は面倒臭さを感じる。つい先日、翼の『天ノ逆鱗』を目にした響ならそう思うのも当然だ。地面に大きすぎる切れ込みができたのを見たのだから。
「うぇぇ……面倒だなぁ……なんか移動に優れたこと出来ないの?」
『アァ?俺がそんなに万能に見えるかァ?』
「見える」
『そんなにストレートに言われてもなァ……『呪い』を羽っぽくやれば飛べるんじゃねェかァ?』
「絶対適当に言ってる……あっ、出来た」
『ウソだろヒビキ!?』
投げやりなダインスレイフの言葉を信じていない響は、疑いながらも背中に『呪い』を定着させる。真っ黒な羽のようになったその『呪い』を操り響がはためかせると……体が浮いた。流石のダインスレイフもできるわけがないと思っていたようで、珍しく大声を上げて驚く。
「おぉ〜、私飛んでる。仕組みとか全然わかんないけど、これなら早いし飛んでるノイズにも攻撃が当てやすい。……じゃあ行きますか」
『契約した時から歴代最高の適正だとは思っていたがァこんな簡単にするとは思っていなかったなァ……まさか』
「ん……?どうしたのダイン」
ダインスレイフは喋らない。聞こえてはいるのだろうが、何をしているのか響にはわからない。
「ダイン?」
『すまねェ。少し確認することがあったんだァ……(まさか、昔に空を飛べる聖遺物を持ってた契約者を無意識に再現するとは思わねェよ……そういやアイツ、なんだって『イカロスの翼』なんて持っていやがったんだァ?)』
ダインスレイフは昔の契約者を思い出す。他の聖遺物を持ち、破壊衝動を打ち破って戦争で圧倒的な力を見せた契約者の一人を。
『最高速度はどのくらいだァ?』
「……今くらいが限界かな?思ったより消費が激しいから」
『無茶すんなよォ……(飛べるだけかァ……まだマシ……いや十分すぎる)』
「ん?……あの場所か。降りよっと」
薬品工場に到着した響は、一つの建物の上に降り立った。
「……あとは待つだけ。ダイン、今回の優先順位は?最善じゃなくて、私にとって最も利があるように動くんだったらどうすればいい?」
『……デュランダル奪取のために出てきたノイズの殲滅だなァ。鎧の女を優先してもいいがァ……この前みたいにノイズごと……なんてのがあり得る』
「分かった。あの棒を奪えばいいんだね?」
『……俺に聞く意味あったかァ?最初から決めていたクセによォ……』
冷静な判断を無視する響に、ダインスレイフは少し声を荒げる。
「いやいや、参考になったよ。あの棒を奪えなかった時のための保険案は欲しかったから」
『だとしても……保険かよォ……』
少し落ち込んでいるようだ。聞こえてくるその声は少し弱々しい。
「ふふふ……こんな時間にここまで来たんだから、成果だけは持って帰らなくちゃね」
響は、にやけ顔で二課本部の方を見つめる。黒い翼をはためかせながら笑うのその姿は、まるで堕天使のようだ。
ちなみに現在、午前4時50分。作戦開始まで後10分である。聖遺物との融合により睡眠を取る必要が薄れてきた響はこの時間でも余裕で起きていられる。
「うーん……早くこないかなぁ……」
〜二課side〜
「作戦開始はもうすぐね翼ちゃん♪調子はどう?」
「問題ありません。いつでも行けます」
「病み上がりなんだから、無理しちゃダメよ?」
「無理などしていません。私の体に異常がないことは櫻井女史が一番よく分かっているのでは?」
「そうなのよねぇ〜……そこが一番謎なのだけれど、今はお仕事に集中しましょうか♪」
サクリストD、完全聖遺物デュランダルが入ったアタッシュケースを持った了子は、ヘルメットを被った翼と話していた。
『2人とも準備は出来てるな?』
「ええ、いつでも行けるわ。弦十郎君」
「問題ありません司令」
「うむ。では作戦開始だ!!」
「もう!『天下の往来独り占め作戦』だって言ってるでしょ!!」
「……翼、病み上がりは無理はしないように」
通信機越しに弦十郎のため息が聞こえる。司令的にはあまり好ましく無いようだ。なんとも締まらない感じで始まったが、了子と翼は真面目な雰囲気でそれぞれの車両に乗り込んだ。了子は車で、翼はバイクで、封鎖した高速道路を駆け抜ける。
「ッ!!道が崩れてッ!!」
翼は了子の車両の左斜め後ろを走行している。しかし、突如として道路の左側が崩れ落ちた。
「翼ちゃん、避けて!!」
「くっ……Imyuteus amenohabakiri tron」
了子はすぐにハンドルを切り難を逃れる。反応できなかったSPの車両が落ち、爆発してしまったが翼はすぐにギアを身に纏いバイクを乗り捨て了子の車両に飛び移る。
「翼ちゃん、私のドラテクは凶暴よ!!」
「重々承知しています!!」
そんな時、マンホールから水が溢れSPの車両を吹き飛ばす。
「まさかッ……地下に敵がッ!?」
『ああ!!ノイズは下水道を使って攻撃している!!』
「ぶつかるッ……」
了子は、弾き飛ばされた車両がこちらに向かってきているのを確認しギリギリでハンドルを切った。
「くっ……櫻井女史、もう少し余裕をもって……へぶっ」
了子の車両が、飛来物を避けた先にゴミのバケツがありぶつかった衝撃で飛んできたビニール袋が翼の顔に張り付いた。
「弦十郎君、ちょっと不味いんじゃない?この先の薬品工場で爆発でも起きたら……」
『分かっている!!敵の手腕から……ノイズがデュランダルを傷つけないように制御されていると見える!!』
「チッ……」
『狙いがデュランダルなら、敢えて危険区域に飛び込むことで敵の攻撃を封じるという算段だ!!』
上空のヘリよりダイレクトで指令を飛ばす弦十郎。その言葉にはどこか自身が感じられる。
「勝算は?」
了子の当然の疑問に対する弦十郎の答えは……
『思いつきが数字で語れるものかよッ!!』
その後、マンホールより飛び出してきたノイズにSPの車両が破壊されていく。SPたちは間一髪で車から飛び降り難を逃れているが、乗り捨てられた車両は建造物にぶつかり大爆発を起こす。その様子にノイズも手が出せないでいる。
「司令、狙い通りです!!はッ!!」
翼も、了子の車両の上からできる限りの攻撃を行い近づけまいとしている。
「ッ!!ネフシュタンの鎧……」
別の建物の上では、ネフシュタンの鎧を纏う雪音クリスが待ち構えている。時を同じくして……
「やっと来た……クフフ……」
「立花響……」
街中を散歩するかのような自然体で歩いてやってきた響。いつかの夜に三つ巴で戦った3人が集結した。
「避けきれない……翼ちゃんッ!!きゃッ!?」
「櫻井女史!?……間一髪」
車両は横転し、了子とデュランダルは投げ出されるが無事なようだ。
「悪いが今回の目的は立花響……お前じゃねぇ。どいてな」
「別に私はデュランダルなんてどうでもいい。ノイズのいるところに私あり。私のいるところにノイズなし。そして……私の邪魔をする雑音は排除しなくちゃならない」
「ッ……体が震える……武者震いなのかそれとも……私が立花に恐怖しているのか……それでも……この切っ先に迷いはない!!」
「……青春してるところ悪いんだけど……翼ちゃんはこっちの護衛をお願いするわ。響ちゃんはノイズの殲滅。適材適所ってやつよ〜」
3人が睨み合っている中で、了子はデュランダルのケースを傍らに言う。
「言われなくても分かってる。私に命令するなッ」
「チッ……やっぱ先にコイツからか……後悔するんじゃねぇぞ!!」
響が、ノイズを倒しながらクリスに肉薄していく。クリスも『ソロモンの杖』でさらにノイズを増やし、自らも切り込んでいった。
「櫻井女史……ここは一旦この場を立花に預けて、私たちだけでも行きますか?」
「いいえ、移動手段なしでは流石に無謀よ。響ちゃんがネフシュタンの子とノイズを撃退するのを大人しく待ったほうがよさそうね……」
「承知しました。では……はぁッ!!全力で護衛させていただきます」
了子の車両も横転していて今すぐ動かせる状態ではない。翼は了子を守るように立ち、今なおデュランダル狙っているノイズ向けて剣を構えている。
「Balwisyall nescell gungnir tron……本気で相手をしてやる」
「はんッ……あたしとノイズの攻撃を受けきれなかったからだろ?てめぇみたいに大きな力を持つ奴がいるから……戦争は無くならないんだよ!!」
『NIRVANA GEDON』
「それはもう見た……ブチ抜いてやるッ」
響は左腕を引いてパワージャッキを引き絞る。そして……
「はぁッ!!」
「なんだとッ!?うぐッ……」
思い切りふり抜かれた響の左腕は、クリスが放ったエネルギー弾にあたり弾け飛んだ。さらに威力が高すぎるせいか、響の前方にいたノイズも消し飛びクリスも風圧で動けないでいる。
「怯んだその一瞬が命取り……鎧が治るんだったら……『痛み』を直接打ち込むッ!!」
脚部のパワージャッキが絞られ、弾かれたと同時に響はクリスの認識を超える速度で突進し、その腹に両手で撃ち込んだ。
「みえn……がぁぁぁぁぁ!?!?」
吹っ飛ばされたクリスは建物の壁までぶっ飛んだ。
「ぐッ……コイツ……体に直接衝撃を……あの剣を使うまでもねぇってのか……うぐぁ!!」
砕かれた腹部のパーツが修復されていき侵食に顔を歪めるクリス。
「クソッ……(早く決めねぇと体がもたない……) 仕方ねぇ……これでどうだッ!!」
『『『%/*#@¥%*£※』』』
「大型が三体……しかもちっこい雑魚まで……これは流石に難しいかな……ダイン」
クリスは不利だと悟ったのか、ソロモンの杖で緑色の巨大な人型ノイズを二体、怪獣のような黄色の大型ノイズを一体、そして先ほどを超える量のノイズを呼び出した。流石の響もこの量はきついのか、ダインスレイフを呼び出した。
「あの子……目的を忘れてないでしょうね……」
「櫻井女史、何かありましたか?」
「なんでもないわ〜、やっぱり響ちゃんの戦闘は見応えがあるな〜っと思ってねぇ」
「……否定はしませんが、同意も出来ません」
何かをつぶやいた了子に翼は問いかけるが、了子はうまくはぐらかしたようだ。
「ダインやるよ……絶対に〜離さない この握った手は〜♪」(呪槍・ガングニール)
「ぐぅ……今更シンフォギアを纏ったところでぇぇ!!」
「こんなにほら……頼もしいんだ……キミの作る温もりは〜♪」
クリスの鞭の刃での攻撃を響はダインスレイフで弾く。そして脚部のパワージャッキで大型ノイズの元に飛んだ。
「優しい心なんて……使えはしないッ!!」
人型の真上まで来た響はもう一度パワージャッキで真下の緑の大型ノイズに向けて加速。『呪い』を纏わせたダインスレイフで切り裂き消滅させた。
「今……わかる〜♪共鳴するCurse chains!!」
『CURSE CHAINS』
『……思い浮かんだ歌詞をそのまま技として採用するのは安直じゃねェかァ?』
響が足を片足を踏み込むともう一体の人型ノイズの足元から『呪い』で形作られた鎖が現れ、ノイズを拘束した。技名に関してはダインスレイフは不満のようだが……
「あの巨体を一瞬でッ!?」
「ぐっとぐっとみなぎってく……とめどなく溢れていく〜♪」
響がそう歌うのと同時に、ダインスレイフと響の体から大量の『呪い』が溢れ出しあたりの小型ノイズを破壊していった。
「交わし合いたい言葉が……キミと共に……さぁ!!(ダインッ!!)」
『フッ……かましてやろうじゃねェかァ!!』
「何か来るッ……仕方ねぇ!!」
響はダインスレイフに呼びかけてさらに力を解放する。目標は残り一体となった怪獣型の大型ノイズだ。その様子にクリスも警戒の色を強め少し下がった。
「『ぶっ飛べッ!!この激情をォォォォォォォ!!!!』」
『HEPATICA』
周りを一切気にしない、ダインスレイフと響の同調によって放たれる極太のレーザー。それは響の直線上にあるものを全て飲み込み消し飛ばしていく。怪獣型の大型ノイズも拘束されていた大型ノイズも小型のノイズ達も、全てが響達の一撃のもとに消え果てた。
「なんて威力なの……翼ちゃん……なんていうかその、良かったわね……」
「……これが、欠けらではない聖遺物のポテンシャル。何という圧倒的な力……私はアレに挑んていたのか……」
「あっぶねぇ……あんなの食らったらいくらネフシュタンでも……」
響達の圧倒的な破壊力の砲撃の前に唖然とする一同。よく見れば建物にも大きな穴が空いており、どう見ても本来の役割を果たせるようには見えない。そんな時……
ビー!!ビー!!ビー!!フシュー……
「ッ!?櫻井女史ッ!!デュランダルが……」
「えッ……まさか……響ちゃんの歌で起動したというのッ!?」
まだまだ戦いは始まったばかりだ……
オリジナル聖遺物で最もヤバイ能力は?
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自在に姿を隠す
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空気操作
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純粋な身体能力向上
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視界の共有
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空間作成